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Disease Atlas · 眼科 · 先天性疾患

先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ

Congenital hereditary endothelial dystrophy

別名
CHEDMaumenee角膜ジストロフィ
臓器系
眼科小児
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)Medical Genetics and Immunology (Genetics)
トピック
組織学 17.1:感覚器:眼発生学 19.3:眼:水晶体・角膜・脈絡膜・強膜・硝子体遺伝学 4.6:常染色体劣性遺伝(AR I)
鑑別疾患
Axenfeld-Rieger症候群Fuchs角膜内皮ジストロフィPeters奇形ムコ多糖症後部多形性角膜ジストロフィ緑内障
関連疾患
感音難聴
症状
角膜浮腫眼振視力低下
検査値
眼圧

🧠 全体像:(CHED)を単独で覚える意味は薄い。このノートの主題は「生まれつき両眼の角膜が白い」という所見をどう分けるかであり、CHEDはその答えの一つにすぎない。分岐は3つの問いで足りる——片眼か両眼か(によるは片眼)、・があるか(あれば、CHEDでは乏しい)、角膜以外に異常があるか(あればなどの)。CHEDは「静かで、両眼性で、角膜だけが厚い」という消去法の位置に立つ。

生下時からの両眼性びまん性角膜混濁を分ける

小児のの鑑別には STUMPED という語呂が使われる——S=、T=の、U=潰瘍、M=代謝性、P=、E=内皮ジストロフィ、D=1。実地で外せないのは次の4つである。

鑑別 片眼/両眼 決め手
両眼(しばしば非対称) びまん性のすり〜。が正常の2〜3倍だがは最小限。・が乏しい。ほぼ非進行性
による 片眼(産科的外傷を受けた側) 線状・垂直の。の軟部組織損傷を伴うことが多い。分娩歴を聞く
両眼が多い ・・の三徴。の拡大()、は輪部とに水平方向の曲線、
など代謝性 両眼 角膜以外に骨・・肝脾・発達の異常。生後まもなくではなく乳児期以降にが進むことが多い

💡 という語は本来、によるに与えられた名前である。によるを同じ語で呼ぶ資料もあるが、線の向きが違う——外傷は垂直・線状、は輪部との水平な曲線1。向きを記載しない「あり」は鑑別に使えない。

⚠️ CHEDではが偽性に高く測定され、とされる。 角膜が厚いと圧平式の測定は過大な値を返す。子どもに緑内障の診断を下す前に、の拡大・・・という別系統の裏づけを取る1。CHEDそのものでのはまれである2。

分類の版——CHED1は無くなった

かつてCHEDは常染色体優性・進行性のCHED1と、・非進行性のCHED2に分けられていた。しかし常染色体優性CHEDとされた5家系を文献的に再検討すると、その多く(おそらく全て)は(PPCD)であった。この結果、IC3D分類の第2版(2015年)でCHED1は分類から削除され、旧CHED2が単に「CHED」と呼ばれるようになった2。現行は第3版(2024年)である。

⚠️ 2015年より前の教科書・症例報告で「CHED2」と書かれているものが、現在の「CHED」である。「CHED1」と書かれた記載を常染色体優性型のCHEDとして読まない。版を確かめずに新旧の記述を並べると、遺伝形式が優性とも潜性とも読める矛盾した説明ができあがる。

遺伝と病態

CHEDは SLC4A11 のによる疾患である(遺伝学 4.6)。遺伝子座は20p13で、ある報告ではCHED家系の76%で変異が同定されている2。

SLC4A11 は(BTR1)をコードし、として実質からへ水を運ぶ働きを担う。CHEDの変異では多くの場合、切断されたBTR1が細胞膜まで到達できずに機能を果たさない1。内皮のポンプが「後天的に減る」と違い、CHEDでは生まれた時点ですでにが同年齢対照の約10%しかない2。

⭐ は正常の2〜3倍に達するのに、は最小限にとどまる2。すなわちCHEDは水疱を作らない——のように水疱の破裂による激痛が診療の中心になることはない。生後から一貫して静かなことが、かえって発見を遅らせる。

は線維性となり、菲薄化する例とにより著明に肥厚する例がある。組織学的にはびまん性の上皮・、の欠損、変性してまばらになった内皮細胞が見られる2。

症状と経過

  • 生下時ないしからの両眼性。程度はかすみ程度から完全なまで幅がある。
  • 眼振(振子様)を伴いうるが、乳児期は振幅が小さく気づかれにくい1。が強い例ほど眼振を伴いやすい。
  • ・はほとんど無い2。これがとの最も実用的な差である。
  • 経過はほぼ静止性で、進行はわずかである2。

⚠️ 静止性であることは「待ってよい」ことを意味しない。 がを覆っている期間そのものが視覚発達を奪う。治療の遅れはという不可逆の結果を残す1。

Harboyan症候群と家族の評価

CHEDに進行性の感音難聴を伴う病態を (と知覚性難聴)と呼ぶ。同じ SLC4A11 の変異によるアレル性疾患で、出生時はCHEDと区別できない。難聴は言語習得後の10〜25歳に現れ、言語習得前のの報告は無い1。したがってCHEDと診断した児は聴力を定期的に追う2。詳細は感音難聴の項に譲る。

💡 患児の親も評価の対象になる。 CHED患児の親がを持つことがあるため、同一家系にCHED・・の3つが並ぶことがある2。

同胞の再発率は25%であり、のある家系での報告が多い。遺伝カウンセリングを勧める1。

治療

はで、と(DSAEK・DMEK)がある1。

⚠️ 小児のは成人と別の難しさを持つ。 のが低くが陽性であるため縫合が緩みやすく、感染・拒絶・のリスクが高い。への協力も得にくい。このためDSAEKへの選好が移りつつあり、が少なく視力回復も早い1。

手術時期の判断は、による合併症の増加と手術を待つことによるの綱引きになる。年長児のほうが手術成績はよいが、待てば視覚発達の機会を失う1。

小胞体に滞留する型のBTR1に対して、・といったが水輸送活性を回復させたという報告があるが、いずれも研究段階で用量も確立していない1。

まとめ

  • 主題は「生下時からの両眼性びまん性」の鑑別であり、CHEDはその一つである。
  • によるは片眼性でが垂直・線状、は・・の三徴と・水平での、は角膜以外の全身所見で分かれる。
  • ⚠️ CHEDでは角膜が厚いためが偽性に高く出る。緑内障と決める前に・・で裏を取る。
  • IC3D第2版(2015年)でCHED1が削除され、旧CHED2が現在のCHEDである。第3版(2024年)が現行。「CHED1」の記載を常染色体優性型として読まない。
  • SLC4A11 のによる疾患。BTR1が細胞膜へ到達できず、生下時からが同年齢対照の約10%しかない。
  • は正常の2〜3倍になるがは最小限で、のような水疱破裂の激痛は前面に出ない。
  • (CHED+10〜25歳に現れる進行性感音難聴)を念頭に聴力を追い、親のも評価する。25%。
  • 治療はだが、小児のは縫合・拒絶・のリスクが高い。手術時期は合併症との綱引きで決める。

出典

  1. 1.Congenital Hereditary Endothelial Dystrophy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)SLC4A11が重炭酸輸送体関連タンパク質1(BTR1)をコードするナトリウム・ホウ酸共輸送体で、CHEDの変異の多くは切断型タンパク質が細胞膜へ到達できない結果を招くこと、混濁が実質浮腫とDescemet膜の肥厚によること、浮腫により角膜厚が正常の2〜3倍に達すること、乳児期に振子様眼振がみられうるが振幅が小さく判別しにくいこと、角膜が厚いため眼圧が偽性に高く測定され緑内障と誤診されうるため角膜径の拡大・Haab線・牛眼という先天緑内障の裏づけを確かめるべきこと、小児の角膜混濁の鑑別に STUMPED(強角膜・Descemet膜断裂・潰瘍・代謝性・Peters異常・内皮ジストロフィ・皮様腫)という語呂が用いられること、Descemet膜断裂の最多の原因が鉗子分娩による出生時外傷で線状・垂直の断裂を示し眼窩周囲の軟部組織損傷を伴うことが多いのに対し、先天緑内障のHaab線は輪部と同心円状に水平方向の曲線を描くこと、Harboyan症候群の難聴は通常10〜25歳まで現れず言語習得前の聾の報告は無いこと、根治治療が全層角膜移植または内皮移植(DSAEK・DMEK)で、小児では強膜の剛性が低く硝子体圧が陽性のため全層角膜移植の縫合が緩みやすく感染・拒絶・創離開のリスクが高いこと、DSAEKが術後乱視が少なく視力回復が早いため選好が移りつつあること、治療の遅れが視覚発達の不良と弱視をもたらすこと、同胞再発率が25%であるため遺伝カウンセリングを勧めること、小胞体に滞留する折り畳み異常型のSLC4A11変異に対しグラフェニン・ジクロフェナク・ネパフェナクといった非ステロイド性抗炎症薬が水輸送活性を回復させたという研究段階の報告があることを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.IC3D Classification of Corneal Dystrophies-Edition 3(Cornea (International Committee for Classification of Corneal Dystrophies)・2024)常染色体優性のCHED(旧CHED1)を独立した疾患として支持する報告が無いため第2版(2015年)でCHED1が分類から削除され、常染色体潜性の旧CHED2が現在のCHEDと呼ばれること、その根拠が常染色体優性CHEDとされた5家系の多くあるいは全てが後部多形性角膜ジストロフィであったという文献の再検討であること、遺伝子座が20p13で原因遺伝子がSLC4A11、遺伝形式が常染色体潜性、発症が先天性であること、ある報告ではCHED家系の76%で変異が同定されたこと、所見が両眼性(しばしば非対称)のびまん性のかすみからすりガラス様・乳白色の混濁で、実質の高度な肥厚(正常の2〜3倍)を示す一方で上皮浮腫は最小限にとどまること、生下時から内皮細胞密度が同年齢対照の約10%まで低下しDescemet膜が線維性の形態を示すこと、眼圧上昇はまれであること、症状は角膜混濁による霧視としばしば眼振で流涙・羞明はほとんど無いこと、経過はほぼ静止性で進行がわずかであること、光学顕微鏡でびまん性の上皮・実質浮腫とBowman層の欠損・変性した内皮とDescemet膜の菲薄化または後部線維層による著明な肥厚が見られること、Harboyan症候群(角膜ジストロフィと知覚性難聴)がCHEDに進行性・言語習得後の感音難聴を伴う病態であること、CHED患者の親がFuchs角膜内皮ジストロフィを持ちうるため患者はHarboyan症候群を、その親はFuchs角膜内皮ジストロフィを監視すべきこと、CHEDのカテゴリがSLC4A11変異のある例で1、変異の無い例で3であることを確認した。閲覧 2026-09-03