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Disease Atlas · 消化器 · 先天性疾患

無βリポタンパク血症

Abetalipoproteinemia

別名
アベータリポプロテイン血症Bassen-Kornzweig症候群アポリポタンパクB欠損症
臓器系
消化器神経内分泌・代謝
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 C/37:吸収不良症候群内科学 G-02:小腸疾患・吸収不良・消化不良
鑑別疾患
Tangier病ビタミンE欠乏性運動失調症
合併症
網膜色素変性発育不良
治療薬
ビタミンEビタミンK
症状
有棘赤血球脂肪便下痢肝腫大小脳性運動失調感覚性運動失調反射消失構音障害筋力低下夜盲
検査値
脂質検査血清ビタミンE

🧠 全体像:は、MTTP遺伝子の変異で含有リポ蛋白(腸の・肝の)そのものが作れなくなる疾患である。⚠️ 同じ「ビタミンE欠乏による」を来す(AVED)と混同しない。 AVEDは吸収も輸送も正常で肝からの再分泌だけが障害されるのに対し、本症は腸での吸収・パッングそのものが失敗する——脂肪と(A・D・E・K)のすべてが全身性に吸収されなくなるという、一段階手前で起きるより広範な障害である。乳児期の・から始まり、・・進行性の失調へと年単位の経過で多臓器に及ぶが、早期からのビタミンE大量投与で神経障害の発症を遅らせる、あるいは防げる点はAVEDと共通する。

病態:MTPが無いと何が起きるか

(MTP)は、での、肝細胞でのという含有リポ蛋白の構築・分泌に必須の補因子である1。MTTPの両アレルにがあるとこの働きが失われ、腸でも肝でもアポB含有リポ蛋白粒子を分泌できなくなる1。

flowchart TD
    A["食事中の脂肪・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat-soluble vitamin'>脂溶性ビタミン</span>A/D/E/K"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterocyte'>腸管上皮細胞</span>に取り込まれる"]
    B --> C{"MTPがアポB含有リポ蛋白<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chylomicron'>カイロミクロン</span>)を構築できるか"}
    C -->|"正常"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chylomicron'>カイロミクロン</span>としてリンパ管・血中へ分泌"]
    C -->|"MTTP変異で不能"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterocyte'>腸管上皮細胞</span>内に脂質が蓄積<br>(生検で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipid vacuole'>脂肪空胞</span>として観察される)"]
    E --> F["脂肪・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat-soluble vitamin'>脂溶性ビタミン</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic circulation'>全身循環</span>に届かない"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatorrhea'>脂肪便</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='failure to thrive'>発育不良</span>(消化器)"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acanthocyte'>有棘赤血球</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulopathy'>凝固障害</span>(血液)"]
    F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinitis pigmentosa'>網膜色素変性</span>(眼科)"]
    F --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Friedreich ataxia'>Friedreich失調症</span>様の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ataxia'>運動失調</span>(神経)"]

肝でも同じ機構でが分泌できず、脂質がに蓄積してを来し、まれに・線維化・肝硬変へ進展する1。💡 内科学G-02の分類では、は「先天・輸送体」による吸収不良の代表例として、生検で上皮細胞内という特徴的な組織所見を示す疾患に位置づけられている。

⚠️ が欠けるのであって、コレステロールの低下は結果にすぎない。 はのであり、が作れなければも作れない。臨床検査で見えるのは・・アポB・トリグリセリドの著明な低値という全体の破綻であり、単一のだけが選択的に欠乏するわけではない。

疫学・遺伝

100万人あたり1人未満とまれで、性差はない2。で、のきょうだいは受胎時点で25%の確率で罹患する1。生化学的異常()はMTTPを持つ全個体に見られるが、のは年齢とともに増し、不完全なこともある1。

臨床像

⭐ 典型的には乳児期に・下痢・嘔吐・脂肪の吸収不良で発症する1。

系統 所見
消化器 (主要症状)、下痢、嘔吐、、・(まれに・線維化・肝硬変へ進展)1
血液 、貧血、、、溶血、による延長1
眼科 多くは成人まで無症状。夜間視力・の低下()で発症し、未治療ではから完全な視力喪失に至りうる1
神経 未治療では10代前半までに・振動覚との進行性低下・筋力低下・が始まり、成人早期には広い基底面・足を高く上げる歩行を伴う様のが発現しうる1
心・内分泌 まれに、の報告がある

診断

診断はの著明な破綻と、MTTPので確定する1。

検査 所見
著明低値(約1 mmol/L〔約40 mg/dL〕前後)
コレステロール 欠如または極端な低値
欠如または極めて低値
トリグリセリド 著減
コレステロール 低〜正常
軽度上昇(の1〜1.5倍程度)
延長()
血清・D・E・K いずれも低値
確定検査 MTTPの同定

では、内に脂質が処理されず蓄積するため、上皮細胞内という特徴的な所見がみられる(内科学G-02)。

⚠️ ビタミンE欠乏性運動失調症(AVED)との鑑別

⚠️ どちらも「若年発症の進行性+著明なビタミンE低値」という同じ入口から疑われるが、障害されている段階が違う。

(AVED)
遺伝子 MTTP() TTPA()
障害される段階 腸でのアポB含有リポ蛋白の構築・分泌そのもの 肝でのの再分泌のみ
脂肪の吸収 障害される(・を伴う) 正常(消化器症状を伴わない)
欠乏するビタミン A・D・E・Kすべて ビタミンE単独
・・アポB・TGすべて著減 正常
血液像 を伴う 伴わない
眼科所見 網膜のな(様)を来しうる まれ(報告で2.3%)
治療 ビタミンE・A・K・Dの補充++補充 ビタミンE単独の大量投与

💡 鑑別の実際的な手掛かりは、・という消化器症状と、全体の異常の有無である。 AVEDでは食事歴も消化器症状も正常でも正常なのに神経症状だけが進むのに対し、本症では乳児期からのと・の破綻が先行する。両者とも「治療できる」である点は共通しており、原因不明の若年発症失調を診たら、血漿ビタミンE単独ではなく・アポB・まで含めて評価する必要がある。

治療

⭐ 治療は複数のの生涯補充である。

補充するもの 用量
ビタミンE 体重1 kgあたり100〜300 IU/日1
体重1 kgあたり100〜400 IU/日。血清濃度を指標に、肝毒性を避けるため低〜正常域を目標に調整する1
ビタミンK 週5〜35 mg1
ビタミンD 1日800〜1,200 IU1
を多く含む油を、範囲で1日小さじ1杯まで1
食事 (総カロリーの10〜20%。20%を超えると多くは耐えられない)1

はで足り、は不要である1。⚠️ ただし高用量のビタミンE補充はをわずかしか上げないのに対し、は高用量投与で正常血清値まで到達しうるとされ、ビタミンEの効果は補充してもAVEDほど劇的には現れにくい2。それでも早期のビタミンE投与は機能障害の発症を遅らせる、あるいは防ぎうるとされ、診断確定後はただちに開始する1。

予後

未治療のまま経過するとから失明に至る例が多く、長期予後は楽観できない2。予後を左右するのは診断された年齢・治療開始の時期・原因となる変異の種類であり2、AVEDと同様に「早く見つけて早く始めるほど守れるものが多い」という構図を持つ。

まとめ

  • MTTP変異()でMTPが働かず、腸での・肝でのというアポB含有リポ蛋白そのものが分泌できなくなる。
  • 脂肪と(A・D・E・K)すべての吸収不良を来し、・・・・様のへと多臓器に及ぶ。
  • ⚠️ AVEDとの違いは「どの段階が壊れているか」。 本症は腸での吸収・分泌そのものが失敗し全体が破綻するのに対し、AVEDは吸収は正常で肝からの再分泌のみが障害されビタミンE単独が欠乏する。
  • 治療はビタミンE・A・K・Dの生涯補充と・補充からなり、いずれもで足りる。早期のビタミンE投与が神経障害の発症を遅らせる、あるいは防ぎうる。
  • 未治療ではから失明に至る例が多く、予後は診断・治療開始の時期に左右される。

出典

  1. 1.Abetalipoproteinemia(GeneReviews(University of Washington, Seattle)・2022)Summary・Clinical Characteristics・Diagnosis・Management・Genetic Counseling・Molecular Genetics各節で、ミクロソームトリグリセリド転送タンパク(MTP)がアポリポタンパクB含有リポ蛋白(腸のカイロミクロン、肝のVLDL)の構築・分泌に必須の補因子であり*MTTP*の両アレル病的バリアントによりこれらのリポ蛋白粒子が分泌できなくなること、その結果アポB含有リポ蛋白の欠如と循環中の脂溶性ビタミン欠乏が多彩な臨床像を生むこと、乳児期に発育不良・下痢・嘔吐・脂肪の吸収不良で発症するのが典型であること、脂肪便が主要な消化器症状で肝腫大・脂肪肝を来し稀に脂肪性肝炎・線維化・肝硬変へ進展しうること、有棘赤血球(棘状に変形した赤血球)・貧血・網状赤血球増加・高ビリルビン血症・溶血・ビタミンK欠乏による プロトロンビン時間延長を来すこと、多くが成人になるまで無症状で夜間視力・色覚の低下として発症し治療しなければ視野狭窄から完全な視力喪失に至りうること、未治療ではビタミンE欠乏による神経筋症状が10代前半までに始まり深部腱反射・振動覚・固有感覚の進行性低下、筋力低下、構音障害を来し広い基底面と高举脚歩行を伴うFriedreich失調症様の運動失調が成人早期に発現しうること、生化学的診断は全個体で得られるが臨床症状の浸透率は年齢とともに増し不完全な場合があること、診断基準が総コレステロール約1 mmol/L(約40 mg/dL)前後の著明な低下・LDLコレステロールの欠如または極端な低値・アポB欠如または極めて低値・トリグリセリド著減・HDLコレステロールは低〜正常であること、末梢血塗抹での有棘赤血球、軽度上昇(基準上限の1〜1.5倍)の肝逸脱酵素、プロトロンビン時間延長、ビタミンA・D・E・Kの血清低値、確定診断に*MTTP*の両アレル病的バリアント同定を要すること、治療がビタミンE(体重1 kgあたり100〜300 IU/日)・ビタミンA(体重1 kgあたり100〜400 IU/日、血清βカロテン濃度を指標に肝毒性を避けるため低〜正常域を目標に用量調整)・必須脂肪酸(多価不飽和脂肪酸を多く含む油を耐容範囲で1日小さじ1杯まで)・低脂肪食(総カロリーの10〜20%)・ビタミンK(週5〜35 mg)・ビタミンD(1日800〜1,200 IU)からなること、脂溶性ビタミンは経口投与で足り静脈内投与は不要であること、早期のビタミンE投与が神経学的機能障害の発症を遅らせるまたは防ぎうること、常染色体潜性遺伝でありきょうだいの再発リスクが受胎時点で25%であること、Bassen-Kornzweig症候群という同義語があることを確認した閲覧 2026-09-01
  2. 2.Abetalipoproteinemia(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)本症の頻度が100万人に1人未満とまれで男女差がないこと、治療は高用量の経口ビタミンE投与が中心だがビタミンEの高用量補充は血清濃度をわずかに上昇させるにとどまるのに対しビタミンAは高用量投与で正常血清値まで達成できるとされること、プロトロンビン時間の延長がビタミンK欠乏を示唆すればビタミンA(原文はビタミンAとの記載)投与を行うこと、鑑別診断に家族性ビタミンE欠乏症(ビタミンE欠乏性運動失調症)が挙げられていること、未治療のまま視力低下・失明に至る例が多く長期予後は楽観できないこと、予後は診断年齢・治療開始時期・原因となる変異の種類に左右されることを確認した閲覧 2026-09-01