病理学

病理学 · C/37

吸収不良症候群

Malabsorption

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High-yield / ポイント
応用トピック
小腸疾患・吸収不良・消化不良下痢の鑑別診断吸収不良:セリアック病・乳糖不耐・果糖吸収不良
微生物
Tropheryma whipplei
疾患
Whipple病セリアック病腸性肢端皮膚炎乳糖不耐症熱帯性スプルー無βリポタンパク血症膵外分泌不全
症状
有棘赤血球
検査値
亜鉛

🧠 全体像:吸収不良は消化の3段階(腔内消化・・栄養素運搬)のどこが障害されたかで原因が整理でき、共通の帰結がと多臓器にわたる欠乏症状である。セリアック病は「の障害」の中でも免疫が絨毛そのものを破壊するという点で他の酵素欠損型の吸収不良と機序が異なる。

  • 吸収不良 = 脂肪、ビタミン、タンパク質、炭水化物、電解質、ミネラル、水の
  • 最も多い病態:、特徴 =

障害されうる3つの正常な消化機能:

  1. 腔内消化:タンパク質・炭水化物・脂肪の酵素的分解
  2. :水・電解質・栄養素の吸収+細胞内への輸送
  3. 栄養素の運搬:からリンパ管への輸送

A)腔内消化の障害

B)粘膜吸収の障害

乳糖不耐症

  • 酵素(の)の欠損 → 乳糖を消化できない
  • (稀):乳児の乳不耐 → 下痢、体重減少、
  • 後天型(成人に多い):完全除去は不要で、量まで乳糖摂取量を調整する

無βリポタンパク血症(アポリポタンパクB欠損)

  • では、がの構築に必要
  • 欠損 → なし → 粘膜細胞が脂質を排出できない(脂質がに蓄積)
  • 結果:下痢、、全身の脂質膜異常

セリアック病(グルテン過敏性腸症)

  • (小麦・関連穀物)、特に抗原への免疫学的過敏
  • がからCD4+ T細胞に提示 → 免疫応答 → CD8+ T細胞がを破壊 → 絨毛の消失 → の減少
  • 小腸表面積の減少によるの吸収不良
  • セリアック病の長期リスク:腸症関連T細胞リンパ腫や

💡 組織像の3要素はで型番として整理される。 ・・増加の3所見を組み合わせ、増加のみならtype 1、が加わればtype 2、まで及べばtype 3(さらに3a〜3cに細分)とする1。増加の閾値は、空腸生検に由来する「100上皮細胞あたり40個」が長く引用されてきたが、正常十二指腸20例の実測(平均11、平均+2で25)から、十二指腸では25個をとする提案がある2。

💡 生検を省略して診断できる場合がある(小児、条件付きで一部の成人)。 欧州小児消化器肝臓栄養学会(ESPGHAN)2020年版は、tTG-IgA がの10倍以上で、別の機会に採った2回目の血清で抗抗体(EMA-IgA)も陽性なら、家族の同意のもとで生検なしの診断を認める(-DQ2/DQ8 と症状は必須ではない)。10倍未満の陽性例では、遠位十二指腸から4個以上+球部から1個以上の生検を、含有食を摂っている間に採る。生検前の摂取不足はの一因になり、を始めた後で診断をやり直すには長期の再負荷が要るので、検査が済む前に除去食を始めない3。成人では、欧州セリアック病学会(ESsCD)2025年版が、初回の tTG-IgA がの10倍以上で2回目の血液検体でも陽性なら生検なしの診断を条件付きで推奨したが、安全性のデータがそろうまで45歳未満に限り、判断は二次医療機関で行うとしている。生検を行う場合は遠位十二指腸から4個以上+球部から2個を採る(強い推奨)4。

⚠️ はセリアック病に特異的ではない。 、、共通可変()、薬剤性(オルメサルタンなど)、でもを来しうる。診療録レビュー30例ではの腸症が非セリアック性腸症の最多の病因で、初回tTG抗体が正常であることが多い(87%)点がセリアック病との鑑別に役立つ5。オルメサルタン関連スプルー様腸症54例の系統的レビューでは、セリアック抗体が常に陰性であったにもかかわらず98%でがみられ、薬剤中止後に全例で改善した6。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gliadin'>グリアジン</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gluten'>グルテン</span>中の抗原)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigen-presenting cell (APC)'>抗原提示細胞</span>からCD4+ T細胞へ提示"]
    B --> C["免疫応答の惹起"]
    C --> D["CD8+ T細胞が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal epithelial cell'>腸上皮細胞</span>を傷害"]
    D --> E["絨毛の消失"]
    E --> F["小腸<span class='jp-term jp-term-diagram' title='absorptive surface area'>吸収面積</span>の減少→吸収不良"]

熱帯性スプルーとウィップル病

💡 の起因菌はTropheryma whippleiという桿菌である。 な診断のgold standardはのだが特異度・感度に乏しく、現在は()が診断を補う7。(A節参照)や広範な小腸切除後のも、腔内消化・栄養素運搬の障害として吸収不良を来しうる。

C)臨床像

全般症状: 体重減少、、腹部膨満、

系統別の合併症:

系統 合併症 原因
造血 貧血 鉄・葉酸・B12欠乏
造血 出血 ビタミンK欠乏
骨格筋 + Ca²⁺・Mg²⁺・ビタミンD欠乏
内分泌 無月経、、不妊 全般的な栄養不良
内分泌 (二次性) 遷延するCa²⁺+ビタミンD欠乏
皮膚 紫斑、点状出血
皮膚 皮膚炎、 ・・脂肪酸・欠乏
神経 末梢神経障害 +B12欠乏

💡 ポイント: 特徴 = 。セリアック病 = 抗原 → CD8+ T細胞が絨毛を破壊、T細胞リンパ腫+のリスク。 = 桿状桿菌をもつマクロファージ。 = なし、脂質がに蓄積。合併症:貧血(鉄/B12/葉酸)、出血(ビタミンK)、(Ca/D)、末梢神経障害(A/B12)。

まとめ

  • 吸収不良は腔内消化・・栄養素運搬のいずれかの障害で生じ、が特徴的な所見。
  • は欠損、は欠損によりが形成できない。
  • セリアック病はに対する免疫応答がCD8+ T細胞介在性に絨毛を破壊し、腸症関連T細胞リンパ腫やのリスクとなる。
  • とはいずれもに関連し、はマクロファージが特徴。
  • 吸収不良の合併症は貧血(鉄・葉酸・B12欠乏)、出血()、(Ca・ビタミンD欠乏)など多臓器にわたる。

出典

  1. 1.The histopathology of coeliac disease: time for a standardized report scheme for pathologists(European Journal of Gastroenterology and Hepatology・1999)Marsh分類を基礎に病理報告の標準様式を提案した論文(Marsh-Oberhuber分類)。セリアック病の組織所見(絨毛萎縮・陰窩過形成・上皮内リンパ球増加)を病理医向けの型番(type 1〜3、3はさらに3a〜3cに細分)として整理し、あわせて絨毛萎縮を来す重要な組織学的鑑別を併記することを求めている閲覧 2026-08-27
  2. 2.Quantitation of intraepithelial lymphocytes in human duodenum: what is normal?(Journal of Clinical Pathology・2002)正常十二指腸粘膜の上皮内リンパ球数を数え直した研究。絨毛表面上皮を500細胞以上連続して数えた20例の実測範囲は1.8〜26/100上皮細胞、平均11・標準偏差6.8で、平均+2標準偏差にあたる25/100上皮細胞を十二指腸粘膜の正常上限とすべきと結論した閲覧 2026-08-27
  3. 3.European Society Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition Guidelines for Diagnosing Coeliac Disease 2020(European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition / Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition・2020)小児セリアック病の診断ガイドライン(抄録と誌上版全文で確認)。tTG-IgA(TGA-IgA)が基準上限の10倍以上で家族が同意すれば、別の機会に採った2回目の血清で EMA-IgA が陽性であることを条件に生検を省略した診断を適用でき、HLA-DQ2/DQ8 と症状は必須条件ではないこと、10倍未満の陽性例では遠位十二指腸から4個以上+球部から1個以上の生検をグルテン含有食の摂取中に採ること、生検前のグルテン摂取不足は誤診の一因になり得ること、診断後にグルテン除去食を始めてから再評価するには長期のグルテン再負荷が要ることを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.European Society for the Study of Coeliac Disease 2025 Updated Guidelines on the Diagnosis and Management of Coeliac Disease in Adults. Part 1: Diagnostic Approach(United European Gastroenterology Journal・2025)成人セリアック病の診断に関する欧州セリアック病学会(ESsCD)2025年版(PMC全文で確認)。初回のIgA抗TG2抗体が基準上限の10倍以上なら血清学のみで診断を確定できる(無生検診断。エビデンスの確実性は中等度、条件付き推奨)が、安全性のデータがそろうまで45歳未満に限ること(非格付けの実践声明)、初回の値を2回目の血液検体で確認しそれまでグルテン含有食を続けること、生検省略の判断と確定は二次医療機関で行うことを確認した。生検を行う場合の推奨本文(Q.III.1、強い推奨)は遠位十二指腸から4個以上+球部から2個とする(抄録と要旨の一部は球部生検を「条件付き」と要約しており、文書内で表現が割れている)閲覧 2026-09-24
  5. 5.Noncoeliac enteropathy: the differential diagnosis of villous atrophy in contemporary clinical practice(Alimentary Pharmacology and Therapeutics・2012)十二指腸絨毛萎縮(DVA)はセリアック病の重要な診断所見だがその鑑別診断は広いとして、セリアック病以外の原因による非セリアック性腸症(NCE)30例・10種類の病因を診療録レビューで同定した研究。セリアック病がDVAの最多原因であるものの非セリアック性腸症はまれではなく、未分類の免疫介在性腸症が最多の病因(10例)を占めたこと、非セリアック性腸症は初回tTG抗体が正常であることが多い(87%)ことを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.Systematic review: sprue-like enteropathy associated with olmesartan(Alimentary Pharmacology and Therapeutics・2014)オルメサルタン関連スプルー様腸症についての系統的レビュー(自験例3例を含む11論文・54例)。ほぼ全例が下痢・体重減少を呈し、セリアック病の血清抗体は常に陰性であったにもかかわらず十二指腸絨毛萎縮が98%の患者にみられ(上皮内リンパ球増加を伴ったのは65%のみ)、オルメサルタン中止後に全例で症状・所見が改善したことを確認した閲覧 2026-08-27
  7. 7.Clinical Manifestations, Treatment, and Diagnosis of Tropheryma whipplei Infections(Clinical Microbiology Reviews・2017)Whipple病の起因菌はTropheryma whippleiという桿菌で、伝統的な診断のgold standardは十二指腸生検のPAS染色であったが、PAS染色は特異度・感度に乏しく、分子生物学的手法(PCR)の登場でこの病原体感染症の診断が大きく改善したことを確認した閲覧 2026-08-27