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Disease Atlas · 肝胆膵 · 疾患

膵外分泌不全

Exocrine pancreatic insufficiency

別名
EPI膵外分泌機能不全
臓器系
肝胆膵消化器
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 C/37:吸収不良症候群内科学 S-29:吸収不良と消化不良内科学 G-02:小腸疾患・吸収不良・消化不良内科学 G-07:膵疾患内科学 S-35:慢性膵炎病理学 C/53:膵炎
鑑別疾患
セリアック病短腸症候群
続発疾患
骨粗鬆症
治療薬
コレカルシフェロール
症状
下痢体重減少
検査値
アルブミン
原因となる疾患
嚢胞性線維症慢性膵炎膵癌

🧠 全体像は「に十分量出ていない」ために栄養素を分解できない病態であり、分解後の栄養素を粘膜側が取り込めない吸収不良とは機序が異なる——この区別が診断アルゴリズムの起点になる。膵の分泌には大きながあり、リパーゼ分泌が正常の約10%を下回るまでは現れないため、症状が出た時点ではすでに高度である。原因は(成人で最多)、嚢胞性線維症(小児で最多)、膵切除後、によるなど多岐にわたるが、いずれも「酵素を作る組織が減る、または管が塞がって届かない」という一点に収束する。診断はを起点に、CT/MRCP/EUSで原疾患の形態を評価するが、画像はそのものは確定しない——「形態と機能は別」がこのノートの核である。治療の中心はで、食事・間食と同時に服用することが効果を左右する。

定義:消化不良と吸収不良の違い

は、から分泌される(リパーゼ、、プロテアーゼ)が不足し、栄養素を内で吸収可能な形へ分解できなくなった状態である。原因を問わず、最終的に脂肪の障害という共通の帰結に至る。

項目 (EPIなど) 吸収不良(セリアック病など)
障害される段階 内での酵素的分解 分解された栄養素の粘膜からの取り込み
代表疾患 、胆汁酸不足 セリアック病
腸粘膜そのもの 正常 障害されている(など)
診断の起点 摂取中のtTG-IgA+

⚠️ (EPI・胆汁酸不足)でも吸収不良(セリアック病など)でも共通して現れる非特異的所見であり、両者を分けるのは腸粘膜が正常かどうかである。セリアック病は本ノートの主要な鑑別であり、とセリアック血清学を並行して考えるのが診断の近道になる。

病態:大きな予備能と症状の遅れ

膵の外には大きながあり、の分泌量が正常の約10%を下回って初めてとして症状が顕在化する。軽度〜中等度の膵は臨床的に無症状のまま経過し、症状が出た時点ではすでに高度の機能低下に達している。

flowchart TD
    A["原因疾患により腺房破壊・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duct obstruction'>膵管閉塞</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic enzyme'>膵酵素</span>分泌の低下"]
    B --> C{"リパーゼ分泌が正常の<br>約10%未満か"}
    C -->|"いいえ"| D["無症候の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compensated stage'>代償期</span>"]
    C -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraluminal'>管腔内</span>での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipolysis'>脂肪分解</span>不全"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatorrhea'>脂肪便</span>・悪臭便"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat-soluble vitamin'>脂溶性ビタミン</span>A・D・E・K吸収低下"]
    G --> H["骨密度低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic diathesis'>出血傾向</span>"]
    E --> I["エネルギー・蛋白吸収不足"]
    I --> J["体重減少・栄養不良"]

💡 このの大きさゆえに、軽症〜中等症は症状だけでは見逃されやすく、高リスク疾患では症状の有無にかかわらずを検討する必要がある。

原因:なぜその疾患で外分泌が落ちるのか

同じ「」という帰結でも、原因ごとにが届かなくなる機序は異なる。

原因 頻度 機序の要点
成人で最多。アルコール性が中心 反復すると線維化でが減少する
嚢胞性線維症 小児で最多(85〜90%が高度EPI) CFTR機能低下で膵管内液が粘稠化し導管閉塞から腺房が萎縮する
膵切除後 術式に応じ必発〜高頻度 酵素を作る膵実質の絶対量が物理的に減る
で目立つ 腫瘍がし酵素が十二指腸へ届かない
多くは一過性 腺房の炎症・浮腫による分泌低下
見落とされやすい 食物の急速な流入で膵液分泌とのタイミングがずれる
セリアック病・糖尿病の二次性 まれ〜見落とされやすい 前者は・CCK刺激不足、後者は腺房の二次萎縮

⭐ 膵切除後・は物理的な酵素欠如、は酵素と食物のタイミングのずれというように、同じでも原因によって是正すべき点が異なる

臨床像

  • (悪臭・水に浮く油性便)、、体重減少・(成長期は)。
  • A・D・E・K欠乏症状(・骨折、末梢神経障害・失調、)——消化器症状より先に前面へ出ることがある。
  • 原疾患(の腹痛、の黄疸など)の症状を合併していることが多く、EPI単独の症状として受診するとは限らない。

⚠️ の大きさゆえに、軽度〜中等度のEPIは無症状にとどまる。 高リスク疾患(、嚢胞性線維症、膵切除後、)では、明らかなを待たずで評価する閾値を下げておく。

診断

診断の第一歩は「か吸収不良か」の見極めであり、これによりを軸にした検査へ進むか、セリアック病などの血清学へ進むかが分かれる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic diarrhea'>慢性下痢</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steatorrhea'>脂肪便</span>・体重減少"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dyspepsia (indigestion)'>消化不良</span>か<br>吸収不良か"}
    B -->|"膵疾患の背景あり"| C["固形便で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal elastase-1'>便中エラスターゼ1</span>"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal injury'>粘膜障害</span>を疑う"| D["セリアック病などを評価"]
    C --> E{"値は"}
    E -->|"100 μg/g未満"| F["EPIを強く支持"]
    E -->|"100〜200 μg/g"| G["境界域:臨床像と統合"]
    E -->|"200 μg/g以上"| H["EPIらしくない"]
    F --> I["CT/MRCP/EUSで原疾患の形態を評価"]
    G --> I
    I --> J["形態評価は機能を確定しない"]
    J --> K["PERT開始と反応で評価を補強"]
  • 酵素のみを測定するため外因性の酵素補充中でも影響を受けにくい第一選択検査。⚠️ では希釈されになりうるため必ず固形便で採取する。
  • を定量する基準的検査だが、3日間の蓄便を要し実施が煩雑で実臨床での使用は限定的。
  • CT・MRI/MRCP・EUS:石灰化・膵管狭窄・腫瘤など原疾患の形態を評価する検査で、の診断には有用だが、そのものを確定する検査ではない
  • など直接的なはより正確だが侵襲的で実施施設が限られ、診断が確定的でない場合はPERTを開始し反応で「診断」を補強することもある。

💡 「CT/MRCPで膵の形が正常に近い=外も正常」とは限らない。形態評価と機能評価は別の軸であり、高リスク患者では画像所見が軽度でもを省略しない。

治療

膵酵素補充療法(PERT)

治療の中心はである。製剤(など)を食事・間食のたびに、最初の一口と同時に服用するのが基本であり、食後にまとめて服用すると酵素と食物が内で同時に混和されず効果が乏しくなる。

flowchart TD
    A["PERTを食事・間食と同時に開始"] --> B{"改善したか"}
    B -->|"はい"| C["用量を維持し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat-soluble vitamin'>脂溶性ビタミン</span>・<br>骨密度を定期評価"]
    B -->|"いいえ"| D["服薬タイミングと<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synchronous (occurring simultaneously, e.g. synchronous tumors)'>同時性</span>を再確認"]
    D --> E{"同時服用できているか"}
    E -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='divided dosing'>分割投与</span>へ是正"]
    E -->|"はい"| G["増量を検討"]
    G --> H{"なお不十分か"}
    H -->|"はい"| I["酸による失活を疑いPPI併用"]
    H -->|"いいえ"| C
    I --> C
  • 反応が不十分なときは、服薬タイミングと食事とのをまず確認し、次に増量を検討、それでも不十分なら胃酸による酵素の失活を疑って(PPI)の併用を検討する——リパーゼは酸性環境で失活しやすく、胃内pHを上げることで届く活性酵素量が増える。
  • ⚠️ PERTは消化を助ける薬であり、疼痛だけを目的としたルーチン投与の効果は確立していない。 に伴う腹痛の管理は別に組み立てる。
  • 脂肪を一律に極端制限してはいけない。 極端なはエネルギー摂取量を減らし栄養不良をかえって悪化させる。十分量のPERTを併用したうえで通常量の脂肪を含む高蛋白・を少量頻回に摂取する方針が優先される。

栄養管理

PERTを適切に行っても難治性のが残る場合は、による消化を必要としない(MCT)の利用を検討する。A・D・E・Kの欠乏を定期的に評価して補充し、体重・アルブミンなどの栄養指標を追跡する。

合併症:見落とされやすい実務上の要点

  • A・D・E・K欠乏:Aは・眼球乾燥、Eは末梢神経障害・失調、Kはとして現れる。
  • 症・:ビタミンD・カルシウムによりEPI患者は骨密度低下のリスクが高い。⭐ 消化器症状の陰に隠れて骨密度評価そのものが見落とされやすいため、や嚢胞性線維症など長期にEPIが続く患者では、定期的な骨密度(DEXA)評価と必要に応じたビタミンD(など)・カルシウムの補充を治療計画に組み込む。

まとめ

  • EPIは内での不足(が本質であり、セリアック病に代表される吸収不良とは機序で区別する。
  • 分泌が正常の約10%を下回るまでは現れない大きながあるため、症状が出た時点ではすでに高度で、軽症例は症状だけでは拾えない。
  • 原因は成人で最多の、小児で最多の嚢胞性線維症、膵切除後、によるなど多岐にわたり、いずれも酵素が「作られない」か「届かない」かに整理できる。
  • 診断は固形便での(100 μg/g未満で強く支持、100〜200 μg/gは境界域、に注意)が起点で、CT/MRCP/EUSは形態評価にとどまり外そのものは確定しない。
  • 治療の中心はPERTで、食事・間食と同時に服用することが要点。反応不十分なら服薬タイミングの確認→増量→PPI併用の順に対応し、脂肪を一律に極端制限しない。
  • 欠乏と症・は見落とされやすい合併症であり、骨密度評価を定期的な診療に組み込む。