病理学

病理学 · C/53

膵炎

Pancreatitis

応用トピック
急性膵炎の病態・診断・治療膵疾患急性膵炎慢性膵炎急性膵炎・慢性膵炎急性膵炎の外科的側面(症状・診断・治療)慢性膵炎の外科的側面(症状・診断・治療)膵腫瘍——根治手術と緩和手術急性・慢性膵炎
疾患
急性膵炎膵外分泌不全

🧠 全体像:はすべて「不適切な活性化による」という一つの中心的事象に収束し、膵臓自身をも消化してしまう。原因(/導管閉塞/)は入口が違うだけで、出口は同じである。

急性膵炎

定義

  • 可逆的な炎症、原因が除かれれば正常に戻りうる。
  • ⭐ 診断():①に一致する腹痛(持続する激しい、しばしば背部へ放散)、②血清リパーゼ(または)活性がの3倍以上、③造影CTなどでの、の3項目中2項目で診断する。受診が遅れて酵素が3倍未満なら画像で確かめる1。

原因

2つの形態型

型 頻度 致死率 特徴
間質性(浮腫性)(Interstitial/Edematous) 80〜90% 0.3% +(リパーゼ → +Ca²⁺ → 白墨様の)
出血性(壊死性)(Hemorrhagic/Necrotizing) 10〜15% 50〜90% 腺房・導管・の壊死+血管傷害 → 出血、赤黒色+黄白色の白墨様のまだら

⚠️ 上表は講義の古典的な区分で、数値は現行の分類と一致しない。 2012年のも病型をとの2つに分けるが、「出血性」という名称は用いず、の頻度は約5〜10%としている1。致死率も「壊死性なら50〜90%」と一律には言えず、死亡を左右するのはと壊死への感染である。早期からの死亡率は36〜50%と報告され1、ガイドラインが引く(6,970例)では感染性壊死+臓器不全35.2%、+臓器不全19.8%、臓器不全を伴わない感染性壊死1.4%であった3。

重症度は形態ではなく臓器不全で判定する。 現行の重症度は軽症(臓器不全も局所・全身合併症もなく通常1週以内に軽快)・中等症(、局所合併症、基礎疾患の増悪のいずれか)・重症(48時間を超えて)の3段階で規定される1。局所合併症の用語も、・(いずれも無菌性または感染性)・(上皮の裏打ちを欠く)・(walled-off necrosis、発症4週以降にした壊死性貯留)の4型に整理された1。旧Atlanta分類の「」(壊死物質をほとんど含まない限局性の膿の貯留)は極めてまれで、語が混乱を招くとして現行分類では用いない。膿(化膿)は感染性壊死に伴って生じ、液状化とともに増えるものとして記述される1。「出血性」という像は病態のイメージとして有用だが、重症度判定そのものは臓器不全ベースの3段階で行う。

発生機序(自己消化)

主な引き金:

  • 導管内圧の上昇(閉塞)
  • 十二指腸膵・胆道膵の逆流
  • 胆汁酸による
  • 不適切な → の活性化(中心的事象)

酵素活性化の3経路:

  1. — アルコール、ウイルス、薬物、外傷 → 前酵素の放出・活性化。
  2. 導管閉塞 — 胆石、CF、腫瘍、の浮腫 → 圧上昇 → リパーゼ漏出 → → 虚血。
  3. 細胞内輸送の欠陥 — 導管閉塞、アルコール、代謝傷害 → 前酵素+が共に梱包 → 細胞内活性化。

活性化した酵素:

  • → 診断マーカー
  • リパーゼ → (より特異的)
  • プロテアーゼ → 出血
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acinar cell injury'>腺房細胞傷害</span>/導管閉塞/<br>細胞内輸送の欠陥"] --> B["不適切な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trypsinogen'>トリプシノゲン</span>→<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='trypsin'>トリプシン</span>の活性化"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic enzyme'>膵酵素</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autodigestion'>自己消化</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat necrosis'>脂肪壊死</span>・出血・実質破壊"]
    D --> E["局所合併症(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudocyst'>仮性嚢胞</span>・感染性壊死)+<br>全身合併症(ショック・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute respiratory distress syndrome'>ARDS</span>・MOF)"]

臨床像

  • 腹痛 = 特徴。
  • 重症型:「」 — 硬く有痛性の腹部、の消失。
  • 検査:上昇、リパーゼ上昇。

結果

局所

  1. 回復、、 — された液体貯留、上皮の裏打ちを欠く(ゆえに「仮性」)。では、後の液体貯留がしたものを、壊死を含む貯留が発症4週以降にしたものをと呼び分ける1。
  2. 膿瘍(講義の語。旧Atlanta分類のは極めてまれで、現行分類はこの語を用いず、膿は感染性壊死に伴うものとして扱う1)、腹水、瘻孔、(破壊的出血)。
  3. 、周囲臓器の消化。

💡 への介入は「できるだけ遅らせ、段階的に低侵襲から」という方針に変わった。 介入は壊死がしてから、通常は発症4週以降に行うのが望ましく、外科的介入を4週を超えて遅らせると死亡率が下がる( 2019、2B)3。感染性壊死(疑いを含む)88例の(PANTER)では、を先行し必要時に低侵襲の後腹膜的壊死組織除去へ進む段階的(step-up)アプローチが、開腹壊死組織除去に比べ重大合併症または死亡のを減らし(40%対69%)、35%はドレナージだけで治療が終わった。ただし死亡率そのものには有意差がなかった(19%対16%)4。

全身

慢性膵炎

定義

  • の破壊を伴う長期の炎症+線維化(±後の内分泌喪失)。
  • 急性との相違:膵機能の不可逆的障害。

原因

  • 長期の(最多)。
  • 長期の導管閉塞、CF、遺伝性膵炎。

型

  • — 最多、アルコール性、酵素不全を伴う硬い線維性膵。
  • — 導管周囲線維化+。
  • — を模倣(1型は関連疾患の膵病変)。国際コンセンサスは1型(関連疾患の膵病変。高値・他臓器病変を伴いやすい)と2型(膵限局性では上昇しないことが多い特発性導管中心性膵炎)を区別する5。1型の病理学的特徴は・・高密度の陽性である6。

発生機序の仮説

  • タンパク栓による導管閉塞。
  • 毒性代謝性 — アルコール・代謝物による直接の腺房傷害。
  • — +で動員された単核球。
  • 壊死–線維化 — 反復する急性発作 → 小葉周囲線維化。

形態

  • 実質の線維化、腺房の数・大きさの減少、。
  • 導管上皮:萎縮、過形成、または。
  • 肉眼:硬い膵臓、拡張した導管、石灰化。

臨床像

  • 反復する黄疸、漠然とした。
  • 持続性・反復性の腹痛+。
  • 膵不全(吸収不良、)+まで無症状のことも。
  • のリスク因子——研究では年齢・性別調整後の26.3(追跡2年以上に限ると16.5)で、診断から20年時点のは4.0%であった7。

💡 ポイント: = 胆石(第1位)+アルコール → 不適切な活性化 → 。診断は腹痛・酵素3倍以上・画像の3項目中2項目。間質性(軽症、Ca²⁺石鹸を伴う)と壊死性(講義の「出血性」。重症度を決めるのはと感染)。 = 上皮の裏打ちなし、合併症にショック、、MOF、。慢性 = 不可逆的線維化+外分泌 → 内分泌喪失、第1原因 = 、持続性・・糖尿病で発症。

まとめ

  • の主因は(第1位)とで、可逆的な炎症である。
  • 中心的事象は不適切な活性化によるで、・導管閉塞・の3経路から起こりうる。
  • 診断は腹痛・血清リパーゼ()の3倍以上・特徴的画像所見の3項目中2項目()。
  • 講義では間質性(浮腫性)膵炎が80〜90%・致死率0.3%、出血性(壊死性)膵炎が10〜15%・致死率50〜90%とされる。はを約5〜10%とし、重症度は形態ではなく48時間を超える持続性臓器不全の有無で判定する。
  • 局所合併症には(上皮の裏打ちを欠く)、、感染性壊死(旧分類の「」の語は現行分類で用いない)、があり、全身合併症にはショック、、、がある。
  • はの不可逆的破壊を伴う長期の炎症+線維化で、最多原因は長期の。
  • は持続性の腹痛・、を伴う、で発症する。

出典

  1. 1.Classification of acute pancreatitis--2012: revision of the Atlanta classification and definitions by international consensus(Gut・2013)誌上版全文(Wayback保存の出版社PDF、11頁)で確認した。急性膵炎の診断は、本症に一致する腹痛・血清リパーゼ(またはアミラーゼ)活性の基準上限3倍以上・造影CTなどでの特徴的所見の3項目中2項目で行う。病型は間質性浮腫性膵炎と壊死性膵炎の2型で、壊死は患者の約5〜10%に生じる。重症度は軽症(臓器不全も局所・全身合併症もなく通常1週以内に軽快)・中等症(moderately severe。一過性臓器不全、局所合併症、併存疾患増悪のいずれか)・重症(48時間を超えて持続する臓器不全)の3段階で、早期から持続する臓器不全の死亡率は36〜50%と報告されるとする。局所合併症は急性膵周囲液体貯留・急性壊死性貯留(いずれも無菌性または感染性)・膵仮性嚢胞(上皮の裏打ちを欠く被包化液体貯留)・被包化壊死(発症4週以降に被包化した壊死性貯留)の4型で、旧Atlanta分類の「膵膿瘍(pancreatic abscess)」は極めてまれで混乱を招くため現行分類では用いないと明記する。閲覧 2026-08-27
  2. 3.2019 WSES guidelines for the management of severe acute pancreatitis(World Society of Emergency Surgery・2019)全文(Europe PMC、PMC6567462)で確認した。壊死性膵炎への介入は壊死が被包化した後、通常は発症4週以降に行うのが望ましいとし、外科的介入を発症から4週を超えて遅らせると死亡率が低下する(2B)とする。背景の記述として、重症急性膵炎の約20〜40%で膵・膵周囲壊死に感染が起こり、6,970例の系統的レビュー・メタ解析(本ガイドラインの引用文献)では感染性壊死+臓器不全の死亡率35.2%、無菌性壊死+臓器不全19.8%、臓器不全を伴わない感染性壊死1.4%であったと述べる。閲覧 2026-09-24
  3. 4.A Step-up Approach or Open Necrosectomy for Necrotizing Pancreatitis(The New England Journal of Medicine・2010)オランダの多施設共同無作為化試験(PANTER試験)で、感染性壊死性膵炎またはその疑い例88例を開腹壊死組織除去(45例)と低侵襲ステップアップアプローチ(経皮ドレナージ後に必要なら後腹膜的低侵襲壊死組織除去、43例)に割り付けたところ、主要複合エンドポイント(重大合併症または死亡)は開腹群69%に対しステップアップ群40%と有意に少なく(リスク比0.57、95%CI 0.38-0.87、P=0.006)、ステップアップ群の35%は経皮ドレナージのみで治療が完結したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 5.International consensus diagnostic criteria for autoimmune pancreatitis: guidelines of the International Association of Pancreatology(International Association of Pancreatology・2011)国際膵臓学会による自己免疫性膵炎の国際コンセンサス診断基準(ICDC)で、自己免疫性膵炎を1型と2型に分類し、膵実質・膵管の画像所見、血清学、他臓器病変、膵組織所見の4項目に任意項目の治療反応性を加えて診断すること、各型に確診・準確診が定義され区別がつかない症例はAIP-not otherwise specifiedとすることを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 6.Consensus statement on the pathology of IgG4-related disease(Modern Pathology・2012)IgG4関連疾患の病理に関する国際コンセンサス声明で、診断上critical(決定的)な組織所見は高密度のリンパ形質細胞浸潤・花筵状(storiform)の線維化パターン・閉塞性静脈炎の3つであり、これにIgG4陽性形質細胞の増加を組み合わせて診断することを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 7.Pancreatitis and the risk of pancreatic cancer. International Pancreatitis Study Group(The New England Journal of Medicine・1993)6か国の施設から集めた慢性膵炎2015例の多施設歴史的コホート研究で、平均7.4年の追跡で56例に膵癌が発生し年齢・性別で調整した標準化罹患比は26.3(95%信頼区間19.9-34.2)、追跡2年以上に限ると16.5であったこと、追跡2年以上の対象での累積膵癌発生率は膵炎診断から10年で1.8%・20年で4.0%であったこと、危険上昇は性別・国・膵炎の型によらなかったことを確認した。閲覧 2026-08-27