病理学

病理学 · C/54

糖尿病

Diabetes mellitus

応用トピック
血糖異常の原因と診断
疾患
糖尿病網膜症
画像所見
微小動脈瘤

🧠 全体像:1型と2型は「インスリンがに無いか、あっても効かないか」という一点で分かれる。1型は自己免疫性β細胞破壊による欠乏、2型はインスリン抵抗性+相対的な分泌不全であり、いずれも症状はβ細胞機能の大部分が失われて初めて顕在化する。

定義

  • 糖尿病(DM) = 高血糖を特徴とする、不均一な全身性代謝疾患群。
  • 背景機序:、インスリン作用、または両方の欠陥。
  • (ADA):126 mg/dL以上、75g OGTT2時間値200 mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上、高血糖症状またはを伴う200 mg/dL以上のいずれか。明らかな高血糖がないときは、別の検査の同時測定(例:と)か同じ検査の2回で2つの異常値を確認する1。基準に届かない中間域はと呼ぶ。

合併症(概要)

分類

米国糖尿病学会(ADA)は糖尿病を ①1型(自己免疫性β細胞破壊、通常は。を含む)、②2型(インスリン抵抗性を背景とすることが多い、自己免疫によらない分泌の進行性低下)、③その他の特定の型(、疾患、薬剤性など)、④の4つに分ける1。下表は病理学で対比される1型と2型の典型像である。

特徴 1型糖尿病 2型糖尿病
旧称 、
機序 — 自己免疫性β細胞破壊 インスリン抵抗性・不十分なβ細胞分泌
の病理所見 +β細胞の選択的消失2 (IAPP/由来。2型に特異的ではなく非糖尿病の高齢者にも見られる)3
発症 小児期・思春期 成人、しばしば肥満
HLA HLA-DR3/DR4(6p21) 関連なし
自己抗体 抗インスリン、抗GAD、抗 なし
多い 稀
治療 (必須) 食事、±インスリン

💡 「1型は小児、2型は成人」という対比には例外がある。 成人発症でも自己免疫性β細胞破壊が緩徐に進行する例(/)があり(ADAは発症年齢によらず自己免疫性のものを1型に含める1)、診断時はを伴わずインスリンを直ちに要さないため2型と誤認されやすい4。逆に小児・思春期の2型糖尿病は近年急増しており、総説が引く米国SEARCH研究のデータでは2002〜2015年に若年発症2型糖尿病のが年率4.8%(年齢・性別調整)で上昇した5。

インスリンの代謝作用

  • — グリコーゲン、脂質、タンパク質の合成を増加。
  • 主要作用:筋・へのグルコース輸送の増加(GLUT4)。

1型糖尿病の発生機序

  • 自己免疫疾患:β細胞抗原に反応するT細胞による破壊。
  • 小児期に始まり、思春期に顕在化、加齢とともに進行。
  • 患者はに依存。
  • 臨床発症の数年前に始まる(慢性の免疫攻撃)。ADAはこの経過を3病期に分ける1。
病期 自己抗体 血糖 症状 次の段階への進展
Stage 1 複数の 正常(・なし、正常) なし 5年以内に症候性1型へ約44%
Stage 2 自己抗体(通常は複数) (100〜125 mg/dL、2時間値140〜199 mg/dL、 5.7〜6.4%または 10%以上の上昇のいずれか) なし 2年以内に約60%、5年以内に約75%がStage 3へ
Stage 3 消失することもある 糖尿病のを満たす高血糖 あり —

💡 「発症」は免疫攻撃の始まりではなく、β細胞が足りなくなった時点である。 Stage 1・2は症状がなく血糖もに届かないが、自己抗体は既に陽性で、病理学的にはβ細胞の破壊が進行している。

  • 古典的症状(高血糖+)はβ細胞の90%超が破壊されたときに出現する(教科書的な目安)。
  • β細胞破壊の機序:
    • CD8⁺ T細胞がβ細胞抗原に反応
    • 局所産生のサイトカイン(IFN-γ、)がβ細胞を傷害
    • インスリン、GADなどに対する自己抗体
  • 主要な感受性座位:6p21染色体上のMHC II(HLA-D)。
  • 組織像はインスリン炎(への)で、臓器提供者の検討では1年以内の提供者4例全例にみられた。自己抗体陽性の非糖尿病提供者では18例中2例にとどまり、罹患はインスリン陽性(β細胞が残存する)に選択的で、インスリン産生を失ったにはが乏しい2。

2型糖尿病の発生機序

  • 発生機序は不明瞭、座りがちな生活+が関与。
  • 2つの代謝的欠陥:
    1. インスリン抵抗性 — 末梢組織が反応しない。
      • ・シグナルの
      • 肥満(、 → インスリン抵抗性)
    2. — β細胞が分泌増加で代償できない。
  • 組織像は(β細胞と共分泌されるIAPP/の凝集沈着)で、β細胞面積の減少・アポトーシス増加と相関するが、2型糖尿病に特異的ではなく非糖尿病の高齢者のにも一定の頻度で認められる(加齢と正相関)3。

糖尿病の合併症

A)大血管性 — 動脈硬化

B)微小血管性 — 微小血管症

  • 高血糖 → → 異常代謝物の沈着 → 。

C)糖尿病網膜症

D)糖尿病性腎症

E)糖尿病性神経障害・足病変

💡 ポイント: 1型 = 自己免疫性β細胞破壊、、、若年発症。2型 = インスリン抵抗性+β細胞不全、成人/肥満、関連なし。症状はβ細胞の90%超が失われると出現。:大血管(心筋梗塞、脳卒中、)+微小血管(を伴う、神経障害、腎症=性、)。

まとめ

  • 糖尿病は・作用のいずれか、または両方の欠陥による高血糖を特徴とする不均一な代謝疾患群である。
  • ADAは糖尿病を1型(を含む)・2型・その他の特定の型・に分類し、1型は自己抗体陽性・正常血糖のStage 1、のStage 2、症候性のStage 3へ進む。
  • 1型糖尿病はCD8+T細胞・サイトカイン・自己抗体によるβ細胞の自己免疫性破壊で、β細胞の90%超が破壊されて初めて症状が出現する。でが必須。
  • 2型糖尿病はインスリン抵抗性とβ細胞のの組み合わせで、肥満・座りがちな生活と関連し関連はない。
  • は動脈硬化の加速による心筋梗塞・脳卒中・。
  • 微小血管合併症はによるが基盤で、(→出血→血管新生)、腎症(性→)を来す。
  • は神経障害+虚血による無痛性のが特徴。

出典

  1. 1.2. Diagnosis and Classification of Diabetes: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)全文(PMC12690183)で確認した。非妊娠者の糖尿病の診断基準(Table 2.1)はHbA1c 6.5%以上、空腹時血漿グルコース126 mg/dL以上、75g OGTT 2時間値200 mg/dL以上、古典的な高血糖症状または高血糖クリーゼを伴う随時血漿グルコース200 mg/dL以上のいずれかで、明らかな高血糖がない場合は、同時に採った別の検査(例 HbA1cと空腹時血糖)か同じ検査の2時点で2つの異常値を要する(推奨2.1b)。分類は1型(自己免疫性β細胞破壊による、通常は絶対的インスリン欠乏。LADAを含む)、2型(インスリン抵抗性を背景とすることが多い、自己免疫によらないインスリン分泌の進行性低下)、その他の特定の型(単一遺伝子糖尿病、膵外分泌疾患、薬剤・化学物質性など)、妊娠糖尿病の4つ。1型の病期(Table 2.4)はStage 1(複数の膵島自己抗体+正常血糖、症状なし)、Stage 2(自己抗体+耐糖能異常。空腹時血糖100〜125 mg/dL、2時間値140〜199 mg/dL、HbA1c 5.7〜6.4%またはHbA1c 10%以上の上昇のいずれか、症状なし)、Stage 3(診断基準を満たす顕性高血糖、症状あり)で、Stage 1の5年以内の症候性1型への進展リスクは全体で約44%、Stage 2に進むと2年以内に約60%・5年以内に約75%がStage 3へ進むとする。成人発症の緩徐進行性自己免疫性糖尿病をLADAと呼ぶことは臨床では一般的で許容されるが、分類上は発症年齢によらず自己免疫性β細胞破壊によるものをすべて1型に含める。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Insulitis and β-Cell Mass in the Natural History of Type 1 Diabetes(Diabetes(American Diabetes Association)・2016)臓器提供者の膵組織(1型糖尿病80例、自己抗体陽性の非糖尿病18例、自己抗体陰性の非糖尿病61例)を検討した研究で、罹病期間1年以内の1型糖尿病提供者4例全例(100%)にインスリン炎(insulitis)を認めた一方、自己抗体陽性の非糖尿病提供者では18例中2例(11%)にとどまったこと、1型糖尿病提供者ではインスリン炎はインスリン陽性膵島の33%に生じインスリン陰性膵島の2%にとどまったこと(インスリン産生を保つ膵島への選択的な炎症細胞浸潤)、インスリン炎の残存者でも罹病後何年もβ細胞が残存したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.β-cell loss and β-cell apoptosis in human type 2 diabetes are related to islet amyloid deposition(The American Journal of Pathology・2011)剖検由来のヒト膵組織(2型糖尿病29例、非糖尿病対照39例、平均年齢はいずれも61〜64歳で群間差なし)を検討した研究で、膵島アミロイドは糖尿病群だけでなく非糖尿病対照群の25%にも認められたこと(膵島アミロイドは2型糖尿病に特異的ではない)、アミロイド沈着の頻度は全対象で年齢と正相関したこと(r=0.31、P=0.01)、糖尿病群ではアミロイド沈着の程度がβ細胞面積の減少・β細胞アポトーシスの増加と相関したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.New diagnostic criteria (2023) for slowly progressive type 1 diabetes (SPIDDM): Report from Committee on Type 1 Diabetes of the Japan Diabetes Society(Journal of Diabetes Investigation (Shimada A, et al., Japan Diabetes Society)・2023)緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM、欧米のLADAに相当する概念)が、膵島関連自己抗体陽性・診断時にケトーシスを伴わずインスリンを直ちに要さない・診断後3か月以上を経て緩徐にインスリン依存へ進行する、という成人発症でも1型自己免疫の経過をたどる例であること、「1型は小児発症・2型は成人発症」という単純な対比の例外にあたることを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Youth-Onset Type 2 Diabetes: The Epidemiology of an Awakening Epidemic(Diabetes Care・2023)米国SEARCH for Diabetes in Youth研究のデータで、10〜19歳における2型糖尿病の有病率は2001年0.34・2009年0.46・2017年0.67(人口1,000人あたり)と上昇し2009〜2017年の年率変化は4.8%であったこと、罹患率は2002〜2003年の人口10万人あたり9例から2014〜2016年の13.8例へ上昇し2002〜2015年の年齢・性別調整年率変化は4.8%であったこと、人種・民族間で上昇率に差があったこと(アジア系・太平洋諸島系7.7%、ヒスパニック系6.5%、黒人6.0%、非ヒスパニック白人0.8%)を確認した。小児の2型糖尿病は近年になって初めて小児疾患として認識されるようになった増加傾向にある病態であることを示す。閲覧 2026-08-27