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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

糖尿病性腎症

Diabetic nephropathy

別名
糖尿病性腎臓病DKD
臓器系
腎・泌尿器内分泌・代謝
科目
PathologyPathology (Histopathology)Translational Medicine and PathophysiologyInternal Medicine
トピック
病理学 C/64:糖尿病性腎症組織病理 H2-059B:糖尿病性腎症組織病理 H2-062A:糖尿病性腎症の病理診断病理学 C/62:全身性疾患に伴う糸球体障害病態生理学 1-10:糖尿病の細小血管合併症病態生理学 P-2-12:腎疾患 症例4病態生理学 P-2-13:腎疾患 症例5内科学 L-23:糖尿病の細小血管・大血管合併症内科学 N-01:糸球体疾患
鑑別疾患
IgA腎症アミロイドーシス高血圧性腎硬化症膜性腎症
合併症
ネフローゼ症候群
続発疾患
慢性腎臓病
治療薬
エナラプリルロサルタンエンパグリフロジンダパグリフロジンセマグルチドリラグルチドフィネレノン
症状
浮腫
検査値
アルブミン尿アルブミンクレアチニンカリウム
元疾患
1型糖尿病2型糖尿病糖尿病
適応薬
フィネレノン

🧠 全体像:は「慢性高血糖が構造(によるGBM肥厚・増加)と血行動態(の拡張+の収縮による・)の両方を同時に傷害する」という二重機序で進む疾患である。この二重性のせいで、早期は障害が進んでいるにもかかわらずがむしろ上昇するという一見矛盾した所見を示す。近年はを伴わずにが低下する表現型まで含めた「」というより広い概念が臨床の中心に置かれ、治療もRAS阻害薬に阻害薬・・受容体作動薬を組み合わせる時代に変わった。

用語:糖尿病性腎症と糖尿病性腎臓病

  • 古典的な「」は、GBM肥厚・・という腎生検で確認される特徴的な組織像を指す用語として整理し直されている。
  • 一方、現行の診療ガイドラインが用いる「」は、腎生検所見の有無にとらわれず、長期の糖尿病患者に生じるを臨床像・疫学でとらえるより広い概念である。
  • この広い概念には、を伴わずにだけが低下する「非性」という表現型が含まれる。とくに2型糖尿病で一定数みられ、陰性だけで糖尿病性の腎障害を除外してはならない。
  • 以下「」は、原則としてこの広い臨床概念を指す。

病態:構造と血行動態の二重機序

flowchart TD
    A["慢性高血糖"] --> B["タンパク質の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Nonenzymatic glycation'>非酵素的糖化</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='advanced glycation end products (AGEs)'>終末糖化産物</span>の蓄積"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type IV collagen'>IV型コラーゲン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibronectin'>フィブロネクチン</span>増加"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular basement membrane'>糸球体基底膜</span>肥厚・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesangial matrix'>メサンギウム基質</span>増加"]
    A --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afferent arteriole'>輸入細動脈</span>の拡張+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='efferent arteriole'>輸出細動脈</span>の収縮"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraglomerular pressure'>糸球体内圧</span>上昇(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular hypertension'>糸球体高血圧</span>)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular hyperfiltration'>糸球体過剰濾過</span><br>(早期は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate'>GFR</span>上昇)"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular capillary'>糸球体毛細血管</span>への機械的傷害"]
    E --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nodular glomerulosclerosis'>結節性糸球体硬化</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Kimmelstiel-Wilson nodules'>Kimmelstiel-Wilson結節</span>)"]
    I --> J
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Nephron'>ネフロン</span>喪失・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='albuminuria'>アルブミン尿</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate'>GFR</span>低下"]

💡 早期にが上昇するのは矛盾ではない。がより強く収縮しが上がるため、という形で一時的にを押し上げる。この血行動態異常が同時進行する(GBM肥厚)を覆い隠す。

病理

糸球体病変は次の所見の組み合わせで確認する。

病変 内容
の増加による硬化性硝子沈着。最も高頻度な病変
。の結節状硬化で、糖尿病に特徴的だが必発ではない
輸入・輸出両方の細動脈がする。病変は糖尿病に特異的で非糖尿病では稀
・など、の滲出による病変

⭐ までが及ぶ点は、高血圧による(優位の)との鑑別軸になる。進行するとが加わり、の像に移行する。

自然経過

  1. 期 — 無症候、上昇。
  2. 期 — 可逆性を期待しうる最早期の臨床的異常。
  3. 期 — 高血圧の出現と時期を一にする。
  4. 低下期 — がさらに増加しながらが低下する。
  5. — を要する。

進行して大量蛋白尿を来すとを呈することがある。

1型糖尿病は発症日が明確なため、この経過をおおむね発症後の年数で予測できる。一方2型糖尿病は診断前に高血糖が数年単位で先行していることが多く、診断時点ですでにや進行した病変を伴うことがあり、発症時期を臨床的に遡って特定しにくい。

診断と病期

重症度の書き方は2通りが並立している。国際的には()、全般で用いるCGA分類(原因・区分・区分)をそのまま適用する。日本では2023が第1〜5期の番号を維持したまま病期名を改め、評価の際にはも併記することが望ましいとしている1。

日本の病期(2023) (mg/g)またはUPCR(g/g) (mL/分/1.73m²)
正常期(第1期) 30未満 30以上
期(第2期) 30〜299 30以上
期(第3期) 300以上またはUPCR 0.5以上 30以上
高度低下・期(第4期) 問わない 30未満
期(第5期) 透析療法中あるいは腎移植後 —

⚠️ 同分類は、が必ずしも第1期から順に第5期まで進行するものではないと注記している1。

国際的なCGA分類の区分は次のとおり。

区分 (mg/g)
A1 30未満
A2 30〜300
A3 300超

区分はと共通のG1〜G5(90以上〜15未満)の6区分を用いる。同じでもが低いほど、同じでもが高いほど腎不全・心血管イベントのリスクが高い。

  • 2型糖尿病は診断時、1型糖尿病は5年以上で年1回以上とを評価する2。⚠️ ADAの推奨は「5年以上」とだけ書いており、5年を発症から数えるか診断から数えるかは明示していない。
  • は運動、発熱、感染、月経、著明な高血糖で一過性に上昇するため、初回高値は3〜6か月以内の複数検体で確認する。
  • の併存は診断を支持する所見になる。とくに1型糖尿病では、を伴わない腎症は非典型とみなす。

⚠️ 腎生検を考える状況:急速な低下、(赤血球・白血球・細胞性円柱)、・総蛋白尿の急速な増加、の存在(を問わない)、を欠く(とくに1型糖尿病)、を示唆する所見——これらは糖尿病以外の、あるいは糖尿病に加わった別の腎疾患を示唆するので、腎臓内科へ紹介し腎生検を含めた精査を検討する2。

鑑別

疾患 鑑別のポイント
高血圧による 優位の。のがなければは考えにくい
と。腎生検の・で鑑別する
IgA腎症 と同時期のが特徴的で、糖尿病歴とに生じうる
が類似しうるが、陽性・で区別する

治療

血糖・と腎保護薬を並行するが標準治療である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diabetic nephropathy'>糖尿病性腎症</span>の診断"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lifestyle'>生活習慣</span>・血糖・血圧・脂質を包括管理"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiotensin-converting enzyme'>ACE</span>阻害薬または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiotensin II receptor blocker'>ARB</span>を最大<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tolerance (of a dose/treatment)'>耐容</span>量まで"]
    C --> D["適応<span class='jp-term jp-term-diagram' title='estimated glomerular filtration rate'>eGFR</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sodium-glucose cotransporter 2'>SGLT2</span>阻害薬を追加"]
    D --> E{"RAS阻害薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sodium-glucose cotransporter 2'>SGLT2</span>阻害薬下でも<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='albuminuria'>アルブミン尿</span>が残るか"}
    E -->|"はい・K正常"| F["非ステロイド型MRAを追加"]
    E -->|"はい・血糖未達/肥満"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucagon-like peptide-1'>GLP-1</span>受容体作動薬を追加"]
    F --> H["定期的なK・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='estimated glomerular filtration rate'>eGFR</span>モニタリング"]
    G --> H
    H --> I["進行例では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='kidney replacement therapy, KRT'>腎代替療法</span>を計画"]
  • :目標は年齢、、低血糖リスク、併存症に応じて個別化する。厳格すぎる目標は進行したでは低血糖の害が利益を上回りうる。
  • とRAS阻害薬:高血圧かつがある患者では阻害薬または(、など)を最大量まで用いる。⚠️ 阻害薬との併用は禁忌であり、腎保護のなく高K血症・のリスクだけが上がる。開始・増量後は2〜4週でクレアチニンとKを確認し、クレアチニンの30%以下の上昇では中止せず経過をみる。
  • 阻害薬:・などは、一定水準以上のでを伴う2型糖尿病の腎複合(半減・・腎死)を減らすと確立し(DAPA- では0.613)、RAS阻害薬と並ぶ標準治療の柱である。開始直後の可逆的低下だけでは中止しない。
  • :は、RAS阻害薬と阻害薬を使用してもなお血清K正常かつが残る2型糖尿病患者に追加すると、腎・心血管複合をさらに減らす。阻害薬との併用で効果がされる可能性が報告されている。
  • 受容体作動薬:は、2型糖尿病にを合併しを有する患者で、主要腎(半減、eGFR15未満持続、、腎・心血管死の複合)を0.76と有意に減らすと示された4。⚠️ この試験(FLOW)は全例が2型糖尿病で、かつ組入れ基準としてを要求している( 50〜75なら尿中アルブミン/クレアチニン比300超、 25以上50未満なら同100超)。「の有無や重症度によらず効く」と読み替えてはいけない——のないや、糖尿病のないへの外挿はこの試験では裏づけられていない。阻害薬でも血糖目標に達しない患者や肥満を伴う患者へ、やなどの受容体作動薬を血糖・体重・腎保護目的に用いる。
  • ・脂質・禁煙:、禁煙、体重管理、脂質管理を行う。極端なはのリスクがあり一律には推奨しない。
  • :進行例ではの管理指針に準じ、透析・腎移植・を患者の希望と全身状態に応じて計画する。

⚠️ RAS阻害薬・阻害薬・非ステロイド型MRAはいずれも高K血症・のリスクを伴い、開始・増量時は血清Kとクレアチニンを監視する。やはを低下させを誘発しうるため可能な限り回避する。

まとめ

  • は、によるGBM肥厚・増加という構造的機序と、による・という血行動態的機序が同時に進む疾患で、この二重性が早期の上昇という一見矛盾した所見を説明する。
  • 現行の分類は、組織像に基づくと、非性表現型を含む広いを区別し、重症度評価は共通のCGA分類(区分G1〜G5、区分A1〜A3)で行う。
  • 病理は()と輸入・輸出両細動脈のが特徴で、後者は高血圧によるとの鑑別点になる。
  • 急速な腎機能低下、、蛋白尿の急速な増加や、を欠く例では、他の腎疾患の合併を疑い腎生検を検討する。
  • 治療の柱はRAS阻害薬・阻害薬・非ステロイド型MRA・受容体作動薬を血糖・と組み合わせるで、K・腎機能モニタリングと造影剤・回避を並行する。

出典

  1. 1.糖尿病性腎症病期分類2023の策定(糖尿病性腎症合同委員会・糖尿病性腎症病期分類改訂ワーキンググループ(日本透析医学会雑誌 56巻11号)・2023)J-STAGEのPDF全文で確認した。2014年分類の各病期のUACR・eGFR値は変えず、病期名を「正常アルブミン尿期(第1期)」(UACR 30 mg/g未満)、「微量アルブミン尿期(第2期)」(30〜299)、「顕性アルブミン尿期(第3期)」(300以上または尿蛋白/クレアチニン比0.5 g/g以上)、第1〜3期はいずれもeGFR 30以上、「GFR高度低下・末期腎不全期(第4期)」(UACR・UPCRを問わずeGFR 30未満)、「腎代替療法期(第5期)」(透析療法中あるいは腎移植後)へ改めたこと。注1が、糖尿病性腎症は必ずしも第1期から順次第5期まで進行するものではなく、評価の際には腎症病期とともにCKD重症度分類も併記することが望ましいとし、注2が正常アルブミン尿期は糖尿病性腎症の存在を否定するものではないとしていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.11. Chronic Kidney Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)推奨11.1aで、随時尿アルブミン・クレアチニン比(UACR)と推算糸球体濾過量(eGFR)を、罹病期間(duration)5年以上の1型糖尿病患者と、治療内容によらずすべての2型糖尿病患者で少なくとも年1回評価するとしていること(推奨文は原文で in people with type 1 diabetes with duration of ≥5 years であり、5年の起点が発症か診断かは明示していない)、および同章が背景として1型糖尿病のCKDの最も多い出現時期を「1型糖尿病の診断から5〜15年後」と記述していることを本文で確認した。また、活動性尿沈渣、アルブミン尿・総蛋白尿の急速な増加、ネフローゼ症候群の存在(罹病期間の限定なし)、急速なeGFR低下、網膜症の欠如(とくに1型糖尿病)が別の原因を示唆し、腎臓内科への紹介と腎生検を含む精査を考慮するとしていることを本文で確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease(New England Journal of Medicine・2020)DAPA-CKD試験。eGFR 25〜75 mL/min/1.73m² かつ 尿中アルブミン/クレアチニン比 200〜5000 mg/g の慢性腎臓病患者を対象に、ダパグリフロジンが主要複合腎アウトカム(持続的eGFR 50%以上低下・末期腎不全・腎死または心血管死)をハザード比0.61(95%CI 0.51–0.72)で減らした。⚠️ 全例がアルブミン尿を有するため、アルブミン尿のない患者への外挿はこの試験からは導けない。閲覧 2026-08-15
  4. 4.Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes(New England Journal of Medicine・2024)FLOW試験。2型糖尿病かつ慢性腎臓病(eGFR 50〜75 かつ 尿中アルブミン/クレアチニン比 300超5000未満、または eGFR 25以上50未満 かつ 同比 100超5000未満)の3,533例を対象に、セマグルチド1.0 mg週1回皮下投与が主要腎イベント(腎不全・eGFR 50%以上低下・腎/心血管死の複合)をハザード比0.76(95%CI 0.66–0.88)で減らしたことを抄録で確認した。**組入れ時点で全例がアルブミン尿を有し全例が2型糖尿病であるため、「アルブミン尿の有無・重症度によらず」という一般化はこの試験からは導けない。**閲覧 2026-08-15