病態生理学

病態生理学 · P-2-13

腎疾患 症例5

Kidney disease, Case 5

前提:病態
糖尿病の細小血管合併症慢性腎不全の原因と定義
疾患
糖尿病性腎症

🧠 48歳女性、2か月前にから始まり大腿・まで広がった無痛性浮腫、泡立つ尿、4か月で20 kgの体重増加、未治療の糖尿病。 鍵になる所見は、アルブミン20 g/L・試験紙の尿蛋白500 mg/dL・コレステロール15.2 mmol/L・というと、重症非である。によると読めるが、の存在そのものが他の糸球体疾患を疑う手がかりにもなるので、腎臓専門医への紹介と腎生検の検討が要る。

症例提示

症例/:

  • 48歳女性
  • 無痛性足部浮腫(2か月前にから開始)。現在は下腿・大腿・まで浮腫拡大
  • 朝にあり
  • 尿が泡立つ
  • 呼吸困難が進行
  • 4か月で20 kg体重増加
  • 未治療糖尿病、喫煙なし、飲酒なし、薬物使用なし

診察・評価:

  • 血圧: 153/87 mmHg
  • 脈拍: 90/min
  • : 下肢、上肢、大
  • 体温: 36.0 °C
  • で、両側
  • : 98%
  • X線・: 胸水、腹水
  • 整、雑音なし、位置正常。心エコー: 陰性
  • 徴候なし
  • 脱落所見なし
  • 眼科: 重症非

検査(血液):

  • ヘモグロビン (Hb): 95 g/L
  • (HTK): 30%
  • MCV: 95 fL
  • (WBC): 4.7 × 10⁹/L
  • 血小板 (PLT): 330 × 10⁹/L
  • ナトリウム (Na⁺): 141 mmol/L
  • カリウム (K⁺): 4.0 mmol/L
  • 尿素: 7.1 mmol/L
  • クレアチニン: 112 μmol/L
  • 血糖: 9.8 mmol/L
  • HbA1c: 11%
  • 総蛋白: 55 g/L
  • アルブミン: 20 g/L
  • コレステロール: 15.2 mmol/L
  • トリグリセリド: 2.7 mmol/L
  • AST: 20 U/L
  • ALT: 9 U/L
  • CRP: 3 mg/dL

検査(尿)— 試験紙:

  • ビリルビン: 陰性
  • : 正常
  • ケトン: 50 mg/dL
  • ビタミンC: 陰性
  • 血糖: 500 mg/dL
  • 蛋白: 500 mg/dL
  • RBC: 陰性
  • pH: 7.5
  • 塩: 陰性
  • 白血球 (LEU): 陰性
  • 比重: 1.042
  • 度: 清澄
  • 色調: 黄色

尿沈渣:

  • 赤血球 (RBC): 11.4 /uL
  • 白血球 (WBC): 13.2 /uL
  • : 20.7
  • : 1.8
  • 上皮細胞: 30.8
  • 細菌: 321.2
  • 球菌: 321.2
  • 粘液: 338.8

主要所見と解釈

引用 / 値 解釈
“無痛性浮腫 … から下肢・大腿・へ”、“朝の” 全身性/で、重度低アルブミン状態を示唆
“”、尿蛋白 500 mg/dL 大量蛋白尿で、の中核所見
albumin 20 g/L、総蛋白 55 g/L(低値) 尿中による → → 浮腫。ただし尿細管でのNa再吸収亢進(溢流説)も浮腫の一因として関与するとされ、機序はだけに単純化できない
コレステロール 15.2、トリグリセリド 2.7 mmol/L に典型的な脂質異常(に伴う肝でのリポ蛋白合成代償性亢進)
“重症非”、 11% 高度糖尿病性があり、原因としてを強く示唆
尿沈渣RBC 11.4/µL(ほぼ正常)、なし 有意な血尿・を伴わない非血尿性のネフローゼパターンで、と矛盾しない
そのもの ⚠️ ADAは、活動性の尿沈渣、・蛋白尿の急速な増加、の存在、の急速な低下、が無いこと(とくに1型糖尿病)を、糖尿病以外の原因や追加の原因を示唆する所見に挙げ、腎生検の可能性を含めた精査のために腎臓専門医への紹介を考慮すべきだとしている1。本例はがあり活動性沈渣も無いが、がこの一覧に当たる。と決めつけず、他の糸球体疾患の合併も視野に入れる
クレアチニン 112 µmol/L(=1.27 mg/dL)、尿素 7.1 mmol/L 48歳女性で-EPI 2021式により概算するとは約52 mL/min/1.73m²で、の区分ではG3a(45〜59)にあたる(と呼ぶには3か月以上の持続の確認が要る)2
Hb 95 g/L、 30%、 95 fL 2024 の基準では15〜65歳の非妊娠女性はHb 120 g/L未満が貧血で、80〜109 g/Lは中等度にあたる3。中等度ので、原因の評価が要る
50 mg/dL、 500 mg/dL、血糖 9.8 mmol/L、 11% が悪く、ケトン尿を伴う。糖尿病の型は症例に書かれていないので、血液ガスと血中ケトンでが無いかを確かめる
尿沈渣の細菌・球菌 321.2、上皮細胞 30.8、塩・白血球反応陰性 尿路症状の記載は無く、試験紙の塩・白血球反応も陰性。尿路感染を示す所見ではなく、採尿時の混入などが考えられる
心エコー陰性、“徴候なし” 浮腫・の・肝原性原因を除外
胸水+腹水、4か月で20 kg増加 重度に伴うへの

要点整理

  • 診断: (分類の区分A3・高度相当2、旧称「期」)に伴うが最も考えやすい。ただしの存在は他の原因や追加の原因を疑う所見でもあり、腎臓専門医への紹介と腎生検の検討が要る1。区分は約52でG3a相当。
  • ネフローゼ四徴: 大量蛋白尿、、浮腫()、脂質異常。
  • 原因を示す手掛かり: コントロール不良の糖尿病 + 重症は糖尿病性を強く支持し、有意な血尿・を伴わない点もと矛盾しない。
  • 除外点: 心エコー正常かつ所見なしで、心・肝由来浮腫を否定的。血尿やなどの所見があれば、他の糸球体疾患の合併をさらに強く疑う。
  • 見落としやすい所見: 中等度の(Hb 95 g/L)と、ケトン尿(50 mg/dL)。
  • 病態生理: 糖尿病性 → アルブミン大量喪失 → 低下 → 組織・(胸水、腹水)への体液移動。
  • 治療の方向性: 急性期は浮腫・呼吸困難への対応(緩徐な利尿、必要なら胸水ドレナージ)と並行し、血糖・にRAS阻害薬を導入する(糖尿病があり中等度〜高度ので推奨、1B)2。阻害薬は、 2024 が2型糖尿病・・ 20以上で推奨し(1A)、糖尿病の有無を問わず 20以上で200 mg/g以上のにも推奨している(1A)2。根拠の1つのDAPA-試験は、2型糖尿病の有無を問わず、 25〜75・尿中アルブミン/クレアチニン比200〜5000 mg/gの患者を組み入れた(0.61)4。本例の約52はこの範囲にあるが、は測られておらず(試験紙の蛋白だけ)、の蛋白尿なら試験の上限(5000 mg/g)を超えている可能性もある。糖尿病の型も書かれておらず、1型糖尿病での阻害薬はがで十分に調べられていない集団として研究課題に挙げている2。⚠️ 本例はケトン尿があり、はの危険が高い時期(長期の絶食・手術・重篤な急性疾患)には阻害薬をするのが妥当としている2。導入はを除外し、全身状態が落ち着いてから検討する。またが高度でが不安定なため、利尿薬・阻害薬の導入時は脱水・のリスクを監視しながら行う。

出典

  1. 1.11. Chronic Kidney Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMCの本文(PMC12690176)で確認した。活動性の尿沈渣(赤血球・白血球・細胞性円柱を含む)、アルブミン尿または総蛋白尿の急速な増加、ネフローゼ症候群の存在、eGFRの急速な低下、網膜症が無いこと(とくに1型糖尿病)は、腎臓病の別の原因または追加の原因を示唆し、これらの特徴のある人では腎生検の可能性を含めた精査のために腎臓専門医への紹介を考慮すべきだとしていること閲覧 2026-09-24
  2. 2.KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease(KDIGO・2024)2026-09-24にkdigo.orgの全文PDFで確認した。CKDを腎の構造または機能の異常が少なくとも3か月続き健康に影響するものと定義し、GFR区分(G1〜G5)×アルブミン尿区分(A1〜A3)で分類すること。アルブミン尿区分A3(高度増加)はアルブミン排泄率300 mg/24時間超、尿アルブミン/クレアチニン比300 mg/g超であること。推奨3.6.3(糖尿病があり中等度〜高度アルブミン尿〈G1〜G4、A2・A3〉のCKDにRAS阻害薬を開始、1B)、推奨3.7.1(2型糖尿病・CKD・eGFR 20以上にSGLT2阻害薬、1A)、推奨3.7.2(CKDの成人でeGFR 20以上かつ尿アルブミン/クレアチニン比200 mg/g以上ならSGLT2阻害薬、1A)、Practice Point 3.7.2(長期の絶食・手術・重篤な急性疾患などケトーシスの危険が高い時期にはSGLT2阻害薬を休薬するのが妥当)。研究課題として、大規模試験で十分に調べられていない集団(1型糖尿病など)でのSGLT2阻害薬の安全性と有効性の検討を挙げていること閲覧 2026-08-14
  3. 3.Guideline on haemoglobin cutoffs to define anaemia in individuals and populations(World Health Organization・2024)WHO IRISの全文PDFで確認した。Table 2で15〜65歳の非妊娠女性の貧血をHb 120 g/L未満とし、Table 3で重症度を15〜65歳の非妊娠女性では軽度110〜119・中等度80〜109・重度80 g/L未満としていること閲覧 2026-09-24
  4. 4.Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease(New England Journal of Medicine・2020)DAPA-CKD試験(eGFR 25〜75 mL/min/1.73m²かつ尿中アルブミン/クレアチニン比200〜5000 mg/gのCKD患者4304例。2型糖尿病の有無は問わない)で、ダパグリフロジンはプラセボと比べ持続的eGFR50%以上低下・末期腎不全・腎死または心血管死の複合エンドポイントをハザード比0.61(95%CI 0.51-0.72、P<0.001)で有意に減少させたことを確認した。組入れ基準上、全例がアルブミン尿を有するため「アルブミン尿の有無を問わない」という主張は本試験からは導けない閲覧 2026-08-14