病態生理学

病態生理学 · P-2-12

腎疾患 症例4

Kidney disease, Case 4

前提:病態
糖尿病の細小血管合併症慢性腎不全の原因と定義
疾患
糖尿病性腎症

🧠 57歳男性、2年前に診断された未治療の2型糖尿病、 36.8、血圧168/100 mmHg。 鍵になる所見は、尿中アルブミン250 mg/24時間(A2)と、クレアチニン106 µmol/Lから推算した約70(G2)である。が保たれたまま中等度のが出ている段階と読み、を示唆する。1回の測定なので持続を確かめ、RAS阻害薬と阻害薬を柱に血糖・血圧を管理する。

症例提示

診察・評価:

  • 57歳男性
  • 2型糖尿病(2年前に診断)
  • 173 cm, 110 kg(BMI: 36.8)
  • 以前は定期的に飲酒していたが、2年前に中止
  • 未治療の糖尿病、喫煙なし、飲酒なし、薬物使用なし
  • 合併症: 甲状腺機能低下症
  • 血圧: 168/100 mmHg
  • 脈拍: 84/min
  • : 甲状腺腫大なし
  • 眼科診察: なし
  • 心血管診察: 陰性、徴候なし

検査(血液):

  • ヘモグロビン (Hb): 120 g/L
  • (HTK): 38%
  • MCV: 97 fL
  • (WBC): 6.2 × 10⁹/L
  • 血小板 (PLT): 210 × 10⁹/L
  • ナトリウム (Na⁺): 139 mmol/L
  • カリウム (K⁺): 4.2 mmol/L
  • 尿素: 5 mmol/L
  • クレアチニン: 106.1 μmol/L
  • 血糖: 9.4 mmol/L
  • HbA1c: 9.8%
  • 総蛋白: 70 g/L
  • アルブミン: 41.0 g/L
  • コレステロール: 14.7 mmol/L
  • トリグリセリド: 2.3 mmol/L
  • TSH: 1.2 mU/L

検査(尿)— 試験紙:

  • ビリルビン: 陰性
  • : 正常
  • ケトン: 5 mg/dL
  • ビタミンC: 陰性
  • 血糖: 150 mg/dL
  • 蛋白: 25 mg/dL
  • RBC: 陰性
  • pH: 7.5
  • 塩: 陰性
  • 白血球 (LEU): 陰性
  • 比重: 1.001
  • 度: 清澄
  • 色調: 黄色

尿沈渣:

  • 赤血球 (RBC): 4.4 /uL
  • 白血球 (WBC): 1.3 /uL
  • : 3.1
  • 細菌: 68.2
  • 球菌: 68.2
  • 粘液: 357.7

尿中アルブミン: 250 mg/24時間

主要所見と解釈

引用 / 値 解釈
“2型糖尿病”、 9.8%、血糖 9.4、“” コントロール不良の2型糖尿病が腎障害の基盤
尿中アルブミン 250 mg/24時間 分類のA2(中等度増加、アルブミン排泄率30〜300 mg/24時間)に相当し1、を示唆する所見。ADAはこの範囲を「高(旧称・)」とも書く。ただし尿中アルブミンは測定ごとの変動が大きく、ADAは3〜6か月の間の3検体のうち2検体が異常であって初めてとみなすとしている2。本例は1回の測定である
血圧 168/100 mmHg 高血圧はの進展因子であり結果でもある。糖尿病と高血圧があり30〜299 mg/g(アルブミン排泄率ではおおむね30〜300 mg/24時間に相当1)の患者に、ADAは阻害薬またはを推奨する(B)2。 2024 は高血圧のあるで、耐えられれば標準化した診察室測定の120 mmHg未満を目標とすることを提案している(2B)1
クレアチニン 106 µmol/L(=1.20 mg/dL)、尿素 5(ほぼ正常) クレアチニン・尿素は著明な上昇を示さず、は概ね保持されている。57歳男性・クレアチニン1.20 mg/dLから-EPI 2021式で概算するとは約70 mL/min/1.73m²で、の区分ではG2(60〜89)にあたる。はを腎の異常が3か月以上続くものと定義するので、の持続が確かめられれば、本症例はG2A2と表記するのが現行の分類である1
Hb 120 g/L、 38%、 97 fL 2024 の基準では15〜65歳の男性はHb 130 g/L未満が貧血で、110〜129 g/Lは軽度にあたる3。軽度のであり、原因の評価が要る
36.8、コレステロール 14.7 mmol/L、トリグリセリド 2.3 肥満と脂質異常が血管/腎障害を加速する背景。⚠️ ただしコレステロール14.7 mmol/L(約568 mg/dL)は著しい高値で、アルブミン41 g/Lとネフローゼの域にない本例のでも、肥満・糖尿病でも説明しにくい。甲状腺機能低下症は二次性の原因になるが、 1.2 mU/Lで機能は保たれている。値が正しいなら原発性の(など)を含めて原因を探す。症例の値の転記誤りの可能性もあるので、再検で確かめる
尿沈渣の細菌・球菌 68.2、白血球 1.3/µL、塩・白血球反応陰性 が無く、尿路症状の記載も無い。尿路感染を示す所見ではなく、採尿時の混入などが考えられる
“なし”、試験紙蛋白 25 mg/dLのみ 2型糖尿病ではの有無と腎症の重症度が1型糖尿病ほど強く相関しないため、なし単独を早期病期の根拠にしない。ADAも、2型糖尿病では診断時から、またが無くてもの徴候がありうるとしている2。試験紙の蛋白反応はアルブミンへの感度が低く、この程度のは検出できないことが多い(定量には尿中アルブミン測定が必要)

要点整理

  • 診断: が示唆される。のCGA分類ではG2A2相当(区分G2=約70、区分A2)1。A2は旧称の「早期・期」にあたる。1回の測定なので、の持続を確かめてから分類を確定する2。
  • 主要マーカー: 温存下での中等度(250 mg/24時間、A2)。
  • 見落としやすい所見: 軽度の(Hb 120 g/L)と、説明のつかない著しい(14.7 mmol/L)。
  • 進展因子: 不良( 9.8%)、高血圧、肥満、脂質異常。
  • 病態生理: 慢性高血糖 → と基底膜/変化 → アルブミン漏出。
  • 臨床的意義: A2の段階はまだが保たれており、血糖・血圧の管理に加えて、次の薬を組み合わせるのが現行の進行抑制の柱である。
    • RAS阻害薬(阻害薬/):糖尿病があり中等度〜高度(A2・A3)ので開始を推奨(1B)し、承認された最大量で用いる1。
    • 阻害薬:2型糖尿病・・ 20以上で推奨(1A)1。本例はの持続が確かめられれば、この条件に当たる。
    • 非ステロイド性MRA():2型糖尿病で 25超・血清K正常で、最大量のRAS阻害薬を使っても(30 mg/g超)が残る場合に提案(2A)1。
    • 阻害薬の腎保護の根拠の1つであるDAPA-試験は、2型糖尿病の有無を問わず、 25〜75で200〜5000 mg/gの患者を組み入れ、複合腎を減らした4。全例がを持つ集団の結果である。

出典

  1. 1.KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease(KDIGO・2024)2026-09-24にkdigo.orgの全文PDFで確認した。CKDを「腎の構造または機能の異常が少なくとも3か月続き、健康に影響するもの」と定義し、原因・GFR区分(G1〜G5)・アルブミン尿区分(A1〜A3)で分類すること(CGA分類)。アルブミン尿区分はアルブミン排泄率(mg/24時間)でA1 30未満・A2 30〜300・A3 300超(尿アルブミン/クレアチニン比のmg/gでも同じ値)とし、A2を中等度増加と呼ぶこと。推奨3.6.3(糖尿病があり中等度〜高度アルブミン尿〈G1〜G4、A2・A3〉のCKDにRAS阻害薬〈ACE阻害薬またはARB〉を開始する、1B)、Practice Point 3.6.1(RAS阻害薬は承認された最大耐容量で用いる)、推奨3.7.1(2型糖尿病・CKD・eGFR 20以上にSGLT2阻害薬、1A)、推奨3.8.1(2型糖尿病でeGFR 25超・血清K正常・最大耐容量のRAS阻害薬でもアルブミン尿30 mg/g超が残る成人に、腎または心血管の利益が証明された非ステロイド性MRAを提案、2A)、推奨3.4.1(高血圧のあるCKDの成人で、耐えられれば標準化された診察室測定で収縮期血圧120 mmHg未満を目標とする、2B)閲覧 2026-08-14
  2. 2.11. Chronic Kidney Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMCの本文(PMC12690176)で確認した。尿中アルブミンは測定間の生物学的変動が20%を超えるため、3〜6か月の間に採取した3検体のうち2検体が異常であって初めて中等度・高度のアルブミン尿とみなすとしていること。UACR 30〜299 mg/gを「高アルブミン尿(旧称・微量アルブミン尿)」と書く箇所があること。推奨11.6aが、妊娠していない糖尿病・高血圧の患者で、UACR 30〜299 mg/gにはACE阻害薬またはARBを推奨し(B)、UACR 300 mg/g以上またはeGFR 60未満には強く推奨し、最大耐容量まで用いるとしていること。2型糖尿病ではCKDの徴候が診断時から、また網膜症が無くても存在しうると述べていること閲覧 2026-09-24
  3. 3.Guideline on haemoglobin cutoffs to define anaemia in individuals and populations(World Health Organization・2024)WHO IRISの全文PDFで確認した。Table 2で個人と集団の貧血のHb閾値を、15〜65歳の非妊娠女性で120 g/L未満、15〜65歳の男性で130 g/L未満とし、Table 3で重症度を15〜65歳の男性では軽度110〜129・中等度80〜109・重度80 g/L未満としていること閲覧 2026-09-24
  4. 4.Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease(New England Journal of Medicine・2020)DAPA-CKD試験(eGFR 25〜75 mL/min/1.73m²かつ尿中アルブミン/クレアチニン比200〜5000 mg/gのCKD患者4304例。2型糖尿病の有無は問わない)で、ダパグリフロジンはプラセボと比べ持続的eGFR50%以上低下・末期腎不全・腎死または心血管死の複合エンドポイントをハザード比0.61(95%CI 0.51-0.72、P<0.001)で有意に減少させたことを確認した。全例がアルブミン尿を有する集団であり、アルブミン尿がない患者への外挿は本試験では裏づけられない閲覧 2026-08-14