病理学

病理学 · C/62

全身性疾患に伴う糸球体障害

Systemic diseases associated glomerular damage

疾患
C1q腎症軽鎖沈着症糖尿病性腎症
検査値
補体C1q

🧠 全体像:全身性疾患によるは、原疾患ごとに沈着物の性質が異なる点を軸に整理する。糖尿病はタンパク質の、はの沈着、関連血管炎は免疫複合体を介さない直接傷害、SLEは免疫複合体の沈着パターンがそのままクラス分類を決める、というように機序が形態と直結している。

糖尿病性糸球体硬化症

3つの糸球体変化

  1. GBM肥厚
  2. びまん性 — 硬化性の硝子(の増加)
  3. — (の結節性硬化)

発生機序

  • タンパク質の → → ポリペプチドの架橋 → GBM肥厚。
  • +の合成増加 → 。
  • 高血糖 → の濾液 → 濾過能の負荷過剰。

臨床

  • 早期:(上昇)を伴う多尿。
  • 後期:(初期はしばしば非)→ 硬化 → 腎不全。

腎アミロイドーシス

概要

  • = 組織中の不溶性のの凝集体。
  • 腎は心臓とともに最も侵されやすい臓器で、の臓器障害は心障害と腎障害が主体である1。
  • ⚠️ 授業資料は「腎が最も多く、かつ最も重篤に侵される」と書くが、で予後を最も強く規定するのは心病変である。新規診断810例から作られたMayo 2012病期は、差に加えてTとという心で決まり、各期の生存期間中央値はI期94.1か月からIV期5.8か月まで開く2。
  • 腎の主な亜型:
  • ⚠️ モノクローナルはだけではない。尿細管内で軽鎖が凝集し鋳型を形成する(Congo red陰性)、基底膜への線状を示す(LCDD)(Congo red陰性)は、いずれも(Congo red陽性)とは異なる病態で、腎生検の光顕・免疫染色・で鑑別する3。

形態

  • +層の → 糸球体の進行性消失。
  • 腎の血管+間質も侵される。
  • 下でによる——より正確には染色条件で色調が変わる異常色(anomalous colours)であり、この古典的表現は単純化であることが指摘されている4。

臨床

  • 重度 → 。
  • 重要(授業資料):開始前にを除外する。成人ので原因を確かめずにステロイドを始めない、という要点として読む。
  • ⚠️ ただし「ステロイドはに禁忌」とは読まない。の寛解導入を比べたANDROMEDA試験(新規診断388例)では、両群とも・・を用いており、ので血液学的が増えた(53.3%対18.1%)5。ALの治療はステロイド単独ではなく、のもとになる軽鎖を作る形質細胞クローンを抑える化学療法である。

血管炎(結節性多発動脈炎・多発血管炎性肉芽腫症)

結節性多発動脈炎(PAN)

  • は免疫複合体の関与が想定される(授業資料:)。とは関連しない。
  • 中動脈の、肺を侵さない。
  • HBV関連のPANが知られ、CHCC 2012は「B型肝炎ウイルス関連」を病因の推定される血管炎の例に挙げている6。
  • ⚠️ PANは関連血管炎ではない。 授業資料はPANとを並べて扱うが、2012年改訂Chapel Hill分類(CHCC 2012)はPANを「糸球体腎炎や細動脈・毛細血管・の血管炎を伴わず、と関連しない中・小動脈の壊死性動脈炎」と定義し、関連血管炎の一型で糸球体腎炎が非常に多い(MPA)と区別する。同分類はACR・ASN・の勧告を採用してを(GPA)へ、を(EGPA)へ置き換えた6。

多発血管炎性肉芽腫症

腎病変のスペクトラム

  • 早期:・性GN → 血尿、乏尿、低下。
  • :びまん性壊死+フィブリン沈着+性GN( III型)。

ループス腎炎(SLE)

概要

  • 多臓器性自己免疫疾患、腎病変はSLEの最も重要な臨床的特徴。
  • /抗免疫複合体の沈着 → 炎症反応 → 増殖±壊死。

WHO/ISNの6クラス

クラス 名称 特徴
I 微小 光顕では正常糸球体だが、でに。臨床的な腎病変はほぼ無い
II 増殖性 または基質拡大+、軽度症状(一過性)
III 全糸球体の50%未満に及ぶまたはの管内・管外増殖性病変、典型的にはの、軽度血尿+
IV びまん性 最多+最重症、全糸球体の50%以上、典型的にはびまん性の()、血尿・・高血圧・
V 膜性 (または)によるGBM肥厚、重度。III・IVと合併しうる
VI 進行硬化性 90%以上の糸球体がしが無い、、

⚠️ 現行の正式名称は(国際腎臓学会・腎病理学会が2003年に改訂)であり、原型は1982年の分類である。表のの定義も同分類による7。授業資料はクラスVに「」を当てるが、ISN/RPSがびまん性の沈着()を含めているのはクラスIVの定義であり、クラスVの本体は上皮下沈着である7。2018年の改訂ではクラスIVにあった(IV-S)・(IV-G)の細分が廃止され、活動性指数・慢性化指数が全クラス共通の指標として整理された8。

SLE特異的な主要所見

  • 「」病変 = 光顕で見える。ISN/RPSは広範なをクラスIVの像として記述し、のはクラスIIIにも伴う。が本体のクラスVの特徴ではない7。
  • IF:「」パターン — IgG、IgA、IgM、C3、C1qすべて陽性。
  • 血清学:上昇、抗dsDNA上昇、抗Sm上昇、C3低下、C4低下()。

💡 ポイント: :GBM肥厚、びまん性硬化、、 → → 腎不全。:腎は心臓とともに侵されやすい臓器だが、ALの予後を最も規定するのは心病変。 → 、。PANは陰性で糸球体腎炎を来さない。GPA(旧称Wegener):多くはc-、上・下気道肉芽腫+性GN。:6つのISN/クラス、クラスIV(びまん性増殖性)= 最重症、「」、「」IF、クラスV = の膜性+ネフローゼ。

まとめ

  • は・によるGBM肥厚と、結節性硬化()を特徴とする。
  • では腎は心臓とともに最も侵されやすい臓器だが、の予後を最も強く規定するのは心病変である。でを示す。ステロイド開始前に原因(を含む)を確かめる必要があるが、ALの標準的な寛解導入はを含む化学療法であり、ステロイドそのものが禁忌というわけではない。
  • (GPA)は上・下気道の壊死性肉芽腫、小・中血管の、・性GN(多くはc-/陽性)の三徴を特徴とする。はと関連せず糸球体腎炎を来さない中・小動脈の血管炎で、関連血管炎とは別である。
  • はISN/RPSクラスI〜VI(原型は分類)に分類され、クラスIV(びまん性、50%以上)が最多かつ最重症で、による「」病変はとくにクラスIVで広範にみられ(のはクラスIIIにも伴う)、クラスVはの膜性病変である。「」IFパターンはSLEに特徴的である。

出典

  1. 1.Systemic immunoglobulin light chain amyloidosis(Nature Reviews Disease Primers・2018)抄録で、全身性ALアミロイドーシスの臓器障害は心障害と腎障害が主体であること(cardiac damage and renal damage predominate)、治療方針は心バイオマーカーに基づくリスク評価で決まり、進行した心病変をもつ患者への有効な治療が未解決の課題であることを確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.Revised prognostic staging system for light chain amyloidosis incorporating cardiac biomarkers and serum free light chain measurements(Journal of Clinical Oncology・2012)抄録で、ALアミロイドーシスでは心病変が予後不良を予測すること、新規診断810例から遊離軽鎖差18 mg/dL以上・心筋トロポニンT 0.025 ng/mL以上・NT-proBNP 1,800 pg/mL以上に各1点を与えるI〜IV期を作り、各期の診断からの生存期間中央値が94.1・40.3・14・5.8か月だったことを確認した閲覧 2026-09-24
  3. 3.The evaluation of monoclonal gammopathy of renal significance: a consensus report of the International Kidney and Monoclonal Gammopathy Research Group(Nature Reviews Nephrology・2019)モノクローナル免疫グロブリンによる腎障害は、尿細管内で軽鎖が凝集し鋳型を形成する骨髄腫腎(cast nephropathy、Congo red陰性)、軽鎖の異常フォールディングによるALアミロイドーシス(Congo red陽性、電顕で7〜12nmの無秩序配列線維)、基底膜への線状顆粒状沈着を示す軽鎖沈着症(LCDD、Congo red陰性、電顕で微細顆粒状の高電子密度沈着)という病態の異なる複数の型に分かれ、腎生検の光顕・免疫染色・電顕による鑑別が必要であることを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Physical basis of colors seen in Congo red-stained amyloid in polarized light(Laboratory Investigation・2008)配向したCongo redの複屈折は吸収ピーク近傍で最大となり、黄緑・黄・青緑・青など標本条件で色調が変わる異常色(anomalous colours)であること、古典的な「アップルグリーン複屈折」という表現は単純化であって、より正確にはanomalous coloursと呼ぶべきであることを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Daratumumab-Based Treatment for Immunoglobulin Light-Chain Amyloidosis(New England Journal of Medicine・2021)抄録で、新規診断ALアミロイドーシス388例のANDROMEDA試験が、ボルテゾミブ・シクロホスファミド・デキサメタゾン(6サイクル)単独と、これにダラツムマブを加えた治療を比べ、ダラツムマブ群で血液学的完全奏効が多かった(53.3%対18.1%)ことを確認した。対照群も含め両群の治療がデキサメタゾンを含む閲覧 2026-09-24
  6. 6.2012 Revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides(Arthritis & Rheumatism (American College of Rheumatology)・2013)全文(Wiley版PDF、Wayback保存版)で、CHCC 2012が結節性多発動脈炎(PAN)を「糸球体腎炎や細動脈・毛細血管・細静脈の血管炎を伴わず、ANCAと関連しない中・小動脈の壊死性動脈炎」と定義し、ANCA関連血管炎の一型として糸球体腎炎が非常に多い顕微鏡的多発血管炎(MPA)と区別したこと、病因の推定される血管炎の例として「B型肝炎ウイルス関連結節性多発動脈炎」を挙げていること、ACR・ASN・EULARの勧告を採用してWegener肉芽腫症を「多発血管炎性肉芽腫症(Wegener's)」へ置き換え、Churg-Strauss症候群の名祖をEGPAへ置き換えたこと、GPAを小〜中型血管優位の壊死性血管炎と上・下気道の壊死性肉芽腫性炎症で定義していることを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.The classification of glomerulonephritis in systemic lupus erythematosus revisited(Kidney International・2004)同時掲載されたJASN版(15巻241-250頁)の全文Table 3で、ISN/RPS 2003分類がクラスIを「光顕では正常だが蛍光抗体法でメサンギウム免疫沈着」、クラスIIを「メサンギウム細胞増多または基質拡大+メサンギウム免疫沈着」、クラスIIIを「全糸球体の50%未満に及ぶ分節性または全節性の管内・管外性糸球体腎炎で、典型的には巣状の内皮下沈着」、クラスIVを「50%以上に及び典型的にはびまん性の内皮下沈着を伴うもので、びまん性のワイヤーループ沈着を伴い増殖に乏しい例を含む」、クラスVを「全節性または分節性の上皮下免疫沈着」、クラスVIを「90%以上の糸球体が全節性硬化し残存活動性の無いもの」と定義し、クラスIVをIV-S・IV-Gに細分していたこと、この分類が1982年のWHO分類を国際腎臓学会・腎病理学会(ISN/RPS)が2003年に改訂したものであることを確認した。閲覧 2026-08-27
  8. 8.Revision of the International Society of Nephrology/Renal Pathology Society classification for lupus nephritis: clarification of definitions, and modified National Institutes of Health activity and chronicity indices(Kidney International(ISN/RPS国際腎病理ワーキンググループ、Bajema IM, et al.)・2018)2018年の改訂でループス腎炎分類のクラスIVにあったIV-S/IV-Gの細分類が廃止され、細胞性・線維細胞性・線維性半月体の定義が明確化されたこと、活動性指数・慢性化指数が全クラス共通の指標として整理されたことを確認した。閲覧 2026-08-27