病理学

病理学 · C/61

急速進行性糸球体腎炎(RPGN)

Rapidly progressive glomerulonephritis

応用トピック
急性腎障害急性・急速進行性・慢性糸球体腎炎
疾患
ANCA関連血管炎ネフリティック症候群顕微鏡的多発血管炎好酸球性多発血管炎性肉芽腫症抗糸球体基底膜病(グッドパスチャー症候群)腎肺症候群膜性増殖性糸球体腎炎
検査値
腎生検直接蛍光抗体法
画像所見
肺胞出血

🧠 全体像:は病因を問わず「」という共通の組織形態に収束する症候群で、そのをパターン(線状・・)で分類すると、機序・代表疾患・までが一続きに決まる。

定義

共通の組織学的特徴 — 半月体

  • 重度の毛細血管傷害 → フィブリンがへ漏出。
  • Bowman嚢の壁側細胞+マクロファージの増殖を誘発 → 。
  • = 内の2層以上の増殖細胞。
  • 炎症性GNの特徴であり、重度の糸球体傷害のマーカー。
  • はを圧迫・消失させる。
  • 生検の糸球体病変の組み合わせがの手がかりになる — 国際腎病理ワーキンググループは関連糸球体腎炎の組織像をfocal・crescentic・mixed・scleroticの4型に分ける分類を提唱し、確定100生検の検証でこの分類が1年・5年のの予測に役立つことを示した1。
flowchart TD
    A["重度の毛細血管傷害"] --> B["フィブリンが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Bowman space'>Bowman腔</span>へ漏出"]
    B --> C["Bowman嚢壁側細胞+<br>マクロファージの増殖"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crescent formation'>半月体形成</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular capillary'>糸球体毛細血管</span>の圧迫・消失"]
    E --> F["急速な腎機能喪失<br>(数日〜数週)"]

RPGNの3つの病因型

I型 — 抗GBM抗体性半月体形成性GN

  • GBMに対する抗体(標的 = 、NC1ドメイン)。
  • IF:GBMに沿った線状IgG。
  • 抗体結合 → GBMの → フィブリノゲン漏出 → 。
  • :がと → 肺+腎病変(喀血+血尿)。現在は肺・腎のどちらか一方だけの例も含めてと呼び、は肺と腎の両方に病変が出る場合に過去から使われてきた名祖である2。
  • 治療:+免疫抑制 → 有効なことがある。

II型 — 免疫複合体介在性半月体形成性GN

  • あらゆるGNの合併症:
  • IF:の。沈着の部位は原疾患によって異なり、授業資料の「上皮下」に限らない。たとえばのクラスIII・IVではの沈着が典型である3。
  • 治療:ステロイドが有用なことがある、は効果が劣る。

III型 — 無沈着性半月体形成性GN

  • なし、免疫複合体なし。
  • 陽性の血管炎 → 細胞傷害。
  • GBMの+。
  • 関連疾患:
  • 2012年改訂Chapel Hill分類(CHCC 2012)は関連血管炎をまたはと関連すると定義し、病名に・・陰性の接頭辞を付けるよう求めた。Wegener・Churg-Straussの名祖はこのでGPA・EGPAへ置き換えられている2。
  • ⚠️ EGPAの陽性率は腎病変の有無で大きく変わる——腎病変の無い患者では25%にとどまるが、何らかの腎病変があれば75%、が証明されれば100%が陽性である2。陰性だけでEGPAを否定しない。
  • 治療(寛解導入): 2024は新規発症の関連血管炎にグルココルチコイド+リツキシマブまたはを推奨する(1B=強い推奨・中等度のエビデンス)。どちらを選ぶかの目安として、リツキシマブは小児・思春期、妊孕性を気にする閉経前女性と男性、虚弱高齢者、グルココルチコイド節減が特に重要な例、再発例、型で優先され、はリツキシマブが入手困難な場合と重症GN(4 mg/dL超、リツキシマブとの併用も考慮)で優先される4。 2022も臓器・生命を脅かすGPA/MPAにグルココルチコイド+リツキシマブまたはを推奨し、再発例ではリツキシマブを優先する5。
  • 補体C5a受容体阻害薬は、 2024ではグルココルチコイドの代替として使いうるとされ(プラクティスポイント)4、 2022ではリツキシマブまたはと併用し、グルココルチコイド曝露を大きく減らす戦略の一部として「考慮してよい」とされる5。
  • は全例には行わない。 50未満または肺胞出血を伴う重症例704例のPEXIVAS試験では、はまたはを減らさなかった(28.4%対31.0%、0.86、95%CI 0.65〜1.13)6。そのうえで 2024は、3.4 mg/dL超、透析を要するか急速に上昇する例、または低酸素血症を伴うでを考慮するとしている(プラクティスポイント)4。 2022は活動性糸球体腎炎による300 µmol/L超でを「考慮してよい」とする一方、肺胞出血へのルーチンのは推奨しない5。⚠️ 肺胞出血での扱いは2つのガイドラインで異なる。

比較表

型 I型 II型 III型
機序 免疫複合体 ()
頻度(中国単一施設の生検106例)7 16.0% 40.6% 43.4%
IFパターン 線状IgG IgG/C3 陰性
代表疾患 () 、SLE、IgA、MPGN MPA、GPA、EGPA
血清学 (、ASOなど) c-ANCA / p-ANCA
肺病変 あり(喀血) 稀 よくある(GPA、EGPA)
治療 ・免疫抑制 基礎疾患の治療+ステロイド グルココルチコイド+リツキシマブまたは、は選択例のみ

臨床経過

  • すべてに共通:急速に上昇するクレアチニン、乏尿・、血尿+、。
  • 速やかな治療なしには → 数週で。
  • 早期の認識+治療が重要。

💡 ポイント: = 数日〜数週での腎機能喪失+(フィブリン漏出 → Bowman嚢の増殖)。IFによる3型:I型 線状(抗GBM → Goodpasture、肺+腎、治療は)、II型 (免疫複合体、/SLE/IgA、MPGN)、III型 (ANCA:多くはc-/PR3 = GPA、p-/MPO = MPA・EGPA。EGPAは腎病変が無いと陰性が多い。寛解導入はグルココルチコイド+リツキシマブまたは、は選択例のみ)。 = 重度の糸球体傷害の組織学的マーカー。

まとめ

  • は数日〜数週で急速に腎機能が失われる症候群で、共通の組織学的特徴は(内の2層以上の増殖細胞)である。
  • I型は()による線状IgG沈着が特徴で、にも病変が及ぶ肺腎型は古くからと呼ばれ(現在の総称は)、が有効なことがある。
  • II型はGN・SLE腎炎・IgA腎症/HSP・MPGNなど、あらゆるGNの合併症として生じ、を示す。
  • III型はも免疫複合体も検出されない性で、関連血管炎(MPA、GPA、EGPA)が原因である。寛解導入はグルココルチコイド+リツキシマブまたは(再発例・型などはリツキシマブ、重症GNではを優先)で、は選択例に限り、肺胞出血での扱いはとで異なる。
  • 早期の認識と治療開始が予後を左右する。

出典

  1. 1.Histopathologic classification of ANCA-associated glomerulonephritis(Journal of the American Society of Nephrology・2010)抄録で、国際腎病理ワーキンググループがANCA関連糸球体腎炎の組織分類としてfocal・crescentic・mixed・scleroticの4カテゴリーを提唱し、確定100生検の検証研究でこの分類が1年・5年の腎予後の予測に役立つことを示したことを確認した(各カテゴリーの定義は抄録に無く、本ノートでは書いていない)閲覧 2026-08-27
  2. 2.2012 Revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides(Arthritis & Rheumatism (American College of Rheumatology)・2013)全文(Wiley版PDF、Wayback保存版)で、CHCC2012がANCA関連血管炎を「MPO-ANCAまたはPR3-ANCAと関連し、免疫沈着に乏しい小型血管優位の壊死性血管炎」と定義し、病名にMPO-ANCA・PR3-ANCA・ANCA陰性の接頭辞を付けるよう求めたこと、ACR・ASN・EULARの勧告を採用してWegener肉芽腫症を「多発血管炎性肉芽腫症(Wegener's)」へ置き換え、Churg-Strauss症候群の名祖をEGPAへ置き換えたこと、EGPAでは腎病変の無い患者のANCA陽性は25%にとどまり、何らかの腎病変があれば75%、壊死性糸球体腎炎が証明されれば100%がANCA陽性であること、肺と腎の両方に出る抗GBM病に対して過去にGoodpasture症候群という名祖が用いられてきたことを確認した。GPA=PR3-ANCA・MPA=MPO-ANCAという病型ごとの対応やc-ANCA/p-ANCAの語は本文書の定義には現れない閲覧 2026-08-27
  3. 3.The classification of glomerulonephritis in systemic lupus erythematosus revisited(Kidney International・2004)同時掲載されたJASN版(15巻241-250頁)の全文のTable 3で、ISN/RPS 2003分類のクラスIII・IVがそれぞれ「典型的には巣状/びまん性の内皮下免疫沈着を伴う」と定義されていることを確認した閲覧 2026-09-24
  4. 4.KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Management of Antineutrophil Cytoplasmic Antibody (ANCA)–Associated Vasculitis(KDIGO(Kidney International Supplements)・2024)kdigo.org の全文PDF(2024年訂正反映版)で、推奨9.3.1.1が新規発症のANCA関連血管炎の初期治療にグルココルチコイド+リツキシマブまたはシクロホスファミドを推奨していること(1B)、Figure 7がリツキシマブを優先する状況として小児・思春期、妊孕性を気にする閉経前女性と男性、虚弱高齢者、グルココルチコイド節減が特に重要な例、再発例、PR3-ANCA型を、シクロホスファミドを優先する状況としてリツキシマブが入手困難な場合と重症GN(血清クレアチニン4 mg/dL超、リツキシマブとの併用も考慮)を挙げること、プラクティスポイント9.3.1.7がアバコパンをグルココルチコイドの代替として使いうるとし、9.3.1.9が血清クレアチニン3.4 mg/dL超、透析を要するか急速に上昇する例、または低酸素血症を伴うびまん性肺胞出血で血漿交換を考慮するとしていること(2024年の訂正で並列が「or」に改められた)を確認した閲覧 2026-09-24
  5. 5.EULAR recommendations for the management of ANCA-associated vasculitis: 2022 update(European Alliance of Associations for Rheumatology・2024)UEAのリポジトリにある著者最終稿(R1、2023年2月13日付)で、推奨3が臓器・生命を脅かす新規発症または再発のGPA/MPAの寛解導入にグルココルチコイド+リツキシマブまたはシクロホスファミドを推奨し、再発例ではリツキシマブを優先するとしていること、推奨6がアバコパンをリツキシマブまたはシクロホスファミドと併用しグルココルチコイド曝露を大きく減らす戦略の一部として考慮してよいとしていること、推奨7が活動性糸球体腎炎による血清クレアチニン300 µmol/L超のGPA/MPAで血漿交換を考慮してよいとする一方、肺胞出血へのルーチンの血漿交換は推奨しないとし、2016年版より推奨の強さを下げたと述べていることを確認した閲覧 2026-09-24
  6. 6.Plasma Exchange and Glucocorticoids in Severe ANCA-Associated Vasculitis(New England Journal of Medicine・2020)eGFR 50未満またはびまん性肺胞出血を伴う重症ANCA関連血管炎704例のPEXIVAS試験で、血漿交換(14日以内に7回)は全死亡または末期腎不全の複合エンドポイントを減らさなかった(28.4%対31.0%、ハザード比0.86、95%CI 0.65〜1.13、P=0.27)ことを確認した閲覧 2026-08-27
  7. 7.The immunopathological spectrum of crescentic glomerulonephritis: a survey of 106 patients in a single Chinese center(Nephron Clinical Practice・2010)生検で確認された半月体形成性糸球体腎炎106例を蛍光抗体所見でI型(線状沈着)16.0%、II型(顆粒状の免疫複合体沈着)40.6%、III型(沈着に乏しい)43.4%に分類したこと、ANCA陽性率はI型5.9%・II型25.6%・III型63.0%、抗GBM抗体陽性率はI型82.4%・II型4.7%・III型6.5%であったことを確認した閲覧 2026-08-27