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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

溶連菌感染後糸球体腎炎

Post-streptococcal glomerulonephritis

別名
PSGN
臓器系
腎・泌尿器感染症
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 N-01:糸球体疾患
鑑別疾患
IgA腎症膜性増殖性糸球体腎炎
合併症
急性腎障害
関連疾患
ネフリティック症候群
治療薬
フロセミドアムロジピンペニシリンV
原因微生物
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)
症状
血尿肉眼的血尿浮腫乏尿
検査値
活動性尿沈渣補体C4腎生検
元疾患
猩紅熱

🧠 全体像:PSGNは株の感染から潜伏期を置いて発症するで、咽頭炎後1〜2週・皮膚感染後2〜6週というタイムラグが、感染とほぼ同時にが出るIgA腎症との最大の鑑別点になる。小児は大多数がする予後良好なだが、成人は慢性化・残存のリスクが有意に高い。診断は臨床像+血清学(ASO・)+で足りることが多く、生検は非典型例・急速進行例・補体遷延低値例に限る。治療は塩分・、利尿薬、による支持療法が中心で、既に成立した糸球体腎炎そのものを抗菌薬で治すことはできない。

病態

株のM蛋白・NAPlr(nephritis-associated plasmin receptor)・SPEB(B)などの抗原が、から離れた腎臓のへ「」として沈着し、そこで抗体と結合して免疫複合体を形成する(あるいはが沈着する)という機序が想定されている。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='group A streptococcus'>A群溶血性連鎖球菌</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nephritogenic'>腎炎惹起性</span>株による感染(咽頭炎・皮膚感染)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='streptococcal'>連鎖球菌</span>抗原(NAPlr・SPEBなど)が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular capillary wall'>糸球体係蹄壁</span>に沈着"]
    B --> C["抗体が結合し免疫複合体を形成(上皮下優位)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alternative complement pathway'>補体第二経路</span>の活性化とC3消費 → 血清C3低下"]
    D --> E["好中球・単球の浸潤と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesangial cells'>メサンギウム細胞</span>増殖"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Endocapillary'>毛細血管内</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative glomerulonephritis'>増殖性糸球体腎炎</span> → 血尿・乏尿・浮腫・高血圧"]

💡 感染から発症までに潜伏期があるのは、この機序が「感染そのもの」ではなく「抗体が作られ免疫複合体が形成されるまでの時間」に依存するためである。IgA腎症のsynpharyngitic hematuria(感染とほぼ同時の血尿、詳細はIgA腎症参照)が既存の応答の再活性化であるのと対照的に、PSGNは新規のの成立を待つ必要がある。

腎生検の(EM)では、上皮下にハンプ(humps、状沈着物)と呼ばれる特徴的な物を認め、(IF)では発症初期(最初の2〜3週)に「」と形容されるのC3・IgG沈着がと領域に散在する1。経過が進むとの沈着が吸収され、C3優位のパターンへ移行する。

臨床像

  • 典型像は咽頭炎後1〜2週、皮膚感染(など)後2〜6週の潜伏期を経て出現する急性で、⚠️ この幅は臨床研究ではなくの合意に基づく値であり、資料により咽頭炎後7〜10日〜2週、皮膚感染後2〜6週と幅がある2。コーラ色〜紅茶色尿()、浮腫(特に眼瞼周囲)、高血圧、乏尿を呈する。
  • 尿沈渣では・・蛋白尿を認め、蛋白尿がに達し腎炎性・ネフローゼ性の混合像を取ることもある(は参照)。
  • 高血圧・による、高K血症、を来し得るため、初期はと血圧の評価を優先する。
  • 小児では症状に乏しい〜軽症例も多く(約50%は無症候で尿検査から発見される)、成人では初発からやAKIとしてより重症に現れる傾向がある。症候性の例では、が30〜50%、眼瞼周囲を中心とする浮腫が65〜90%、高血圧が最大80%にみられる3。

⭐ 「潜伏期の長さ」と「感染部位(咽頭 vs 皮膚)による長さの違い」は、IgA腎症との鑑別問題で最も繰り返し問われる。

診断

診断は多くの場合、典型的な臨床像+直近の感染の血清学的証拠+一過性ので完結し、生検は必須ではない。

  • 血清学:咽頭炎後はASO()、皮膚感染後は抗体(皮膚感染ではASOが上昇しにくい)が感染の証拠になる13。両者を併用すると感度が95%を超える。前治療で既に抗菌薬を投与された例ではASO上昇が鈍る点に注意する。なお、DNase B・・・の4抗原を含むstreptozyme試験は80%を超える症例で陽性になると報告されている1。
  • 補体:血清C3は多くの例で低下し、6〜8週で正常化するのが典型的パターンである3(C4は正常〜軽度低下にとどまることが多く、主にの活性化を反映する)。
  • 腎生検の適応:典型的な臨床経過をたどる小児では不要で、成人例や非典型所見があるときに行う1。以下では非典型として生検を検討する。
    • 急速に腎機能が悪化する(型を疑う)
    • 乏尿が遷延する、あるいは初期からが高度
    • C3が8〜12週を超えて正常化しない(・、、関連腎炎などを再検討する契機になる)
    • 感染の先行が確認できない、あるいは年齢・臨床像が

⚠️ C3の遷延低値を「まだ回復途中」とだけ捉えて経過観察を続けるのは危険で、8〜12週を超えたら他の性糸球体腎炎(特に)の除外を進める。⚠️ どの時点から「遷延」とみなすかは資料によって幅がある——Rodriguez-Iturbe・Haasの総説は、生検を考える非典型所見として「発症早期の補体正常」と並べて「の発症から1か月を超えて遷延する」を挙げており、より早い段階での再検討を促している1。との鑑別が最も重要な理由は、PSGNの予後が極めて良好であるのに対しは約半数がへ進行することにある1。

項目 PSGN IgA腎症
血尿と感染の時間関係 咽頭炎後1〜2週、皮膚感染後2〜6週の潜伏期 とほぼ同時〜数日以内
補体(C3) 低下し、多くは6〜8週で正常化 通常正常
ASO(咽頭炎)・抗体(皮膚感染) 血清IgA高値(非特異的)
生検の位置づけ 典型例では不要、非典型・遷延例で検討 原則として確定診断に必須
典型的経過 小児は大多数が、成人は慢性化リスクあり 反復する、が多い

治療

成立した糸球体腎炎そのものに対する特異的治療はなく、支持療法が中心となる。

flowchart TD
    A["急性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nephritic syndrome'>腎炎性症候群</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='streptococcal'>連鎖球菌</span>感染の血清学的証拠+低C3"] --> B["塩分・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluid restriction'>水分制限</span>を開始"]
    B --> C{"浮腫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluid overload (volume overload)'>体液過剰</span>、高血圧がある"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loop diuretics'>ループ利尿薬</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluid removal'>除水</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='furosemide'>フロセミド</span>など)"]
    C -->|"いいえ"| E["経過観察"]
    D --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antihypertensive (blood-pressure lowering)'>降圧</span>目標に達しない"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcium channel blockers'>カルシウム拮抗薬</span>などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antihypertensives'>降圧薬</span>を追加"]
    F -->|"いいえ"| H["支持療法を継続"]
    A --> I["活動性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='streptococcal'>連鎖球菌</span>感染が残っていれば抗菌薬(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='penicillins'>ペニシリン系</span>)で治療"]
    A --> J{"急速な腎機能悪化・高度<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crescent formation'>半月体形成</span>"}
    J -->|"はい"| K["専門施設で腎生検し免疫抑制療法を個別検討"]
  • 塩分制限・を基本とし、浮腫やにはなどのを用いる。は浮腫の消退を早め高血圧も改善することが40年以上前から知られている1。⚠️ は無効で、は高K血症のリスクを伴う。
  • 高血圧には利尿薬に加えなどのCa拮抗薬を用いる3。・肺水腫・高K血症を伴う重症例は入院管理とする。⚠️ の時期の阻害薬・は、のさらなる低下と高K血症を招くため避ける31。
  • 活動性の感染が残っていればなどの抗菌薬で治療し、家庭内などへの伝播を防ぐ1。ただし抗菌薬は既に成立した糸球体腎炎の経過を短縮・逆転させるものではない点に注意する。腎障害が現れる頃には感染そのものは通常消退しているため、腎炎の治療としての抗菌薬の適応はない3。
  • ⚠️ 予防の位置づけは誤解されやすい。 抗菌薬治療によってPSGNの発症リスクが有意に下がるという根拠は無く、抗菌薬の意義は感染の伝播防止にあるとされる3。一方、流行時や高リスク集団では、発端例の同居家族へ予防的に抗菌薬を投与するとPSGNの発生数が減ることが示されている1——「その人の腎炎を防ぐ」のではなく「集団での発生を減らす」介入として理解する。
  • 生検で高度(型への移行)が確認された例など、ごく一部の重症例でのみ副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制療法を専門施設で個別に検討する。ルーチンでは推奨されない。⚠️ を伴うの経過にパルスがしたという報告は的な症例報告にとどまり、ステロイド・免疫抑制・抗凝固の真の有益性はいずれも証明されていない1。

⚠️ 「潜伏期を過ぎてから抗菌薬を投与すれば腎炎が治る」という誤解は禁忌に近い誤り。抗菌薬の役割はの根治と伝播防止であり、免疫複合体性のそのものへの治療効果は期待できない。

まとめ

  • PSGNはの感染後、咽頭炎で1〜2週・皮膚感染で2〜6週の潜伏期を経て発症する免疫複合体性の急性である。
  • 上皮下ハンプとの所見が病理学的特徴で、機序は抗原の糸球体沈着→免疫複合体形成→活性化→炎症である。
  • 潜伏期の存在と6〜8週で正常化する一過性低C3血症が、感染とほぼ同時に発症し補体が正常なIgA腎症との鑑別軸になる。
  • 典型例に腎生検は不要だが、急速な腎機能悪化やC3が8〜12週を超えて遷延低値の場合は非典型として生検を検討する。
  • 治療は塩分・、利尿薬、による支持療法が中心で、抗菌薬はの治療・伝播防止のためであり糸球体腎炎自体を治すものではない。
  • 小児は大多数が完全回復する予後良好な疾患で、への長期進展は例外的である。一方、成人のは小児より不良で、高血圧の残存とが30〜50%にみられ3、全身状態の悪い成人ではによる死亡率が30%に達しうる1。

出典

  1. 1.Post-Streptococcus pyogenes Glomerulonephritis(Streptococcus pyogenes: Basic Biology to Clinical Manifestations, 2nd edition (University of Oklahoma Health Sciences Center)・2022)NCBI Bookshelfのライブページ(第27章、2022年9月9日公開・2022年10月4日更新)を確認した。免疫蛍光では発症初期(最初の2〜3週)に毛細血管壁とメサンギウム領域へC3と通常はIgGの細顆粒状沈着がみられ、これが「星空様(starry sky)」パターンと呼ばれる。電顕の特徴的病変は上皮下の高電子密度沈着物(ハンプ)である。診断について、典型的な臨床像の小児では腎生検はほとんど行われず、成人例や非典型所見があるときに行うとし、非典型所見の例として発症早期の血清補体正常、および急性腎炎症候群の発症から1か月を超えて遷延する低補体を挙げる。抗体価はASOが上気道感染後、抗DNase B抗体が膿痂疹後に上昇しやすく、4抗原(DNase B・ストレプトリジンO・ヒアルロニダーゼ・ストレプトキナーゼ)を含むstreptozyme試験は80%超で陽性と報告されている。治療は、診断時に感染が残っていれば治療すること、急性腎炎症候群にはNa・水分制限を行うこと、ループ利尿薬が浮腫の消退を早め高血圧を改善すること(サイアザイドは無効、アルドステロン拮抗薬は高K血症のリスク、重症高血圧にはニフェジピンが有用、ACE阻害薬・ARBは高K血症のリスク)を述べる。半月体形成を伴う急速進行性の経過に対するメチルプレドニゾロンパルスの有効性は症例報告レベルにとどまり、ステロイド・免疫抑制・抗凝固の真の有益性は証明されていないとする。予防については、流行時および高リスク集団で発端例の同居家族へ予防的抗菌薬を投与するとPSGNの発生数が減ることが示されている。予後は、小児の短期予後は極めて良好である一方、成人(特に全身状態の悪い成人)では心血管合併症により死亡率が30%に達しうるとし、末期腎不全への長期進展は小児では例外的だが、先住民コミュニティの研究ではPSGNの既往が慢性腎不全のリスク因子になると報告されている。⚠️ 本章の潜伏期の記載は「上気道感染から7〜10日、皮膚感染後は2〜4週」であり、本ノート本文の「咽頭炎後1〜2週・皮膚感染後2〜6週」とは異なる(本文の値の典拠は特定できていない)。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Acute poststreptococcal glomerulonephritis: the most common acute glomerulonephritis(Pediatrics in Review・2015)抄録で「On the basis of primarily consensus because of a lack of relevant clinical studies, the latency period between streptococcal infection and the development of nephritis is a hallmark of PSGN, with this period lasting 1 to 2 weeks with pharyngeal infections or 2 to 6 weeks with skin infections.」と述べ、潜伏期の値が臨床研究ではなく専門家の合意に基づくものであることを明記していることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-05