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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

猩紅熱

Scarlet fever

別名
Scarlatinaしょうこう熱
臓器系
感染症
科目
PediatricsMedical Microbiology
トピック
小児科 23:麻疹、風疹、猩紅熱微生物学 2/4:化膿レンサ球菌(A群)小児科 3-48:小児の発熱と発疹
鑑別疾患
パルボウイルスB19感染症水痘・帯状疱疹川崎病毒素性ショック症候群風疹(先天性風疹症候群含む)麻疹
合併症
急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍リウマチ熱・リウマチ性心疾患溶連菌感染後糸球体腎炎
治療薬
ペニシリンVアモキシシリンベンザチンペニシリンセファレキシンクリンダマイシンアジスロマイシン
原因微生物
Streptococcus pyogenes / GAS
症状
悪心圧痛咽頭痛紅斑蒼白点状出血頭痛発熱皮疹腹痛頸部リンパ節腫脹落屑

🧠 全体像は「の咽頭炎+による発疹」という足し算で捉える。菌自体は咽頭にとどまり、として働くだけが全身を回るため、咽頭炎の所見(発熱・・圧痛性)と発疹の所見(の点状紅斑・)が必ずセットで現れる。診断の要は「発疹だけで決めず、抗菌薬を始める前に咽頭からGASを証明する」こと、治療の要は「10日間でを予防する」ことにある。ただし同じでも、は抗菌薬では防げない。

病態

Streptococcus pyogenes、GAS)による咽頭炎・扁桃炎に伴って現れる発疹症で、5〜15歳の学童に好発する。発疹の原因は菌が皮膚に播種することではなく、菌が産生する(streptococcal pyrogenic exotoxin, Spe)である。

  • のうちSpeA・SpeCはとして働き、のMHC class II分子とを介さずに架橋して、多数のT細胞クローンを一度に活性化する。放出されたサイトカインが発熱と皮膚微小血管の拡張・傷害を起こす。
  • 発疹の成立には毒素に対する(=既に感作されていること)が必要で、母体に守られる乳児ではは稀である。
  • 免疫は毒素の型ごとに成立するため、一度罹患しても別ので再発しうる
  • 同じ機構は性のでも働くが、では菌が咽頭に限局し、・低血圧・を伴わない点が決定的に異なる。
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='group A beta-hemolytic streptococcus'>A群β溶血性連鎖球菌</span>が咽頭・扁桃に感染"] --> B["咽頭炎・扁桃炎<br>(発熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sore throat'>咽頭痛</span>・圧痛性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical lymphadenopathy'>頸部リンパ節腫脹</span>)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythrogenic toxin'>発赤毒素</span>(SpeA・SpeC)を産生"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superantigen'>スーパー抗原</span>としてMHC class IIと<span class='jp-term jp-term-diagram' title='T-cell receptor (TCR)'>T細胞受容体</span>Vβを架橋"]
  D --> E["多数のT細胞が非特異的に活性化しサイトカインを放出"]
  E --> F["毒素への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed-type hypersensitivity (DTH)'>遅延型過敏反応</span><br>(既感作が必要)"]
  F --> G["皮膚微小血管の拡張・傷害"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sandpaper-like'>鮫肌様</span>の点状紅斑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Pastia lines'>Pastia線</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='circumoral pallor'>口囲蒼白</span>"]
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recovery phase'>回復期</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='desquamation'>落屑</span>"]
  B --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='post-streptococcal diseases'>感染後合併症</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute rheumatic fever, RF'>急性リウマチ熱</span>・糸球体腎炎)"]

臨床像

潜伏期は2〜5日。突然の発熱・に頭痛・・腹痛を伴って発症し、その12〜48時間後に発疹が出現する。

  • 咽頭・扁桃:咽頭発赤、扁桃の腫大との点状出血、圧痛を伴う前
  • :初期は舌がに覆われ、その間から赤く腫れた突起が突き出す(白色)。数日でが剝がれ、色で表面のざらついた紅色になる
  • :両頬がする一方で口の周囲だけが白く抜ける。ともいう
  • 発疹:頸部・上胸部から始まり体幹・四肢へ広がる、圧迫でする細かい点状紅斑。触れるとにざらつく。手掌・足底には出ない
  • ・腋窩・鼠径などの皺に沿って発疹が線状にする。発疹の後も一時的に残る
  • :発疹は3〜4日で退き、その後1〜3週にわたり顔面から始まって手指・へと薄片状〜膜様にする。爪に横走する溝()を残すことがある

💡 発疹は「毒素が全身を回った証拠」なので、咽頭炎の所見と必ず同時に存在する。逆に咽頭所見を欠く発疹単独ではを考えにくく、・ウイルス性発疹症を先に疑う。

発熱と発疹の鑑別

疾患 発疹の性状 粘膜所見 リンパ節 経過の手がかり
の細かい点状紅斑。頸部・上胸部から拡大し。手掌・足底は侵されない 、扁桃滲出、の点状出血、 前頸部に圧痛を伴う腫脹 発熱・の12〜48時間後に発疹、
麻疹 耳介・顔面から下降するの斑状丘疹 軽度 の咳・炎が先行。発疹出現とともに傾向
風疹 顔面から急速に全身化する淡いの斑状丘疹 の腫脹(発疹に先行) で、発疹は3日程度で消退。成人女性で関節痛
で不定。手掌・足底の紅斑とに指先から 口唇の、両側非の眼球 非化膿性の頸部腫脹(多くは片側・1.5cm以上) 5日以上続く抗菌薬不応の発熱。冠動脈瘤のリスク
びまん性の日焼け様紅斑(点状ではない)。1〜2週後に手掌・足底が ・口腔・腟粘膜のびまん性充血 特徴的でない 高熱+低血圧+が急速に進行

診断

臨床像だけでは他の発疹症やウイルス性咽頭炎と確実には区別できないため、抗菌薬を開始する前にでGASを証明するのが原則である。

  • :特異度は約95%と高いが感度は70〜90%にとどまる。陽性なら確定でよく、追加検査は不要。
  • が陰性でも臨床的に疑いが残る小児・青年では培養で確認する(成人は偽陰性によるが低く通常は不要)。感度の高いを用いた場合は培養での確認を省略できる。
  • 検査対象の絞り込み:2025年改訂のIDSAガイドラインは、の患者にCentor・McIsaacなどの臨床スコアを用いて検査対象を選ぶことを初めて推奨した1(条件付き推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)。FeverPAINは英国のガイドラインで使われるが、臨床判断単独との比較研究がないとしてIDSAは評価対象から外している。は発熱・咳の欠如・扁桃の滲出/腫大・前頸部リンパ節の圧痛の4項目に年齢補正(3〜14歳+1点、15〜44歳0点、45歳以上−1点)を加えたもので、低スコア例の不要な検査と抗菌薬を減らすことが目的である。⚠️ スコアが高いことは、検査を省いて経験的に抗菌薬を投与してよい根拠にはならない。また3歳未満は臨床像が非典型でも稀なため、原則としてスコア・検査の対象外とする。
  • ASO・抗体は急性期の診断に用いない。 の上昇には数週を要するため、これらはの証明(・糸球体腎炎の診断)に使う検査である。
flowchart TD
  A["発熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sore throat'>咽頭痛</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sandpaper-like'>鮫肌様</span>の点状紅斑"] --> B{"3歳未満か"}
  B -->|"はい"| C["臨床像が非典型・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rheumatic fever'>リウマチ熱</span>も稀<br>原則スコア・検査の対象外"]
  B -->|"いいえ"| D["臨床スコアで検査対象を絞る<br>(Centor・McIsaac)"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pharyngeal swab'>咽頭ぬぐい液</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rapid antigen detection test, RADT'>迅速抗原検査</span>"]
  E -->|"陽性"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='penicillins'>ペニシリン系</span>10日間<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute rheumatic fever, RF'>急性リウマチ熱</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary prevention'>一次予防</span>)"]
  E -->|"陰性・小児/青年"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='throat culture'>咽頭培養</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid amplification test, NAAT'>核酸増幅検査</span>で確認"]
  G -->|"陽性"| F
  G -->|"陰性"| H["ウイルス性などを考え抗菌薬を投与しない"]
  F --> I["開始12〜24時間で感染性は消失"]

治療

第一選択はの10日間投与である。GASにペニシリン耐性は報告されていない。症状は48時間ほどで軽快するが、投与期間を短縮すると咽頭からの除菌が不完全になりの予防効果が失われるため、症状が消えてもさせる。

薬剤 レジメン 位置づけ
経口・10日間 第一選択。最もで不要な耐性をかけない
アモキシシリン 経口(1日1回可)・10日間 小児で味・回数の面から使いやすい第一選択。⚠️ に投与すると高率に発疹が出る
単回筋注 内服が見込めない場合やの既往がある場合に確実性が高い
経口・10日間 非即時型(非アナフィラキシー型)のペニシリンアレルギー時の代替
クリンダマイシン 経口・10日間 即時型アレルギー時。株にも使える
アジスロマイシン 経口・5日間 即時型アレルギー時。地域の率を確認して選ぶ

⭐ 抗菌薬は発症から9日以内に開始すればを予防できる。検査結果を待ってから治療を始めてもは損なわれず、これが「経験的投与より検査確定を優先する」という原則を支えている。

  • などで対症的に行う。
  • 適切な抗菌薬開始から少なくとも12〜24時間が経過し、して全身状態が良好であれば登校・登園を再開してよい。

合併症

区分 病態 要点
化膿性(局所) 、頸部化膿性リンパ節炎 菌が咽頭から周囲組織へ直接進展する。が手がかり
化膿性(隣接臓器) 中耳炎、副鼻腔炎、 上気道のに沿った波及
化膿性(全身) 菌血症、肺炎、まれに 侵襲性GAS感染として緊急対応を要する
非化膿性 咽頭炎の1〜6週後。M蛋白と心筋・弁組織のによる自己免疫。⭐ 抗菌薬で予防できる
非化膿性 咽頭炎の1〜3週後。免疫複合体の糸球体沈着(III型)。⚠️ 抗菌薬では予防できない

⚠️ 抗菌薬治療はを予防するが、は予防しない。 予防できるかどうかが分かれるのは、が咽頭に残存する菌への持続的な免疫応答から生じるのに対し、糸球体腎炎は株による初期の免疫複合体形成で運命が決まってしまうためである。したがって糸球体腎炎の既往があっても抗菌薬による長期予防は行わない。

まとめ

  • はGAS咽頭炎に(SpeA・SpeC)による発疹が加わった病態で、毒素はとしてT細胞を非特異的に活性化し、既感作者でとして発疹を生じる。5〜15歳に好発し、が複数あるため再発しうる。
  • 臨床像は突然の発熱・に続くの点状紅斑、)、白色→紅色と変化する、圧痛性の前である(手掌・足底は侵されない)。
  • 診断は(陽性で確定、小児の陰性例は培養またはで確認)で行い、2025年IDSA改訂は臨床スコアによる検査対象の絞り込みを推奨する。抗菌薬は検査確定後に開始し、ASO・は急性期診断には用いない。
  • 治療はまたはアモキシシリンの10日間が第一選択で、目的は(発症9日以内の開始で有効)。ペニシリンアレルギーでは、クリンダマイシン、アジスロマイシンを用いる。
  • 合併症は化膿性(・中耳炎・侵襲性GAS感染)と非化膿性()に分かれ、抗菌薬はを予防するが糸球体腎炎は予防しない。

出典

  1. 1.IDSA Clinical Practice Guideline Update on Group A Streptococcal (GAS) Pharyngitis: Risk Assessment Using Clinical Scoring Systems in Children and Adults(Infectious Diseases Society of America・2025)咽頭痛患者にCentor・McIsaacなどの臨床スコアを用いてGAS検査対象を絞ることを条件付きで初めて推奨したこと、3歳未満は非典型的な臨床像のため対象外としたことを確認した。閲覧 2026-08-03