微生物学

微生物学 · 2/4

化膿レンサ球菌(A群)

Streptococcus pyogenes

応用トピック
僧帽弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症の診断伝染性膿痂疹・毛包炎・せつ・よう丹毒の臨床像・合併症・治療上気道感染症・咽頭炎・中耳炎・副鼻腔炎・急性気管支炎丹毒・蜂窩織炎扁桃炎、アンギーナ、伝染性単核球症急性扁桃炎の合併症と扁桃周囲膿瘍小児の咽頭痛麻疹、風疹、猩紅熱鼻炎、アデノイド炎、扁桃炎、気管支炎小児の発熱と発疹上気道感染症とインフルエンザ口腔・咽頭疾患ブドウ球菌感染症と毒素性ショック症候群創感染の症状と治療軟部組織感染症と陰圧閉鎖療法
微生物
Streptococcus agalactiae / GBSStreptococcus mutansStreptococcus pneumoniaeStreptococcus pyogenes / GAS
疾患
猩紅熱
検査値
抗ストレプトリジンO

🧠 (Lancefield A群)の病気は「菌が直接起こす病気」と「菌が引き金を引いて免疫が自分を攻撃する病気」の2層構造で読む。 直接的な病気は化膿性感染(咽頭炎・・・蜂窩織炎)と(・・)——ここでは菌自体や毒素が組織を傷める。一方、感染から約2週間後に起こるでは、菌はすでに排除されているのに免疫反応が暴走する:M蛋白が心筋のミオシンとを起こして自己免疫が心臓を攻撃するのが、抗原抗体複合体が糸球体に沈着する()のが。この違いは治療にも直結し、早期のペニシリンは前者の直接感染を必ず治すが、後者の合併症(特に糸球体腎炎)は防げない。

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 、長い配列
生息地 ヒトの皮膚・咽頭。直接接触または呼吸器で伝播
Lancefield分類
感受性——B群(S. agalactiae)との鑑別に用いる

病原性因子

  • 莢膜:から成り、免疫系からの認識を回避する
  • (streptolysin O):赤血球を溶解する(β溶血の原因)がは乏しい
  • (streptolysin S):熱に不安定な
  • M蛋白:A群細胞壁の高因子。として働くと同時に(opsonization阻害)を持ち、後述するの主因ともなる

⚠️ 「はが乏しい」という記述は、同じノートの診断の項と矛盾する。 下の「診断」では抗(ASO)を測っての診断に用いると書かれている——が測れるのは、がヒトで強いを誘導する(=が高い)からである。標準的な教科書の記述では、酸素に不安定で強いを持つのが、酸素に安定でをほとんど誘導しないのがという対比になっており、上の2行は両者の性質が入れ替わっている可能性が高い。授業ノートの記載はそのまま残すが、が成立する理由と突き合わせて確認すること。

💡 M蛋白は「型別の物差し」でもある——emm型別。 M蛋白をコードする emm 遺伝子の5′側をする emm 型別が、血清学的なM型別に代わる標準法になっており、250を超えるアレル型が知られる1。侵襲性感染の疫学(どの型が流行しているか)、やiGAS(侵襲性感染症)の増加の追跡、そして多価ワクチンの設計は、いずれもこの emm 型の分布の上に組み立てられている2。M蛋白のが型を決めると同時に、とへの結合を担っている点が、ワクチン開発の難しさの根でもある。

臨床像①:化膿性感染症

疾患 特徴
黄色で「痂皮様」の表在性皮膚病変。S. aureusも原因となりうる
咽頭炎・扁桃炎・副鼻腔炎(“strep throat”) 発赤・炎症を伴う咽頭
の感染——境界明瞭な発赤
蜂窩織炎 皮下組織の炎症——発赤・腫脹

臨床像②:外毒素性症候群

——Spe A(TSST-1類似の)、Spe B(プロテアーゼ)、Spe C(Spe Aと同様)——は総称してと呼ばれる。

症候群 原因毒素 臨床像
Spe A/C 「」、咽頭炎、顔面を除く全身の紅斑
Spe A、C() ショック、
Spe B 「人食いバクテリア」——が急速に進行し切断を要することもある

⚠️ とSTSSでは「クリンダマイシンをβラクタムに足す」。 理由は2つある。①(接種菌量効果)——菌が密に増えて定常期に入るとペニシリンの標的であるの発現が落ちるため、菌量が多いほどβラクタムが効かなくなる。②毒素産生の抑制——クリンダマイシンはリボソームを止めるので、菌のに依存せず外毒素(Spe A/B/Cなど)とM蛋白の合成そのものを抑える。実際、S. pyogenes筋炎のマウスモデルではペニシリンは接種と同時に投与しない限り無効で、わずか2時間の遅延でが無治療対照と変わらなくなったのに対し、クリンダマイシンは投与を16.5時間遅らせても70%を保った3。ただしクリンダマイシンは単剤で使わない(マクロライド・クリンダマイシン耐性が世界的に増えており2、感受性が確認できるまでβラクタムを外さない)。

臨床像③:溶連菌感染後合併症

感染からおよそ2週間後に発症する、免疫が自己を攻撃する病態。

急性リウマチ熱(RF)

M蛋白が心筋のミオシンとを起こし、菌に対する抗体が自己の心臓(特に)を攻撃する——に至りうる。先行する咽頭炎の既往が典型的。

JONES基準:

頭文字 症状
J Joints:
O (心臓)弁膜障害・全
N Nodules:伸側(肘・膝)の皮下結節
E Erythema marginatum:境界明瞭な辺縁紅斑
S Sydenham chorea:手・顔面の不随意運動

💡 は2015年に改訂されている。 ドップラー心エコーで見つかる不(subclinical carditis、で雑音がなくても弁逆流所見がある)をとしてに認めることと、低リスク集団と中〜高リスク集団で・の閾値を分けることが導入された4。が地域で大きく違うため、同じ所見でも診断の敷居を変えるという考え方である。

溶連菌感染後糸球体腎炎(PSGN)

循環中の抗原抗体免疫複合体が糸球体に沈着する。顔面の浮腫(“puffiness”)と「コーラ色の尿」を特徴とする。

⚠️ ペニシリンはPSGNを防がない。 早期のペニシリン投与はの発症を防ぐが、PSGNの発症は防止できない——両者は同じ「」でも予防できるかどうかが異なる点に注意する。

💡 では「起きてしまってからの治療」がほとんど無力だからこそ、予防が要になる。 を起こしたあとにの発症確率や重症度を変えることが証明された治療は存在せず、数十年にわたりペニシリンが治療の柱であり続けている5。ペニシリンが効くのは①先行する咽頭炎を治療して初発を防ぐ()、②持続性ペニシリン投与で再発を防ぐ()という2つの場面であって、いったん心臓弁が壊れたあとを戻すものではない。PSGNにはも効かない。

flowchart TD
  A["S. pyogenes(A群)"] --> B["直接感染<br>(化膿性・毒素性)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='post-streptococcal diseases'>感染後合併症</span><br>(免疫が自己を攻撃、約2週間後)"]
  B --> D["咽頭炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impetigo'>膿痂疹</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erysipelas'>丹毒</span>・蜂窩織炎"]
  B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scarlet fever'>猩紅熱</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic shock syndrome (TSS)'>毒素性ショック症候群</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='necrotizing fasciitis'>壊死性筋膜炎</span><br>(Spe A/B/C毒素)"]
  C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute rheumatic fever, RF'>急性リウマチ熱</span><br>(M蛋白の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='molecular mimicry'>分子模倣</span>→心臓を攻撃)"]
  C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='poststreptococcal glomerulonephritis, PSGN'>溶連菌感染後糸球体腎炎</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune complex deposition'>免疫複合体沈着</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type III hypersensitivity'>III型アレルギー</span>)"]

診断

  • が複雑——血液寒天培地で微小な集落と広いβ溶血帯を示す
  • :に対するを測定し、の診断的意義が大きい
  • (RADT):咽頭から10分程度で抗原を検出する

⚠️ は「陽性なら信じてよいが、陰性では否定しきれない」検査である。 小児咽頭炎を対象にした98研究(116評価・101,121人)のでは、RADTの85.6%(95%CI 83.3〜87.6)・95.4%(95%CI 94.5〜96.2)だった。30%の小児1,000人にあてはめると、陽性者のうち43人が見逃される計算になる6。特異度が高いので陽性ならそのまま治療してよい(不要な抗菌薬は増やさない)が、陰性のときにで確認するかどうかは、その地域のとのリスクで決まる——の負担が大きい集団では培養確認が推奨され、負担が小さい欧米の一部では成人で省略されることもある。国・地域で運用が違う点を「どちらが正しいか」ではなく「差がある」と押さえる。

治療

  • ペニシリン耐性は臨床的に確立していない(それでもは必ず実施する)——・への感受性は保たれている2。ただし「常に感受性」とは言い切れず、ペニシリン結合タンパク質の遺伝子pbp2xの変異(T553K)でアンピシリン・アモキシシリンのが8倍、のが3倍に上がったが報告されており、βラクタム耐性化の第一段階とみられている7。一方、それ以外の薬(マクロライド系・クリンダマイシン)への耐性は世界的に上昇しているので、ペニシリンアレルギー時の代替薬こそ感受性の確認が要る2
  • ただしペニシリン治療はPSGNの発症を防がない
  • ・ではクリンダマイシンを併用する(の回避と毒素産生の抑制。上記参照)3

まとめ

  • S. pyogenesは、感受性でB群と鑑別する。
  • 化膿性感染(咽頭炎・・・蜂窩織炎)と(・・)は菌・毒素のによる。
  • 感染後およそ2週間で起こる(M蛋白のによる自己免疫、JONES基準)とPSGN(、)は、免疫が自己を攻撃する病態として区別する。
  • 診断はβ溶血と(特にで有意義)。は感度85.6%・特異度95.4%で、陽性なら治療してよいが陰性は否定しきれない6。
  • M蛋白は emm 型別(emm 遺伝子5′側の配列決定、250超のアレル型)の対象で、疫学監視とワクチン設計の基盤になっている2。
  • ペニシリン耐性は確立しておらず(pbp2x変異による感受性低下株の報告はある)、早期治療はを予防できるが、PSGNは予防できない。

出典

  1. 1.Playing With Fire: Proinflammatory Virulence Mechanisms of Group A Streptococcus(Frontiers in Cellular and Infection Microbiology・2021)A群レンサ球菌のM蛋白には250を超えるアレル型(emm型)が存在し、それぞれフィブリノゲン・プラスミノゲン・C4b結合蛋白・Protein H・IgA・IgG・LL-37・好中球細胞外トラップ中のヒストンなど宿主因子への結合能が異なる。これらの結合は主にM蛋白のN末端可変領域で起こり、菌体表面を非免疫原性の宿主由来蛋白で覆うことでも病原性に寄与する。C末端側はより保存されており、これらの機能を菌体表面から遠くへ突き出す支柱として働くと考えられている閲覧 2026-08-26
  2. 2.Disease manifestations and pathogenic mechanisms of Group A Streptococcus(Clinical Microbiology Reviews・2014)Streptococcus pyogenes(A群レンサ球菌)は咽頭炎・膿痂疹といった軽症感染から壊死性筋膜炎・連鎖球菌性毒素性ショック症候群まで起こし、反復感染は溶連菌感染後糸球体腎炎・急性リウマチ熱・リウマチ性心疾患という自己免疫疾患の引き金にもなる。これらを合わせた死亡は世界で年間50万人を超える。付着・定着、自然免疫への抵抗、組織バリアの分解と体内拡散という過程には多数の病原因子が重複・冗長に関与する。本菌はすべてのペニシリン系・セファロスポリン系に感受性を保っている一方、それ以外の治療薬に対する耐性の上昇が世界的な懸念になっている閲覧 2026-08-26
  3. 3.The Eagle effect revisited: efficacy of clindamycin, erythromycin, and penicillin in the treatment of streptococcal myositis(The Journal of Infectious Diseases・1988)Streptococcus pyogenesによるマウス筋炎モデルで、ペニシリンは菌の接種と同時に投与しない限り無効で、2時間の投与遅延だけで生存率が無治療対照と変わらなくなった。エリスロマイシンも2時間以内に開始した場合しか有効でなかったのに対し、クリンダマイシンは投与を0・2・6・16.5時間遅らせてもそれぞれ生存率100%・100%・80%・70%を保ち、全群でペニシリンより優れていた。クリンダマイシンの効果は「Eagle効果」による影響を受けない閲覧 2026-08-26
  4. 4.Revision of the Jones Criteria for the diagnosis of acute rheumatic fever in the era of Doppler echocardiography: a scientific statement from the American Heart Association(American Heart Association・2015)急性リウマチ熱のJones基準は2015年に改訂され、ドップラー心エコーによる不顕性心炎(subclinical carditis)を心炎(大基準)として認めること、および低リスク集団と中〜高リスク集団で大基準・小基準の閾値を分けることが導入された閲覧 2026-08-26
  5. 5.Acute rheumatic fever and rheumatic heart disease(Nature Reviews Disease Primers・2016)急性リウマチ熱はA群レンサ球菌による咽頭炎に対する自己免疫応答の結果として起こり、1回の重症エピソードでも反復エピソードでも心臓弁の長期的障害(リウマチ性心疾患)をきたす。診断は今もJones基準による臨床所見に依存し、治療も数十年にわたりペニシリンが柱であり続けている。急性リウマチ熱発症後にリウマチ性心疾患の発症確率や重症度を変えることが証明された治療は他に存在しない閲覧 2026-08-26
  6. 6.Rapid antigen detection test for group A streptococcus in children with pharyngitis(Cochrane Database of Systematic Reviews・2016)小児咽頭炎における迅速抗原検査(RADT)の診断精度に関する98研究(116評価・101,121人)のメタ解析で、全員がRADTと咽頭培養の両方を受けた105評価(58,244人、A群レンサ球菌の有病割合中央値29.5%)における統合感度は85.6%(95%CI 83.3〜87.6)、統合特異度は95.4%(95%CI 94.5〜96.2)だった。有病割合30%の小児1,000人ではA群レンサ球菌陽性者43人が見逃される計算になる。特異度は十分に高く不要な抗菌薬投与は避けられるが、RADT単独で除外できるかは疫学的背景に依存する閲覧 2026-08-26
  7. 7.Streptococcus pyogenes pbp2x Mutation Confers Reduced Susceptibility to β-Lactam Antibiotics(Clinical Infectious Diseases・2020)Europe PMC の抄録(PMID 31630171)で、emm43.4型のほぼ同一な臨床分離株2株にpbp2xのミスセンス変異(T553K)が見つかり、ほぼ同一の遺伝的背景をもつ対照株と比べてアンピシリン・アモキシシリンのMICが8倍、セフォタキシムのMICが3倍に上昇しており、βラクタム耐性獲得の第一段階と矛盾しないと著者が述べていることを確認した(抄録のみ閲覧)。閲覧 2026-09-27