微生物学

微生物学 · 2/3

肺炎球菌・口腔レンサ球菌とう蝕形成。嫌気性球菌

Streptococcus pneumoniae, oral streptococci and cariogenesis. Anaerobic cocci

応用トピック
感染性心内膜炎市中肺炎急性化膿性中耳炎の臨床経過・治療と鼓膜切開急性・慢性鼻副鼻腔炎と治療原則肺炎、年齢別の主要原因菌小児肺炎と年齢別主要病原体肺炎
微生物
PeptostreptococcusStreptococcus agalactiae / GBSStreptococcus mitisStreptococcus mutansStreptococcus pneumoniaeViridans group streptococci
疾患
う蝕歯髄炎

🧠 同じ「性のレンサ球菌」でも、莢膜の有無で病原性の方向性がまったく異なる。 肺炎球菌はで貪食を防ぐため、脾臓(莢膜化細菌を除去する臓器)を失った患者や鎌状赤血球症の患者で重症化しやすく、肺炎・髄膜炎・中耳炎・副鼻腔炎という侵襲性感染を起こす。一方、莢膜を持たないはによるへの付着でを作り、()という局所病変を起こすにとどまるが、口腔内の創から血流に入ると心臓弁(特に)に定着してを起こす——莢膜という「防御の鎧」がないぶん、定着にはという「」が必要になる。もこの文脈の延長線上にあり、常在部位に留まる限り無害だが、組織が損傷するとを起こす。

レンサ球菌属の総論と分類

項目 内容
形態 、ペアまたはに配列
発育 が多く、が複雑——分離には血液寒天培地が必要
カタラーゼ 陰性(との鑑別点)

分類①:血液寒天培地上の溶血パターン

溶血型 特徴 代表菌
部分溶血(緑色)——ヘモグロビンの酸化による S. pneumoniae、
β溶血 コロニー周囲の完全な赤血球溶解 S. pyogenes、S. agalactiae
溶血なし Enterococcus faecalis、E. faecium

分類②:Lancefield分類

細胞壁の炭水化物抗原(など)の組成に基づく分類(A〜U群)。ヒトの病原体はA・B・C・D・F・G群。

分類③:分子生物学的分類

病原性・生態学的関連に基づく7。

  • Pyogenic群:S. pyogenes、S. agalactiae
  • Anginosus群:S. anginosus
  • Mitis群:S. mitis、S. pneumoniae
  • Sanguinis群:S. sanguinis(原因菌とされてきたが、下記「」の注記を参照)
  • Salivarius群:S. salivarius
  • Bovis群:S. bovis
  • Mutans群:S. mutans(原因菌)

肺炎球菌

項目 内容
形態 グラム陽性、「」
生息地 上気道
莢膜 (100血清型以上——2020年に10Dが100番目として報告された1。「94血清型」は少し前の数え方)
感受性(S. pneumoniaeの発育を阻害する)
胆汁 (bile-soluble、胆汁中で発育できない)

病原性因子:鎌状赤血球症や患者は感受性が高い(脾臓は莢膜化細菌を除去する臓器)。IgA プロテアーゼによりを突破し宿主防御を減弱させる2。

💡 血清型は「何種類あるか」より「どの型が侵襲性か」が効く。 100を超えるのうち侵襲性感染を起こす能力(invasiveness)は型ごとに大きく違い、ワクチンはその「侵襲性の高い型」を選んで入れている。新しい血清型はとの種間組換えでも生まれており、実際に100番目の血清型10Dの莢膜合成遺伝子座には Streptococcus mitis 由来の領域が含まれていた1——の普及そのものが、新しい型が現れる圧力にもなっている。

臨床像:下葉優位ので「」の喀痰を特徴とし、の原因菌第1位。以下4疾患の最頻原因菌でもある(覚え方 “MOPS”)。

  • 髄膜炎
  • 中耳炎
  • 肺炎
  • 副鼻腔炎

診断:血液寒天培地(5% CO₂培養)で、(Quellung反応)または。

治療:マクロライド系が第一選択。耐性の場合はセフトリアキソン(髄膜炎に用いることが多い)。

⚠️ 「肺炎球菌にはまずマクロライド」という順序は、現在の標準治療とは合わない。 肺炎球菌の(erm(B) によるリボソームメチル化、mef(A) による排出)は地域によって高率で、マクロライド単剤でしうる。の標準はβラクタム(アモキシシリン/、重症例ではセフトリアキソン)が軸で、マクロライドはをカバーする目的での併用か、軽症外来例での選択肢という位置づけになる。2008年の改訂の際にも「臨床医は肺炎球菌肺炎や中枢神経系以外の肺炎球菌感染症に対して、再びペニシリンを安心して処方してよい」と明記されている3。ノートの記載は元の授業内容として残すが、実臨床の第一選択はβラクタムである。

⚠️ 同じ株が「髄膜炎なら耐性、肺炎なら感性」になる——ペニシリンのは病型で違う。 2008年1月には肺炎球菌に対するペニシリンの判定基準を分割し、非髄膜炎の非経口ペニシリン治療(1日1,200万〜2,400万単位)では感性= 2 µg/mL以下、髄膜炎(1日1,800万単位以上)では感性= 0.06 µg/mL以下とした3。髄液へのペニシリン移行が悪いため、同じでも中枢神経系では届かないという上の理由による。感受性報告を読むときは「どの病型の基準で判定されたか」を必ず確認する。 なお判定基準そのものは(米国)と(欧州)で数値も判定区分も異なるので、どちらの基準による報告かも見る必要がある(ハンガリーを含む欧州では が基準)。

予防(ワクチン):

ワクチン 対象 型 免疫応答
Pneumovax 成人 23価 IgM応答
小児 13価(蛋白質と結合) IgG応答

⚠️ の価数は「13価」で止まっていない。 PCV7(7価)→PCV10/PCV13→PCV15・PCV20(さらに高価数のものが開発中)と、血清型置換を追いかける形で価数が増え続けている。どの製品がになっているかは国ごとに違うので、「小児=13価」と固定して覚えない。

⚠️ ——ワクチンは肺炎球菌を減らすのではなく、入れ替える。 PCV7導入後、では非ワクチン血清型(NVT)の割合が大きく増え、保菌率の総量はほとんど変わらなかった。疾患としてもNVTによる感染は増えたが、その増加幅は保菌での置換より小さい——置換してきた血清型のほうが侵襲性が低いこと、ワクチン前の保菌データの、のが、この差を一部説明する4。だから「は効かない」でも「肺炎球菌はいなくなった」でもなく、侵襲性の高い型を選択的に減らしていると理解し、監視を続ける必要がある。

💡 なぜ小児用ワクチンだけ蛋白質と結合させるのか。 多糖体単独では乳幼児の免疫応答(主にIgM、を残さない)しか誘導できない。を蛋白質に結合させることで、の応答(IgGへの、の形成)を誘導できる——これががIgG応答を起こす理由。

口腔レンサ球菌とう蝕形成

は口腔正常フローラを構成する性・のレンサ球菌の総称で、口腔・消化管・泌尿生殖器に定着する。

項目 内容
莢膜 なし
耐性(S. pneumoniaeとの鑑別点)
胆汁

病原性因子:口腔内の創から血流に侵入し、血小板に付着した後に心臓弁へ達する。を産生してへ付着し、(プラーク)を形成する。

疾患 主な原因菌 機序
S. mutans、S. sanguinis 下記「」参照
S. sanguinis、S. oralis 損傷した心臓弁(多くは)に定着
消化管の悪性腫瘍との関連 S. bovis —

⭐ S. bovisの菌血症は大腸悪性腫瘍のになりうる——臨床的に重要な関連として押さえる。

診断:血液寒天培地で。

治療:心内膜炎ではペニシリン高度・ならまたはセフトリアキソンの単剤4週間が標準で、アミノグリコシド併用は必須ではない(腎機能が正常で合併症のない症例を2週間へ短縮するときの選択肢)。では6週間へ延長し、感受性が低下した株では最初の2週間にを併用する。ペニシリンアレルギーにはバンコマイシンを用いる——高なら4週間・6週間でアミノグリコシド併用は不要だが、感受性が低下した株・耐性株の例ではバンコマイシン6週間に最初の2週間のを併用する5。

う蝕形成

歯の・・が細菌の活動によって破壊される過程。

  • はに蓄積した乳酸などの有機酸によるの直接から始まる
  • 内のが食事中の糖質を発酵し乳酸を産生する
  • S. mutans と S. sanguinisがの開始に最も一貫して関与するが、他の(Lactobacillusなど)も関与しうる
  • S. mutansは(ショ糖)をで不溶性()へ変え、これをにへ強固に付着する。だけが特別なのは、合成の基質になれるのがだからである6

⚠️ S. sanguinis を「原因菌」と単純に並べる書き方には、反する所見がある。 列の発症を16S 解析で追跡した研究では、の進行につれて S. sanguinis はむしろ Streptococcus mitis 群・Neisseria とともに減少し、細菌群集の多様性も健常より低下した。逆に S. mutans が少ない例では S. salivarius・S. sobrinus・S. parasanguinis が代替の酸産生菌としてと関連し、乳酸を代謝する Veillonella は既往のない小児で将来のを予測した7。は「特定の1菌種の感染症」ではなく、酸産生菌が優勢になるの生態的な偏り(dysbiosis)として理解するのが現在の見方であり、S. sanguinis はむしろ健常な側の常在菌に位置づけられることが多い。授業では S. mutans・S. sanguinis の2菌種で覚えるよう求められることが多いので、両方の立場を押さえておく。

flowchart TD
  A["糖質の摂取"] --> B["S. mutans・S. sanguinisが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dextran'>デキストラン</span>を産生"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tooth surface'>歯面</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dental plaque'>歯垢</span>(プラーク)形成"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactic acid bacteria'>乳酸菌</span>が糖を発酵し乳酸を産生"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enamel'>エナメル質</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='demineralisation'>脱灰</span>"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dental caries'>う蝕</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tooth decay'>虫歯</span>)"]

嫌気性球菌

口腔・上気道・消化管・泌尿生殖器のの一部だが、皮膚には常在しない(一部はを起こしうる)。感染は通常、損傷した組織へが侵入することで成立するである。(Bacteroides・Fusobacterium・Prevotella・Porphyromonas)の詳細はのページを参照。

まとめ

  • S. pneumoniaeとviridans streptococciはともにだが、莢膜の有無が病原性の方向を分ける——莢膜ありは・鎌状赤血球症患者での侵襲性感染(肺炎・MOPS)、莢膜なしはによる付着()と血流経由の心内膜炎。
  • Streptococcus属の分類は①溶血パターン、②Lancefield分類(A〜G群)、③16S rRNAに基づく分子生物学的分類の3系統で理解する。
  • S. pneumoniaeは(喀痰)とMOPS(髄膜炎・中耳炎・肺炎・副鼻腔炎)の最頻原因菌。ワクチンは(IgM応答、でを残さない)と(IgG応答)で免疫応答が異なる。⚠️ 講義で挙がる「成人=23価多糖体・小児=13価結合型」という対応は固定ではなく、結合型の価数はPCV15・PCV20へ進み、どの製品がかは国ごとに違う(本文のの価数についての注意を参照)。
  • はS. mutans・S. sanguinisのによる形成と乳酸産生によるで起こり、S. bovis菌血症は大腸悪性腫瘍を示唆しうる。ただし16S rRNA解析ではの進行とともにS. sanguinisはむしろ減少し、S. mutansが乏しい例ではS. salivarius・S. sobrinus・S. parasanguinisが代替の酸産生菌になるなど、は種ではなくの生態的な偏りとして捉えられている76。
  • 肺炎球菌のは100を超え1、導入後は非ワクチン血清型への置換が保菌でほぼ完全に、疾患では部分的に起きている4。ペニシリンの感受性は髄膜炎(≤0.06 µg/mL)と非髄膜炎(≤2 µg/mL)で異なり、判定基準はとでも異なる3。
  • は口腔・消化管などので、時のとして発症する。

出典

  1. 1.A New Pneumococcal Capsule Type, 10D, is the 100th Serotype and Has a Large cps Fragment from an Oral Streptococcus(mBio・2020)肺炎球菌の新規莢膜型10Dが化学構造と莢膜合成遺伝子座(cps)の解析により100番目の血清型として報告された。10Dのcps座は血清型6C・39および口腔レンサ球菌 Streptococcus mitis SK145 由来の領域と高い相同性を持ち、口腔レンサ球菌から肺炎球菌への近年の種間遺伝子伝達を示す。結合型ワクチンの広範な使用は、こうした種間組換えによる新規血清型の出現を促しうる閲覧 2026-08-26
  2. 2.Mechanism and inhibition of Streptococcus pneumoniae IgA1 protease(Nature Communications・2020)肺炎球菌が分泌する巨大メタロプロテアーゼが宿主のIgA1を切断する病原因子として働くこと、この酵素の分子機構が発見から約30年間不明のままだったこと、モノクローナル抗体で構造変化を阻害すれば宿主側の界面で感染を遮断しうることを確認した閲覧 2026-08-26
  3. 3.Rationale for revised penicillin susceptibility breakpoints versus Streptococcus pneumoniae: coping with antimicrobial susceptibility in an era of resistance(Clinical Infectious Diseases・2009)2008年1月にCLSIが肺炎球菌に対するペニシリンの感受性ブレイクポイントを改訂し、非髄膜炎の非経口ペニシリン治療(1日1,200万〜2,400万単位)では感性を2 µg/mL以下とした一方、髄膜炎(1日1,800万単位以上)では0.06 µg/mL以下という従来の基準を据え置いた。この結果、同じ株が「髄膜炎なら耐性・肺炎なら感性」と判定されうる閲覧 2026-08-26
  4. 4.Serotype replacement in disease after pneumococcal vaccination(The Lancet・2011)7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は92を超える血清型のうち7つしか対象としないため、無症候性保菌では非ワクチン血清型(NVT)の割合が大きく増加し、保菌率の総量はほとんど変化しなかった(血清型置換)。疾患としてもNVTによる肺炎球菌感染症は増えたが、その増加幅は保菌における置換より小さく、その差は置換血清型の侵襲性の低さ、ワクチン前の保菌データのバイアス(unmasking)、サーベイランスのバイアスで一部説明される閲覧 2026-08-26
  5. 5.2023 ESC Guidelines for the management of endocarditis(European Society of Cardiology (ESC)・2023)誌上版(Delgado-2023-Eur Heart J-VoR.pdf、全95頁)を Internet Archive 経由の Milano-Bicocca 大学リポジトリ版で取得し全文で確認した。推奨表7は感受性で2区画に分かれる。①ペニシリン高感受性の口腔レンサ球菌・S. gallolyticus 群には、ペニシリンG・アモキシシリン・セフトリアキソンの単剤を自己弁4週間・人工弁6週間(Class I、Level B)。この区画ではアミノグリコシド併用は必須ではなく、合併症のない自己弁例で腎機能が正常ならゲンタマイシン併用の2週間治療も選べる。②ペニシリンに感受性低下(increased exposure)または耐性の株では、自己弁4週間・人工弁6週間のいずれもゲンタマイシン2週間の併用を伴う(Class I、Level B)。βラクタムアレルギー例では、①の区画はバンコマイシン単剤(自己弁4週間・人工弁6週間)だが、②の区画の人工弁例はバンコマイシン6週間にゲンタマイシン2週間を併用する(Class I、Level C)。本ノートの本文は腸球菌の治療を扱っていないため、この出典から腸球菌の記述は引いていない。閲覧 2026-08-26
  6. 6.The Biology of Streptococcus mutans(Microbiology Spectrum・2019)Streptococcus mutansはヒトのう蝕の主要な病因菌であり、主に歯面に形成されるバイオフィルム(歯垢)内に存在する。う蝕以外にも感染性心内膜炎の起炎菌となり、一部の株は口腔外病態の発症にも間接的に関与する。研究の中心は、歯面に強固なバイオフィルムを作る分子機構、食事由来の多様な糖質を急速に代謝する能力、口腔バイオフィルムで頻繁に遭遇する環境ストレスへの生存戦略に置かれてきた閲覧 2026-08-26
  7. 7.Beyond Streptococcus mutans: dental caries onset linked to multiple species by 16S rRNA community analysis(PLoS ONE・2012)乳歯列のう蝕発症を16S rRNA遺伝子解析で追跡した横断・縦断研究で、Streptococcus mutansは多くの被験者で優勢だったが必ずしも存在せず、S. mutansが少ない例ではS. salivarius・S. sobrinus・S. parasanguinisが代替の酸産生菌としてう蝕と関連した。乳酸を代謝するVeillonellaはう蝕と関連し、う蝕既往のない小児では将来のう蝕を予測した。一方、う蝕の進行につれてStreptococcus mitis群・Neisseriaとともに Streptococcus sanguinis はむしろ減少し、細菌群集の多様性は健常より低下した閲覧 2026-08-26