微生物学

微生物学 · 2/6

嫌気性グラム陰性桿菌(Bacteroides・Fusobacterium・Prevotella・Porphyromonas)

Anaerobic Gram-negative rods (Bacteroides, Fusobacterium, Prevotella, Porphyromonas)

応用トピック
細菌性腟症腹腔内感染症:胆管炎・胆嚢炎・腹腔内膿瘍・憩室炎・腹膜炎急性扁桃炎の合併症と扁桃周囲膿瘍
微生物
Bacteroides fragilisFusobacterium necrophorumFusobacterium nucleatumPorphyromonas gingivalisPrevotella intermedia
疾患
根尖性歯周炎歯周炎

🧠 は「なぜ酸素のある場所では生きられないか」から病原性をすると理解しやすい。 これらの菌はを分解する酵素——・(いずれも部分的にしか持たない)や——を欠くため、酸素存在下で発生するに自ら傷つき、低酸素環境(消化管深部・口腔内のなど)でのみ増殖できる。これが常在部位(口腔・大腸・腟)では無害な理由であり、同時に手術・外傷・誤嚥・虚血(ショック、血管障害、糖尿病)でバリアが破れ組織が低酸素・壊死状態になったときにだけ日和見感染を起こす理由でもある——E. coliの「腸管外に出ると発症する」ロジックと同じ、場所が変わることで病原性が発現する菌群として読む。

嫌気性菌の一般的性質

  • 桿菌(一部は細長く、一部は小型)——多くはの一員
  • 発育には低い(=低酸素濃度)が必要
  • 固形培地上でCO₂ 10%超・O₂ 18%超の条件では発育できない

嫌気性菌が欠く/部分的にしか持たない酵素:

酵素・系 反応 意義
欠如
2O₂⁻+2H⁺→O₂+H₂O₂ 欠如
カタラーゼ 2H₂O₂→2H₂O+O₂ 部分的
H₂O₂+H₂R→2H₂O+R 部分的

💡 これらの酵素はの解毒に使われる。 酸素存在下で生じるやを分解できないため、酸素のある環境では自らが障害を受けて増殖できない——これがの生化学的な理由である。

💡 「防御酵素を欠くから酸素で死ぬ」という説明は近年見直されている。 上の表は古典的な整理として押さえておくべきだが、実際には多くのがの持つ機構をほぼ一式備えており、相当量の酸素に耐える菌も少なくない1。の本体はむしろ、酸素・が代謝の中核をなす酵素(酵素やラジカル酵素など)を直接壊す点にあると考えられている。試験では表のとおりに答えつつ、「酵素欠如説は単純化されたモデル」と理解しておく。

常在フローラとしての分布

部位 :嫌気性菌の比 主な嫌気性菌属
口腔 1:10 Peptococcus、Peptostreptococcus、Lactobacillus、Bifidobacterium、Bacteroides、Porphyromonas、Fusobacterium、Actinomyces、Treponema
大腸 1:1000 同上+Eubacterium、Clostridium
皮膚 10:1 Bacteroides、Prevotella、P. acnes、Propionibacterium
腟 変動 Lactobacillus、Bifidobacterium、Peptostreptococcus、Eubacterium

病原性となる条件

  • に由来する内因性ので、病態は複雑
  • 組織のO₂濃度が低下する状況:ショック、血管障害、糖尿病(DM)
  • 「バリアを破る」契機:誤嚥、手術、外傷

各論:主要な嫌気性グラム陰性桿菌

菌 主な分離部位 関連疾患
Bacteroides fragilis 消化管
Prevotella bivia、P. disiens 腟
Prevotella属 口腔 、顔面膿瘍
Porphyromonas属 口腔 、顔面膿瘍
F. nucleatum 口腔 化膿性感染(口腔・大腸・腟)
F. periodonticum 口腔
F. mortiferum 口腔
F. necrophorum 口腔

Bacteroides属

  • 大腸正常フローラの中で最も重要な嫌気性菌
  • を持つ
  • 、、DNase、を産生
  • を保有

💡 Bacteroides属はで大きく分割された(学名の改称)。 16S 解析により B. distasonis・B. goldsteinii・B. merdae が2006年に新属 Parabacteroides へ移され2、さらに1,000株超の基準株ゲノムを比べた2019年の系統により、腸内で高頻度に検出される B. vulgatus・B. dorei・B. massiliensis などが Phocaeicola 属へ移された(Phocaeicola vulgatus など)3。旧名(Bacteroides vulgatus、Bacteroides distasonis)は教科書・論文・実習で今も広く使われるので、新旧を対応づけて覚える。B. fragilis は Bacteroides 属のなので属名は変わらず、臨床で最重要という位置づけも変わらない。

💡 B. fragilisは「例外的に酸素に強い」嫌気性菌。 多くの嫌気性菌と異なりを持つため一定のがあり、これがから最も高頻度に分離される嫌気性菌である理由の一つと考えられる。

Fusobacterium属

  • 口腔に常在
  • F. nucleatumはと共同してを起こす
  • プラウト・ヴィンセント :潰瘍性の進展として起こるで、を伴う
  • 診断:標本

⚠️ F. necrophorum の臨床的な最重要像はである。 上の一覧では F. necrophorum をの欄に置いているが、この菌が生命を脅かす代表的病態は、扁桃炎・咽頭炎からへ波及しのを起こし、肺をはじめとする各臓器へをばらまく である4。10〜35歳(中央値19〜22歳)の健常な若年者に起こる点が特徴で、血液培養は70%超で Fusobacterium 属が陽性となり、血栓の検出はの感度が97%と高い。βラクタマーゼ耐性のβラクタム系を通常6週間投与しても死亡率は5〜18%に及ぶ。

Prevotella属

  • 口腔(腟にも分離される)
  • 、顔面膿瘍を起こす
  • 、、を産生

Porphyromonas属

  • 口腔に常在
  • 、顔面膿瘍を起こす
  • 、を産生
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic gram-negative bacillus'>嫌気性グラム陰性桿菌</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='normal flora'>常在フローラ</span>)"] --> B["組織が正常な間は無害"]
  A --> C["バリア破綻<br>(誤嚥・手術・外傷・低酸素環境)"]
  C --> D["常在部位から異所性の組織へ移行"]
  D --> E["Bacteroides fragilis<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intra-abdominal infection'>腹腔内感染</span>"]
  D --> F["Prevotella・Porphyromonas<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='periodontitis'>歯周炎</span>・顔面膿瘍"]
  D --> G["Fusobacterium+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral spirochete'>口腔スピロヘータ</span><br>Plaut-Vincent angina"]

治療

抗菌薬は決定後に選択する。

⚠️ 嫌気性菌の耐性は増えており、だけで安全とは言えなくなった。 かつて嫌気性菌の感受性はでで足りたが、βラクタム系とクリンダマイシンへの耐性が世界的に着実に増加している5。B. fragilis group では、メトロニダゾール耐性を担う nim 遺伝子と、を分解する cfiA(=ccrA) を併せ持つ多剤耐性株が現れ、の失敗例が報告されている。cfiA・cepA は挿入配列(IS)で活性化されて初めて発現する「サイレント」型がありうるため、遺伝子を検出しても表現型の耐性と一致するとは限らない——このノートが冒頭で「決定後に選ぶ」と書いているのはこのためである。なお は嫌気性菌の法そのものを定めておらず、 の M11 文書が事実上の標準として使われる点も、他の菌群と違う。

まとめ

  • は・・を欠く(または部分的)ため酸素存在下で自壊し、低酸素環境でのみ増殖できる。
  • 口腔・大腸・腟のであり、誤嚥・手術・外傷・低酸素状態(ショック・血管障害・糖尿病)でバリアが破れたときに内因性のを起こす。
  • Bacteroides fragilis(、例外的にを保有)、Fusobacterium(Plaut-Vincent angina)、Prevotella・Porphyromonas(・顔面膿瘍)が代表菌。
  • 治療の基本はメトロニダゾールで、決定に基づいた抗菌薬選択が原則。

出典

  1. 1.When anaerobes encounter oxygen: mechanisms of oxygen toxicity, tolerance and defence(Nature Reviews Microbiology・2021)偏性嫌気性菌が酸素で増殖できない理由は防御酵素の欠如ではない。嫌気性菌は好気性菌が持つ防御機構のほとんどを備えており、相当量の酸素に耐えうる菌も多い閲覧 2026-08-26
  2. 2.Reclassification of Bacteroides distasonis, Bacteroides goldsteinii and Bacteroides merdae as Parabacteroides distasonis gen. nov., comb. nov., Parabacteroides goldsteinii comb. nov. and Parabacteroides merdae comb. nov.(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology・2006)16S rRNA遺伝子解析により Bacteroides distasonis・B. goldsteinii・B. merdae は Bacteroides 属に含めるべきでないと判断され、新属 Parabacteroides として再分類されたことを確認した閲覧 2026-08-26
  3. 3.Analysis of 1,000 Type-Strain Genomes Improves Taxonomic Classification of Bacteroidetes(Frontiers in Microbiology・2019)1,000株超の基準株ゲノムを用いた系統ゲノム解析により Bacteroides 属を含む複数の属が多系統であることが示され、Bacteroides vulgatus・B. dorei・B. massiliensis・B. coprocola・B. coprophilus などが Phocaeicola 属へ新組み合わせ(comb. nov.)として移されたことを確認した閲覧 2026-08-26
  4. 4.Lemierre Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)Lemierre症候群は口腔咽頭感染→外側咽頭間隙への進展→内頸静脈の敗血症性血栓性静脈炎→肺などへの敗血症性塞栓という順に進み、F. necrophorum が中心的な原因菌であること、好発が10〜35歳(中央値19〜22歳)の若年健常者であること、MRIの内頸静脈血栓検出感度が97%であること、血液培養は70%超でFusobacterium属が陽性となること、βラクタマーゼ耐性βラクタム系を通常6週間投与すること、適切な治療下でも死亡率が5〜18%であることを確認した閲覧 2026-08-26
  5. 5.Identification and Antimicrobial Susceptibility Testing of Anaerobic Bacteria: Rubik's Cube of Clinical Microbiology?(Antibiotics (Basel)・2017)嫌気性菌の薬剤感受性はかつて予測可能で経験的治療を安全に行えたが、近年βラクタム系とクリンダマイシンに対する耐性が世界的に着実かつ明確に増加しており、サーベイランス目的でも感受性検査が極めて重要であること、B. fragilis group ではメトロニダゾール耐性の nim 遺伝子とカルバペネム耐性のメタロβラクタマーゼ cfiA/ccrA を含む多剤耐性株が出現し経験的治療の失敗例が報告されていること、cfiA・cepA は挿入配列による活性化を要する「サイレント」型がありうるため遺伝子の有無が表現型耐性と一致しないこと、EUCAST は嫌気性菌の試験法を定めておらず CLSI M11 が最も広く使われることを確認した閲覧 2026-08-26