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Microbe Atlas · 細菌

Fusobacterium nucleatum

分類
G− 桿菌・偏性嫌気性 / Gram− rods (anaerobic)Fusobacterium
性状
Gram陰性 (G−)桿菌 Bacilli偏性嫌気性 Obligate anaerobe
科目
Medical Microbiology
トピック
2/6: Anaerobic Gram-negative rods (Bacteroides, Fusobacterium, Prevotella, Porphyromonas)5/5: Normal flora of the oral cavity. Microbes causing infections of the oral cavity (list)2/29: Treponema genus
自然耐性薬
ゲンタマイシンアミカシントブラマイシンアズトレオナム
原因となる疾患
Lemierre症候群急性壊死性潰瘍性歯肉炎急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍口底蜂窩織炎根尖性歯周炎歯性上顎洞炎脳膿瘍肺膿瘍
作用する薬剤
クリンダマイシン

🧠 全体像:F. nucleatumは口腔常在のグラム陰性桿菌で、として記載されるFusobacterium属の主役である1。単独では弱毒菌だが「橋渡し役」として他菌種との協調で組織を破壊するという性質が病原性の軸になる。と組んでPlaut-Vincent anginaを起こし、口腔から離れた組織へ入れば膿瘍を作る——バリアが破れた口腔常在菌が異所性の組織で悪さをするという、(Bacteroides・Prevotella・Porphyromonas)に共通するロジックの典型例である。⚠️ の主な原因菌は近縁のF. necrophorumで、大腸癌との結びつきは関連が主で因果は確立していない。

微生物学的な特徴

グラム陰性ので、口腔(・)に常在する。酸素に弱くでしか増殖できない。古典的には「・カタラーゼを欠くため」と説明されるが、この説明は見直されている(酸素が嫌気性菌の増殖を止める仕組みはBacteroides fragilisのノートを参照)。

病原性の仕組み

F. nucleatumはの内で多菌種の「橋渡し(共凝集)」を担う——初期(Streptococcus属など)と後期の病原性の強い菌(*Porphyromonas gingivalis*など)の両方に接着できる表面構造を持ち、単独の病原性は強くないが多菌種の構造的な要となる。

(*Treponema vincentii*など)と共同することでを起こし、を伴うを作る。

flowchart TD
    A["口腔常在の F. nucleatum"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Periodontal pocket'>歯周ポケット</span>で多菌種<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biofilm'>バイオフィルム</span>の<br>『橋渡し』として機能"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral spirochete'>口腔スピロヘータ</span>と協調<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='necrotizing ulcerative gingivitis'>壊死性潰瘍性歯肉炎</span>→Plaut-Vincent angina)"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal barrier'>粘膜バリア</span>の破綻・誤嚥"]
    D --> E["深頸部・肺・腹腔などの<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mixed'>混合性</span>嫌気性菌感染・膿瘍"]
    A --> F["大腸癌組織で検出量が多い<br>(FadA<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adhesin'>接着因子</span>:関連と実験的機序)"]

感染経路と疫学

  • :口腔常在菌に由来し、・扁桃炎など隣接組織の感染や誤嚥を契機に深部へ波及する
  • 大腸癌組織では正常組織より本菌の検出量が多いという関連が報告されている。FadAがに結合してβ-カテニンシグナルを活性化し、大腸癌細胞の増殖を促すことが細胞・で示され、腺腫・腺癌の大腸組織ではfadAが正常者の10〜100倍超だった2
  • ⚠️ 関連は原因ではない。 同じ論文も出発点を「関連は報告されているが因果と機序は確立していない」としており2、組織での検出量の差だけでは、菌が先か腫瘍が先かは決められない。本菌の除菌で大腸癌を予防するという臨床的な使い道は確立していない

起こす疾患

疾患 押さえどころ
Plaut-Vincent angina(の進展) とのによる、を伴う
化膿性感染(口腔・大腸・腟由来) ・、、など他の嫌気性菌とのの一員として関与
との関係 ⚠️ 主な原因菌は*F. necrophorum。文献222例の集計では68%でF. necrophorum*、種まで同定されなかった例を含めて86%でFusobacterium属が発育したが、集計表にF. nucleatumの区分は無い。一方で同じ総説は、F. nucleatum菌血症がの臨床像を呈した例や、血栓を伴ったF. nucleatumによるの症例報告も挙げており1、本菌が原因になることはありうる。代表的原因菌として覚えるのはF. necrophorumである

💡 口腔常在菌としてのF. nucleatumと、のF. necrophorumを混同しない。 として記載されるFusobacterium属は主にF. nucleatumで、F. necrophorumは常在菌としてはほとんど記載されない1。「口腔にいるのはnucleatum、若年者の咽頭炎からを起こすのはnecrophorum」と分けて覚える。

診断

  • 検体:・血液培養(嫌気ボトル)。ではなく吸引検体で搬送する
  • 標本:の菌体とスピロヘータの共存像を確認
  • 咽頭炎後の再増悪・片側のや腫脹・肺の塞栓像があればを疑い、血液培養とを行う(原因菌の大半はF. necrophorum)。治療は数週間単位の抗菌薬で、の使用には議論がありは無い1

治療と予防

  • メトロニダゾール、配合ペニシリン、など嫌気性菌に活性を持つ薬剤を用いる。膿瘍ではドレナージを併せる
  • ⚠️ 単独は当てにしきれない。 247株の検討で、F. nucleatum 1株がアモキシシリン耐性でβラクタマーゼ陽性だった(嫌気性菌全体のはを十分下回っていた)3。多くの株は感性だが、βラクタマーゼ産生株が混じることを想定する
  • ⚠️ 嫌気性菌はアミノグリコシド系・に通常耐性である4。アミノグリコシド系は細胞内への取り込みに性のが作る膜電位を要するためでは菌体に入れず、はのPBP3に強く結合して効く薬で、嫌気性菌には臨床的に有用な活性を持たない

まとめ

  • F. nucleatumはグラム陰性の桿菌で、口腔常在のFusobacterium属の主役。単独の病原性は強くないが多菌種の「橋渡し役」として働く。
  • とのでPlaut-Vincent anginaを起こし、誤嚥やバリア破綻で・などの嫌気性菌感染に加わる。
  • の主な原因菌はF. necrophorumで、本菌が原因になるのは例外的である。
  • 大腸癌組織で検出量が多く、FadAを介した増殖促進が実験的に示されているが、関連であって因果は確立していない。
  • 治療はメトロニダゾールなど嫌気性菌に活性を持つ薬剤。βラクタマーゼ産生株がある。アミノグリコシド系・には通常耐性。

出典

  1. 1.Human infection with Fusobacterium necrophorum (Necrobacillosis), with a focus on Lemierre's syndrome(Clinical Microbiology Reviews(Riordan T)・2007)PMC全文(PMC2176048)で、著者の症例定義を満たすLemierre症候群222例の培養成績が、F. necrophorum純培養133例(60%)・種不明のFusobacterium属純培養31例(14%)・混合培養中のF. necrophorum 19例(9%)・混合培養中の種不明Fusobacterium属7例(3%)・Fusobacterium属以外の菌のみ18例(8%)・培養陰性14例(6%)で、全体の68%でF. necrophorum、86%でF. necrophorumまたは他のFusobacterium属が発育したこと(Table 3と本文)、Table 3にF. nucleatumの行は無いこと、著者が「典型的なLemierre症候群はすべてFusobacterium属、とくにF. necrophorum subsp. funduliformeが基礎にある可能性が十分ある」と述べていること、口腔の常在菌叢として記載されるFusobacterium属は主にF. nucleatumでありF. necrophorumは記載されないこと、抗凝固療法の使用は議論があり対照研究は無いこと、治療期間に一貫した基準は無いが再発例があるため2週未満は賢明でないとし、2〜3週の静注後に経口へ切り替えて計6週までとする案を示していること、嫌気性菌血症の症例集積の紹介の中で既往の無い患者の1例がF. nucleatum菌血症でLemierre症候群の臨床像を呈したと述べ、伝染性単核症の検査陽性などを伴った症例の一覧(Table 6)に、Lemierre症候群に該当し、血液培養でF. nucleatumが発育して内頸静脈血栓症と肺病変を伴った18歳女性の症例(Woywodtらの報告)を載せていることを確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Fusobacterium nucleatum promotes colorectal carcinogenesis by modulating E-cadherin/β-catenin signaling via its FadA adhesin(Cell Host & Microbe・2013)Europe PMC(PMID 23954158)の抄録で、F. nucleatumは大腸癌と関連づけられてきたが因果と機序は確立していないという前提から出発し、本菌が固有の接着因子FadAを介して大腸癌細胞に接着・侵入して増殖を促すこと、FadAがE-カドヘリンに結合してβ-カテニンシグナルを活性化すること、E-カドヘリン上の結合部位11アミノ酸に由来する合成ペプチドがこの作用を消したこと、腺腫・腺癌患者の大腸組織ではfadA遺伝子量が正常者の10〜100倍超であったことを確認した。細胞・動物実験と組織の比較であり、ヒトで因果を証明したものではない閲覧 2026-09-27
  3. 3.Antibiotic susceptibility profiles of oral pathogens(International Journal of Antimicrobial Agents・2012)Europe PMC(PMID 22890195)の抄録で確認した。歯周病原菌5菌種247株に歯周治療でよく使う6抗菌薬をEtestで試験し、EUCASTとCLSIの両基準で判定したこと、嫌気性菌のMIC90はすべて基準値を十分下回ったが、例外としてPrevotella intermedia 3株とFusobacterium nucleatum 1株がアモキシシリン耐性(CLSI基準)で、これらはいずれもβラクタマーゼ陽性だったこと閲覧 2026-09-27
  4. 4.Expected Resistant Phenotypes, Version 1.2(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)・2023)現行版(v1.2、2023年1月)のPDFを取得し、Table 5(嫌気性菌)の表題が「嫌気性菌は通常アズトレオナム・アミノグリコシド系・ポリミキシンB/コリスチン・ナリジクス酸に耐性」と述べていることを確認した。同表にFusobacterium属の個別の行は無い閲覧 2026-09-27