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Disease Atlas · 感染症 · 症候群

Lemierre症候群

Lemierre syndrome

別名
レミエール症候群Postanginal sepsisNecrobacillosis
臓器系
感染症耳鼻咽喉科
科目
ENTPediatrics
トピック
耳鼻咽喉科 41:急性扁桃炎の合併症と扁桃周囲膿瘍小児科 1-23:小児の咽頭痛
合併症
敗血症
治療薬
メロペネムメトロニダゾールクリンダマイシン
原因微生物
Fusobacterium necrophorumFusobacterium nucleatum
症状
発熱頸部痛嚥下痛呼吸困難
検査値
血算
元疾患
咽後膿瘍急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍頸部膿瘍

🧠 全体像は「数日前まで元気だった若者の咽頭炎が、の敗血症性を経て敗血症性肺塞栓を来す重症疾患へ豹変する」という、咽頭炎のからは説明できない再増悪が診断の入口になる症候群である。1936年にAndré Lemierreが口腔咽頭感染由来の嫌気性敗血症20例を報告して以来の名称で、抗菌薬時代の到来とともに激減し「忘れられた病」と呼ばれるようになったが、咽頭炎への経験的抗菌薬投与が減った近年は報告数が増えている。原因菌は口腔咽頭の常在菌である*Fusobacterium necrophorum*が中心で、青年・若年成人の咽頭炎・からという生命を脅かす病態へ進展しうる重要な嫌気性病原体とされる1。以前は健康だった10〜35歳の若年者に好発する。

病態

flowchart TD
    A["口腔咽頭感染<br>(咽頭炎・扁桃炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peritonsillar abscess'>扁桃周囲膿瘍</span>)"] --> B["外側咽頭間隙への進展"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal jugular vein'>内頸静脈</span>周囲への波及"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet aggregation'>血小板凝集</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravascular coagulation'>血管内凝固</span><br>+周囲炎症による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous stasis'>静脈うっ滞</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal jugular vein'>内頸静脈</span>の敗血症性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombophlebitis'>血栓性静脈炎</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septic embolism'>敗血症性塞栓</span>が血流にのって播種"]
    F --> G["肺・胸膜:敗血症性肺塞栓が最多"]
    F --> H["関節・骨・筋"]
    F --> I["脾・肝・腎"]

口腔咽頭感染(多くは咽頭炎・扁桃炎、を経ることもある)が外側咽頭間隙へ波及し周囲へ達すると、F. necrophorumが血小板を凝集させてを促す一方、周囲組織の炎症による外部からの静脈圧迫()が加わり、の敗血症性が形成される2。ここからが全身へ播種し、肺・胸膜へのが最も高頻度で、関節・骨・筋・脾・肝・腎にも及びうる2

⭐ 好発年齢は10〜35歳(中央値19〜22歳)で、患者の約90%がこの年齢範囲に入り、以前は健康であった若年者に多い2。基礎疾患のない若者のだからこそ見逃されやすく、がはっきりしない若年者の敗血症」を見たら常に鑑別に挙げる姿勢が求められる。

「忘れられた病」と呼ばれる理由

1936年にLemierreが口腔咽頭感染に由来する嫌気性敗血症20例を報告したのが名称の由来である2。1960〜70年代にペニシリンが普及するとは急減し、まれな疾患として教科書から姿を消しかけたが、1970年代後半以降、咽頭炎に対する経験的抗菌薬投与が減少したことなどを背景に報告数が増加している2。抗菌薬普及以前は頻繁にみられ、普及後は激減し、近年再び報告が増えているというこの経過そのものが、「忘れられた病」という呼び名の由来である。

臨床像

典型的な経過は3段階をたどる。

  1. 咽頭炎・扁桃炎:発熱、から始まり、多くはいったん軽快したようにみえる。
  2. への進展:数日後に再増悪し、片側の・腫脹、、持続する発熱が出現する。
  3. の播種呼吸困難などの呼吸器症状(肺への)に加え、関節痛・・筋痛が加わることがある。

⚠️ 「いったん軽快した咽頭炎が数日後に再増悪する」というパターンを、単純な咽頭炎の遷延や別のと誤らない。 このの経過こそがを示唆する最大の手がかりである。

診断

flowchart TD
    A["咽頭炎後の再増悪:発熱・片<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral neck'>側頸部</span>痛・呼吸器症状"] --> B["血液培養(嫌気ボトルを含む)を提出"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contrast-enhanced neck CT'>頸部造影CT</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal jugular vein'>内頸静脈</span>血栓を評価"]
    C --> D{"CTで判断困難か"}
    D -->|"はい"| E["頸部MRI(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal jugular vein'>内頸静脈</span>血栓の検出感度97%)"]
    D -->|"いいえ"| F["胸部CTで敗血症性肺塞栓・膿瘍を評価"]
    E --> F
    F --> G["βラクタマーゼ耐性βラクタム系またはメトロニダゾールを開始"]
  • 画像検査が最も広く用いられる。MR静脈撮影(MRV)は血栓の検出感度97%と高い2。胸部CTで敗血症性肺塞栓(多発結節、しばしば)を評価する。
  • 血液培養:嫌気ボトルを含めて提出する。70%超でFusobacterium属が陽性となるが、には時間・技術を要するため陰性でも否定できない2
  • 血算に加え、・肝機能異常・血小板減少を伴うことが多い。
  • 診断は、口腔咽頭のに加え、血液培養陽性または画像上の血栓という敗血症性の証拠、そして少なくとも1つの(多くは肺)の3要素がそろって確定的になる。

治療

抗菌薬の第一選択は嫌気性菌をカバーするβラクタマーゼ耐性βラクタム系(などのを含む)やメトロニダゾールクリンダマイシンで、通常6週間投与する2Fusobacterium属は複数のクラスの抗菌薬にを示すため、の段階からこれらの薬剤を選択する。

治療 位置づけ
抗菌薬(6週間) 治療の中心。βラクタマーゼ耐性βラクタム系またはメトロニダゾール・クリンダマイシン
適応は議論があり、脳静脈洞への進展、大きい・両側性の血栓、72時間で改善しない場合などに限って考慮する2
外科的介入 膿瘍形成、、縦隔や頭蓋内への進展があれば検討する

⚠️ 適切な治療下でも死亡率は5〜18%に達し、平均入院期間は約3週間でしばしばを要する2。「若く健康だから大丈夫」という先入観は禁物であり、疑ったらを待たず速やかに広域嫌気性菌カバーの抗菌薬を開始する。

まとめ

  • は、咽頭炎後にF. necrophorumを代表とする嫌気性菌がの敗血症性を起こし、敗血症性肺塞栓をはじめとする全身への塞栓播種を来す症候群である。
  • 抗菌薬時代に激減し「忘れられた病」と呼ばれたが、経験的抗菌薬投与の減少とともに報告数が増加している。
  • 好発は10〜35歳の以前健康だった若年者で、「いったん軽快した咽頭炎の数日後の再増悪」というの経過が診断の手がかりになる。
  • 診断は/MRIによる血栓の確認、嫌気性血液培養、胸部CTによる敗血症性肺塞栓の評価を組み合わせる。
  • 治療はβラクタマーゼ耐性βラクタム系などによる6週間の抗菌薬投与が基本で、・外科的介入の適応は個別に判断する。適切な治療下でも死亡率5〜18%と侮れない。

出典

  1. 1.Lemierre Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)1936年にAndré Lemierreが口腔咽頭感染に由来する嫌気性敗血症20例を報告したのが名称の由来であること、1960〜70年代のペニシリン普及で発生率が急減した一方、1970年代後半以降は咽頭感染への経験的抗菌薬投与が減ったことなどを背景に報告数が増加していること、好発が10〜35歳(中央値19〜22歳、患者の約90%が10〜35歳)の若年健常者であること、病態が口腔咽頭感染→外側咽頭間隙への進展→内頸静脈の敗血症性血栓性静脈炎→肺・胸膜・関節・骨・筋・脾・肝・腎への敗血症性塞栓の播種という順に進むこと、血小板凝集による血管内凝固と外部圧迫による静脈うっ滞が機序に関与すること、MRIは内頸静脈血栓検出感度97%であること、血液培養は70%超でFusobacterium属が陽性となるが嫌気培養の困難さから偽陰性もありうること、βラクタマーゼ耐性βラクタム系を通常6週間投与すること、抗凝固療法の適応は議論があり脳静脈洞への進展や72時間で改善しない例などに限られること、適切な治療下でも死亡率が5〜18%であることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Anaerobic Infections(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)Fusobacterium属が口腔・消化管の常在フローラの一部であるグラム陰性桿菌で頭頸部感染の重要な嫌気性病原体であること、F. necrophorumがとくに青年・若年成人で扁桃周囲膿瘍・咽頭炎を起こす重要な病原体であり、これがLemierre症候群(内頸静脈の敗血症性血栓性静脈炎、しばしば敗血症性肺塞栓を伴う)へ進展しうる生命を脅かす病態の主要な原因菌であることを確認した閲覧 2026-08-11