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Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 疾患

咽後膿瘍

Retropharyngeal abscess

別名
咽後間隙膿瘍RPA
臓器系
耳鼻咽喉科感染症小児
科目
ENTInternal MedicinePediatrics
トピック
耳鼻咽喉科 40:扁桃炎、アンギーナ、伝染性単核球症耳鼻咽喉科 41:急性扁桃炎の合併症と扁桃周囲膿瘍耳鼻咽喉科 46:頸部奇形と頸部軟部組織の炎症性疾患内科学 I-05:上気道感染症・咽頭炎・中耳炎・副鼻腔炎・急性気管支炎小児科 1-23:小児の咽頭痛
上位概念
頸部膿瘍(深頸部膿瘍)
鑑別疾患
クループ・急性喉頭蓋炎・細菌性気管炎ベゾルド膿瘍急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍
合併症
敗血症Lemierre症候群縦隔炎
治療薬
クリンダマイシンセフトリアキソンアモキシシリンクラブラン酸
原因微生物
Streptococcus pyogenes (GAS)Staphylococcus aureusFusobacterium necrophorum
症状
発熱項部硬直斜頸流涎嚥下障害嚥下痛吸気性喘鳴
検査値
血算

🧠 全体像小児の気道緊急疾患であり、診断名にたどり着く前に「この子の気道は今すぐ危険か」を問うことが以上に強く要求される疾患である。5歳未満の幼児に多いのは、咽頭後間隙にある小児特有のリンパ節群がを契機に化膿性リンパ節炎から膿瘍へ進む解剖学的な理由による。頸部側面X線での椎前軟部組織の肥厚が最初の手がかりになり、造影CTで確定する。最も恐ろしい合併症は、咽頭後間隙の背側に連続する「」を伝って感染が胸腔へ下降するであり、気道確保・・排膿の3本柱を、診断確定を待たずに並行して進める姿勢が求められる。

病態:なぜ幼児に多いのか

咽頭後間隙には、・アデノイド・副鼻腔・中耳から流入するリンパ管を受ける咽頭後リンパ節群が存在するが、この小児特有のリンパ節群は通常4〜5歳までに退縮する1。乳幼児期にウイルス性が先行すると、このリンパ節群が化膿性リンパ節炎を起こし、そのまま膿瘍形成へ進展する——これが幼児にが集中する解剖学的な理由である1。年長児・成人ではこのリンパ節経路がすでに退縮しているため、代わりにへの外傷(魚骨・異物・器具操作など)が主因となり、全体の約1/4を占める1

flowchart TD
    A["乳幼児のウイルス性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper respiratory tract infection'>上気道感染</span>"] --> B["咽頭後リンパ節群<br>(4〜5歳までに退縮する小児特有の経路)へ波及"]
    B --> C["化膿性リンパ節炎"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retropharyngeal abscess'>咽後膿瘍</span>"]
    E["年長児・成人の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior pharyngeal wall'>咽頭後壁</span>外傷<br>(異物・器具操作など)"] --> D
    D --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='danger space'>危険間隙</span>を介して<br>後方・下方へ進展"}
    F -->|"はい"| G["縦隔と連続する経路を通り<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mediastinitis'>縦隔炎</span>へ波及"]
    F -->|"局所にとどまる"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airway obstruction'>気道狭窄</span>・呼吸窮迫"]

⚠️ の直後にある「」は縦隔と直接連続する。 膜の間に位置するこの間隙を感染が伝うと、他の頸部感染よりもはるかに自由に胸腔まで下降しうる2を診るとき、常にこの解剖学的な「抜け道」の存在を意識する必要がある。

原因菌は(GAS)、黄色ブドウ球菌、Fusobacterium属を含む嫌気性口腔常在菌などによるが多い1

臨床像

  • 発熱を伴う中毒様外観
  • 嚥下障害・、経口分泌物を処理できずをきたす
  • 、痛みのため頸部の伸展を拒み、患児は頸部を位に保とうとする1
  • 進行すると・頻呼吸・などの呼吸窮迫所見が加わる1
  • 診察ではの膨隆がみられることがある

⚠️ を、髄膜炎や整形外科的な問題と決めつけない。 発熱を伴うは髄膜炎の評価対象になりうるが、嚥下障害・を伴う場合はを含むを鑑別に加える必要がある。

診断

頸部側面X線は幼児での初期評価に適した検査で、椎前軟部組織の肥厚を評価する。感度80%・特異度100%とされ、椎前軟部組織の肥厚(小児ではC2で7mm超・C6で14mm超、成人のC6は約22mm)、またはの消失が異常所見とされる1。ただし正常でも除外はできず、臨床的疑いが強ければ造影CT(確定診断の、感度100%・特異度45%)へ進む1。小児ではを避けるため超音波が選ばれることもある。

血液検査ではを伴う血算がみられることが多い。全般では、好中球/リンパ球比8.02超・CRP 41.25 mg/L超・ESR 56.6 mm/h超がの必要性を予測する指標として報告されており2、画像所見と併せて排膿適応の判断材料になる。

flowchart TD
    A["発熱+嚥下障害/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drooling'>流涎</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nuchal rigidity (neck stiffness)'>項部硬直</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='torticollis'>斜頸</span>を疑う"] --> B["気道評価を最優先<br>(不安定なら無理に検査へ送らない)"]
    B --> C{"気道が安定しているか"}
    C -->|"不安定・呼吸窮迫あり"| D["監視下で気道確保を準備し<br>直ちに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='otorhinolaryngology (ENT)'>耳鼻咽喉科</span>・麻酔科を招集"]
    C -->|"安定"| E["頸部側面X線<br>(椎前軟部組織の肥厚)"]
    E --> F{"異常または臨床的疑いが強い"}
    F -->|"はい"| G["造影CT(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gold standard'>ゴールドスタンダード</span>)<br>または小児では超音波"]
    G --> H["広域<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV antibiotics'>静注抗菌薬</span>を開始<br>排膿の適応を評価"]

治療

治療は気道確保・広域・排膿の3本柱からなる。

  • 気道が不安定な場合は、監視下での気道確保を最優先し、・麻酔科を含むチームを直ちに招集する。咽頭を無理に刺激しない。
  • 経験的な広域としてクリンダマイシンやアンピシリン・を用い、24〜48時間の反応をみる1。気道リスクやが強く疑われる場合はセフトリアキソンなどを併用し画像評価を並行する。
  • 排膿()の適応は、膿瘍の積が2cm²を超える、抗菌薬投与24〜48時間で症状が改善しない、膿瘍径が2〜2.5cmを超える場合である1
  • 症状改善後はアモキシシリンまたはクリンダマイシン)へ切り替え、合計約14日間治療する1

⚠️ 無治療のまま進行すると、・窒息が死因の主体になる。 適切な診断・治療下でも成人の死亡率は最大2.6%に達しうるとされ1・早期治療が予後を大きく左右する。

見逃してはいけない合併症

  • を介した下方進展による、の最も恐ろしい合併症2
  • 敗血症:菌血症からの進展。
  • 頸動脈・への浸食、の敗血症性とそれに続く転移性感染で、代表的原因菌の*Fusobacterium necrophorum*は複数の抗菌薬にを示すため、メトロニダゾールまたはを3〜6週間要する2

まとめ

  • は主に5歳未満の幼児に多いで、を契機とした咽頭後リンパ節群の化膿性リンパ節炎から膿瘍形成へ進む(このリンパ節経路は4〜5歳までに退縮する)。年長児・成人ではの外傷が主因になる。
  • 発熱・嚥下障害・が主な臨床像で、進行すると呼吸窮迫を来す。
  • 頸部側面X線での椎前軟部組織の肥厚が初期評価の手がかりで、造影CTが確定診断のである。
  • 治療は気道確保・広域・排膿(適応を満たせば)の3本柱で、症状改善後はへ切り替え計14日間治療する。
  • 最も恐ろしい合併症はを介したへの進展で、他に敗血症・がある。

出典

  1. 1.Retropharyngeal Abscess(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)咽後膿瘍が主に5歳以下の小児に多い稀だが生命を脅かしうる感染症であること、幼児で咽頭後リンパ節が化膿性リンパ節炎を起こし膿瘍化する機序が主体でこのリンパ節群は通常4〜5歳までに退縮すること、年長児・成人では咽頭後壁の外傷が主因になり全体の約1/4を占めること、A群溶血性レンサ球菌・黄色ブドウ球菌・Fusobacterium属・Haemophilus属・嫌気性呼吸器常在菌による多菌種感染が多いこと、症状として発熱・嚥下障害・嚥下痛・経口分泌物の処理困難、項部硬直・斜頸・頸部伸展を痛みで拒む所見、含み声、開口障害、頸部リンパ節腫脹、呼吸窮迫(吸気性喘鳴・頻呼吸・陥没呼吸)が挙げられること、頸部側面X線での椎前軟部組織の異常閾値(小児ではC2で7mm超・C6で14mm超、または気液面・頸椎前弯消失)と感度80%/特異度100%、造影CTが確定診断のゴールドスタンダードで感度100%/特異度45%であること、治療は広域静注抗菌薬(アンピシリン・スルバクタムまたはクリンダマイシン)を24〜48時間試み、外科的排膿の適応は横断面積2cm²超・症状遷延・膿瘍が2〜2.5cm超であること、改善後は経口薬(アモキシシリン・クラブラン酸またはクリンダマイシン)で計14日間治療すること、無治療の咽後膿瘍が上気道閉塞・窒息を来し死因の主体となりうること、成人での死亡率が適切な診断・治療下でも最大2.6%に達しうることを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Deep Neck Infections(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)翼突下顎隙・咽後間隙の後方に位置する「危険間隙(danger space)」が翼突筋膜と椎前筋膜の間にあり縦隔と直接連続するため感染がここへ達すると縦隔炎へ自由に波及しうること、深頸部感染の診断には造影CTがゴールドスタンダードであること、好中球/リンパ球比8.02超・CRP 41.25 mg/L超・ESR 56.6 mm/h超が外科的排膿の必要性を予測する指標として報告されていること、Lemierre症候群は*Fusobacterium necrophorum*を代表的原因菌として内頸静脈の敗血症性血栓性静脈炎とそれに続く転移性感染を来し複数の抗菌薬に自然耐性を示すためメトロニダゾールまたはカルバペネム系を3〜6週間要することを確認した。閲覧 2026-08-11