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Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

クループ・急性喉頭蓋炎・細菌性気管炎

Croup, epiglottitis, and bacterial tracheitis

別名
急性声門下喉頭炎小児の上気道閉塞
臓器系
呼吸器感染症
科目
Pediatrics
トピック
小児科 2-39:急性喉頭蓋炎・細菌性気管炎・クループ小児科 30:閉塞性気管支炎・気管支喘息・急性声門下喉頭炎
鑑別疾患
アナフィラキシージフテリア咽後膿瘍急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍
関連疾患
気管支喘息細気管支炎(RSウイルス)
治療薬
デキサメタゾンブデソニドエピネフリンセフトリアキソンセフォタキシムバンコマイシンクリンダマイシン
原因微生物
Human parainfluenza virus 1, 2, 3, 4Haemophilus influenzaeStaphylococcus aureusStreptococcus pyogenes / GASStreptococcus pneumoniaeMoraxella catarrhalis
症状
吸気性喘鳴嚥下痛
画像所見
尖塔徴候オメガ型喉頭蓋

🧠 全体像:この3疾患は「上気道のどの高さが、どのくらいの速さで塞がるか」という一本の軸に並べると一望できる。が数日かけてじわじわ狭め、そのもの)が数時間で腫れ上がって蓋をし、から気管にかけて膿性のが溜まって物理的に詰まる。小児の気道は成人よりはるかに細く、半径がわずかに減るだけでが跳ね上がるため、同じ数mmの浮腫でも成人とは比較にならないを生む。したがって臨床のは「どの菌か」ではなく、この子の気道は今この場で確保する必要があるかである。は薬(ステロイド)で開く病気、人(気道確保のチーム)を呼ぶ病気、と役割を分けて覚える。

病態

閉塞の高さと速度で分ける

小児の喉頭は成人と比べてにあり、の高さ()にある。という完全な軟骨輪に囲まれているため、粘膜が腫れても外側へ逃げられず、内腔側にだけ膨らむ。これがが生じる解剖学的な理由である。

疾患 閉塞部位 主な機序 完成までの時間
(急性 の高さ) ウイルス性の 半日〜数日(が先行し、夜間に悪化)
細菌の直接侵襲による蜂窩織炎性腫脹 数時間
〜気管 気管粘膜のによる内腔閉塞 ウイルス感染の数日後に急速悪化(

💡 「速い=細菌、遅い=ウイルス」という単純な図式ではなく、はウイルス性の経過中に細菌がして発症するというが本態である。したがって「として治療していた児が、なぜか高熱を出して悪化する」という経過そのものがの診断の入口になる。

flowchart TD
    A["小児の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inspiratory stridor'>吸気性喘鳴</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seal-like barking cough'>犬吠様咳嗽</span>"] --> B["閉塞の高さはどこか"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Supraglottic'>声門上</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiglottis'>喉頭蓋</span>)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute epiglottitis/supraglottitis'>急性喉頭蓋炎</span>"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subglottic'>声門下</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cricoid cartilage'>輪状軟骨</span>)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='croup'>クループ</span>"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subglottic'>声門下</span>〜気管<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial tracheitis'>細菌性気管炎</span>"]
    C --> F["細菌の直接侵襲<br>数時間で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complete occlusion'>完全閉塞</span>へ"]
    D --> G["ウイルス性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal edema'>粘膜浮腫</span><br>ステロイドで縮小する"]
    E --> H["ウイルス感染後の細菌<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary infection'>二次感染</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='purulent pseudomembrane'>膿性偽膜</span>が内腔を塞ぐ"]
    F --> I["気道確保チームを先に呼ぶ"]
    G --> J["薬物治療で外来管理が可能"]
    H --> I

起炎病原体

  • :ヒト1型が最多で、次いで3型・2型。RSウイルス、、SARS-CoV-2なども原因となる。生後6か月〜3歳が好発年齢で、秋〜初冬に流行する。
  • :⭐ の導入により、かつて圧倒的多数を占めたHaemophilus influenzae type b による小児例は激減し、発症年齢の中心も年長児・成人側へ移った。現在の小児例の主なStaphylococcus aureusStreptococcus pyogenes)、Streptococcus pneumoniaeであり、非莢膜型H. influenzaeもワクチン接種児に起こりうる。⚠️ 「ワクチンを打っているからではない」という推論は成り立たない。
  • S. aureusが最多で、MRSAの報告も少なくない。S. pyogenesS. pneumoniaeMoraxella catarrhalisH. influenzaeが続く。

⚠️ )として現れるジフテリアは、ワクチンの低い地域や未接種児では今も鑑別に残る。灰白色で剥がすと出血すると、によるを見たらする。

臨床像

3疾患の鑑別

項目
好発年齢 生後6か月〜3歳 2〜7歳(ワクチン普及後は年長児・成人にも分散) 3〜8歳(幅広い)
起炎病原体 S. aureus、A群S. pneumoniae、非莢膜型H. influenzae S. aureus(MRSA含む)、S. pyogenesS. pneumoniae
発症速度 数日(前駆する 数時間で急速に進行 ウイルス性の後、数時間〜1日で
体位 特徴的な体位はとらない を保つ 臥位を嫌うことが多いがではない
嚥下障害・ なし ⭐ あり(唾液を飲み込めず 通常なし
が特徴 目立たない(咳よりが前景) 強い湿性の咳、濃厚な
嗄声 こもった声(hot potato voice)、嗄声は目立たない 嗄声
発熱 〜中等度 高熱 高熱
なし(全身状態は概ね良好) ⭐ あり ⭐ あり
画像所見 頸部像は非特異的、気管内に不整な膜様陰影
への反応 一時的に改善 反応しない 反応しない・不十分
治療の中心 ステロイド単回投与+(必要なら) 気道確保+ 気道確保・

⭐ 試験でも実臨床でも最も鋭い分岐は「があるか、があるか」である。ならが乏しく固定なら様に始まったのに高熱・・アドレナリン無効ならを考える。

クループの重症度

重症度 所見
軽症 なし、のみ、は軽度
中等症 あり、明らかながあるが意識・気流は保たれる
重症 著明な・興奮、気流の減少、低酸素
傾眠、チアノーゼ、、⚠️ 喘鳴が消える

⚠️ 喘鳴の消失は改善ではなく、気流そのものが失われたでありうる。喘鳴の音量ではなく、・胸郭の動きで判断する。重症度の記述には Westley croup score が用いられるが、これは研究用にが検証された尺度であり、点数のみで入院を決める運用は推奨されない。

診断

3疾患とも臨床診断であり、検査は診断の確定ではなく気道確保の準備に従属する。

  • では頸部X線・をルーチンに行わない。は感度・特異度とも十分でなく、典型例では撮影する意味がない。異物、アナフィラキシーによるなど非典型例の除外に限って画像を検討する。
  • では、頸部側面X線のは約2割で偽陰性となる。⚠️ 画像検査のために放射線室へ児を移動させたり、気道確保より優先したりしてはならない。
  • は気管支鏡(または挿管時の観察)で気管粘膜の発赤・潰瘍とを確認し、同時に分泌物培養を採取するのが確定診断となる。

⚠️ 急性喉頭蓋炎を疑ったときの禁忌事項

以下はを誘発しうるため、気道確保の準備が整うまで行わない

  • で咽頭を診察しない。
  • 仰臥位にしない。児が自分で選んだ体位(多くは)をそのまま保たせる。
  • 不必要に泣かせない。、採血、採取、体温測定などの侵襲的・不快な処置を先行させない。
  • 児を保護者から引き離さない。酸素は必要ならマスクを顔に押し当てず、保護者に持たせて近づける(blow-by)。

💡 これらがすべて「泣かせない・寝かせない・触らない」に集約されるのは、による陰圧の増大と仰臥位によるの作用が、腫脹したへ引き込むためである。安定して見える児が処置をきっかけに数十秒でする、という報告が繰り返されてきたことがこの原則の根拠である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper airway obstruction'>上気道閉塞</span>が疑われる児"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic appearance'>毒性外観</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drooling'>流涎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sitting position'>坐位</span>固定はあるか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute epiglottitis/supraglottitis'>急性喉頭蓋炎</span>を第一に考える"]
    C --> D["⚠️ 咽頭診察・仰臥位・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crying (infant cry, clinical sign)'>啼泣</span>を誘発する処置をしない"]
    D --> E["麻酔科・耳鼻科・小児<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care'>集中治療</span>を直ちに招集"]
    E --> F["手術室など管理環境で<br>自発呼吸を保ったまま<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endotracheal intubation'>気管挿管</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical airway'>外科的気道</span>確保も準備"]
    F --> G["気道確保後に血液培養・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV access'>静脈路確保</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV antibiotics'>静注抗菌薬</span>を開始"]
    B -->|"なし"| H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seal-like barking cough'>犬吠様咳嗽</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inspiratory stridor'>吸気性喘鳴</span>があるか"}
    H -->|"あり"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='croup'>クループ</span>として重症度を評価"]
    I --> J["ステロイド単回投与<br>中等症以上は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nebulized epinephrine'>アドレナリン吸入</span>"]
    J --> K{"高熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic appearance'>毒性外観</span>が出現し<br>治療に反応しないか"}
    K -->|"はい"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial tracheitis'>細菌性気管炎</span>を疑う<br>気管支鏡・気道確保・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV antibiotics'>静注抗菌薬</span>"]
    K -->|"いいえ"| M["観察のうえ外来管理を検討"]
    H -->|"いいえ"| N["異物・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retropharyngeal abscess'>咽後膿瘍</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angioedema'>血管性浮腫</span>などを鑑別"]

治療・管理

クループ

重症度を問わず全例にの単回投与を行う。軽症例でもステロイドを投与すると再受診が有意に減る。

  • 投与量な標準量は 0.6 mg/kg(単回、上限10 mg程度)だが、系統的レビューでは 0.15 mg/kg と 0.6 mg/kg の差は投与2・6・12時間の時点では認められず、24時間時点でわずかに標準量が優る程度にとどまる。再受診率、在院期間、追加治療の必要性にも差はない。英国のBNFc等では 0.15 mg/kg を初回量として採用している。施設の基準に従い、低用量でも臨床的に十分であるという理解が現行の到達点である。
  • :経口を優先する。嘔吐や経口不能なら静注・筋注、あるいは吸入(2 mg単回)で代替する。⚠️ しても追加効果はなく、併用はルーチンには推奨されない。も使用されるが、の方が再受診・を約半減させる。
  • エピネフリン吸入を伴う中等症以上に追加する。効果は30分で明瞭だが、⚠️ 2時間後には消失するため、投与後は2〜4時間の観察を行い、症状がしなければ帰宅可能と判断する。効果消失後に元より悪化する(リバウンド)というかつての懸念は否定されているが、「効いたから帰してよい」ではなく「効果が切れた後も落ち着いているから帰せる」と考える。
  • 加湿療法:⚠️ 温・冷いずれの加湿空気も、系統的レビューでスコアの改善を示せていない。標準治療の代替にしてはならずは真菌汚染の懸念もあり推奨されない。
  • ⚠️ 抗菌薬は原則不要である。典型的なでの細菌感染合併は1000例に1例未満とされる。
  • 低酸素があれば酸素を投与し、では熟練者による気道確保とPICU管理を準備する。鎮静薬を安易に用いない。

急性喉頭蓋炎

治療の本体は薬ではなく気道確保である。

  1. 麻酔科・耳鼻科(確保が可能な)・小児を直ちに招集する。
  2. 手術室など管理された環境で、自発呼吸を温存したまま下に喉頭を観察し、通常より細いで挿管する。同時にの準備を整えておく。
  3. 気道が確保できてから、血液培養・表面の培養を採取する。
  4. H. influenzaeS. pneumoniae・A群をカバーする第三世代セファロスポリン(セフトリアキソンまたは)を基本とする。⚠️ 現在の主要なの一つであるS. aureusを考慮し、地域のMRSA分離率が高い場合やが強い場合にはバンコマイシンまたはクリンダマイシン併用する化し、通常7〜10日間投与する。
  5. ステロイドとの有効性を支持する十分なエビデンスはなく、これらを気道確保の代わりにしてはならない。
  6. Hib による症例では、未接種・不完全接種のに対するリファンピシンによる予防投与を当局の指針に従って検討する。

細菌性気管炎

⭐ 挿管を要した割合は報告により4割台から9割超まで大きくばらつき、単一の数値では語れない。それでも多くの症例が挿管による気道確保を要し、大半がで管理される点は一貫している。「の重症例」ではなく「気道が物理的に詰まる病態」として扱う。

  • 吸引可能な内径ので気道を確保し、頻回のを除去する。分泌物により自体が閉塞しうるため、繰り返す吸引と観察が治療そのものになる。
  • 気管支鏡でと潰瘍を確認し、培養を採取する(診断と治療を兼ねる)。
  • :MRSAを含むS. aureus細菌をカバーする。バンコマイシン(またはクリンダマイシン)+第三世代セファロスポリンの併用が代表的な経験的レジメンで、培養判明後に化する。
  • ⚠️ とステロイドは無効であり、これらへの反応の乏しさは診断の手がかりになる一方、治療として期待してはならない。

まとめ

  • 3疾患は「閉塞の高さ(/気管)」と「完成までの速度」で整理する。は薬で開く病気、は人(気道確保チーム)を呼ぶ病気である。
  • 鑑別の要はの3点。固定・高熱は様の経過に高熱と治療抵抗性が重なればを疑う。
  • ⚠️ では、による咽頭診察・仰臥位・不必要に泣かせる処置をしない。頸部側面X線のは約2割が偽陰性で、いかなる検査も気道確保より優先されない。気道確保は手術室など管理環境で熟練者が行う。
  • 導入後にS. aureus・A群S. pneumoniaeへ移った。第三世代セファロスポリンを基本に、MRSAを含むS. aureusカバーの併用を状況に応じて加える。
  • は全重症度で単回投与(0.15〜0.6 mg/kg、低用量でも臨床的に同等)。中等症以上ではエピネフリン吸入を追加し、効果が2時間で消えるため2〜4時間観察してから帰宅を判断する。加湿療法は有効性が示されておらず、抗菌薬も原則不要である。
  • による物理的閉塞であり、多くが挿管・を要する。頻回吸引とMRSAを含むS. aureusをカバーするが治療の柱で、・ステロイドは無効である。