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Imaging findings · Published

母指徴候

Thumb sign

別名
サムサイン
臓器系
呼吸器小児
科目
Pediatrics
トピック
小児科 2-39:急性喉頭蓋炎・細菌性気管炎・クループ

🧠 全体像をめぐる最大の教訓は、読み方の巧拙ではなく「を疑ったら画像より気道確保が先」という一点に尽きる1。この所見は感度が十分でなく、あってもなくても最優先の行動は変わらない。が答えるべきは良悪性の断定ではなく、臨床的に安定していて画像を検討してよいか、それとも直ちに気道確保チームを呼ぶべきかという限定的な次の行動だけである。

⚠️ 気道閉塞を疑う患者を、検査のためだけに一人で放射線室へ送らない。仰臥位にしないで咽頭を診察しないや採血で不必要に・興奮させない——これらはいずれも腫脹したへ引き込み、安定していた患者を数十秒でさせうる1

所見の定義

頸部側面像で評価する。正常なは薄く尖った葉状に写り、厚みは平均3〜5mm程度とされる。では蜂窩織炎性の腫脹によりが丸みを帯びて突出し、親指の先を横から見たような陰影として写る1

の肥厚は重要な併存所見であり、の腫大と同時に起こればに前後2つの母指状陰影が並ぶ「」として写ることがある2

としばしば対で語られるが、撮影方向・部位・機序・対応する疾患のすべてが異なる別の所見であり、混同しない。

撮影方向
部位
機序 の蜂窩織炎性腫大による突出 による対称性の先細り
対応する疾患
臨床的な 数時間でへ進行しうる気道緊急症 通常は外来治療で対応できる

モダリティと写り方

検査 位置づけ 写り方
臨床的に安定している場合のみ、気道確保チームのもとで検討する。撮影のためだけに患者を一人にしない1 の丸い腫大)。の肥厚が同時に写ることがある2
単独ではの評価に用いない。病変の除外目的で側面像と併せて撮ることがある では通常異常を示さない。側の所見
非典型例・早期例で撮影されることがある。ルーチンの適応ではない1 の腫脹、周囲の膿瘍の有無を評価する
確定診断。気道確保が可能な環境で行う。成人では耳鼻科医が麻酔科医のもとでを行う1。不安定な小児では気道確保より先に咽頭診察そのものを行わない 腫大したを直接視認する
超音波 主に成人患者で用いられる。ベッドサイドで反復評価しやすい1 頸部の縦断で「」(腫大したによるP字型の像)を示す

解釈を乱す要因

  • 所見の有無・程度は臨床的な気道と対応しない。が乏しくても、固定などの臨床像が典型的ならを否定してはならず、画像より臨床判断を優先する。
  • の肥厚が腫大と同時に起こると、前後2つの母指状陰影が並ぶとして写り、単発の腫瘤様陰影と見誤りやすくなる2
  • 成人には厚7mmという定量的な基準がある1一方、小児では日常診療上「丸み・突出」という定性的な印象に頼ることが多い。

評価の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drooling'>流涎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inability to swallow'>嚥下不能</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tripod position'>三脚位</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='inspiratory stridor'>吸気性喘鳴</span>を伴う患者"] --> B{"気道は安定しているか"}
    B -->|"不安定・進行性"| C["画像より先に気道確保チームを招集<br>(麻酔科・耳鼻科・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care'>集中治療</span>)"]
    C --> D["管理環境下で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laryngoscopy'>喉頭鏡</span>を用いた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endotracheal intubation'>気管挿管</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical airway'>外科的気道</span>も準備"]
    B -->|"安定"| E["臨床像を評価<br>発症速度・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic appearance'>毒性外観</span>・体位"]
    E --> F{"画像で診断や鑑別が必要か"}
    F -->|"必要"| G["気道確保チーム<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elective'>待機</span>のもと<br>頸部側面X線を撮影"]
    G --> H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thumb sign'>母指徴候</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aryepiglottic fold'>披裂喉頭蓋ヒダ</span>肥厚で<br>説明できるか"}
    H -->|"典型的"| D
    H -->|"非典型・所見に乏しい"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laryngeal endoscopy'>喉頭内視鏡</span>で直接視認<br>(気道確保可能な環境で)"]
    I --> D
    F -->|"典型像のみで確定的"| D

⚠️ 感度は十分ではなく、偽陰性ができない割合で生じる。頸部側面X線は約2割の症例で診断に失敗するとされ1、所見が無いことをもってを除外できない。臨床像が強く疑わせるなら、画像の結果を待たずに気道確保の準備を進める。

紛らわしいもの

⚠️ 小児の正常はオメガ型の構造を取ることがあり、側面像で肥厚した母指状に見えうる。側方の襞が内側へ巻き込む形状のため、投影の向きによっては両側の縁が重なって実際より厚く写る。自体が薄く保たれていれば、この見かけの肥厚を疑う手がかりになる。

紛らわしいもの 見分けるポイント
(正常変異) は薄いまま保たれる。判断に迷う例は内視鏡で直接視認する
ではではなく椎前軟部組織の肥厚として現れる、別部位の所見
手関節・ にある身体所見で、名前が同じだけの完全に別の徴候。画像所見ではない
感染するとと同様の腫脹・症状で発症しうる。保存的治療で炎症が引いた後や内視鏡で構造として同定される3
アナフィラキシーやなどが原因。発症の速さや蕁麻疹・粘膜以外の浮腫を伴う点が手がかりになる
熱傷・ ・吸入などの受傷歴が先行する。高熱・といった感染徴候を欠くことが多い

まとめ

  • 最大の教訓は「を疑ったら画像より気道確保が先」であること。が決めるのは診断の断定ではなく次の行動である。
  • 気道閉塞を疑う患者を検査のためだけに一人で放射線室へ送らない。仰臥位・での咽頭診察・不必要にさせる処置はを招きうるため行わない。
  • 所見はでのの丸い腫大で、の肥厚が併存するととして写ることがある。が確定診断で、気道確保が可能な環境で行う。
  • 感度は約8割で、約2割は偽陰性となる。所見が無いことはの除外にならない。
  • の正常変異、、熱傷・などが紛らわしい所見・鑑別として挙がる。
  • 導入後は小児例が減り、現在は成人が小児の約3倍多い。ワクチン接種歴があることはを否定する材料にならない。

出典

  1. 1.Epiglottitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)頸部側面X線での母指徴候の感度が約80%で、約2割の症例で診断に失敗する(偽陰性)こと、成人では喉頭蓋の厚さ7mm(正常平均は3〜5mm)を基準にすると感度・特異度が100%になるとされること、超音波では縦断走査で「アルファベットPサイン」が見られ主に成人で用いられること、Hibワクチン導入後に小児急性喉頭蓋炎の発症率が減少し、小児対成人の症例比が1980年の2.6:1から1993年には0.4:1へ変化して現在は成人が小児の3倍多いこと、不安定な小児患者では診察・喉頭鏡・検査・画像のいずれも気道確保に先行させず児を一人にして撮影へ送らないこと、気道確保を抗菌薬投与より優先すべきこと、成人の評価では耳鼻科医による軟性鼻咽喉内視鏡・喉頭鏡検査が麻酔科医待機のもとで推奨されること、鑑別診断に血管性浮腫・細菌性喉頭気管気管支炎(クループ)・扁桃周囲膿瘍・咽後膿瘍が挙げられることを、Evaluation・Epidemiology・Etiology・Treatment/Management各節で確認した。閲覧 2026-08-04
  2. 2.Double thumb sign in a case of epiglottitis(Radiology Case Reports・2021)57歳男性の急性喉頭蓋炎例で、頸部側面X線上に前方の喉頭蓋陰影と後方の披裂軟骨陰影という2つの母指状陰影(二重母指徴候)が同時に写ったことを自験例としてCase Report節で報告し、喉頭蓋の腫大に披裂喉頭蓋ヒダの肥厚が併存しうることを確認した。閲覧 2026-08-04
  3. 3.An unusual presentation of an infected vallecular cyst presenting as supraglottitis(BMJ Case Reports・2013)50歳男性が喘鳴・嗄声・嚥下困難・発熱で受診し、頸部側面X線と軟性喉頭鏡で喉頭蓋周囲の著明な腫脹を認めて急性喉頭蓋炎(supraglottitis)として初期治療されたが、保存的治療後に感染した喉頭蓋谷嚢胞(vallecular cyst)と判明した自験例を、Case presentation・Investigations・Treatment各節で確認した。閲覧 2026-08-04