疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 疾患

頸部膿瘍

Deep neck abscess

別名
深頸部膿瘍深頸部感染症Deep neck infectionDeep neck space infection
臓器系
耳鼻咽喉科感染症
科目
ENTPediatrics
トピック
耳鼻咽喉科 45:頸部の解剖:頸部間隙、血管、神経、リンパ系耳鼻咽喉科 46:頸部奇形と頸部軟部組織の炎症性疾患耳鼻咽喉科 41:急性扁桃炎の合併症と扁桃周囲膿瘍小児科 1-23:小児の咽頭痛
合併症
Lemierre症候群
続発疾患
縦隔炎
治療薬
バンコマイシンアンピシリンクリンダマイシンメトロニダゾール
原因微生物
Streptococcus pyogenes (GAS)Staphylococcus aureusFusobacterium necrophorumPrevotella intermedia
症状
発熱開口障害嚥下障害吸気性喘鳴
検査値
CRP赤沈
画像所見
椎前軟部組織腫脹気液面
下位分類
咽後膿瘍
原因となる疾患
化膿性リンパ節炎

🧠 全体像は個々の病名より先に解剖を押さえるべき領域である。頸部を仕切る筋膜が作る「区画」——傍咽頭間隙、間隙、扁桃周囲——のどこに感染が入ったかで、広がる方向と危険性がほぼ決まる。同じ「頸部の腫れ」でも、区画によって気道を塞ぐか、縦隔まで直通するか、を巻き込むかが変わるため、診療はまず「どの間隙か」を地図の上に置くことから始まる。

解剖:筋膜間隙が感染の行き先を決める

間隙 由来・位置 波及先・危険性
扁桃周囲 からの直接進展 へ波及しうる最も頻度の高い起点
傍咽頭間隙 間隙の後方、咽頭粘膜間隙の外側 (内頸動静脈・脳神経)に近接し、の経路になる
頬咽頭筋膜との間、頭蓋底から付近まで を越えるとへ連続する
膜の間、頭蓋底から・横隔膜方向へ連続 正中隔壁がなく縦隔と直接連続する、で最も危険な経路
間隙(舌下・下を含む) 下顎が主因 両側性に広がると口底蜂窩織炎(Ludwigとなり気道閉塞を来す
flowchart TD
    A["感染源(歯性・扁桃咽頭・耳性など)"] --> B{"どの筋膜間隙に入るか"}
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='submandibular'>顎下</span>間隙(舌下+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='submandibular'>顎下</span>)"]
    C --> D["舌の挙上・後方偏位<br>口底蜂窩織炎=気道閉塞"]
    B --> E["扁桃周囲 → 傍咽頭間隙・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retropharyngeal space'>咽後間隙</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alar fascia'>翼状筋膜</span>を越えて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='danger space'>危険間隙</span>へ"]
    F --> G["正中隔壁なし=縦隔と直接連続"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carotid sheath'>頸動脈鞘</span>へ波及"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal jugular vein thrombophlebitis'>内頸静脈血栓性静脈炎</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lemierre syndrome'>Lemierre症候群</span>"]

⚠️ 気道確保が最優先である。 間隙の両側性感染(口底蜂窩織炎)では、舌が挙上・後方偏位し、気道閉塞へ進行しうる1

⚠️ は縦隔まで直通する。 正中隔壁がないため、いったんこの間隙に感染が達すると、他の頸部感染よりもはるかに自由に胸腔まで下降し、へ進展しうる2

⚠️ )に注意する。 傍咽頭間隙・への波及はの敗血症性を来し、そこからの転移性感染(肺塞栓像など)を伴いうる。

成因

成人ではが最多で、次いで扁桃が原因となる。小児では扁桃・咽頭由来が最多である2間隙の感染のうち口底蜂窩織炎(Ludwig)に限れば、下顎の第2・第3が原因の約90%を占める1

原因菌は多くが複数菌種感染で、Streptococcus pyogenes (GAS)Staphylococcus aureusに加え、Prevotella intermediaなどの口腔嫌気性菌が関与する。とりわけFusobacterium necrophorumは、傍咽頭間隙・へ波及した際のの代表的原因菌であり、常に念頭に置く必要がある。

💡 成人と小児で感染源が異なる理由は、口腔・咽頭のの違いをそのまま反映している。 成人は・歯周病のが高くが起点になりやすいのに対し、小児は扁桃・アデノイドが免疫学的に活発でウイルス性に続発する扁桃炎・咽頭炎が起点になりやすい。同じ「」でも、年齢層によって「まず歯を診るか、まず咽頭を診るか」の初期評価の重点が変わる。

💡 同じ側の・化膿性甲状腺炎を繰り返す小児は、鰓裂異常やを疑う。 第3・第4鰓裂由来の瘻孔はと交通することがあり、通常のだけでは再発を繰り返す(先天性の瘻孔そのものを切除しない限りする)。

臨床像

  • 発熱、・腫脹、嚥下障害
  • 喘鳴・、呼吸困難、嗄声の増悪はを示す。
  • 口底蜂窩織炎では、口腔底の・挙上、、両側性の腫脹(いわゆる「牛様頸部」)が特徴的である1

診断

造影CTが感染源・進展範囲の診断におけるである2病変では側面X線で椎前軟部組織腫脹が初期評価の手がかりになるが、確定は造影CTで行い、の有無で膿瘍形成を評価する。

血液検査ではCRPなどの炎症所見に加え、好中球/リンパ球比がの必要性を予測する指標として報告されている(好中球/リンパ球比8.02超、CRP 41.25 mg/L超、ESR 56.6 mm/h超)2

治療

  1. 気道確保: 気道が不安定、あるいは口底蜂窩織炎など気道閉塞のリスクが高い病態では、・麻酔科を含むチームでなどによる気道確保を最優先する2
  2. 最小の膿瘍を除き、を要する2
  3. 広域 GAS黄色ブドウ球菌Fusobacterium necrophorumなどの口腔嫌気性菌を含むを想定し、バンコマイシンアンピシリン配合)、クリンダマイシンとして一般的に用いられ、メトロニダゾールを併用することが多い2

合併症

⚠️ を介した、傍咽頭間隙・を介した)が代表的な致死的合併症である。いずれも「どの間隙に入ったか」という解剖から予測できる進展経路であり、治療開始後も進展の有無を再評価し続ける必要がある。

まとめ

  • は、頸部の筋膜間隙という「区画」の解剖が感染の広がる方向と危険性を決める。
  • は正中隔壁がなく縦隔まで直通し、間隙の両側性感染は口底蜂窩織炎として気道を塞ぐ。
  • 成人は、小児は扁桃・咽頭が最多の原因で、反復例では鰓裂異常・を疑う。
  • 診断は造影CTが。治療は気道確保を最優先に、と広域を組み合わせる。
  • 合併症は経由のと、経由のである。

出典

  1. 1.Deep Neck Infections(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)深頸部の中層筋膜が咽頭・喉頭・気管・上部食道・甲状腺/副甲状腺を包み、扁桃・咽頭・喉頭由来の感染が副咽頭間隙・咽後間隙を侵すこと(Pathophysiology節)、翼状筋膜と椎前筋膜の間の「危険間隙」が縦隔と連続しているため上気道消化管由来の感染がここへ達すると自由に縦隔炎へ波及しうること(Pathophysiology節)、口底蜂窩織炎(Ludwig angina)は第3大臼歯由来が多く未治療では生命を脅かす気道閉塞に至ること、流涎・嚥下不能・開口障害・口腔底の硬結と挙上を呈すること(History and Physical節)、成人の深頸部感染の最多原因は歯性・歯周組織で次いで扁桃であり、小児では扁桃・咽頭が最多であること(Etiology節)、造影CTが感染源と進展範囲の診断におけるゴールドスタンダードであること(Evaluation節)、気道確保を最優先し多くは待機的挿管で確保すべきこと、最小の膿瘍以外は外科的ドレナージを要すること、初期抗菌薬にはナフシリンまたはバンコマイシン+ゲンタマイシン/トブラマイシン、アンピシリン・スルバクタム、クリンダマイシンが一般に用いられること(Treatment/Management節)、好中球/リンパ球比8.02超・CRP 41.25 mg/L超・ESR 56.6 mm/h超が外科的ドレナージ必要性の予測因子として報告されていること(Evaluation節)を確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Ludwig Angina(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)口底蜂窩織炎(Ludwig angina)が口腔底の舌下・オトガイ下・顎下の3間隙を侵す蜂窩織炎であること(Introduction節)、舌下・顎下両間隙への波及が舌の挙上と気道閉塞につながること(Pathophysiology節)、下顎の第2・第3大臼歯の歯性感染が口底蜂窩織炎の原因の90%を占めること(Etiology節)、治療は気道確保・広域静注抗菌薬・膿瘍があれば外科的ドレナージであること(Treatment/Management節)を確認した。閲覧 2026-08-11