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Drug Atlas · C8 Antibiotics / 抗菌薬 · 必修

アンピシリン

ampicillin

分類
Antibiotics / 抗菌薬
商品名(日本)
ビクシリン
商品名(EU)
Standacillin
科目
Pharmacology
トピック
C8: Penicillins
禁忌疾患
伝染性単核球症
標的微生物
Listeria monocytogenesEnterococcus faecalisEnterococcus faeciumStreptococcus agalactiae / GBSStreptococcus pyogenes / GASStreptococcus pneumoniae
副作用
下痢皮疹
相互作用
アロプリノール
自然耐性の微生物
Acinetobacter baumanniiAeromonasBacillus cereusEnterobacter cloacaeKlebsiella pneumoniaeMycoplasma genitaliumMycoplasma hominisMycoplasma pneumoniaeProteus vulgarisPseudomonas aeruginosaSerratia marcescensUreaplasma urealyticum
対象疾患
化膿性関節炎(敗血症性関節炎)壊死性腸炎感染性心内膜炎口底蜂窩織炎根尖性歯周炎細菌性髄膜炎産褥敗血症・産褥感染新生児敗血症前期破水早産陣痛・早産頸部膿瘍
原因となる疾患
クロストリディオイデス・ディフィシル感染症

🧠 全体像:アンピシリンはアモキシシリンとがほぼ同一のだが、経口吸収が悪い(約40%)ぶん静注で使う薬という棲み分けになっている。だから実臨床でのアンピシリンの居場所は外来ではなく、Listeriaを外せない髄膜炎のと新生児敗血症・GBSという、静注アクセスが前提の重症・周産期領域に集中する。もう一つの軸は「なぜEnterococcusとListeriaにはセファロスポリンが効かないのか」——両者はセファロスポリンに対するを持つ菌であり、βラクタマーゼの問題ではなくそのものが結合しにくい。だからこの2菌をカバーする責任は、広域セファロスポリンではなくアンピシリン(またはペニシリン)が単独で背負うことになる。

薬効群の中での位置づけ

型 代表 広がった範囲 弱点
・V・ ・梅毒 βラクタマーゼに弱い。グラム陰性に無効
・ MSSA には無効
アンピシリン・アモキシシリン Enterococcus・Listeria・一部のグラム陰性桿菌 素のβラクタマーゼに弱い
Pseudomonas aeruginosa 単剤では耐性化しやすい

⭐ アンピシリンとアモキシシリンの違いは「経口か静注か」に尽きる。 スペクトラムは同一だが、アンピシリンはが約40%と低く食事でさらに低下するため、現在の経口の主役はほぼアモキシシリンに譲った。アンピシリンが生き残っているのは静注製剤としての役割であり、髄膜炎・・心内膜炎(Enterococcus)・GBS予防という「が前提の場面」に特化している。

機序

flowchart TD
    A["アンピシリンが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='penicillin-binding protein'>PBP</span>に共有結合"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transpeptidase'>トランスペプチダーゼ</span>反応を阻害"]
    B --> C["細胞壁の架橋ができず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteriolysis (lysis)'>溶菌</span>"]
    D["Listeria・Enterococcusは<br>セファロスポリンに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low affinity'>低親和性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='penicillin-binding protein'>PBP</span>を持つ"] --> E["セファロスポリンは結合できず無効<br>(βラクタマーゼの問題ではない)"]
    A -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='penicillins'>ペニシリン系</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='penicillin-binding protein'>PBP</span>には結合できる"| F["Listeria・Enterococcusにも有効"]

💡 「髄膜炎にアンピシリンを足す」判断はβラクタマーゼの話ではない。 Listeria monocytogenesはに本質的に耐性なので1、セフトリアキソン・では穴が空く。そこを埋めるのがアンピシリン(またはアモキシシリン・)である。Enterococcusも同様の理由でセファロスポリンが無効な代表例である。

⚠️ どの患者に足すかは指針で違うので、年齢の閾値を一つだけ覚えない。

指針 をカバーする対象 バンコマイシンの位置づけ
2025(世界向け) 60歳超・妊娠・免疫不全(免疫抑制療法、臓器移植後、悪性腫瘍、進行、糖尿病、、肝硬変、)のいずれか1つ以上で追加(強い推奨)1 ペニシリンまたは耐性の肺炎球菌が多い地域に限った条件付き推奨1
2016(欧州) 50歳超、または18〜50歳での危険因子(糖尿病・の使用・悪性腫瘍などの)がある場合に追加。用量は2 g 4時間ごと2 肺炎球菌のペニシリン感受性が低下している状況で加える(リファンピシンも代替)。感性ならセファロスポリン単剤でよい2

新生児(1か月未満)はどちらの指針でも別枠で、はアモキシシリン/アンピシリン/ペニシリンにかアミノグリコシド系を併せる形を示している2。

💡 閾値が50歳か60歳かで揺れるのは、「免疫正常な若年者にもまれに髄膜炎が起こる」ことをどこまで拾うかの判断だからである。 はオランダの全国調査で50歳未満・免疫正常の2594人(1.5%)にが生じたことを引き、この稀な可能性まで拾うなら全成人にアモキシシリンまたはアンピシリンを加えることになると述べている2。年齢は確率のであって生物学的な境界ではない。

薬物動態

項目 値・特徴
約40%(アモキシシリンの約75〜90%より大幅に低い)。食事でさらに低下
主にIV/IM。経口製剤もあるが吸収の悪さから優先度は低い
分布 炎症時は髄液へも移行。胎盤を通過する
代謝 ほとんど受けない
排泄 が主体(未変化体)。腎機能低下でが要る
半減期 約1時間

適応

領域 使いどころ
中枢神経 の。Listeriaカバーとしてセフトリアキソン・に追加する。対象は 2025が60歳超・妊娠・免疫不全1、 2016が50歳超または危険因子のある18〜50歳2で、新生児は別枠
新生児 の第一選択(アンピシリン+)。GBS・Listeria・腸球菌をアンピシリンが、大腸菌などのグラム陰性桿菌をがカバーする
産科 GBS陣痛時予防(第一選択はだが代替可)、(PPROM)の(アンピシリン48時間静注→経口アモキシシリンへ)
心内膜炎 Enterococcus心内膜炎でと併用()
でクリンダマイシン+に反応不良、または腸球菌を疑う場合に追加

用法・用量

IV/IMが基本。髄膜炎のでは成人で1回2 gを4時間ごとが目安となる2。では体重・あたりで計算しと併用する。腎機能低下例ではを延ばす。実際の用量は適応・年齢・体重・腎機能・製剤で変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

副作用

頻度 内容
高頻度 下痢、悪心
注意 皮疹。IgE介在の蕁麻疹(真のアレルギー)と、感染・併用で出やすい遅発性のを区別する
重篤・まれ アナフィラキシー、、間質性腎炎、高用量・腎不全での痙攣

まとめ

  • アモキシシリンとが同じ。違いは経口吸収の悪さで、実質的に静注薬として使われる。
  • Listeria・Enterococcusはセファロスポリンにを持つため本質的に耐性。カバーする責任はアンピシリン()が負う。
  • 髄膜炎のではListeriaカバーとしてに追加する。対象の線引きは指針で違い、 2025は60歳超・妊娠・免疫不全1、 2016は50歳超または危険因子のある18〜50歳2である。
  • の第一選択はアンピシリン+。
  • では高率に発疹。併用でも発疹頻度が上がる。
  • 。腎機能低下では間隔を延ばす。高用量・腎不全で痙攣リスク。

出典

  1. 1.WHO guidelines on meningitis diagnosis, treatment and care(World Health Organization・2025)IRISの全文PDF(66ページ、ISBN 978-92-4-010804-2)を取得して該当節を読んだ。経験的治療は静注セフトリアキソンまたはセフォタキシムを強い推奨とし、リステリアの危険因子が1つ以上あれば静注アンピシリンまたはアモキシシリンの追加を強い推奨とすること(原文「In the presence of one or more risk factors for Listeria monocytogenes infection (i.e. age over 60 years, pregnancy, immunocompromised state), intravenous ampicillin or amoxicillin should be administered in addition to the initial antimicrobial regimen.」)、Remarksで危険因子を60歳超・妊娠・免疫抑制療法・臓器移植後・悪性腫瘍・進行HIV・糖尿病・末期腎不全・肝硬変・アルコール使用障害と列挙すること、*Listeria monocytogenes*がセフトリアキソン・セフォタキシムを含む第3世代セファロスポリンに本質的に耐性であること、バンコマイシンの追加は肺炎球菌のペニシリンまたは第3世代セファロスポリン耐性が多い地域に限った条件付き推奨であることを確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.ESCMID guideline: diagnosis and treatment of acute bacterial meningitis(European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases (ESCMID)・2016)Wayback Machineに保存された誌面HTML全文(2025年6月29日取得)で表4.1と本文を読んだ。市中細菌性髄膜炎の経験的治療を「50歳超、または18〜50歳でリステリアの危険因子(糖尿病・免疫抑制薬の使用・悪性腫瘍などの免疫不全状態)がある場合」にセフォタキシムまたはセフトリアキソンへアモキシシリン/アンピシリン/ペニシリンGを加えるとし(原文「When risk factors for an infection with L. monocytogenes are present in adults under the age of 50 years (e.g. diabetes, use of immunosuppressive drugs, cancer) or in adults over the age of 50 years, empiric antibiotic treatment should include amoxicillin or ampicillin to cover for L. monocytogenes.」)、アンピシリンまたはアモキシシリンの用量を2 g 4時間ごととすること、バンコマイシンまたはリファンピシンの追加は表の列が示すとおり肺炎球菌のペニシリン感受性が低下している状況に限られ、ペニシリン感性ならセフォタキシムまたはセフトリアキソン単剤でよいこと、1か月未満の新生児にはアモキシシリン/アンピシリン/ペニシリン+セフォタキシム、またはアモキシシリン/アンピシリン+アミノグリコシド系とすること、オランダの全国調査で50歳未満・免疫正常の259人中4人(1.5%)にリステリアが生じており、この稀な可能性まで拾うなら全成人にアモキシシリンまたはアンピシリンを加えることになると述べていることを確認した閲覧 2026-09-27