微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 細菌

Bacillus cereus

分類
G+ 桿菌・芽胞形成 / Gram+ rods (spore)Bacillus
性状
Gram陽性 (G+)桿菌 Bacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/24: Bacillus anthracis and other species of the Bacillus genus2/28: Listeria monocytogenes. Erysipelothrix rhusiopathiae, Lactobacillus and Bifidobacterium genus. Pre- and probiotics5/7: Pathogens of enterally (faecal-oral route) spreading bacterial infections (list) and their diagnosis
自然耐性薬
ペニシリンGアンピシリンアモキシシリンセフトリアキソンセフォタキシム
原因となる疾患
眼内炎細菌性急性胃腸炎

🧠 全体像:B. cereusは「同じ好気性でもとは病原性の桁が違う」菌として読む。莢膜を持たず運動性があり、βラクタマーゼで・にを示す点でと対照的。は毒素の種類でが正反対の2病型に分かれるのが最大の試験ポイントで、短潜伏・嘔吐中心の「」と長潜伏・下痢中心の「」を区別できるかが要となる。

微生物学的な特徴

グラム陽性大型桿菌で、自然環境(土壌・埃・穀物)に広く分布する。と違い莢膜を持たず、による運動性を示すで、酸素要求性は好気性またはである1——「酸素がないと増えない菌」ではない点に注意する。

検査 B. cereus (参考)
運動性 陽性 陰性
血液寒天培地 β溶血 溶血なし(γ)、コロニー
培地 「」コロニー 「」コロニー
() 陽性 陰性〜弱陽性
ペニシリン感受性 耐性(βラクタマーゼ産生) 感受性

病原性の仕組み

は毒素の種類によってが対照的な2つの型に分かれる。どちらも芽胞が食品の加熱調理に耐えて生存することが出発点になる。

病型 潜伏期 毒素の性質 機序 汚染源
短い(15分〜6時間)2 ——分子量1.2 kDaの環状ドデカデプシペプチドで、熱・酸・に極めて安定(加熱調理でも失活せず、除去も不活化もほぼできない)2 5-HT₃受容体を刺激しを介して延髄のを興奮させると想定されている2——黄色ブドウ球菌のによるに類似 調理後常温放置された米飯・パスタ()
長い(約8〜16時間)2 Hbl・Nhe毒素複合体とCytK——タンパク質性で、熱・酸・プロテアーゼに弱い2 いずれもで、の膜に孔を開けて浸透圧性のを起こす2 汚染された食肉・野菜・ソース類
flowchart TD
    A["B. cereus の芽胞が食品中で加熱調理に耐えて生存"] --> B["常温放置で発芽・増殖"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cereulide'>セレウリド</span>産生<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heat resistance (thermotolerance)'>耐熱性</span>、食品中で既に生成)"]
    B --> D["Hbl・Nhe毒素複合体産生<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heat-labile'>易熱性</span>、腸管内で産生)"]
    C --> E["5-HT₃受容体刺激→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vagal afferents'>迷走神経求心路</span><br>→延髄の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vomiting center'>嘔吐中枢</span>"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal epithelium'>腸管上皮</span>の膜に孔形成<br>→浸透圧性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytolysis'>細胞溶解</span>"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Emetic form'>嘔吐型</span>(短潜伏)"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diarrhea-predominant type'>下痢型</span>(長潜伏)"]

💡 「毒素が食品中で完成しているか、腸管内で作られるか」が潜伏期の長短を決める。 はが調理済み食品中に既に存在するため摂食後すぐに症状が出るのに対し、は腸管内での毒素産生を待つ必要があるため潜伏期が長い——同じ構造を黄色ブドウ球菌(・短潜伏)と(腸管内産生・長潜伏)の対比としても覚えられる。

💡 この違いは「菌を食べる必要があるか」にも表れる。 は食品中に毒素があれば成立し菌体の摂取を必要としない(実際に食品から毒素だけが検出され菌が分離できなかった集団発生の報告がある)。一方、では食品中で先に作られたは熱・酸・プロテアーゼに弱く発症に寄与しないため、体とくに芽胞を摂取する必要がある(感染量は10^5〜10^8 cfu/gと推定されている)2。

⚠️ は「嘔吐させるだけの毒素」ではない。 イオノフォア活性が高く、高用量では横紋筋溶解・肝障害・を起こしうる2——を「軽い」として片づけない根拠になる。

以外に、・への直接侵入による創傷感染・、免疫不全患者や患者での菌血症も起こす。特に汚染された異物による後のは急速に進行し失明に至りやすい代表的な重症像である。

感染経路と疫学

  • 自然環境(土壌・埃・穀類)に広く分布し、食品中で加熱調理後も芽胞として生存する
  • 常温での食品保存中に芽胞が発芽・増殖し毒素を産生する——再加熱ではのは失活しない
  • 免疫不全者・・患者では日和見感染源になる

起こす疾患

病型 押さえどころ
() 短潜伏(15分〜6時間)、熱・酸・に安定な、。多くは自然軽快し症状は6〜24時間で消える2
() 長潜伏(約8〜16時間)、熱に弱い、水様性下痢と腹痛。経過は多くが軽く約12〜24時間で自然軽快する2
外傷後 後に急速進行、失明リスクが高い
血管内デバイス留置例の院内。免疫抑制者・・新生児で問題になる1
進行性肺炎・性敗血症・中枢神経感染 まれだが致死的。免疫抑制者に生じる1

診断

  • 培養:血液寒天培地でβ溶血、培地で「」コロニー、で陽性
  • 運動性試験:陽性(との鑑別点)
  • は通常、臨床像と摂食歴から臨床診断され、菌・毒素の検出は集団発生の確認時に行う

治療と予防

  • :輸液による支持療法のみ——は6〜24時間、は約12〜24時間で自然軽快することが多く、抗菌薬は不要2。⚠️ ただしではまれに肝不全を中心とした重症・死亡例が報告されている2
  • ・菌血症などの侵襲性感染:⚠️ ・には。染色体性のと(BcII)を持つためである3。の結果を待つあいだのにはバンコマイシンまたはが挙げられる1。クリンダマイシンも選択肢になる
  • ⚠️ を「βラクタムの逃げ道」として無条件に当てにしない。 血液培養由来の48株の解析では、産生(mCIM陽性)がB. cereus sensu strictoの22%(2/9)、近縁種B. mosaicusの23%(7/30)にみられ、この2菌種ではのが4 µg/mLを超えた株はすべて陽性だった3。用いる場合はの結果に従う
  • 💡 「が高い」と「を持つ」は同じではない。 同じ解析のB. luti(B. cereus群の別種)は遺伝子を欠くのに、アンピシリン・のはむしろ一貫して高く、mCIMは全株陰性だった3——耐性の表現型と機序は菌種ごとに食い違いうるので、群レベルの一般化を臨床判断の代わりにしない
  • 💡 βラクタマーゼが「」の株があることが検査を難しくする。 同じ解析で、基礎状態ではにもにもほとんど活性を示さないのに、に曝露するとbla1・BcIIの転写と酵素活性が大きく上昇する株群が見つかっている(ある株ではのが0.06から1.0 µg/mLへ上昇した)3——「試験では感受性に見えた」ことが治療中の効果を保証しない型である
  • 予防:調理後の食品を速やかに冷却・冷蔵し、常温放置時間を短くする。米飯・パスタ類は特に注意

まとめ

  • B. cereusは莢膜を持たず運動性があるで、酸素要求性は好気性または1。(・・ペニシリン感受性)と対照的な性状を示す。
  • は熱に安定なによる短潜伏(15分〜6時間)のとによる長潜伏(約8〜16時間)のの2病型に分かれる2——毒素が食品中で完成しているか腸管内で作られるかが潜伏期の違いを説明する。
  • は調理後常温放置された米飯・パスタ類()が典型的な感染源。はイオノフォアとして横紋筋溶解・肝障害・を起こしうる2。
  • 以外に、後の、血管内デバイス留置例の菌血症、免疫抑制者の進行性肺炎・性敗血症・中枢神経感染を起こす1。
  • 染色体性βラクタマーゼにより・に3——はバンコマイシンまたは1。⚠️ 産生株が2割前後あるため、はの結果に従う3。
  • の治療は輸液のみの支持療法で、抗菌薬は不要。

出典

  1. 1.Bacillus cereus, a Volatile Human Pathogen(Clinical Microbiology Reviews・2010)抄録で、B. cereusがグラム陽性の「好気性または通性嫌気性」・運動性・芽胞形成の桿菌であること、強力なβラクタマーゼを産生してβラクタム薬に著明な耐性を示すこと、感受性試験の結果を待つあいだの経験的治療に有効とされる薬剤がシプロフロキサシンとバンコマイシンであること、食中毒以外に重篤な眼感染症・炭疽に似た進行性肺炎・電撃性敗血症・中枢神経感染を起こし、免疫抑制者・静注薬物使用者・新生児で問題となること、血管内デバイス留置例での院内血流感染と術後創感染での役割が確立していることを確認した。全文は未取得で、確認範囲は抄録に限る。閲覧 2026-09-27
  2. 2.The Food Poisoning Toxins of Bacillus cereus(Toxins・2021)全文(PMC7911051)を取得し、嘔吐型では摂食後15分〜6時間で嘔吐が起こること、セレウリドが分子量1.2 kDaの環状ドデカデプシペプチドで熱・酸・消化酵素に極めて安定なため除去も不活化もほぼできず食品中で先に産生されるため菌の摂取を必要としないこと(ただし食品1 gあたり10^3〜10^5個の菌がセレウリド産生に必要とされる)、動物モデルの結果から5-HT3セロトニン受容体を介して迷走神経求心路を刺激し延髄の嘔吐中枢を興奮させると想定されていること、セレウリドはイオノフォア活性が高く横紋筋溶解・肝障害・多臓器不全を起こしうること、嘔吐型の症状は多くが自然軽快し6〜24時間で消えるが、肝不全を中心とした重症・死亡例の報告もあること、下痢型は約8〜16時間で発症し腸管内で生菌が毒素を産生する毒素型感染であること、食品中で先に作られた腸管毒素は熱・酸・プロテアーゼに弱いため発症に寄与せず栄養型菌体とくに芽胞の摂取が必要であること(感染量は文献により10^5〜10^8 cfu/gまたは10^4〜10^9 cfu/gと推定)、下痢型の経過は多くが軽く約12〜24時間で自然軽快すること、Hbl・Nhe・CytKが孔形成毒素で上皮に浸透圧性の細胞溶解を起こすことを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Differences in β-lactamase activity and carbapenem resistance among the Bacillus cereus group(Antimicrobial Agents and Chemotherapy・2026)全文(PMC12959158)を取得し、B. cereus群が染色体性βラクタマーゼ(ペニシリナーゼbla1とメタロβラクタマーゼBcII)によりペニシリン系・セファロスポリン系へ本質的に耐性であること、血液培養由来の臨床分離株48株(B. mosaicus 30株・B. cereus sensu stricto 9株・B. luti 9株)の解析でカルバペネマーゼ産生(mCIM陽性)がB. mosaicus 30株中7株(23%)・B. cereus sensu stricto 9株中2株(22%)にみられ、原著が「この2菌種では」と限定してメロペネムのMICが4 µg/mL超の株はすべてmCIM陽性としていること、MICが1 µg/mL以下の株はすべてmCIM陰性だったこと、⚠️ 一方でB. luti 9株はメタロβラクタマーゼ遺伝子を欠きながらアンピシリン・メロペネムのMICが一貫して高く、mCIMは全株陰性だったこと、βラクタマーゼ活性が構成的・誘導性・サイレントの3型に分かれ誘導性の株ではセフォキシチン曝露で活性とbla1・BcIIの発現が大きく上昇する(ある株でメロペネムのMICが0.06から1.0 µg/mLへ上昇)ことを確認した。48株という単一施設規模の分離株集団に基づく所見である。閲覧 2026-09-27