微生物学

微生物学 · 5/10

食中毒・毒素型/感染型食中毒の細菌病原体(一覧)

Bacterial pathogens of food-poisoning and toxico-infections (list)

微生物
Clostridium perfringens

🧠 は「毒素がいつ作られるか」で3つの型に分けると、そのまま潜伏期の長さと診断法が決まる。 食品中であらかじめ毒素が作られてから摂取する型()は菌そのものを退治する必要がないため潜伏期が短く、症状だけで診断がつく。菌を摂取したあと体内で毒素を産生する型()と、粘膜へ直接侵入する型()はいずれも菌の証明(培養)が診断の中心になる。この3分類の軸で読めば、起因菌のリストは丸ごと整理できる。

flowchart TD
  A["食品由来の細菌感染"] --> B["①<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intoxication'>毒素型</span><br>食品中で毒素があらかじめ産生される"]
  A --> C["②<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxico-infection'>感染毒素型</span><br>摂取後、体内で毒素を産生する"]
  A --> D["③<span class='jp-term jp-term-diagram' title='invasive infection'>侵入型感染</span><br>粘膜へ直接侵入する"]
  B --> B1["症状のみで診断<br>治療は補液のみ"]
  C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxin detection'>毒素検出</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stool culture'>便培養</span>で診断"]
  D --> D1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stool culture'>便培養</span>で診断<br>重症例のみ抗菌薬を併用"]

①毒素型食中毒

食品中で細菌が増殖する際に毒素をあらかじめ産生し、その毒素を摂取することで発症する。摂取時点で菌自体が生きている必要はない。

病原体 症状 診断 治療
Staphylococcus aureus1・Bacillus cereus()2 摂取後3〜6時間で発症する水様性下痢・嘔吐 症状に基づく臨床診断(毒素・菌の証明は不要) 補液
Clostridium botulinum() 神経症状:、麻痺、呼吸・嚥下・の障害 +抗菌薬

⚠️ は同じ「」でも重症度が別次元。 S. aureus・B. cereusの毒素は消化管に限局した自然軽快型の症状にとどまるが、はを標的とするであり、による死亡のリスクがある。毒素の作用機序の詳細は外毒素の分類を参照。

⚠️ Bacillus cereusのは、上の表が扱うだけではない。 は食品中で産生済みのを摂取する①(潜伏期1〜6時間、米飯料理に多い)だが、別にがあり、こちらは摂取後に腸管内でを産生する②(潜伏期8〜16時間、食肉・野菜に多い)に分類される2。

②感染毒素型食中毒

菌を摂取したのち、腸管内で増殖しながら毒素を産生することで発症する。

病原体 産生毒素
Vibrio cholerae
Vibrio parahaemolyticus (TDH)3
Bacillus cereus()
Clostridium perfringens α毒素・ε毒素
Clostridium difficile A毒素
Shigella
Listeria monocytogenes ()

💡 Listeria monocytogenesは菌の中で唯一、冷蔵庫内の低温でも増殖を続けられる(好冷性、−0.4℃まで増殖可能)。 されていない乳製品・調理済み食肉(デリミート)などを介して感染し、「冷蔵保存だから安全」という前提が成立しない数少ない菌である。妊婦・新生児・免疫不全者・高齢者で重症化しやすい4。

③侵入型細菌感染

菌がへ直接侵入することで発症する。

②・③に共通する診断・治療は以下の通り。

項目 内容
症状 下痢
診断 便検体の培養
治療 補液、重症例では抗菌薬を併用

まとめ

  • は毒素産生のタイミングにより①(食品中で毒素があらかじめ産生)、②(摂取後に腸管内で毒素を産生)、③(粘膜へ直接侵入)の3型に分けられる。
  • のうちS. aureus・B. cereusは短い潜伏期の水様性下痢・嘔吐で症状のみから診断され補液のみで軽快するが、C. botulinumは神経症状(・麻痺・呼吸/嚥下/障害)を来しによる診断と+抗菌薬の治療を要する。B. cereusにはこれとは別に、腸管内でを産生する()もある。
  • はV. cholerae()、Vibrio parahaemolyticus(TDH)、B. cereus()、C. perfringens(α・ε毒素)、C. difficile(A毒素)、()、L. monocytogenes(、冷蔵庫内でも増殖しうる)が体内で毒素を産生する。
  • の代表はCampylobacterとで、いずれも下痢を主症状とする。
  • ・侵入型はともにでの起因菌の証明が診断の中心で、治療は補液を基本とし重症例のみ抗菌薬を追加する。

出典

  1. 1.Staphylococcus aureus and Staphylococcal Food-Borne Disease: An Ongoing Challenge in Public Health(BioMed Research International・2014)ブドウ球菌エンテロトキシンは9つの主要血清型(SEA・SEB・SEC・SED・SEE・SEG・SEH・SEI・SEJ)からなる耐熱性毒素群で、中でもSEAが世界的な食中毒の最多原因である。加熱・凍結・乾燥に耐え、消化管内でもペプシン・トリプシン・低pHに抵抗して活性を保つため、原因食品を加熱殺菌しても毒素自体は不活化されない。症状は摂取後3〜5時間というごく短い潜伏期で悪心・嘔吐・腹部痙攣(下痢を伴うことも伴わないこともある)として出現する。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Cereulide and Emetic Bacillus cereus: Characterizations, Impacts and Public Precautions(Foods・2023)セレウス菌(Bacillus cereus)の嘔吐型食中毒はセレウリドという極めて安定な毒素が食品中で産生された後に摂取されることで発症する食品内毒素型であり、通常の食品加工では毒素が不活化されない。菌そのものを摂取後に体内で毒素を作る下痢型(易熱性エンテロトキシン)とは別の機序である。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Structure, function and regulation of the thermostable direct hemolysin (TDH) in pandemic Vibrio parahaemolyticus(Microbial Pathogenesis・2018)Vibrio parahaemolyticusは海産物関連の細菌性胃腸炎の主要原因であり、耐熱性溶血毒(TDH)が致死毒性・細胞毒性・腸管毒性を併せ持つ主要な病原因子である——摂取後に腸管内で毒素を産生する感染毒素型に分類される。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Resistance of Listeria monocytogenes to Stress Conditions Encountered in Food and Food Processing Environments(Frontiers in Microbiology・2018)Listeria monocytogenesは−0.4℃という低温でも増殖できる好冷性(psychrotolerant)細菌であり、この耐冷性のために食肉・鶏肉・魚介類などの冷蔵食品からの検出が多い。閲覧 2026-08-26