微生物学

微生物学 · 2/25

ガス壊疽クロストリジウム

Gas-gangrene clostridia

応用トピック
軟部組織感染症と陰圧閉鎖療法
微生物
Clostridium perfringens

🧠 菌は「酸素を締め出す壊死組織を自分で作り出す」菌として読む。 芽胞はでしか発芽できないが、いったん発芽すると()が細胞膜を破壊して血球・血管内皮を壊死させる——これがさらに酸素の乏しい壊死組織を広げ、菌にとって好都合なを自己増幅させる悪循環を生む。「毒素産生→組織破壊→さらに→さらに増殖」という正のフィードバックこそがが急速に進行する理由であり、が治療の要となる根拠でもある。

Clostridium属の共通性状

Clostridium属(・破傷風菌・・菌を含む)に共通する性質は以下の3点であり、本ノート以降の破傷風菌・・C. difficileでも繰り返し前提となる。

  • ——酸素存在下では発育できない
  • ——土壌・環境中で長期生存する芽胞を作り、(創傷内の壊死組織など)で発芽して毒素を産生する
  • 病原性の中心は外毒素による——菌体そのものの侵襲性よりも、産生する毒素の種類が臨床像を決定する

💡 菌は、もう Clostridium 属ではない。 16S 解析で菌は Clostridium sensu stricto から系統的に離れた Peptostreptococcaceae に属することが分かり、2016年に新属 Clostridioides へ再分類された(Clostridioides difficile)1。旧名 Clostridium difficile は略記 “C. diff” が定着しているため属名の頭文字が変わらないよう配慮された名で、実習・試験では旧名でも問われうる。グラム陽性・・という上記3性質を共有する点は変わらない。

💡 なぜ嫌気性菌が「創傷感染」を起こすのか。 Clostridium属の芽胞はではなく土壌・埃に由来する。外傷(、汚染創)で組織の血流が途絶えが下がると、芽胞が発芽できるな微小環境が生まれる——だからこそ「深い」「壊死組織の残存」がClostridium感染の共通リスク因子になる。

Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 (短く太い形態)
生息地 土壌——ヒトのの一員でもある
発育条件
芽胞 卵形の芽胞が菌体中央よりやや端寄り(subterminal)に位置
莢膜 あり
ガス産生 CO₂、H₂S、CH₄を産生(の「ガス」の由来)
侵襲酵素 、、分解酵素、リパーゼ、プロテアーゼ——組織への侵入を助ける

病原性因子:毒素

毒素 機序 効果
(α-toxin、=) 細胞膜のを分解 赤血球・血小板・白血球・を傷害→大量溶血・組織破壊・肝毒性。染色体上の plc 遺伝子を破壊したはマウス筋壊死モデルで明らかに病原性を失い、に必須であることが遺伝学的に証明されている2
壊死誘導活性 摂食された場合、腸管に作用(C型菌によるの原因。早産児に多い新生児のとは別の病態)
(ε-toxin) プロトキシンとして分泌され腸管内ので活性化 消化管のを亢進。(CPE)とは別の毒素であり、混同しない3
(ι-toxin) 壊死誘導活性 消化管の+壊死
flowchart TD
  A["創傷(土壌・便で汚染)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic'>嫌気条件</span>下で芽胞が発芽<br>(潜伏1〜3日)"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vegetative bacteria'>栄養型菌</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha toxin'>アルファ毒素</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lecithinase'>レシチナーゼ</span>)を産生"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membrane phospholipid'>細胞膜リン脂質</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bilayer'>二重層</span>を破壊"]
  D --> E["赤血球・血小板・白血球・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial cell'>血管内皮細胞</span>の傷害"]
  E --> F["大量溶血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue necrosis'>組織壊死</span>・肝毒性"]
  F --> G["壊死組織が広がりさらに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic'>嫌気的</span>環境に<br>(正のフィードバック)"]

臨床像

(筋壊死)

  • 土壌または糞便で汚染された創傷から発症
  • 急性・増悪する創部痛、(ガスによる浮腫で)した組織、壊死
  • 全身症状:発熱、頻脈、、蒼白(急速に進行)

(——従来のA型、現在のF型)

💡 の分類は2018年に更新された。 1960年代に定まった・ベータ・イプシロン・イオタの4毒素によるA〜E型の分類は、その後発見された毒素を反映できずF型・G型が追加された。ヒトの・を起こす「(CPE)を産生する株」は、現在はF型に分類される3。旧来の教科書が「A型菌による」と書くのは、CPE産生株が他の3毒素を持たずA型に入っていた時代の呼び方である(試験では旧名で問われうるので両方覚える)。

C. perfringensは食肉・鶏肉の代表的な汚染菌である。により調理時の加熱に耐えて生存し、食品の冷却過程で発芽、16〜52℃で保存されると栄養型が増殖する。十分な再加熱なしに供されると生きたが摂食され、腸管内でを産生する。

  • 再加熱不十分な肉料理から、芽胞が摂食され高濃度に増殖
  • 潜伏期は8〜24時間とやや長い(芽胞が発芽するまでの時間)
  • 腸管内での産生により自然軽快する非炎症性の水様性下痢(発症後約24時間で軽快)
  • 診断:糞便検体からの検出/原因食品1gあたり10⁵個以上の、または発症者便から10⁶個/g以上の培養

(C型菌による)

💡 名前は似ているが、早産児に起こる新生児のとは別の病態である。こちらはを産生するC型菌を食品とともに摂取して起こる小腸(主に空腸)の壊死性炎症である。

  • 潜伏期8〜12時間、主に豚肉が汚染源
  • 空腸の壊死性病変、血性下痢、腹膜炎、ショック——致死率が高い
  • 診断:糞便検体からの

診断

検査 所見
血液寒天培地 α・β溶血のが特徴的
検体 膿、壊死組織、血液
抗血清を含む——活性の有無で判定

治療・予防

  • 緊急のと迅速な(壊死組織の除去。必要なら切断術)——治療の主体はここにあり、抗菌薬は補助である4
  • 原因菌が確定するまでは広域の(米国はバンコマイシンに・、またはを併せる)で始め、筋壊死と確定したら+クリンダマイシン併用を確定治療とする4
  • :米国は、患者への利益が証明されておらず蘇生とを遅らせうるとして推奨していない4
  • 予防:創傷の適切な外科的管理によりの形成を防ぐ

⚠️ ペニシリン単剤では足りない。 マウスのモデルでは、クリンダマイシン・メトロニダゾール・リファンピシン・テトラサイクリンのいずれもペニシリンより有意に有効で、ペニシリン投与群のは血中濃度が77〜1,800 µg/mLに達していたにもかかわらず無治療対照と有意差がなかった5。菌量が10⁸ CFUを超える条件でもクリンダマイシンはペニシリンより有意にが高い6。クリンダマイシンが優れるのはによって毒素産生そのものを止めるからで、であるペニシリンにはこの作用がなく、しかも定常期に入った菌には効きにくい。そのため現在はにクリンダマイシンを併用する。

⚠️ の位置づけは定まっていない。 同じマウスモデルでの単独投与はどの菌量でもを改善せず、早期に併用したときにペニシリンまたはメトロニダゾールとのが見られたにとどまり、クリンダマイシンの効果にはがなかった6。ヒトでのは時点で2件・計90人しかなく、GRADE評価はいずれも「非常に低い」質で、どの介入が安全かつ有効かをづけられていない7。確実なのはが要であることで、はそれを遅らせる理由にはならない。米国の2014年ガイドラインも、この理由からを推奨していない4。

その他のガス壊疽関連クロストリジウム属

菌種 特徴 毒素・臨床像
Clostridium novyi を持ち運動性あり。A・B(病原性)・C()の3型に分類 α・β・δ・ε毒素(溶血性・壊死性)、・リパーゼ産生。を起こす
Clostridium septicum を持ち運動性あり。との関連が知られる α毒素(壊死性・溶血性)。血液培養で診断。を起こす
Clostridium histolyticum 他の細菌とのとしてに関与することが多い —
Clostridium sordellii 婦人科感染症との関連が最多 菌血症、敗血症、重症のを起こしうる

まとめ

  • Clostridium属はグラム陽性・・の総称で、病原性は菌体そのものより産生する外毒素の種類で決まる——この3性質は破傷風菌・・C. difficileにも共通する。
  • C. perfringensは()により細胞膜を破壊し、(急速進行する筋壊死+ガス産生)を起こす。診断は血液寒天培地のとでの活性。
  • C. perfringensは(産生株=従来のA型・現在のF型3、潜伏期8〜24時間、自然軽快する水様性下痢)と(C型、、高致死率)というが異なる2つの消化管疾患も起こす。
  • 治療の要は緊急のと迅速なで、抗菌薬は補助。確定後はにクリンダマイシンを併用し、は米国では推奨されない4——ではペニシリン単剤のが無治療対照と有意差がなく5、の単独効果は示されていない67。
  • 他の関連クロストリジウム(C. novyi、C. septicum、C. histolyticum、C. sordellii)はそれぞれ・・・婦人科感染という特徴的な臨床像を持つ。

出典

  1. 1.Reclassification of Clostridium difficile as Clostridioides difficile (Hall and O'Toole 1935) Prevot 1938(Anaerobe・2016)16S rRNA遺伝子解析で C. difficile は Clostridium sensu stricto から系統的に離れた Peptostreptococcaceae に属し、2016年に新属 Clostridioides へ再分類された閲覧 2026-08-26
  2. 2.Virulence studies on chromosomal alpha-toxin and theta-toxin mutants constructed by allelic exchange provide genetic evidence for the essential role of alpha-toxin in Clostridium perfringens-mediated gas gangrene(Molecular Microbiology・1995)相同組換えによる対立遺伝子置換で、ホスホリパーゼC(アルファ毒素)をコードする染色体上の plc 遺伝子と、パーフリンゴリジンO(シータ毒素)をコードする pfoA 遺伝子をそれぞれ不活化した変異株を作成した。マウス筋壊死モデルで plc 変異株は明らかに病原性が低下し、アルファ毒素がガス壊疽に必須であることが遺伝学的に証明された。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Expansion of the Clostridium perfringens toxin-based typing scheme(Anaerobe・2018)1960年代に確立されたアルファ・ベータ・イプシロン・イオタの4毒素によるA〜E型の分類は、その後発見された毒素を反映しておらず時代遅れになっていた。2018年の改訂で2つの型が追加され、エンテロトキシン(CPE)を産生しベータ・イプシロン・イオタ毒素を産生しない株は新設のF型となった。ヒトの食中毒と抗菌薬関連下痢症を起こす株はこのF型に含まれる。NetB毒素を産生しニワトリの壊死性腸炎を起こす株はG型となった。エンテロトキシン(CPE)はイプシロン毒素とは別の毒素である。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Skin and Soft Tissue Infections: 2014 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2014)クロストリジウム性ガス壊疽(筋壊死)の推奨Xで、疑われる部位の緊急の外科的探索と壊死組織のデブリードマン(強い推奨・中等度の質)、確定したクロストリジウム性筋壊死の確定治療はペニシリンとクリンダマイシンの併用(強い推奨・低い質)、原因不明の段階ではバンコマイシンにピペラシリン・タゾバクタム、アンピシリン・スルバクタムまたはカルバペネムを併せる広域の経験的治療、高気圧酸素療法は患者への利益が証明されておらず蘇生とデブリードマンを遅らせうるため推奨しない(強い推奨・低い質)ことを確認した。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Comparison of clindamycin, rifampin, tetracycline, metronidazole, and penicillin for efficacy in prevention of experimental gas gangrene due to Clostridium perfringens(The Journal of Infectious Diseases・1987)マウスのガス壊疽モデルで、クリンダマイシン・メトロニダゾール・リファンピシン・テトラサイクリンはいずれもペニシリンより有意に有効であった(p<0.05)。ペニシリン投与群の生存率は血中濃度が77〜1,800 µg/mLに達していたにもかかわらず無治療対照と有意差がなかった。メトロニダゾールの効果は用量依存性が強い(75 mg/kgで60%生存、19 mg/kgで10%生存)のに対し、クリンダマイシンは8.6〜86 mg/kgという広い用量域で高い有効性を示した。治療開始が遅れるか菌量が多いと、いずれの抗菌薬も効果が落ちる。迅速な外科的デブリードマンが第一の治療目標であることが前提とされている。閲覧 2026-08-26
  6. 6.Evaluation of therapy with hyperbaric oxygen for experimental infection with Clostridium perfringens(Clinical Infectious Diseases・1993)ヒトと同一の実施法を用いたマウス筋炎モデルで、高気圧酸素の単独投与はどの菌量でも生存率を改善しなかった。10の8乗 CFU を超える菌量ではクリンダマイシンまたはメトロニダゾール投与群がペニシリン投与群より有意に生存率が高かった。高気圧酸素は早期に併用した場合にかぎりメトロニダゾールまたはペニシリンとの相加効果を示したが、クリンダマイシンの優れた効果に高気圧酸素を加えても上乗せはなかった。菌量が多いほど、また治療開始が遅れるほど、あらゆる単独・併用療法の効果が低下した。閲覧 2026-08-26
  7. 7.Interventions for treating gas gangrene(Cochrane Database of Systematic Reviews・2015)ガス壊疽の治療介入を評価したコクランレビューで、組み入れられたランダム化比較試験は2件・計90人にとどまった。うち1件は局所高気圧酸素療法と全身高気圧酸素療法の比較で、両群に差はなかった(相対危険度1.10、95%信頼区間0.25〜4.84)。GRADE評価はバイアスリスクと不精確さのためいずれも「非常に低い」質であった。迅速なデブリードマン・抗菌薬投与・全身管理といった中心的な治療そのものを検証した試験は存在せず、どの介入が安全かつ有効かを結論づけられない。閲覧 2026-08-26