外科学

外科学 · G-04

軟部組織感染症と陰圧閉鎖療法

Soft tissue infections and negative pressure wound therapy

前提:病態
ガス壊疽クロストリジウム化膿レンサ球菌(A群)
疾患
壊死性軟部組織感染症
スコア
LRINECスコア

🧠 全体像:軟部組織感染症は「膿がない蜂窩織炎」「限局した膿瘍」「壊死が進む外科的緊急症」を分ける。は後の創管理を助けるが、や止血の代わりにはならない。

蜂窩織炎と膿瘍

項目 蜂窩織炎 膿瘍
病態 境界不明瞭な皮膚・皮下組織のびまん性炎症 限局した膿貯留
所見 発赤、熱感、腫脹、圧痛 圧痛、波動、周囲蜂窩織炎
主治療 などを想定した抗菌薬、
抗菌薬追加 基本治療 全身反応、重い蜂窩織炎、免疫不全、多発・深部、治療不応など

超音波は膿瘍と蜂窩織炎の鑑別に役立つ。、ガス、急速な進行、外観に不釣り合いな激痛があればを疑う。

⚠️ は「陰性なら除外」に使えない。 23研究5982例を統合したでは、LRINEC 6点以上の感度は68.2%(特異度84.8%)、8点以上では感度がさらに40.8%まで落ちた1。の診断はスコアではなくと外科的評価で行い、疑いが強ければスコアが低くても手術適応を検討する。

壊疽と壊死性軟部組織感染

病態 機序・所見 緊急対応
主に虚血性。乾燥・黒色・境界明瞭 感染の有無と可能性を評価し、切除時期を個別化
虚血組織への感染。腫脹、悪臭、急速な壊死 蘇生、、緊急、血行評価
に沿って急速進展。激痛、、水疱、、全身毒性 画像で手術を遅らせず、直ちに外科探索・反復
筋壊死 激痛、浮腫、ガス、溶血、ショック 緊急手術、初期、確定後ペニシリン+クリンダマイシン
flowchart TD
    A["軟部組織感染"] --> B["急速進行・激痛・水疱・壊死・ショック"]
    B -->|あり| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='necrotizing infection'>壊死性感染</span>を疑う"]
    C --> D["蘇生+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='broad-spectrum antibiotics'>広域抗菌薬</span>"]
    D --> E["緊急外科探索・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='debridement'>デブリードマン</span>"]
    E --> F["24〜36時間を目安に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='re-exploration (surgical)'>再探索</span>を反復"]
    B -->|なし| G["膿瘍の有無を診察・超音波"]
    G --> H["膿瘍なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incision and drainage'>切開排膿</span>"]
    G --> I["蜂窩織炎なら抗菌薬"]

は手術・蘇生を遅らせる可能性があり、筋壊死へのルーチンとして推奨されない。

💡 手術までの遅れが死亡率に直結する。 65例の後ろ向き検討では、入院から手術までの時間は死亡例で平均90時間、生存例で25時間と大きな差があった(p=0.0002)2。「画像やを待ってから手術」という順序自体が死亡率を上げ得る。

陰圧閉鎖療法

は、フォームやガーゼを密閉し、制御した陰圧を加える創管理法である。

作用

  • 滲出液と浮腫を除去する
  • を促す
  • へ機械的刺激を与え、創の収縮を助ける
  • 被覆下で創を保護する

NPWT単独で細菌を確実に減らすとは限らず、感染創では先に排膿・と適切な抗菌薬を行う。

💡 予防的NPWTの効果は「創の種類」で結果が割れる。 創全般を対象にした(RCT44件・5,693例)ではSSIリスクが約40%低下した(0.61、95%信頼区間0.49-0.74)3のに対し、開腹手術のに限定した(RCT5件・792例)では有意差が出なかった(0.56、95%信頼区間0.30-1.03、p=0.064)4。「NPWTは創閉鎖後に有効」という一般化を、術式を問わずそのまま適用しない。

適応

  • 後の軟部組織欠損
  • 後、外傷後、創
  • 選択された慢性創・・糖尿病性
  • 固定、閉鎖切開創の高リスク例
  • 管理

禁忌・注意

状況 理由・対応
制御されていない出血 出血増悪の危険があり止血を優先
壊死・厚い痂皮 先に
未治療の・骨髄炎 感染源治療を優先
保護されていない血管・神経・臓器・吻合 びらん、出血、瘻孔を避ける保護層が必要
創内悪性腫瘍 腫瘍と出血リスクを専門的に検討

開放腹管理

は、ダメージコントロール手術、、重症腹膜炎などで腹壁を一時的に閉鎖しない管理である。NPWTでは腸管とフォームの間に非接着性の臓器保護層を置き、腹水を管理し、筋膜退縮と腸管大気瘻を防ぐ。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='open abdomen'>開放腹</span>を選択"] --> B["臓器保護層を置く"]
    B --> C["一時的腹壁閉鎖+陰圧管理"]
    C --> D["蘇生・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='source control'>感染源制御</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intra-abdominal pressure'>腹腔内圧</span>を再評価"]
    D --> E["可能な限り早期の筋膜閉鎖を目指す"]

交換間隔は創の状態と製品・施設手順で決め、出血、臓器損傷、瘻孔、体液・を監視する。

まとめ

  • 蜂窩織炎は抗菌薬、膿瘍はが治療の軸である。
  • では画像待ちで手術を遅らせない。
  • では緊急と抗菌薬を優先し、をルーチン化しない。
  • NPWTは創管理の補助であり、止血・・を代替しない。

出典

  1. 1.Necrotizing Soft Tissue Infection: Diagnostic Accuracy of Physical Examination, Imaging, and LRINEC Score: A Systematic Review and Meta-Analysis(Annals of Surgery・2019)23研究5982例を統合した系統的レビュー・メタ解析で、LRINECスコア6点以上の感度は68.2%・特異度84.8%、8点以上では感度40.8%・特異度94.9%にとどまり、いずれの閾値でも壊死性軟部組織感染の除外には不十分な感度であったことを確認した。CTの感度88.5%・特異度93.3%と比べても、LRINEC単独でのルールアウトは推奨できないと結論している。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Determinants of mortality for necrotizing soft-tissue infections(Annals of Surgery・1995)米国の単一施設で1989年1月〜1994年6月に治療された壊死性軟部組織感染65例の後ろ向き検討で、入院から手術までの平均時間は死亡例で90時間、生存例で25時間と有意差があり(p=0.0002)、早期デブリードマンが死亡率低下と関連していたことを確認した(全体死亡率29%)。閲覧 2026-08-26
  3. 3.The impact of negative pressure wound therapy for closed surgical incisions on surgical site infection: A systematic review and meta-analysis(Surgery・2020)一次閉鎖創を対象としたRCT44件・5,693例を統合したメタ解析で、NPWT適用群はSSIリスクが約40%低下した(プールされたリスク比0.61、95%信頼区間0.49-0.74)。効果は外科分野やNPWT機器の種類を問わず一貫していたが、エビデンスの確実性は中等度にとどまった。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Prophylactic Negative Pressure Wound Therapy for Closed Laparotomy Incisions: A Meta-analysis of Randomized Controlled Trials(Annals of Surgery・2020)開腹手術後の一次閉鎖創に限定したRCT5件・792例のメタ解析では、NPWT群と標準被覆材群でSSIリスクに有意差はなく(相対リスク0.56、95%信頼区間0.30-1.03、p=0.064)、試験間の異質性も大きかった(I²=67.4%)ことを確認した。同じNPWTでも創の種類(開腹創に限定するか全外科領域か)によって統合結果の強さが割れることを示す一例である。閲覧 2026-08-26