外科学

外科学 · G-05

多剤耐性菌と医療関連感染

Multidrug-resistant pathogens and healthcare-associated infections

前提:病態
抗菌薬耐性の機構(例)クレブシエラ・エンテロバクター・プロテウス・セラチア属シュードモナス群とアシネトバクター等
疾患
院内肺炎人工呼吸器関連肺炎

🧠 全体像:耐性菌診療で最初に分けるのは「保菌か感染か」である。感染なら、菌名だけで薬を固定せず、感染部位、重症度、感受性、、臓器機能を統合する。の予防はデバイスを入れない・早く抜く・標準化した手技を守ることが核となる。

多剤耐性の考え方

多剤耐性は、一般に3系統以上の抗菌薬カテゴリーで少なくとも1剤に非感受性を示す状態をいう。、汎という概念もある。

重要な問い 意味
感染か保菌か 培養陽性だけでは治療しない
感染部位はどこか 尿、肺、血流、腹腔、創で必要な薬物移行が異なる
感染源を除けるか 膿瘍、感染カテーテル、壊死組織、漏を制御する
感受性はあるか 迅速検査・・を参考にへ移る
宿主は耐えられるか 腎・肝機能、相互作用、アレルギーを評価する

主な耐性菌

病原体・耐性 要点 治療原則
βラクタム系の多くに耐性1。創、肺、血流、 感染部位と感受性でバンコマイシン、リネゾリド、等を選ぶ。は肺炎に用いない
主にEnterococcus faecium。尿・腹腔・ リネゾリドや高用量などを部位・感受性で選ぶ
産生腸内細菌目 などを分解 重症・尿路外感染ではが軸。軽症尿路感染は感受性に応じ別薬も選択可能
CRE 機序は複数 型と感受性に合う新規βラクタム/阻害薬を優先し、中心の旧来固定レジメンを避ける
治療困難耐性緑膿菌 多系統への耐性2 感受性のある抗緑膿菌βラクタムを優先し、新規薬をで選ぶ
A. baumannii 、、創、 含有療法を軸にする。利用可能なら・+、代替として高用量アンピシリン・+別の活性薬などを最新指針と感受性に基づき選ぶ

⚠️ 「CREなら」「なら」のような固定リストは、毒性・低い血中濃度・新規薬の登場を反映しない。感染症と地域の感受性情報を用いて決める。

💡 にも伝達性のがある——mcr-1。 従来の耐性は染色体変異によるものだったが、2015年に中国のブタ由来大腸菌からプラスミド媒介性の耐性遺伝子mcr-1が初めて報告された3。プラスミド上にあるため他菌種へしうる点が、を「最後の手段」とする戦略にとって染色体性耐性より重い意味を持つ。

医療関連感染

は、入院だけでなく手術、デバイス、透析、長期療養など医療曝露と関連する感染を含む。入院48時間後という基準は疫学的な目安であり、個々の症例で感染源を確定するではない。

種類 主なリスク 予防の中心
SSI 切開、、汚染 適切な、、、正常体温・
CAUTI 不要・長期の 適応を限定し、閉鎖式を保ち、毎日を検討
CLABSI 中心静脈カテーテル 最大無菌バリア、、ライン必要性の毎日評価
VAP ・人工呼吸 、、鎮静最小化、離脱評価
抗菌薬曝露、医療環境 不要な抗菌薬を減らし、、石鹸と流水、芽胞対応清掃

💡 除菌の対象を広げすぎない。 オランダの多施設RCT(917例、88.1%が手術患者)では、入院時にS. aureusを同定し+で除菌すると、感染率が7.7%から3.4%へ、深部では0.21まで低下した4。ただしこの試験で検出されたS. aureus株はいずれも感性であり、除菌が有効だったのはに限定した集団ではない。そのものを対象にした除菌のSSI予防効果は、この試験だけでは示されていない。

診断と初期対応

flowchart TD
    A["耐性菌が培養で検出"] --> B["症状・炎症・画像から感染を確認"]
    B -->|保菌・汚染| C["原則として抗菌薬を投与しない"]
    B -->|感染| D["感染部位と重症度を特定"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='source control'>感染源制御</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empiric therapy'>経験的治療</span>"]
    E --> F["感受性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resistance mechanism'>耐性機序</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='targeted therapy'>標的治療</span>"]
    F --> G["臨床反応と副作用を監視し適切な期間で終了"]

感染対策と適正使用

  • とを全患者で徹底する。
  • 病原体・伝播経路に応じて接触・・を追加する。
  • デバイス挿入・維持のバンドルを用い、毎日必要性を再評価する。
  • 抗菌薬の適応、採取培養、48〜72時間後の見直し、狭域化、投与期間を記録する。
  • 監視培養は施設・集団発生・高リスク部門の方針に基づき、全例に漫然と行わない。

まとめ

  • 培養陽性を感染と同一視せず、保菌を治療しない。
  • 耐性菌治療は菌名だけでなく部位、重症度、感受性、で選ぶ。
  • 旧来の・中心の固定レジメンを避ける。
  • HAI予防は、無菌手技、デバイス適正使用、が基本である。

出典

  1. 1.Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(Nature Reviews Disease Primers・2018)MRSAの各クローンは、βラクタム薬の大半に対する耐性遺伝子を載せた可動性遺伝因子SCCmecを、複数のS. aureusクローンがそれぞれ独立に獲得したことで生じたこと、1960年代の出現以降世界的に拡散して医療関連・市中双方の感染症の主要原因となったが地域差が大きいことを確認した(medical-microbiology-y2の2-01で点検済みのidを再利用)。閲覧 2026-08-26
  2. 2.The WHO Bacterial Priority Pathogens List 2024: a prioritisation study to guide research, development, and public health strategies against antimicrobial resistance(The Lancet Infectious Diseases(世界保健機関AMR部門)・2025)2024年版WHO細菌性病原体優先リストで、カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii・第3世代セファロスポリン耐性Enterobacterales・カルバペネム耐性Enterobacteralesがcritical層に、カルバペネム耐性Pseudomonas aeruginosaとMRSAがhigh層に分類され、2017年版と比べ緑膿菌はcriticalからhighへ格下げされたことを確認した(medical-microbiology-y2の1-35で点検済みのidを再利用)。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Emergence of plasmid-mediated colistin resistance mechanism MCR-1 in animals and human beings in China: a microbiological and molecular biological study(The Lancet Infectious Diseases・2016)中国のブタ由来E. coli株から、プラスミド媒介性のコリスチン耐性遺伝子mcr-1を世界で初めて同定し、他菌株へ接合伝達で伝播すること、mcr-1がホスホエタノールアミン転移酵素としてリピドAを修飾しコリスチンの効果を無効化することをin vivoモデルで確認した論文であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Preventing surgical-site infections in nasal carriers of Staphylococcus aureus(The New England Journal of Medicine・2010)オランダの多施設二重盲検RCT(917例、うち88.1%が手術患者)で、入院時にPCRでS. aureus鼻腔保菌を同定しムピロシン軟膏+クロルヘキシジン石鹸で除菌した群は、プラセボ群と比べS. aureus感染率が3.4%対7.7%(相対リスク0.42、95%信頼区間0.23-0.75)に低下し、深部手術部位感染では相対リスク0.21(0.07-0.62)とさらに大きな効果を示したことを確認した。ただし本試験で同定されたS. aureus株はいずれもメチシリン感性であり、MRSA保菌者に限定した除菌効果を直接示したものではない。閲覧 2026-08-26