微生物学

微生物学 · 2/19

シュードモナス群とアシネトバクター・バークホルデリア・ステノトロホモナス属

Pseudomonas group and Acinetobacter, Burkholderia, Stenotrophomonas genus

応用トピック
院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎多剤耐性菌と医療関連感染
微生物
Acinetobacter baumanniiBurkholderia cepaciaBurkholderia malleiBurkholderia pseudomalleiPseudomonas aeruginosaStenotrophomonas maltophilia
疾患
カテーテル関連血流感染

🧠 この項の菌はすべて「」という1つのカテゴリーでまとめて読む。 土壌・水・病院内の湿った環境(・シャワー・)に潜むで、正常な免疫を持つ健常者にはほとんど無害だが、カテーテル・・投与中の入院患者を狙う・院内感染菌として牙を剥く。共通するは病原性の強さそのものよりも多剤耐性であり、どの菌でも治療には()に基づく選択が必須になる。プロトタイプがPseudomonas aeruginosa(緑膿菌)で、残り4菌種は「環境曝露+院内感染+多剤耐性」という同じにな違いを加えたものと考えるとよい。

Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 グラム陰性桿菌
生息地 正常皮膚フローラの一員だが、土壌・水にも広く存在する
運動性 単一ので運動性あり
酵素 、
酸素要求性 ——である腸内細菌科(Enterobacteriaceae、例:E. coli)との重要な鑑別点
増殖環境 水系・湿潤環境でよく増殖する

病原性因子

院内感染の代表菌である。

  • 日和見病原体
  • (カテーテル表面など)
  • 高塩分濃度・色素・弱い・一般的な抗菌薬に対する抵抗性

(Exotoxin A):に似るが毒性はやや弱い

  • (elongation factor 2, EF-2)のADPによりタンパク質合成を阻害し、細胞死を誘導する

💡 緑膿菌のはEF-2を標的とする点でと同一の機序を持つ。 全く系統の異なる菌(グラム陽性のCorynebacterium diphtheriaeとグラム陰性のPseudomonas aeruginosa)が、宿主のタンパク質合成を止める同じ分子標的(EF-2のADP)に収束して進化した好例である(参照)。

臨床像

疾患・病態 特徴
・呼吸不全 嚢胞性線維症患者で特に重要
骨髄炎 糖尿病患者・に多い
感染 入院中の熱傷患者に多い
尿路感染症 尿路カテーテルに関連する院内感染
「」
皮膚病変 「」(不十分な温水浴槽使用者に多い、の)/(菌血症から敗血症に至り、毒素が組織を障害。を伴うとして現れる)

⚠️ は緑膿菌敗血症を示唆する特徴的皮疹。 この皮疹を見たら緑膿菌による重篤な菌血症・敗血症を直ちに疑う必要がある。

診断

  • 寒天培地培養:青緑色色素(+)を産生、果実様・ブドウ様の芳香
  • 血液寒天培地でβ溶血を示す

治療

多剤耐性(MBL:、metallo-beta-lactamase、全βラクタム系に耐性)を示すことが多く、が必須

⚠️ 緑膿菌が効きにくい土台は「獲得した酵素」ではなく「もとからの構造」。 MBLのようなの獲得はの一部にすぎない。緑膿菌が最初から多くの抗菌薬に効きにくいのは、①外膜の透過性が低い、②染色体性のAmpC βラクタマーゼを産生する、③RND(resistance-nodulation-cell division)ファミリーのを複数持つ——この3つが重なるためである1。同じ3点はにも共通しており、「はなぜ揃って効きにくいのか」の答えそのものになっている。

💡 は「最終手段」の座を新規βラクタムに譲った。 従来の(、セフタジジム、、、、フルオロキノロン)がすべて効かない株に対して、米国の2026年版指針は、尿路以外の感染症にはセフタジジム/、/、/を優先薬とし(肺炎では/を優先)、を優先薬が使えないときの代替薬とする。MBL産生株ではが優先薬になる。観察研究では、これら新規βラクタム配合剤のほうが、・アミノグリコシド・を組み合わせた従来の治療より転帰がよかった(は従来治療より優れるとは示されていない)。新規βラクタムへの感受性が確認されたら併用療法は勧めない2。ただしの裏づけは乏しく、薬剤の入手性にも地域差があり、これら新規薬に対する耐性も既に出現している3。治療中に約20%の株で耐性化するとされる2。

💡 の優先度づけは2024年に動いた。 2017年版の細菌優先病原体リストで緑膿菌は・腸内細菌目と並ぶ critical(最優先)だったが、2024年版では high へ格下げされた——少なくとも1つの地域で耐性動向の低下が観察されたことを反映しており、米国の2019年版が同菌を critical ではなく serious としているのとも整合する。ただし自身が「high への再分類は研究開発の緊急性を下げるものではない」と明記している4。


その他の非発酵性グラム陰性桿菌

いずれも自然界に広く存在し、・シャワー・などの湿った病院環境を汚染する院内感染菌という共通点を持つ。

Acinetobacter baumannii

項目 内容
形態 グラム陰性球桿菌
酸素要求性・酵素 、(緑膿菌との鑑別点)、
生態 腐敗有機物を分解する(化学生物の一種)
  • 院内感染菌:投与中・術後・中の患者に多い
  • 、尿路感染症、
  • 敗血症:静脈カテーテル上にを形成し、血流へ侵入する
  • 多剤・が問題:多剤耐性の A. baumannii を MACI、の A. baumannii を PACI と呼ぶ
  • 治療:などのに基づく
  • 株の侵襲性感染では、米国の2026年版指針が・とまたはの併用を優先治療とする。すぐに使えないときに限り、高用量(成分で1日9g)に・・などを少なくとも1剤加えて、切り替えまでの橋渡しにする2

⚠️ は2024年版リストでも critical に据え置かれた。 緑膿菌が high へ下がったのと対照的で、非発酵菌のなかで今いちばん切迫しているのはこちらである4。の骨格(外膜透過性の低さ・AmpC・RND)は緑膿菌と共通し、そこへβラクタマーゼ・を後天的に獲得して多剤耐性からへ進む1。

Stenotrophomonas maltophilia

  • 嚢胞性線維症患者の喀痰から検出されるグラム陰性菌として第3位の頻度
  • :、IV機器、汚染された消毒液に由来する
  • 院内肺感染、敗血症を起こす
  • 治療:しばしば多剤耐性——・(ST合剤)が第一選択とされる。ただしこの位置づけは良好な in vitro 活性と臨床転帰の蓄積に基づくもので、とPK/PD・臨床転帰の確固たる相関に裏づけられたものではない(・も同様で、近年のPK/PD研究は現行の臨床に疑問を投げかけている)5。米国の2026年版指針はさらに踏み込み、ST合剤は高用量でもに働かないとして併用療法の一部として使う代替薬に下げ、侵襲性感染には単剤を優先薬とした。ただしこの優先は主に好中球減少のデータに基づくと指針自身が断っており、推奨は分かれている2
  • には——「広域だからを当てておけばよい」が通用しない菌である。定着と感染を区別する標準化された指標が無く、最適な治療法もでは確立していない6

Burkholderia mallei

——主にウマ・ロバ・の疾患(アジア・アフリカ・中東に多い)で感染力が強い。

  • 皮膚・粘膜の潰瘍
  • 吸入により原発性肺炎を起こす
  • ・敗血症(致死的)

Burkholderia pseudomallei

東南アジア・インド・アフリカ・オーストラリアの土壌に典型的に存在。感染力が強く、感染が数年間潜伏し、ストレス状況下ですることがある。性の極鞭毛を持つ。

:動物・ヒトに起こる様の

  • 劇症型の肺疾患
  • 急性菌血症(限局したから)

Burkholderia cepacia complex(BCC)

植物病原体だが、嚢胞性線維症患者における日和見病原体でもある(それ以外ではまれ)。抗菌薬に対する抵抗性が非常に強く、性の極鞭毛で運動性を持つ。

4菌種の比較

菌種 特徴的な感染 備考
Acinetobacter baumannii 院内RTI・・、 の球桿菌。MACI/PACIという多剤・が問題
Stenotrophomonas maltophilia 院内肺感染、敗血症 嚢胞性線維症患者の喀痰から検出される頻度第3位。TMP-SMXで治療
Burkholderia mallei :、肺炎、・敗血症 主にウマ科、ヒトへの感染はまれだが致死的
Burkholderia pseudomallei :、劇症型肺炎、急性菌血症 東南アジア・オーストラリアの土壌に存在、数年潜伏しうる
Burkholderia cepacia complex 嚢胞性線維症患者の日和見感染 元は植物病原体、高度
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-fermenting gram-negative rods'>非発酵性グラム陰性桿菌</span><br>(院内・日和見感染菌)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidase-positive'>オキシダーゼ陽性</span>"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidase-negative'>オキシダーゼ陰性</span>"]
  B --> D["Pseudomonas aeruginosa<br>(緑膿菌、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unipolar'>単極性</span>鞭毛)"]
  C --> E["Acinetobacter baumannii<br>(球桿菌)"]

まとめ

  • 本項の菌はすべてで、環境(土壌・水・病院の湿潤環境)常在菌が・院内感染を起こすという共通を持つ。
  • Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)は・で、(EF-2 ADP、と同一機序)とが病原性の核。CF患者の肺炎、感染、が特徴的。
  • Acinetobacter baumanniiはの球桿菌で、MACI/PACIという多剤・が院内感染で問題になる。
  • Stenotrophomonas maltophiliaはCF患者喀痰から検出される頻度第3位のグラム陰性菌で、TMP-SMXが従来の主な治療薬( 2026は侵襲性感染にを優先し、TMP-SMXは併用の一部とする)。
  • Burkholderia属3菌種は・・CF患者の日和見感染とそれぞれ異なる臨床像を示すが、いずれも高度なを共有する。

出典

  1. 1.Antimicrobial Resistance in Acinetobacter spp. and Pseudomonas spp.(Microbiology Spectrum (American Society for Microbiology)・2018)Acinetobacter baumannii と Pseudomonas aeruginosa がいずれも相補的な機序によって多くの抗菌薬に自然耐性を示し、その主要な3つが外膜透過性の低さ・AmpC βラクタマーゼの産生・RND(resistance-nodulation-cell division)ファミリーの排出ポンプであること、両菌はさらにβラクタマーゼやカルバペネマーゼなどの耐性決定因子を後天的に獲得しうること、両菌がESKAPE病原体(Enterococcus faecium・Staphylococcus aureus・Klebsiella pneumoniae・A. baumannii・P. aeruginosa・Enterobacter属)に含まれ多剤耐性から汎耐性まで報告されていることを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Infectious Diseases Society of America 2026 Guidance on the Treatment of Antimicrobial-Resistant Gram-Negative Infections(Clinical Infectious Diseases / Infectious Diseases Society of America・2026)IDSA の掲載ページ(2026年7月30日公開、CURRENT 表示)の緑膿菌の章で、DTR緑膿菌がアズトレオナム・セフェピム・セフタジジム・シプロフロキサシン・イミペネム・レボフロキサシン・メロペネム・ピペラシリン・タゾバクタムのすべてに非感受性の株と定義されること(4章冒頭)、尿路以外のDTR緑膿菌感染症ではセフタジジム・アビバクタム、セフトロザン・タゾバクタム、イミペネム・レレバクタムが推奨薬で肺炎ではセフトロザン・タゾバクタムが優先、セフィデロコルは代替薬であること(Question 4.3)、観察研究ではこれら新規薬がポリミキシン・アミノグリコシド・カルバペネムを組み合わせた従来の治療より転帰がよかった一方、セフィデロコルは従来治療(主にポリミキシン併用)より優れるとは示されていないこと、MBL(NDM・VIM・IMP)産生緑膿菌ではセフィデロコルが推奨薬であること(Question 4.4)、新規βラクタムでは治療中に約20%の株で耐性が出現すること(Question 4.5)、新規βラクタムへの感受性が確認されたら併用療法を勧めないこと(Question 4.6)、非常にまれなDTR緑膿菌の単純性尿路感染ではコリスチンも候補に残ること(Question 4.2)を確認した。Stenotrophomonas maltophilia の章では、侵襲性感染にセフィデロコル単剤を推奨し、この推奨が主に好中球減少動物感染モデルのデータに基づくと明記していること(Question 6.1)、TMP-SMXは高用量でも殺菌的に働かないとのPK/PD知見から、併用療法の一部として使う代替薬としていること(Question 6.5)も確認した。カルバペネム耐性 Acinetobacter baumannii の章では、侵襲性感染の優先治療がスルバクタム・デュルバクタムとイミペネムまたはメロペネムの併用であること(Question 5.1)、それがすぐに使えないときに限り高用量アンピシリン・スルバクタム(スルバクタム成分で1日9g)にセフィデロコル・ミノサイクリン・ポリミキシンBなど少なくとも1剤を併用して一時的な橋渡しとすること(Question 5.2)を確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Current Management Strategies of Difficult-to-Treat Resistant Pseudomonas aeruginosa Infections(Infectious Disease Clinics of North America・2026)難治性耐性(difficult-to-treat resistance, DTR)緑膿菌が重症の医療関連感染の重要な原因で高い罹患率・死亡率を伴うこと、セフトロザン/タゾバクタム・セフタジジム/アビバクタム・イミペネム/レレバクタム・セフィデロコルという活性のある新規治療選択肢が利用可能になった一方、ランダム化比較試験の不足・薬剤の入手性の制限・新規薬に対する耐性の出現がその管理に悪影響を与えていることを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.The WHO Bacterial Priority Pathogens List 2024: a prioritisation study to guide research, development, and public health strategies against antimicrobial resistance(The Lancet Infectious Diseases / World Health Organization・2025)2024年版WHO細菌優先病原体リストでカルバペネム耐性 Pseudomonas aeruginosa が2017年版の critical から high へ格下げされたこと、その理由として少なくとも1つのWHO地域で耐性動向の低下が観察されたこと・米国CDCの2019年版が同菌を critical ではなく serious としているのと整合することが本文に述べられていること、一方カルバペネム耐性 Acinetobacter baumannii は2024年版でも critical 層(第3世代セファロスポリン耐性・カルバペネム耐性腸内細菌目、リファンピシン耐性結核菌とともに)に残ったこと、WHOが「high への再分類は研究開発の緊急性を下げるものではない」と明記していることを確認した。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Treatment approaches for severe Stenotrophomonas maltophilia infections(Current Opinion in Infectious Diseases・2023)トリメトプリム・スルファメトキサゾール(ST合剤)が Stenotrophomonas maltophilia 感染症の第一選択治療と認識されていること、ただしその臨床的使用は良好な in vitro 活性と良好な臨床転帰に基づくもので、MICとPK/PDや臨床転帰との確固たる相関に基づくものではないこと、レボフロキサシン・ミノサイクリンについても同様であり、近年のPK/PD研究がこれら3剤の現行の臨床ブレイクポイントに疑問を投げかけていることを確認した。閲覧 2026-08-26
  6. 6.How do I manage a patient with Stenotrophomonas maltophilia infection?(Clinical Microbiology and Infection (ESCMID)・2025)Stenotrophomonas maltophilia がカルバペネムを含む複数の抗菌薬に自然耐性を示すこと、血流感染と呼吸器感染が最も多い病型であること、定着と感染を区別して標的治療の開始を判断する標準化された指標が存在せず、最適な治療法もランダム化比較試験では確立していないことを確認した。閲覧 2026-08-26