微生物学

微生物学 · 2/18

ヘモフィルス属

Haemophilus genus

応用トピック
鼠径リンパ肉芽腫症・鼠径肉芽腫・軟性下疳急性化膿性中耳炎の臨床経過・治療と鼓膜切開喉頭の急性・慢性炎症性疾患気管疾患と気道異物急性喉頭蓋炎・細菌性気管炎・クループ中枢神経系の炎症性疾患
微生物
Haemophilus ducreyiHaemophilus influenzae
症状
吸気性喘鳴

🧠 の臨床像は「b型莢膜を持つかどうか」という1つの分岐で説明できる。 莢膜を持つb型株は貪食を回避して血流に乗り、髄膜炎・という致死的な侵襲性疾患を起こす。莢膜を持たない非莢膜株は粘膜局所にとどまり、中耳炎・副鼻腔炎という軽症の粘膜感染にとどまる。はまさにこの「莢膜」だけを狙い撃ちして侵襲性疾患を激減させた。属内の他の菌種は臨床像よりも発育因子(Factor V=NAD、Factor X=)の要求性という生化学的な鑑別軸で整理するのが効率的である。

インフルエンザ菌

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 グラム陰性の球桿菌
生息地 上気道フローラ()
莢膜 (血清型A〜F)——最も重要なのはb型。E. coliのK100抗原と抗原構造が類似する
発育因子要求性が高い(fastidious)——特殊な栄養因子を必要とする
酸素要求性 ——高CO₂濃度でよく発育する(実質的にに近い)

💡 名前の由来と誤解。 “” という名前は、かつてインフルエンザの原因菌と誤認されていたことに由来する(実際の原因は)。むしろ現在は、インフルエンザなどのウイルス性に続発するとして重要視されている。

病原性因子

  • 飛沫感染で呼吸器へ伝播する
  • 鎌状赤血球症患者や患者で感染リスクが上昇する(のクリアランス低下による)
  • 主に4歳未満の小児に多く、しばしばウイルス感染(インフルエンザなど)に続発する

臨床像

疾患 特徴
b型莢膜株による小児の重症疾患。に腫脹した、、を呈する
肺炎(, RTI) 蜂窩織炎(cellulitis:真皮・皮下組織の炎症)を伴うことが多い
中耳炎 副鼻腔炎や軽症のを含む(非莢膜株による)
髄膜炎 b型莢膜株による高い死亡率
結膜炎 コンタクトレンズ使用に伴う感染としても起こりうる

⚠️ は気道緊急症。 の・・は完全気道閉塞に進行しうる所見であり、迅速な気道確保を要するとして扱う。

診断

  • で発育し、以下2因子の添加が必要:
    • X因子:
    • V因子:NAD(アミドジヌクレオチド、nicotinamide adenine dinucleotide)
  • 「」:血液寒天培地では単独で発育できず、黄色ブドウ球菌のコロニー周囲でのみ発育する

💡 の機序。 血液寒天培地上のS. aureusが赤血球を溶血させることでNADとが培地中に遊離し、その周囲だけがHaemophilusにとって発育可能な環境になる——これが「衛星のように」S. aureusコロニーの周りにだけ小さなコロニーが出現する理由である。

  • 抗原検出:、
  • :

治療

  • 重症・侵襲性感染(髄膜炎・全身感染):セフトリアキソン
  • 感染:アモキシシリン、第2・3世代セファロスポリン、
  • への予防投与:リファンピシン

⚠️ アンピシリン耐性には機序の異なる2系統がある。 1つはβラクタマーゼ産生(blaTEM-1が代表)で、の併用やで越えられる。もう1つはPBP3(3)の変異による BLNAR(βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性、beta-lactamase-negative ampicillin-resistant)で、こちらは酵素を作らないためを足しても無効——ここを取り違えると治療が空振りする。ノルウェーの侵襲性株245株では耐性マーカーが25.3%に検出され、blaTEM-1が50.0%、PBP3変異が45.2%とほぼ拮抗していた1。の2024年版細菌優先病原体リストでもアンピシリン耐性が medium(中優先度)層に挙げられている2。

予防

  • Hib(Haemophilus influenzae type b)ワクチン——b型莢膜を標的とする
  • をに結合させたとして、生後2・3・4・18か月に接種する——これはハンガリーのスケジュール(-IPV-Hib混合ワクチンを生後2・3・4か月に基礎接種し18か月に追加)であり、接種時期は国によって異なる3

💡 が疫学そのものを作り変えた。 1990年代に小児へを導入した国では侵襲性感染が激減し、現在のヨーロッパで侵襲性感染の主体はb型ではなく(nontypeable Haemophilus influenzae, NTHi)と非b型莢膜株である。ノルウェーの全国(2017〜2021年、407例)では年間が人口10万人あたり0.7〜2.3(平均1.5)で、した245株の71.8%(176株)がNTHiだった1。NTHiに対するワクチンは無い——は莢膜だけを狙う設計なので、莢膜を持たない株には原理的に効かない。上の表で「非莢膜株による中耳炎・副鼻腔炎」としてまとめた粘膜感染がワクチン時代にも減らないのはこのためである。

その他のHaemophilus属菌

発育因子(Factor V=NAD、Factor X=)の要求性で整理すると覚えやすい。

菌種 形態 発育因子要求性 主な臨床像・特徴
H. ducreyi 細長い桿菌 X因子のみ 性感染症:——梅毒と異なり有痛性——と所属リンパ節炎。顕微鏡で「様」の配列。治療はアジスロマイシン1g単服またはセフトリアキソン250mg筋注単回が第一選択で、3日間・7日間が代替4
H. parainfluenzae 球桿菌 V因子のみ H. influenzaeに類似した疾患を起こす
H. haemolyticus 球桿菌 V因子+X因子の両方 を持つ
H. parahaemolyticus 球桿菌 V因子のみ を持つ
H. aegyptius 細長い桿菌 V因子+X因子の両方 結膜炎、小児のの原因となる
flowchart TD
  A["Haemophilus属菌"] --> B["X因子(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemin'>ヘミン</span>)のみ必要"]
  A --> C["V因子(NAD)のみ必要"]
  A --> D["V因子+X因子の両方必要"]
  B --> E["H. ducreyi<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chancroid'>軟性下疳</span>)"]
  C --> F["H. parainfluenzae<br>H. parahaemolyticus"]
  D --> G["H. influenzae<br>H. haemolyticus<br>H. aegyptius"]

まとめ

  • H. influenzaeの臨床像はb型莢膜の有無で二分される:莢膜を持つb型株は・髄膜炎などの侵襲性疾患を、非莢膜株は中耳炎・副鼻腔炎などの粘膜感染を起こす。
  • 発育にはX因子()とV因子の両方が必要で、または血液寒天培地上のS. aureus周囲()でのみ発育できる。
  • 鎌状赤血球症・患者はリスクが高く、主に4歳未満の小児でウイルス感染に続発しやすい。
  • はb型莢膜をに結合させたで、生後2・3・4・18か月に接種する。
  • H. ducreyi(、X因子のみ)をはじめ、その他の菌種はV因子・X因子の要求パターンで鑑別する。

出典

  1. 1.Molecular epidemiology and antibiotic resistance profiles of invasive Haemophilus influenzae from Norway 2017-2021(Frontiers in Microbiology・2022)Hib(b型莢膜)ワクチンを1990年代に小児定期接種へ組み込んだ国で侵襲性インフルエンザ菌感染が減少し、現在のヨーロッパでは無莢膜型(NTHi)と非b型が侵襲性感染の主因であること、これらの株に対するワクチンは存在せずβラクタム耐性が増加していることを確認した。ノルウェーの全国サーベイランス(2017〜2021年、407例)では年間罹患率が人口10万人あたり0.7〜2.3(平均1.5)で、全ゲノム解析した245株のうち71.8%(176株)がNTHiだった。耐性マーカーは245株中25.3%(62株)に検出され、内訳はblaTEM-1が50.0%(31株)、PBP3変異(rPBP3)が45.2%(28株)だった。閲覧 2026-08-26
  2. 2.The WHO Bacterial Priority Pathogens List 2024: a prioritisation study to guide research, development, and public health strategies against antimicrobial resistance(The Lancet Infectious Diseases / World Health Organization・2025)2024年版WHO細菌優先病原体リストの medium(中優先度)層に、ペニシリン耐性肺炎球菌・アンピシリン耐性 Haemophilus influenzae・ペニシリン耐性B群連鎖球菌・マクロライド耐性A群連鎖球菌が含まれることを本文(Table 2)で確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Vaccine Scheduler: Recommended vaccinations in Hungary(European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC)・2026)ハンガリーの定期接種スケジュールでは、Hibを含むDTaP-IPV-Hib混合ワクチンを生後2・3・4か月に基礎接種し、18か月に追加接種することを確認した。接種時期は国ごとに異なる。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Chancroid - STI Treatment Guidelines(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2021)軟性下疳の推奨治療がアジスロマイシン1g単回内服またはセフトリアキソン250mg筋注単回であり、代替としてシプロフロキサシン3日間・エリスロマイシン7日間が挙げられること、単回投与で治療が完結する点が実務上の利点であることを確認した。閲覧 2026-08-26