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Microbe Atlas · 細菌

Haemophilus ducreyi

分類
G− 球桿菌 / Gram− coccobacilliHaemophilus
性状
Gram陰性 (G−)球桿菌 Coccobacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/18: Haemophilus genus5/26: Normal flora of the genital tract. Pathogens of sexually transmitted diseases (list)
原因となる疾患
軟性下疳・鼠径リンパ肉芽腫症・鼠径肉芽腫
作用する薬剤
アジスロマイシン

🧠 全体像:Haemophilus ducreyiが起こす(・・の1つ)は、の鑑別で必ず梅毒()と対比して覚える菌である。は疼痛が強く辺縁が不整で軟らかい潰瘍であるのに対し、梅毒の病変()は無痛性で境界明瞭・軟骨様に硬い——「痛いか痛くないか、硬いか軟らかいか」の2点だけで大半のケースを仕分けられる。属内では発育因子要求性がX因子()のみという点でHaemophilus influenzae(X・V両因子必要)と鑑別される。

微生物学的な特徴

細長いグラム陰性の桿菌〜球桿菌で、発育にX因子()のみを要する(V因子は不要)——この点が両因子を要するHaemophilus influenzaeとの培養上の鑑別点になる。が高く、培養そのものが難しい:確定診断には特殊培地を要するが品が広く入手できず、その培地を用いても感度は80%未満にとどまる1。このため臨床診断への依存度が高い菌である。

項目 内容
発育因子要求性 X因子()のみ
鏡検所見 「様」の配列——鎖状・平行に並ぶ球桿菌が線路の枕木のように見える
培養 ・低い発育温度・高CO₂濃度を要する特殊な条件が必要で、室での分離率は低い

病原性の仕組み

深部への侵襲は乏しく、表皮〜にとどまりながら強い局所炎症を引き起こす点が特徴である。が宿主細胞の細胞周期を止めてを起こし、線毛・による上皮への接着が定着を支える。強い反応の結果、辺縁が不整で壊死性の膿性潰瘍と、化膿性の所属リンパ節炎()が生じる。

感染経路と疫学

  • 性感染症として直接接触(性交渉)で伝播する
  • サハラ以南アフリカ・アジア・カリブ海地域の一部でが残るが、先進国ではが低下しが中心
  • 性風俗産業との関連が強く、しばしば梅毒・感染症など他のとの合併がみられる
  • は感染・伝播のリスクを高める——の破綻がのになるため

起こす疾患

疾患 特徴
強い疼痛を伴う壊死性・不整辺縁の+疼痛性・化膿性の鼠径リンパ節炎(、となり自然にしうる)。鼠径リンパ節炎を伴うのは典型的に50%未満で、必ず揃うわけではない1。詳細は・・を参照
小児の(性行為非関連) イチゴ腫の流行地では本菌が小児の下肢などのの主要原因になる。パプアニューギニアの流行地の前向き研究では、原因菌が同定された潰瘍73例のうち42例がH. ducreyi単独だった2

⭐ 3疾患の鑑別軸:は「痛い・軟らかい・化膿性の」、梅毒()は「無痛・硬い・のリンパ節腫脹」、は「原発病変は目立たず疼痛性のが主体」——詳細な比較は・・を参照。

診断

  • 培養の感度が低いため、臨床像+による推定診断が実務上の中心となる
  • 米国の推定は4項目すべてを満たすことで、いずれか1つでは足りない1
# 項目
① 疼痛性のが1個以上ある
② 臨床像・潰瘍の外観と、あればがとして典型的である
③ 梅毒の所見がない——潰瘍分泌物のまたは、あるいは潰瘍発症後7〜14日以降に行ったでT. pallidum感染の証拠が得られない
④ 潰瘍分泌物の/ または培養が陰性である
  • ⚠️ 米国では承認のH. ducreyi が無い。 検査室が開発しCLIA検証を行った検査が使える施設に限られる1

治療と予防

米国の2021年ガイドラインは次の4本を並列の推奨レジメンとして挙げる(どれかが「代替薬」という序列にはなっていない)1。

レジメン 用法
アジスロマイシン 1 g 単服
セフトリアキソン 250 mg 筋注 単回
500 mg 1日2回 3日間
基剤 500 mg 1日3回 7日間
  • ⭐ 4本のうちアジスロマイシンとセフトリアキソンだけが単回投与で完結する——これが実務上の利点として挙げられている1
  • ⚠️ 妊娠・授乳中はを選ばない。 胎児へのリスクは低いとするデータがあるが授乳中の毒性の可能性があり、妊娠中・授乳中は別の薬剤を用いる1
  • 世界的にはまたはに中等度耐性を示すが報告されているが、培養がに行われず本症自体がまれなため、耐性の頻度を示すデータは限られる1
  • のはまたはで減圧する。のほうが手技は簡便だが、その後に追加の排膿処置を要することが少ないためが好まれることがある1
  • ⚠️ 進行例では治療が成功しても、瘢痕や化膿したに由来する直腸・尿路生殖器の瘻孔が残りうる1
  • 治療開始3〜7日後に再診する。すれば潰瘍は3日で症状が、7日で所見が改善する。完全な治癒までの期間は潰瘍の大きさによって変わり、大きな潰瘍では2週間を超えることがある1
  • ⚠️ を受けていない男性と陽性者は治療反応が劣る。 陽性者ではや長期投与を要することがあり、どのレジメンでもが起こりうる1
  • 発症前10日以内に性的接触のあったパートナーは、症状の有無にかかわらず診察・治療する1
  • 梅毒・・淋菌・クラミジアなど他のの同時検査を行い、治癒・パートナー治療完了まで性交渉を避ける

⚠️ 小児の潰瘍を「の証拠」と即断しない。 性器・会陰の潰瘍はを強く疑う所見である一方、イチゴ腫の流行地では本菌が小児の性行為非関連のの主要原因であり、を伴わないと流行地への渡航歴だけではの証拠とみなさない1。

まとめ

  • は疼痛性・軟らかい・不整辺縁の+疼痛性の鼠径リンパ節炎()——梅毒の無痛性・硬いと対をなす鑑別ポイント。
  • 発育因子要求性はX因子()のみで、V因子も要するH. influenzaeと区別される。鏡検では「様」の配列を呈する。
  • 培養は特殊培地でも感度80%未満のため、実務上は臨床像+梅毒・の除外による推定診断(4項目すべてを満たす)が中心1。
  • 米国の推奨レジメンは4本並列で、うちアジスロマイシン1 g単回とセフトリアキソン250 mg筋注単回が単回投与で完結する。妊娠・授乳中はを避ける1。
  • は伝播リスクを高めるため、他の検査とパートナー管理を必ず併せて行う。
  • イチゴ腫の流行地では小児の性行為非関連のの主要原因にもなる2。⚠️ と流行地への渡航歴だけを根拠にと断定しないことは、米国のガイドライン本文が明記している1。

出典

  1. 1.Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Recommendations and Reports)・2021)PMC全文(PMC8344968)の「Chancroid」の節を逐語で確認した。米国CDCの推奨レジメンは4本並列で、アジスロマイシン1 g単回内服、セフトリアキソン250 mg筋注単回、シプロフロキサシン500 mg 1日2回3日間、エリスロマイシン基剤500 mg 1日3回7日間であり、うちアジスロマイシンとセフトリアキソンが単回投与の利点を持つと説明される(シプロフロキサシンとエリスロマイシンは代替ではなく推奨レジメンに並ぶ)。妊娠・授乳中についてはシプロフロキサシンの胎児へのリスクは低いが授乳中の毒性の可能性があるため別の薬剤を用いる。推定診断は4項目すべてを満たすこととされ、①疼痛性の性器潰瘍が1個以上、②臨床像・潰瘍の外観と(あれば)所属リンパ節腫脹が軟性下疳として典型的、③暗視野検査またはNAAT、あるいは潰瘍発症後7〜14日以降の梅毒血清反応で*T. pallidum*感染の所見がない、④潰瘍分泌物のHSV-1/HSV-2 NAATまたはHSV培養が陰性。培養は特殊培地を要し市販品が広く入手できず、その培地を用いても感度は80%未満。米国ではFDA承認のNAATが無く、各検査室が自家開発しCLIA検証を行った検査のみが利用できる。鼠径リンパ節炎は典型的に症例の50%未満に生じ(原文は「inguinal lymphadenitis typically occurs in <50% of cases」であって「約50%」ではない)、波動性のリンパ節腫脹は穿刺吸引または切開排膿を要することがあり、穿刺吸引のほうが簡便だが、その後の排膿処置の必要性が少ないため切開排膿が好まれることがある。進行例では治療が成功しても瘢痕や化膿した横痃に由来する直腸・尿路生殖器の瘻孔が残りうる。性的パートナーは発症前10日以内に接触があれば症状の有無を問わず診察・治療する。治療開始3〜7日後に再診し、奏効すれば潰瘍は3日で症状が7日で他覚的所見が改善し、完全な治癒までの期間は潰瘍の大きさに依存し、大きな潰瘍では2週間を超えることがある。割礼を受けていない男性とHIV陽性者は治療反応が劣り、HIV陽性者では反復投与や長期投与を要することがあり、どのレジメンでも治療失敗が起こりうる。小児の性器・会陰の潰瘍は性的虐待を強く疑う所見だが、*H. ducreyi*はイチゴ腫の流行地では小児の性行為非関連の皮膚潰瘍の主要原因として認識されており、性器潰瘍を伴わない下肢潰瘍と流行地への渡航歴があるだけでは性的虐待の証拠とみなすべきでないと明記されている。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Haemophilus ducreyi as a cause of skin ulcers in children from a yaws-endemic area of Papua New Guinea: a prospective cohort study(The Lancet Global Health・2014)抄録を Europe PMC で確認し、書誌は Crossref で照合した。パプアニューギニアのイチゴ腫流行5村(総人口3,117人)で慢性の湿潤性・滲出性皮膚潰瘍を持つ患者を前向きに登録し、病変スワブのPCRで起因菌を調べた研究である。転帰データが揃った90人のうち73人(81%)で細菌性の原因が同定され、内訳は*H. ducreyi*単独42人、イチゴ腫(*T. pallidum* subsp. *pertenue*)19人、両者の重複感染12人だった。イチゴ腫と重複感染の病変は*H. ducreyi*単独の病変より円形をとりやすく(79%・67%対21%)、中央に肉芽組織を持ちやすく(90%・67%対14%)、辺縁が硬化しやすかった(74%・83%対31%)。梅毒血清反応陽性の割合もイチゴ腫63%・重複感染92%に対し*H. ducreyi*感染では29%だった。著者はこの流行地において*H. ducreyi*が慢性皮膚潰瘍の重要かつそれまで認識されていなかった原因であると結論している。全文は未取得で、抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-27