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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

梅毒

Syphilis

別名
LuesTreponema pallidum infection
臓器系
感染症
科目
Medical MicrobiologyDermatology
トピック
微生物学 2/29:トレポネーマ属皮膚科 2-17:第一期梅毒と鑑別診断皮膚科 2-18:第二期梅毒皮膚科 2-19:第三期梅毒・神経梅毒・先天梅毒皮膚科 2-20:梅毒の診断法と生物学的偽陽性反応
鑑別疾患
Cogan症候群HIV関連空胞性脊髄症エムポックスばら色粃糠疹亜急性連合性脊髄変性症軟性下疳・鼠径リンパ肉芽腫症・鼠径肉芽腫慢性苔癬状粃糠疹疥癬
関連疾患
HIV感染症・AIDSクラミジア性器感染症先天性TORCH感染症淋菌感染症
治療薬
ベンザチンペニシリンペニシリンGドキシサイクリン
原因微生物
T. pallidum ssp. pallidum
症状
リンパ節腫脹鞍鼻腫脹電撃痛発熱皮疹皮膚結節外陰部潰瘍感覚性運動失調直腸炎シャルコー関節

🧠 全体像:梅毒はTreponema pallidumによる全身性の性感染症で、()→(全身発疹)→潜伏期(無症状)→(・)へと数十年かけて姿を変える「の」である。神経・眼・はこの病期の流れとは独立してどの時期にも起こりうる。診断は病期ごとに武器を変える——早期は直接検出、それ以降は(活動性)とトレポネーマ検査(感染歴)の2系統を組み合わせる。治療は全病期でペニシリンが唯一無二の第一選択である。

病態と感染経路

T. pallidum ssp. pallidumはグラム陰性だが細すぎて通常のグラム染色では観察できないスピロヘータで、でのみ直接観察できる。によりを回避し、(Tromp I〜III)で上皮細胞へ接着・侵入する。

主な感染経路は性的接触(粘膜・からの侵入)で、()、輸血、臓器移植でも伝播しうる。感染性を持つのは・・潜伏期の最初の2年で、それ以降はのみが起こりうる。

flowchart TD
  A["感染<br>(潜伏1-2週間、範囲10-90日)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary stage'>一次期</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulcus durum / chancre'>硬性下疳</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='regional lymphadenopathy'>所属リンパ節腫脹</span>"]
  B --> C["無治療でも数週で自然消退"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary stage'>二次期</span>:全身発疹・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='condyloma latum'>扁平コンジローマ</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary stage'>一次期</span>の1-3か月後)"]
  D --> E["潜伏期:無症状だが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seropositivity'>血清陽性</span>"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tertiary stage'>三次期</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gumma'>ゴム腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiovascular syphilis'>心血管梅毒</span><br>(初感染後3-30年)"]
  B -.-> G["神経・眼・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='otosyphilis'>耳梅毒</span><br>(どの病期でも起こりうる)"]
  D -.-> G
  E -.-> G

臨床像

病期 時期 臨床像
感染後10日〜3か月 :境界明瞭・軟骨様に硬い無痛性潰瘍(陰部・肛門周囲・口腔)+両側性・弾性硬・無痛の。自然消退しても感染は残存する
の数週〜数か月後 全身性の(に強い、)、、、、発熱・全身性リンパ節腫脹などの全身症状
潜伏期 早期潜伏(<1年)/後期潜伏(>1年) 無症状だが血清検査は陽性。早期潜伏までは感染性を保つ
初感染後3〜30年 (肉芽腫性破壊、皮膚では弧状・に拡大)、(瘤・・)
神経・眼・ どの病期でも 髄膜炎、脳卒中様の病変、(後索障害による・)、、、ぶどう膜炎・、感音難聴
流産・・、早期(<2歳:皮疹・肝脾腫・鼻炎)、遅発性(:・・感音難聴、、)

⚠️ は「娼婦の瞳孔」と語呂で覚える。 はしない(accommodate but do not react)が、・調節反応はする——に特異的な所見。

鑑別診断(一次期)

疾患 鑑別の手掛かり
有痛性の群生小水疱・びらん・浅い潰瘍、再発性
有痛性で軟らかく汚い膿性底の潰瘍。圧痛を伴う
一過性の小潰瘍後に疼痛性リンパ節腫脹または
同一部位に反復し、薬剤曝露と時間的関連がある

二期梅毒の段階では、体幹の丘疹がやと紛らわしい。梅毒はと粘膜を侵しうる点、は夜間増強する掻痒と・手関節の分布を伴う点が手掛かりになる。

外見だけでは確定できず複数感染が併存することもあるため、必要に応じて、、淋菌、クラミジアも検査する。

診断

flowchart TD
  A["梅毒を疑う症状・曝露"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-treponemal test'>非トレポネーマ検査</span>とトレポネーマ検査を組み合わせる"]
  B --> C["両方陽性"]
  B --> D["結果が不一致"]
  B --> E["両方陰性"]
  C --> F["既治療歴・病期・力価を確認"]
  D --> G["別法のトレポネーマ検査、再検、臨床評価"]
  E --> H["早期感染が疑わしければ2〜4週後に再検"]
  F --> I["病期に応じ治療し定量力価を追跡"]
  G --> I
検査系統 代表 何を測るか 役割
直接検出 、 病変中の菌体・ 一次病変での確定診断。抗体産生前のごく早期にも有用
、 関連抗体 定量力価で活動性・治療反応・を追跡。妊娠・自己免疫疾患などで偽陽性となりうる()
トレポネーマ検査 、、/CIA、 T. pallidum特異抗体 現在・過去の感染を支持するが、治療後も生涯陽性を保ちうるため治療効果判定には用いない

の力価は4倍変化(2管差、例:1:32→1:8)を臨床的に有意とし、比較は同一の検査法・できれば同一メーカーの試薬で行う1。抗体過剰によるでが偽陰性となることがあり、臨床的疑いが強ければ検体希釈を依頼する。神経症状があれば髄液細胞数・蛋白・髄液を評価する。

治療

全病期でペニシリンが唯一の第一選択であり、妊婦にも安全に使用でき予防にも必須である。非妊婦のペニシリンアレルギーでは・にドキシサイクリン100mg 1日2回14日間などの代替があるが、妊婦はしたうえでを投与する1。

病期 標準治療
・・ G 240万単位 筋注単回1
・感染時期不明・(なし) G 240万単位 筋注を週1回、計3回(総量720万単位)1
神経・眼・ 水性結晶静注、合計1,800万〜2,400万単位/日(300万〜400万単位を4時間ごと、または)を10〜14日1

・梅毒では、Gの追加投与やアモキシシリン・他の抗菌薬のは、感染の有無にかかわらず有効性を高めない1。

💡 日本ではG筋注が長らく入手できず、経口アモキシシリンが代用されてきた。 2010〜2018年の全国調査では活動性梅毒の妊婦80例が経口アモキシシリン/アンピシリンで治療され、早期梅毒26例ではが発生しなかった一方、後期梅毒45例では33%(15例)にが生じている2。国内初のG筋注製剤(ステルイズ)は2021年9月に承認され2022年1月に発売、適応症は「梅毒(を除く)」で、用法は早期梅毒に240万単位単回筋注、後期梅毒に240万単位を週1回計3回筋注と国際標準に一致する3。

⚠️ G筋注はの治療濃度を髄液内に達成しない。用の静注治療が必要な患者に晩期梅毒の筋注だけを行ってはならない。国内の添付文書でも適応症は「梅毒(を除く)」と明記されている3。

⚠️ :治療開始後24時間以内に大量死滅したスピロヘータからサイトカインが急増し、発熱・頭痛・筋痛をきたす。菌量の多い早期梅毒で最も頻度が高い。で対症的に管理する(ただしに本反応を予防する効果は証明されていない)。ペニシリンアレルギーと誤認しない1。

治療後は/の定量力価を同一検査法で追跡する。・・では診断前90日以内の性的接触者を血清結果を待たずに推定治療し(90日を超えるは血清結果と追跡可能性に応じて判断する)1、パートナー治療完了・病変治癒まで性交を避ける。検査を同時に行い、陰性で継続リスクがあれば()を検討する。バクテリア性(梅毒・クラミジア・淋菌)を過去12か月に一度でも罹患した・トランスジェンダー女性には、性交後72時間以内のドキシサイクリン200mg単服による曝露後予防(doxy-PEP)のも選択肢となる(2024年指針)4。

まとめ

  • 梅毒は()→(全身発疹・)→潜伏期(無症状)→(・)と数十年かけて進行し、神経・眼・はどの病期にも起こりうる。
  • 診断は直接検出(早期)と2系統の血清検査(で活動性、トレポネーマ検査で感染歴)を病期に応じて組み合わせる。
  • 治療は全病期でペニシリンが唯一の第一選択で、病期により製剤・・期間(単回筋注/週1回×3/静注10-14日)が異なる。
  • は治療の一部として説明し、パートナー管理・検査・力価追跡までを一続きに行う。

出典

  1. 1.Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Recommendations and Reports)・2021)成人の一次・二次梅毒および早期潜伏梅毒の推奨レジメンがベンザチンペニシリンG 240万単位の筋注単回であり、追加投与・アモキシシリン・他の抗菌薬の上乗せはHIV感染の有無にかかわらず有効性を高めないこと、晩期潜伏梅毒・感染時期不明の潜伏梅毒・髄液所見が正常な三次期は総量720万単位を240万単位ずつ1週間隔で計3回筋注すること、神経梅毒・眼梅毒・耳梅毒は水性結晶ペニシリンG 1,800万〜2,400万単位/日(300万〜400万単位を4時間ごと静注または持続点滴)を10〜14日投与し、代替はプロカインペニシリンG 240万単位筋注1日1回+プロベネシド500mg 1日4回を10〜14日であることを確認した。非トレポネーマ検査の力価は同一の検査法(できれば同一メーカー)で追跡し、2管差=4倍の変化(例:1:16→1:4、1:8→1:32)を臨床的に有意とすること、Jarisch-Herxheimer反応は梅毒治療開始後24時間以内に起こる急性発熱反応で頭痛・筋痛・発熱を伴い、ペニシリンに対するアレルギー反応ではなく早期梅毒で最も高頻度であること、解熱薬で症状を管理できるが本反応の予防効果は証明されておらず、妊娠中の治療関連合併症のリスクを糖質コルチコイドが変えるというデータは存在しないことも確認した。パートナー管理は一次・二次・早期潜伏梅毒の診断前90日以内の性的接触者を血清結果を待たず推定治療する(90日を超える接触者は血清結果と追跡可能性に応じて判断する)。ペニシリンアレルギーでは非妊婦の一次・二次梅毒にドキシサイクリン100mg 1日2回14日間などの代替があるが、妊婦は脱感作したうえでペニシリンGで治療する。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Effectiveness and Tolerability of Oral Amoxicillin in Pregnant Women with Active Syphilis, Japan, 2010-2018(Emerging Infectious Diseases(Centers for Disease Control and Prevention)・2020)ベンザチンペニシリンG筋注が入手できなかった時期の日本で、活動性梅毒の妊婦に経口アモキシシリンまたはアンピシリンが代替として用いられてきたこと、2010〜2018年の全国後ろ向き研究80例では21%(15/71)が先天梅毒に至り、早期梅毒26例では先天梅毒の発生がなかった一方、後期梅毒45例では15例(33%)に先天梅毒が生じたことを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-05
  3. 3.ステルイズ水性懸濁筋注60万単位シリンジ/ステルイズ水性懸濁筋注240万単位シリンジ 添付文書(医薬品医療機器総合機構(PMDA)/ファイザー株式会社・2021)日本で初めて承認されたベンジルペニシリンベンザチン水和物の筋注製剤(ステルイズ)の添付文書が2021年9月作成の第1版であり、承認番号30300AMX00438・30300AMX00439、販売開始が2022年1月であることを確認した。効能・効果は適応菌種が梅毒トレポネーマ、適応症が「梅毒(神経梅毒を除く)」で、用法・用量は成人および13歳以上の小児で早期梅毒に240万単位を単回筋注、後期梅毒に1回240万単位を週1回・計3回筋注、2歳未満の小児では早期先天梅毒・早期梅毒に体重1kgあたり5万単位を単回筋注であること、静脈内・動脈内・神経近傍への投与は禁じられ静脈内投与による心肺停止および死亡が報告されていること、その他の副作用としてヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応が記載されていることも確認した。閲覧 2026-09-05
  4. 4.CDC Clinical Guidelines on the Use of Doxycycline Postexposure Prophylaxis for Bacterial Sexually Transmitted Infection Prevention, United States, 2024(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Recommendations and Reports)・2024)過去12か月以内に細菌性STI(梅毒・クラミジア・淋菌)と診断されたMSMおよびトランスジェンダー女性に対し、doxy-PEPを説明したうえで共有意思決定を経て処方することを推奨していること、用法は口腔・腟・肛門性交後72時間以内にドキシサイクリン200mgを自己内服することを確認した。3件の大規模ランダム化比較試験で梅毒とクラミジアは70%超、淋菌は約50%減少したこともあわせて確認した。閲覧 2026-09-05