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Symptoms · Published

直腸炎

Proctitis

別名
直腸粘膜炎
臓器系
消化器感染症
科目
Internal MedicineUrology
トピック
内科学 G-03:炎症性腸疾患泌尿器科学 N-07:限局性前立腺癌
関連疾患
クラミジア性器感染症炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)単純ヘルペスウイルス感染症潰瘍性大腸炎軟性下疳・鼠径リンパ肉芽腫症・鼠径肉芽腫梅毒淋菌感染症

🧠 全体像は「大腸炎・血便一般」ではなく、炎症がから直腸の遠位12〜15cmに限局しているという部位で切り取った症候群である。)・粘液・排便時痛・接触出血という特徴的な訴えの組み合わせは、炎症が直腸を越えて波及するや、直腸粘膜自体は正常なまま小腸が主座になる腸炎とは異なる評価の入口を要求する。原因は受容的・肛門への接触歴の有無で大きく二分される——性感染症(淋菌・クラミジア/LGV・梅毒・、経口-肛門接触による腸管感染症)と、非性感染性の・放射線性・虚血性/である。最も見逃してはいけないのはLGVで、に酷似するため疑われずに治療が遅れ、瘻孔・狭窄という不可逆的を残す。

定義と用語の整理

「直腸の症状」を訴える患者を評価する前に、炎症の及ぶ範囲で3つの病態を区別する。

用語 炎症の範囲 典型的な症状
(本ノートの主題) 〜直腸遠位12〜15cmに限局 粘液、接触出血、肛門痛・、便秘、直腸充満感・残便感、1
直腸S状部を越えて波及 少量の下痢、血便、腹痛、残便感、1
腸炎 直腸粘膜は正常。小腸が主座 大量の、血便、、悪心・嘔吐、発熱、体重減少1

血便部分集合ではない。血便は一般を指す所見名で出血源を問わず、の局所病変(など)を中心に据えるのに対し、は「直腸粘膜そのものが炎症を起こしている」という機序を明示する診断名であり、両症状を伴いうるがどちらとも一対一に対応しない。

評価の起点はで決まる。 過去6か月以内の受容的・肛門への接触歴(指・玩具・を含む)の有無が、性感染症の検査を組み込むかどうかを左右する1。無い場合は歴・の既往を確認する方向へが切り替わる。

病態生理

原因は機序で以下の群に整理できる。

  • 性感染症群:淋菌・クラミジア(D-K血清型)は円柱上皮への直接感染で粘液膿性のを起こし、無症候のことが多い()。梅毒・は肛門周囲・直腸に潰瘍性病変を作る(梅毒)。LGV(Chlamydia trachomatis L1-3)だけは上皮にとどまらず・リンパ組織まで侵入性に進展し、これがに酷似する所見の土台になる。
  • 経口-肛門接触による腸管感染症・カンピロバクター・サルモネラ・大腸菌・赤痢アメーバは型、ジアルジア・スポリジウム・・A型肝炎ウイルスは腸炎型を来す。いずれも「肛門を舐める(リミング)」などの経口-肛門接触で伝播しうる1
  • 免疫抑制下の感染:CD4数200/μL未満などの進行したHIV感染症(HIV感染症・AIDS)では、通常は性感染しないなども・腸炎の原因になる1
  • (直腸は直腸からに炎症が広がる疾患であり、炎症が直腸だけにとどまる病型がある。の慢性炎症であり感染性とは機序がまったく異なるが、症状だけでは鑑別できない。
  • 放射線性:骨盤部悪性腫瘍(前立腺癌・など)への放射線治療が直腸壁のを起こし、慢性虚血と)を形成する。この血管が照射から数か月を経てから出血源になる——「治療は終わったはずなのに後から出血する」という時間差が病態の核心である2
  • 虚血性・・化学性:直腸に及ぶ、フィスティング・・洗腸剤・ケムセックスによる直接的な粘膜損傷も非特異的なを起こす1

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ LGV 型は、臨床像・組織像ともに酷似するため、が疑われている患者でこそ見落とされやすい1。治療の遅れは瘻孔・狭窄という不可逆的に直結するため、血性分泌物・陽性がそろえば、遺伝子型別の結果を待たずドキシサイクリンを開始する。
  • ⚠️ 原因不明のまま遷延するの背後の大腸癌・ 病原体が同定できずにも反応しないは、大腸癌を除外するため消化器専門医への紹介を要する1。「性感染症を治療したのに治らない」で終わらせない。
  • ⚠️ 免疫抑制下のCMV・大腸炎。 免疫能が保たれた患者の一次性CMVは自然軽快することが多いが、進行したHIV感染症など免疫抑制下でのCMV大腸炎は進行性・高であり、抗ウイルス治療を要する1。同じCMVでも背景の免疫状態で重みがまったく違う。
  • ⚠️ の遅発性出血。 から数か月〜数年を経て由来のから出血する2。照射歴の聴取を怠ると、再発や別のの精査に迷走する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["直腸の症状<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tenesmus'>テネスムス</span>・粘液<span class='jp-term jp-term-diagram' title='purulent discharge'>膿性分泌物</span>・出血・排便時痛)"] --> B{"過去6か月以内の<br>受容的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral-anal sex'>肛門性交</span>・接触歴があるか"}
    B -->|"あり"| C["直腸鏡・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anoscopy'>肛門鏡</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rectal swab'>直腸スワブ</span><br>グラム染色とNAAT"]
    B -->|"なし"| D{"骨盤への放射線治療歴があるか"}
    D -->|"あり(数か月〜数年前)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radiation proctitis'>放射線性直腸炎</span>を疑い<br>内視鏡で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='telangiectasia'>毛細血管拡張</span>・出血を評価"]
    D -->|"なし"| F["血性下痢・腹痛の性状から<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory bowel disease, IBD'>炎症性腸疾患</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic colitis'>虚血性大腸炎</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='infectious enteritis (infectious enterocolitis)'>感染性腸炎</span>を検索"]
    C --> G{"好中球内に<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Gram-negative diplococcus'>グラム陰性双球菌</span>があるか"}
    G -->|"あり"| H["淋菌性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proctitis'>直腸炎</span><br>セフトリアキソン+ドキシサイクリンで治療"]
    G -->|"なし"| I{"潰瘍性病変・<br>肛門周囲病変があるか"}
    I -->|"あり"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='herpes simplex (HSV)'>単純ヘルペス</span>・梅毒を検索<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dark-field microscopy'>暗視野検査</span>・梅毒血清・HSV PCR"]
    I -->|"なし、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymorphonuclear leukocyte'>多形核球</span>>10/視野"| K["クラミジア/LGVを疑い<br>ドキシサイクリンを開始"]
    K --> L{"LGV遺伝子型は陽性か"}
    L -->|"陽性"| M["ドキシサイクリン最低21日間"]
    L -->|"陰性・未検"| N["ドキシサイクリン7日間"]

対応の考え方

そのものを鎮める対症療法は原則なく、原因への直接治療がすべてである。

  • 淋菌が疑われる場合:セフトリアキソン1 g筋注単回+ドキシサイクリン100 mgを1日2回7日間1
  • 原因が特定できない非特異的急性が非特異的でも、性感染症が疑わしければドキシサイクリン100 mgを1日2回7日間の推定治療を検討する1
  • LGVを疑う場合:⚠️ 遺伝子型別の結果を待たずドキシサイクリンを継続し、陽性が確定すれば最低21日間、陰性であれば7日間に短縮する1
  • を疑う場合(MSM・への渡航歴):メトロニダゾール750 mgを1日3回5〜10日間1
  • 腸炎:輸液による補液が最も重要な治療であり、抗菌薬の推定投与は重症例に限る1
  • ・注腸が第一選択になる(を参照)。
  • の出血:内服の・副腎皮質ステロイドは効果が限定的で、によるが有効かつ安全な治療として位置づけられる2
  • 性感染症が原因であれば、パートナーの同時検査・治療と、治癒確認までの性交渉回避を並行する。

まとめ

  • は炎症が〜直腸遠位に限局した症候群で、波及範囲が広い・腸炎、症状名にすぎない血便・とは異なる評価軸を持つ。
  • 原因は受容的・接触歴の有無で大きく二分され、性感染症(淋菌・クラミジア/LGV・梅毒・HSV、経口-肛門接触による腸管感染症)と非性感染性(免疫抑制下のCMV、の直腸、放射線性、虚血性・)に整理できる。
  • 最も見逃してはいけないのはLGVで、に酷似するため疑われずに治療が遅れ、瘻孔・狭窄を残す。原因不明のまま遷延する例での大腸癌・の除外、免疫抑制下のCMV大腸炎、の遅発性出血も重要な見逃しである。
  • 鑑別は接触歴・照射歴の聴取から始め、直腸鏡・とグラム染色・NAATで病原体を絞り込む。
  • 治療は原因治療が本体で、LGV疑いは遺伝子型結果を待たず推定治療を継続する。

出典

  1. 1.2021 European Guideline on the management of proctitis, proctocolitis and enteritis caused by sexually transmissible pathogens(European Academy of Dermatology and Venereology / IUSTI Europe (JEADV)・2021)直腸炎を「肛門管・直腸に限局した炎症症候群」と定義し、直腸結腸炎(炎症が直腸S状部を越えて波及)・腸炎(直腸粘膜は正常)と区別すること、淋菌・クラミジア(LGVを含む)・梅毒トレポネーマ・単純ヘルペスが直腸炎の主要な原因であること、LGV直腸炎は炎症性腸疾患を疑われている患者で臨床像・組織像とも酷似するため見逃されやすいこと、CMV直腸炎はコンドームなし肛門性交後数週間で生じる伝染性単核球症様症状+直腸症状の組み合わせが病的診断的であり進行するCMV大腸炎はHIVの指標疾患であること、淋菌疑いの症候群的治療(セフトリアキソン1 g筋注単回+ドキシサイクリン100 mg 1日2回7日間)、非特異的急性直腸炎への推定治療(ドキシサイクリン100 mg 1日2回7日間)、LGV遺伝子型陽性なら最低21日間・陰性なら7日間の継続、直腸結腸炎(アメーバ症疑い)へのメトロニダゾール750 mg 1日3回5〜10日間、腸炎では輸液が最重要で重症例のみシプロフロキサシン等の推定的抗菌薬投与を行うこと、病原体が同定できず経験的治療後も直腸炎が遷延する場合は炎症性腸疾患の除外のため消化器専門医へ紹介することを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Efficacy and Safety of Argon Plasma Coagulation for Hemorrhagic Chronic Radiation Proctopathy: A Systematic Review(Gastroenterology Research and Practice・2018)慢性放射線性直腸症が骨盤部悪性腫瘍への放射線治療後に生じる出血性合併症であること、病態が閉塞性動脈内膜炎による慢性虚血と毛細血管拡張(新生血管)の形成にあり、これが照射から数か月を経てからの遅発性出血につながること、サリチル酸塩・副腎皮質ステロイドなど内服治療の効果は限定的である一方アルゴンプラズマ凝固療法(APC)は止血成功率71.4〜100%と有効かつ安全な内視鏡治療であること(穿孔等の重篤合併症は約3〜4%)を確認した閲覧 2026-08-03