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Microbe Atlas · 細菌

Acinetobacter baumannii

分類
G− 桿菌・好気性 / Gram− rods (aerobic)Acinetobacter
性状
Gram陰性 (G−)桿菌 Bacilli好気性 Aerobic
科目
Medical Microbiology
トピック
2/19: Pseudomonas group and Acinetobacter, Burkholderia, Stenotrophomonas genus5/1: Bacteria causing skin and wound infections (list) and their diagnosis5/13: Bacteria causing lower respiratory tract infections (list) and their diagnosis
自然耐性薬
アズトレオナムエルタペネムアンピシリンセフトリアキソン
原因となる疾患
カテーテル関連血流感染院内肺炎人工呼吸器関連肺炎尿路感染症
作用する薬剤
アミカシンイミペネム+シラスタチンエラバサイクリンコリスチンセフィデロコルチゲサイクリンドリペネムポリミキシンBミノサイクリンメロペネム

🧠 全体像:Acinetobacter baumanniiを理解する軸はの多彩さではなく、環境での生存力の強さがそのまま院内での拡散力になるという一点にある。乾燥した病院表面・の上で数週間生き延びるとしての性質が、を作りやすい多剤・の温床になっている。緑膿菌と並ぶの代表だが、の球桿菌という1点で緑膿菌と鑑別できる。

微生物学的な特徴

項目 内容
形態 グラム陰性球桿菌——桿菌というより短く丸みを帯びた形態を取ることが多い
酸素要求性・酵素 、(緑膿菌との鑑別点)、
生態 腐敗有機物を分解する。乾燥環境・表面での生存期間が長いことがの鍵

病原性の仕組み

特定の強力な外毒素を持つわけではなく、環境での生存力++耐性遺伝子の獲得しやすさという3点の組み合わせで院内感染菌として問題になる。

flowchart TD
    A["Acinetobacter baumannii"] --> B["乾燥・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medical devices'>医療機器</span>表面での<br>長期生存"]
    A --> C["静脈カテーテル上の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='biofilm formation'>バイオフィルム形成</span>"]
    A --> D["耐性遺伝子の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='horizontal transmission (of genes: horizontal gene transfer)'>水平伝播</span>・蓄積"]
    B --> E["病棟内<span class='jp-term jp-term-diagram' title='outbreak'>アウトブレイク</span>"]
    C --> F["血流侵入・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catheter-related bloodstream infection, CRBSI'>カテーテル関連血流感染</span>"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carbapenem-resistant'>カルバペネム耐性</span>株<br>(多剤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pan-resistance'>汎耐性</span>)の出現"]

⚠️ 多剤・がこの菌の最大の。 多剤耐性株をMACI、をPACIと呼ぶことがある。現在の治療指針はという1点で括り、と呼んでいる。は主にOXA型(OXA-23・OXA-24/40・OXA-58)と由来のセファロスポリナーゼで従来のβラクタムを分解し、の減少とのがそれに重なる。アミノグリコシドもなどで系統ごと効かないことが多い1。

感染経路と疫学

  • 院内感染菌:投与中・術後・中の患者に多い
  • (、静脈カテーテル)や病棟環境表面を介した伝播が中心で、を起こしやすい
  • 熱傷患者・戦傷(軍関係の創傷感染で注目された経緯を持つ)でも重要

起こす疾患

疾患・病態 押さえどころ
・ 患者の院内で緑膿菌と並ぶ代表菌
尿路感染症 尿路カテーテル関連
感染・ ・で問題になる
静脈カテーテル表面のから血流へ侵入し敗血症に至る

診断

  • 培養での球桿菌として同定し、緑膿菌()と鑑別する
  • などのがの起点:株ごとのの差が極めて大きく、だけでは不十分なことが多い
  • ⚠️ 分離=感染ではない。 が最も多く分離されるのは気道と創部の培養で、中や広範囲熱傷の患者では定着と真の感染の区別が難しい1。定着に抗菌薬を使うと耐性を広げるだけになる

治療と予防

が株ごとに大きく異なるため、感受性結果を待たずに固定処方を決められない菌である。

位置づけ レジメン 押さえどころ
優先 ・+または がのβラクタマーゼからを守る。肺炎・125例の試験で28日81%・臨床的治癒62%(対照の+は68%・40%)。ただしこの対照レジメン自体が現行の推奨薬でも代替薬でもない点は割り引いて読む。米国のの95%超に活性があるため、感受性結果を待たずに開始してよい
橋渡し 高用量(成分で1日9g)+少なくとも1剤(・・) ・がすぐ使えないときに、開始までの間だけ用いる
代替 ・・のいずれかを、他剤と併用 ・が耐性で使えないときか、入手までの橋渡しに限る。いずれも単剤にしない

3剤が代替へ留まる理由は薬ごとに違う。 で効きそうに見えるかどうかではなく、の結果とで位置づけが決まっている。

薬 代替にとどまる理由
の90%超がでは感性だが、試験では代替治療を上回れていない(観察研究のではが高い一方、比較群に・を受けた患者がいない)。本菌は他のグラム陰性菌より高い目標到達が必要で、での殺菌活性も一定しない
2025年に改訂された判定基準(1 µg/mL以下)を当てると、活性があるのはの50%未満。200 mgを12時間ごとに投与しても、到達できるのは静菌までで1桁の減少には届かない。での評価は無い
血中濃度のばらつきが大きく、肺上皮被覆液への移行が悪い。1桁の減少に必要な約2 µg/mLが腎毒性の閾値とほぼ同じで、有効域が極端に狭い

・耐性( 16/4 µg/mL以上)やなどの遺伝子が見つかった株では、が効かないため、を含まない2剤の組み合わせ(・・・など)を選ぶ。が阻害するのはクラスA・C・Dのβラクタマーゼで、クラスB()には効かないためである。ただしの限られたデータでは、・をに加えるとの活性が高まる可能性があり、この組み合わせも選択肢に挙げられている1。

  • 💡 なぜが軸になるのか。 はであると同時に、本菌のに直接結合して殺菌する。そのためがで「効く」と出ることがある2。ただしのβラクタマーゼは自体を分解するので、分解を止めるとの配合剤が優先される1
  • テトラサイクリン誘導体を選ぶなら、感受性の判定基準があるをより優先する(には・いずれの判定基準も無い)。オマダサイクリンは判定基準も臨床データも乏しく、とのどちらも使えないときに限られる1
  • でのはルーチンには勧められない——3つの試験での改善が示されなかった。ただし・耐性が確認された患者やへの反応が不十分な患者では選択的な併用が妥当とされ、そのときは・喉頭損傷・の危険と天秤にかける1
  • ()はAcinetobacterをカバーしない——は本菌の想定耐性表現型にを挙げるが、緑膿菌には挙げていない2。同じ非発酵菌でも緑膿菌に効く薬がそのまま効くとは限らない。同じ表には・アンピシリン・セフトリアキソンも並ぶ2
  • 感染対策:の徹底、・環境表面の消毒、(ASP)による防止が治療そのものと同じ比重を持つ

まとめ

  • Acinetobacter baumanniiはので、緑膿菌()と鑑別する。
  • 病原性の核は強力な毒素ではなく、乾燥環境での生存力の強さがを生むという生態学的な特徴にある。
  • 投与中・中・術後の患者を狙う院内感染菌で、肺炎・尿路感染・・を起こす。
  • 多剤・(MACI・PACIと呼ぶことがあり、現在の指針ではとして括る)が最大ので、治療はに基づき個別化する。の侵襲性感染症では・+が優先され、・・は他剤と併用する代替にとどまる。
  • はAcinetobacterに効かない——緑膿菌をカバーする薬がそのまま非発酵菌全般に効くとは限らない好例。

出典

  1. 1.Infectious Diseases Society of America 2026 Guidance on the Treatment of Antimicrobial-Resistant Gram-Negative Infections(Clinical Infectious Diseases / Infectious Diseases Society of America・2026)DOI 先の academic.oup.com は bot 判定で 403 を返すが、2026-09-28 に発行元(IDSA)の掲載ページにブラウザの User-Agent を付けた curl で全文を取得し、Version 4.0(2026年7月30日公開、内容は2026年3月1日時点)の第5節(CRAB)を照合した。侵襲性CRAB感染症の優先治療がスルバクタム・デュルバクタムとイミペネムまたはメロペネムの併用であること(CRABの肺炎・血流感染125例のランダム化試験で28日生存率がスルバクタム・デュルバクタム+イミペネム81%、コリスチン+イミペネム68%)、それがすぐ使えないときは高用量アンピシリン・スルバクタム(スルバクタム成分で1日9g)に少なくとも1剤(セフィデロコル・ミノサイクリン・ポリミキシンB)を併用して橋渡しすること、セフィデロコル・ミノサイクリン・ポリミキシンBはいずれも他剤との併用による代替治療で、スルバクタム・デュルバクタムが耐性で使えないときか入手までの橋渡しに限ること、テトラサイクリン誘導体を選ぶならチゲサイクリンより感受性基準のあるミノサイクリンを優先すること、ポリミキシン系は血中濃度のばらつきと肺上皮被覆液への移行不良があり、必要な濃度が腎毒性の閾値に近いこと、スルバクタムはデュルバクタムに守られてPBP1a/1bとPBP3に結合し、デュルバクタムを欠くアンピシリン・スルバクタムではCRABのβラクタマーゼがスルバクタムを分解すること、ネブライザー吸入抗菌薬はルーチンには勧めないが、スルバクタム・デュルバクタム耐性が確認された患者や全身療法への反応が不十分な患者では選択的な併用が妥当としていること、スルバクタム・デュルバクタムは米国のCRAB分離株の95%超に活性を示すため感受性結果を待たずに開始してよいこと、スルバクタム・デュルバクタム耐性(MIC 16/4 µg/mL以上)やNDMなどのメタロβラクタマーゼ遺伝子がある場合はスルバクタムを含まない組み合わせ(セフィデロコル・ミノサイクリン・ポリミキシンB・チゲサイクリンなど)を優先し、ただし試験管内の限られたデータではスルバクタム・デュルバクタムをセフィデロコルに加えるとセフィデロコルの活性が高まる可能性があるとしていること、セフィデロコルは分離株の90%超が試験管内では感性だがランダム化試験では代替治療に優ることを示せておらず、ミノサイクリンは2025年改訂のCLSI判定基準(1 µg/mL以下)ではCRAB分離株の50%未満にしか活性が無いこと、CRABは気道と創部の培養から最も多く分離され人工呼吸管理中や広範囲熱傷の患者では定着と感染の区別が難しいこと、主な耐性機序がOXA型カルバペネマーゼ(OXA-23・OXA-24/40・OXA-58)・アシネトバクター由来セファロスポリナーゼ・ポーリンの減少・排出ポンプの過剰発現であり、アミノグリコシドは修飾酵素などで系統全体が効かないことが多いことを確認した。閲覧 2026-09-28
  2. 2.Expected Resistant Phenotypes, Version 1.2(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)・2023)現行版(v1.2、2023年1月)のTable 2で、Acinetobacter baumannii・A. pittii・A. nosocomialis(規則2.1)の想定耐性表現型がアンピシリン/アモキシシリン・アモキシシリン・クラブラン酸・セフォタキシム/セフトリアキソン・アズトレオナム・エルタペネム・トリメトプリム・ホスホマイシン・テトラサイクリン系であること(脚注でテトラサイクリン・ドキシサイクリンには耐性だがミノサイクリン・チゲサイクリンへの耐性は弱いとされる)、脚注でスルバクタム自体の活性によりアンピシリン・スルバクタムに感受性と出ることがあるとされていること、緑膿菌(規則2.7)はアズトレオナムに想定耐性とされていないことを確認した。閲覧 2026-09-27