微生物学

微生物学 · 5/13

下気道感染を起こす細菌(一覧)とその診断

Bacteria causing lower respiratory tract infections (list) and their diagnosis

応用トピック
肺炎小児肺炎と年齢別主要病原体
微生物
Acinetobacter baumanniiBordetella pertussisKlebsiella pneumoniaeLegionella pneumophilaMycoplasma pneumoniaeNocardia
検査値
Xpert MTB/RIF Ultra

🧠 下気道は本来無菌であり、上気道から菌が降りてくること自体が肺炎の始まりである。 起因菌のリストは「定型 vs 非定型」という1軸と、「市中 vs 院内(さらに vs 非)」というもう1軸で整理すると全体が見渡せる。定型病原体は細胞壁を持つ通常の化膿菌でが可能、は細胞壁を欠く・細胞内寄生するなどの理由でが効かず血清抗体で診断する——この「培養できるか否か」の違いが、そのまま治療薬の選択(βラクタム vs マクロライド/キノロン)に直結する。

肺炎の分類軸

軸 内容
経過 急性↔ 慢性
病型 定型↔ 非定型
病変分布 ↔ 間質性
発症場所 ↔

定型肺炎 vs 非定型肺炎

flowchart TD
  A["下気道への病原体侵入"] --> B["定型病原体<br>(細胞壁を持つ通常の化膿菌)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atypical organism'>非定型病原体</span><br>(細胞壁を欠く・細胞内寄生など)"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sputum culture'>喀痰培養</span>で起因菌を証明可能<br>治療: βラクタム系"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sputum culture'>喀痰培養</span>が困難<br>血清学(IgM・IgG・IgA)で診断<br>治療: マクロライド・キノロン"]
項目 定型 非定型
発症 急激 緩徐——とも呼ばれ重症感に乏しい
咳 持続する
発熱 高熱(>39℃)
WBC 上昇 目立たない
喀痰所見 起因菌の培養が可能 起因菌の培養は困難
主な病原体 S. pneumoniae、Haemophilus influenzae、S. aureus、Klebsiella pneumoniae() Mycoplasma pneumoniae、Chlamydia pneumoniae/psittaci、Legionella pneumophila、Coxiella burnetii
診断() 喀痰、血液(血液培養) 、血液(血液培養)、尿(例:Legionella)
治療 βラクタム系 マクロライド、キノロン

💡 はなぜに映らないのか。 Mycoplasmaは細胞壁を持たずグラム染色・通常培地に反応しない、Chlamydiaはで無細胞培地では増殖できない、やCoxiellaも細胞内寄生を主体とする——いずれも「通常の細菌培養の土俵に乗らない」という共通点が、血清学診断への依存を生んでいる。

⭐ 「」=非定型肺炎という対応は頻出の引っかけ。 定型肺炎の激しい症状(高熱・・WBC上昇)を期待していると、緩徐な経過で日常生活を送れてしまう非定型肺炎(特にMycoplasma pneumoniae)を見逃しやすい。

⚠️ のは陰性でも否定できない。 この検査が検出するはLegionella pneumophila血清群1に限られ、この血清群は北米の既知の約80〜90%を占めるにすぎない1——残りの血清群や他菌種(L. longbeachaeなど)は原理的に検出されないため、陰性のみで除外せず培養・を併用する。

⚠️ 「非定型肺炎にマクロライド」は地域によって成り立たない。 Mycoplasma pneumoniaeの(23S rRNA点突然変異)は15年かけて世界的に拡大し、は欧州・米国で0〜15%、イスラエルで約30%、アジアでは90〜100%に達する2。耐性株では発熱・咳嗽が遷延しやすく、反応が乏しければテトラサイクリン系やへの変更を検討する。

💡 S. pneumoniaeのワクチンは菌を減らすのではなく血清型を入れ替える。 (PCV)導入後、では非ワクチン血清型(NVT)の割合が大きく増加し保菌率の総量はほとんど変わらなかった一方、疾患としてのNVT感染症の増加幅はそれより小さい(血清型置換)3——「ワクチンで肺炎球菌はいなくなった」わけではなく、侵襲性の高い型を選択的に減らしていると理解する。

発症場所による分類

分類 対象 主な起因菌
基礎疾患のない健常者・若年者 S. pneumoniae、Mycoplasma pneumoniae、Haemophilus influenzae
(慢性あり) 基礎疾患のある患者 H. influenzae、S. pneumoniae、腸内細菌科、Legionella pneumophila、Chlamydia pneumoniae
・ の患者 Pseudomonas aeruginosa、多剤耐性腸内細菌科、Acinetobacter baumannii、MRSA(耐性S. aureus)、Candida属
・非 一般病棟の患者 腸内細菌科、S. pneumoniae、H. influenzae

その他の下気道感染症

疾患 起因菌 特徴
結核 Mycobacterium tuberculosis 陽性(ZN+)に加え、推奨のXpert MTB/RIF Ultraが現行の法——培養を基準とした要約感度90.7%・特異度94.8%、塗抹陰性・培養陽性例でも感度80.7%4
Nocardia属 ZN+、グラム陽性(G+)
Actinomyces属
百日咳 Bordetella pertussis —

肺膿瘍・誤嚥性肺炎と嫌気性菌

  • :嫌気性菌が関与しうる
  • :嫌気性菌が関与しうる

(嫌気性菌感染の詳細は嫌気性菌感染の記載と診断を参照)

まとめ

  • 下気道は無菌であるため、上気道から菌が降りてくること自体が肺炎の起点になる。分類は急性/慢性・定型/非定型・/間質性・市中/院内の4軸で整理する。
  • 定型肺炎(急激発症・・高熱・可能)はS. pneumoniae・H. influenzae・S. aureus・Klebsiella pneumoniaeが代表で、治療はβラクタム系。
  • 非定型肺炎(緩徐発症=・・持続・不能)はMycoplasma pneumoniae・Chlamydia pneumoniae/psittaci・Legionella pneumophila・Coxiella burnetiiが代表で、診断は血清学、治療はマクロライド・キノロン。
  • 発症場所別では(健常者はS. pneumoniae・Mycoplasma・H. influenzae、基礎疾患ありはさらに腸内細菌科・Legionella・Chlamydia pneumoniaeが加わる)と(はPseudomonas・多剤耐性腸内細菌科・Acinetobacter・・Candida、非は腸内細菌科・S. pneumoniae・H. influenzae)に分かれる。
  • その他のとして結核(ZN+)、(ZN+, G+)、()、百日咳がある。
  • ・はいずれも嫌気性菌が関与しうる病態である。

出典

  1. 1.Pneumococcal and Legionella Urinary Antigen Tests in Community-acquired Pneumonia: Prospective Evaluation of Indications for Testing(Clinical Infectious Diseases・2019)レジオネラ尿中抗原検査が検出する可溶性抗原はLegionella pneumophila血清群1に限られ、この血清群が北米における既知のレジオネラ症の約80〜90%を占めることを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Mycoplasma pneumoniae: Current Knowledge on Macrolide Resistance and Treatment(Frontiers in Microbiology・2016)マクロライド耐性Mycoplasma pneumoniaeは15年かけて世界的に拡大し、有病率は欧州・米国で0〜15%、イスラエルで約30%、アジアでは90〜100%に達すること、耐性株では発熱・咳嗽の遷延と入院期間の延長を伴うためテトラサイクリン系やレボフロキサシンへの変更を要することを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Serotype replacement in disease after pneumococcal vaccination(The Lancet・2011)7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)導入後、無症候性保菌では非ワクチン血清型(NVT)の割合が大きく増加し保菌率の総量はほとんど変化しなかったこと(血清型置換)、疾患としてのNVT感染症も増えたがその増加幅は保菌における置換より小さかったことを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Xpert MTB/RIF Ultra assay for pulmonary tuberculosis and rifampicin resistance in adults and adolescents(Cochrane Database of Systematic Reviews(Horne DJ, Zifodya JS, Shapiro AE ほか)・2025)WHOが推奨する核酸増幅検査Xpert MTB/RIF Ultraの肺結核検出における要約感度・特異度は培養を基準として90.7%・94.8%(32研究・12,529例)であり、塗抹陰性・培養陽性例に限っても感度80.7%を示したことを確認した。閲覧 2026-08-26