微生物学

微生物学 · 2/13

クレブシエラ・エンテロバクター・プロテウス・セラチア属

Klebsiella, Enterobacter, Proteus, and Serratia genus

応用トピック
多剤耐性菌と医療関連感染
微生物
Enterobacter cloacaeKlebsiella pneumoniaeProteus mirabilisProteus vulgarisSerratia marcescens

🧠 「群」(Klebsiella・Enterobacter・Serratia)はという1つの性質で束ねられた院内感染菌のグループだが、にあるProteusだけは仲間はずれである。 群はいずれも陽性(で)の・院内感染菌だが、Proteus mirabilisはでウレアーゼが強陽性という正反対の生化学プロファイルを持つ。この「ウレアーゼ強陽性」こそがProteusの臨床像(尿pH上昇→=)を丸ごと説明する鍵になる。

KES群(Klebsiella・Enterobacter・Serratia)の共通点

項目 内容
形態 グラム陰性桿菌、E. coliと同じ腸内細菌科
生息地 ・上気道の常在菌
生化学的性状 陽性(+)——KlebsiellaとEnterobacterは急速発酵菌、Serratiaは緩徐発酵菌
好気性
病原性因子 院内感染の原因菌/グラム陰性菌に共通する
臨床像 (:Klebsiella肺炎は特に「(Friedländer pneumonia)」と呼ばれる)/尿路感染症
診断 培地でコロニー(を反映)/喀痰または清潔採からの培養
治療 多剤耐性のことが多く、(、extended-spectrum beta-lactamase)によりペニシリン・セファロスポリンに耐性を示す。耐性がなければ(・フルオロキノロン・アミノグリコシドも選択肢)

⚠️ Klebsiella pneumoniae は現在の世界の耐性菌ランキングの最である。 2024年版の細菌優先病原体リスト(Bacterial Priority Pathogens List, BPPL)は24菌種を死亡率・非致死的疾病負荷・・10年間の耐性動向・予防可能性・伝播性・治療可能性・開発パイプラインの8基準で採点したが、 Klebsiella pneumoniae が84%で全24菌種中の最となり、critical(最四分位)に分類された1。群の耐性は「院内で困る」水準を超えて、国際的な研究開発の優先順位そのものを決める位置にある。

各菌種の特徴

菌種 運動性 特徴的な所見 臨床像・その他
Klebsiella pneumoniae 大きな、ウレアーゼ陽性、グルコース陽性、・H₂S陰性 喀痰は厚く血性だが悪臭を伴わないのが特徴。副鼻腔炎・中耳炎・・・敗血症も起こす。で濃青〜紫色コロニー、では尿臭のある粘液様の大コロニー。血清学的検査は。「3つのA」=に多い、誤嚥で侵入、膿瘍を形成、という語呂で覚える
Enterobacter cloacae で運動性あり を持つ 群共通の性状・臨床像に準ずる。同属だった Enterobacter aerogenes は現在 Klebsiella aerogenes と呼ぶ(下記)
Serratia marcescens 運動性あり 培養時に赤色色素を産生 シャワーにの輪を作ることで環境汚染の指標になる

Proteus mirabilis——KES群とは対照的な腸内細菌科の一員

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 グラム陰性桿菌
生息地
運動性 強い運動性——を持ち、寒天培地上で特徴的な遊走を示す
好気性
生化学的性状 ウレアーゼ強陽性(+)、H₂S陽性、(-)——群と対照的

病原性因子

  • 尿路カテーテルに由来する院内感染(腎盂腎炎→死に至ることもある)
  • ウレアーゼが尿pHを上昇させ、腎結石()の形成を促す

⚠️ Enterobacter aerogenes は現在 Klebsiella aerogenes である(2017年)。 Enterobacter aerogenes(Hormaeche and Edwards 1960)と Klebsiella mobilis(Bascomb et al. 1971)は、承認菌名リストに載った時点で同じ基準株 ATCC 13048 に基づいていたため同型異名(homotypic synonym)であり、しかも種形容語 mobilis のほうが規約上はであることが2017年に整理された。その結果、この菌の正しい名称は Klebsiella aerogenes となった2。旧名 Enterobacter aerogenes は実習書・過去問に多く残っているので、旧名も併せて覚えておく。 名前が Klebsiella に移っても、後述のという臨床上の性質は Enterobacter 側と同じである。

⚠️ AmpCは「ESCPM/SPACE群」とまとめて暗記すると実務で誤る。危険度は菌種で段違いである。 AmpC耐性は、(1) βラクタム薬に曝露されて初めて発現が誘導される染色体性の誘導型、(2) ampC の変異による恒常的な型、(3) プラスミド性 ampC の3類型に分かれる3。臨床で問題になるのは(1)+(2)の組み合わせで、治療開始時に感受性だったが数日で無効化されうる——ただしこれが実際に起きる頻度は菌種で大きく違う。

菌種 治療中のAmpC過剰産生 実務での選び方
Enterobacter cloacae complex・Klebsiella aerogenes(旧 E. aerogenes)・Citrobacter freundii ( 2026年版の区分)。セフトリアキソンなどの曝露後の耐性出現が約20%の感染で起こりうる4 ・セフタジジム・セフトリアキソンは初回ので感性でも避けることを提案。はが8 µg/mL以下(感性または感性の範囲)なら推奨される選択肢4
Hafnia alvei 同じの枠として扱う。ただし根拠は in vitro データで、約20%に相当する臨床データはこの菌には無い4 上の3菌種と同じ扱い4
Serratia marcescens・Morganella morganii・Providencia属 低リスク。臨床的に問題となるAmpC産生はこれらによる感染の5%未満と見積もられる4 の結果どおりに選ぶ(この方法で害が出るというデータが無いため)4。・・セフタジジム・セフトリアキソン・・も妥当な選択肢に残る4

⚠️ 低リスク群でも例外がある。 菌量が多く感染源の制御が限られる感染——心内膜炎・——では、セフトリアキソン感性が示されていてもを代わりに考慮するのが妥当とされる4。「5%未満だからしてよい」ではなく、「取り返しがつかない部位では保険をかける」という読み方をする。

💡 群では、誘導前から働くと、治療中に誘導される耐性を分けて考える。 E. cloacae・K. aerogenes・C. freundii は誘導の有無にかかわらず基礎発現のAmpCだけでアンピシリン/アモキシシリン、アモキシシリン・、、第1世代セファロスポリン、に耐性を示すため、これらは初めから選択肢に入らない4。臨床で問題になる「治療途中で効かなくなる」現象は、そのうえでを使ったときに起きる誘導の側である。

💡 経験的にセフトリアキソンで始めてしまった場合の出口も示されている。 重症でない感染で感染源の制御が十分に得られており、患者が明らかな臨床的改善を示しているなら、そのままセフトリアキソンで治療をしてもよいとされる4。ただし膿瘍・など感染源が残る例や長期投与例では耐性出現の危険が上がるため、この出口は当てはまらない4。

💡 つまり Serratia を Enterobacter と同列に扱ってはいけない。 授業ノートや語呂(ESCPM・SPACE・SPICE)はこの2つを同じ箱に入れるが、頻度の実測が積み上がった結果、セラチアは感受性結果どおりに治療してよい菌へ位置づけが変わった。 2026年版はこれらの語呂が菌種間の差を覆い隠すと明記し、Citrobacter freundii は染色体性 ampC を持つが C. koseri は持たないこと、語呂に含まれてきた「陽性 Proteus」のうち P. vulgaris は一般に染色体性 ampC を持たないこと、かつて語呂に入っていた P. rettgeri・P. morganii は現在 Providencia rettgeri・Morganella morganii に移っていることを例に挙げている4。表の「治療」欄にあるとは別のであることにも注意する。

💡 Klebsiella pneumoniae にはとという2つの顔がある。 ノート本文の「・誤嚥・膿瘍」という像は院内・型ののもので、これとは別に、健常な市中住民に感染して多発・転移性拡散を起こす型(hypervirulent Kp, hvKp)が世界的に広がっている。hvKpは莢膜産生の亢進と(鉄獲得)産生を確立したとし、その遺伝子は大型の上に載る。中枢神経系感染(髄膜炎)とを起こす能力が高く、部位別の迅速な治療が要る点でと扱いが変わる5。⚠️ ただし現時点の臨床検査室には cKp と hvKp を判別する確立した検査がない——粘稠性を見る string test は補助にとどまり、や定量など複数の候補が研究段階にある5。「粘る=hvKp」と断定しないこと。

💡 ウレアーゼ→という一直線の機序。 ウレアーゼが尿素を分解してアンモニアを産生し尿がすると、()がしやすくなる。この結石は特徴的な形状から「」と呼ばれ、Proteus感染の代表的な合併症として頻出する。

臨床像

  • 尿路感染症
  • ()
  • 敗血症——高い運動性により膀胱へ侵入しやすく、によるショック・発熱を起こす

診断

検査 所見
寒天平板・グラム染色 とを伴う
無色〜コロニー(を反映)。乳糖を盛んに発酵する大腸菌が暗色・金属光沢のコロニーになるのと対照的で、のピンク(の印)とは意味が逆になる
ウレアーゼ試験 強陽性。尿素が分解されてpHが上がり、pHレッドを含むンセン尿素寒天がに変わる(Proteusでは数時間で培地全体がピンクになる)6。Klebsiellaも陽性

治療

  • 、アミノグリコシド系
flowchart TD
  A["腸内細菌科の院内感染菌"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactose fermentation'>乳糖発酵</span>陽性<br>(MacConkey: ピンク)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactose non-fermenter'>乳糖非発酵</span><br>(MacConkey: 無色)"]
  B --> D["Klebsiella・Enterobacter<br>(急速発酵)"]
  B --> E["Serratia<br>(緩徐発酵)"]
  C --> F["Proteus mirabilis<br>(ウレアーゼ強陽性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='swarming'>遊走運動</span>)"]

まとめ

  • 群(Klebsiella・Enterobacter・Serratia)は陽性の院内感染菌で、()やを起こし、による多剤耐性がしばしば問題になる。
  • Klebsiella pneumoniaeは大きな莢膜・厚く血性の喀痰・「3つのA」(・誤嚥・膿瘍)が特徴。
  • Serratiaは赤色(シャワーのの輪)、Enterobacterはによる運動性が特徴。
  • Proteus mirabilisは群と異なり・ウレアーゼ強陽性・を示し、ウレアーゼによるが()を引き起こす。
  • 治療はいずれも多剤耐性が問題となりやすく、()に基づいた抗菌薬選択が必須。 Klebsiella pneumoniae は2024年版優先病原体リストの最(84%)である1。
  • 学名の更新:旧 Enterobacter aerogenes は2017年に Klebsiella aerogenes となった2。AmpCでを避けるべき菌は Enterobacter cloacae complex・Klebsiella aerogenes・Citrobacter freundii( 2026年版は in vitro データから Hafnia alvei も同じ枠に加えた)で43、Serratia marcescens は臨床的に問題となるAmpC産生が5%未満の低リスク菌としての結果どおりに治療する(心内膜炎・ではを考慮)4。

出典

  1. 1.The WHO Bacterial Priority Pathogens List 2024: a prioritisation study to guide research, development, and public health strategies against antimicrobial resistance(The Lancet Infectious Diseases / World Health Organization・2025)2024年版 WHO 細菌優先病原体リストで24菌種を8基準の多基準意思決定分析により採点した結果、カルバペネム耐性 Klebsiella pneumoniae が84%で全体最上位となり、グラム陰性菌とリファンピシン耐性結核菌が critical(最上位四分位)に位置づけられたことを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.Enterobacter aerogenes Hormaeche and Edwards 1960 (Approved Lists 1980) and Klebsiella mobilis Bascomb et al. 1971 (Approved Lists 1980) share the same nomenclatural type (ATCC 13048) on the Approved Lists and are homotypic synonyms, with consequences for the name Klebsiella mobilis Bascomb et al. 1971 (Approved Lists 1980)(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology・2017)Enterobacter aerogenes と Klebsiella mobilis が同一の基準株 ATCC 13048 に基づく同型異名(homotypic synonym)であり、Klebsiella mobilis の種形容語 mobilis は原核生物命名規約上は不適格であるため、この菌の正しい名称が Klebsiella aerogenes となることを確認した閲覧 2026-08-26
  3. 3.A Primer on AmpC β-Lactamases: Necessary Knowledge for an Increasingly Multidrug-resistant World(Clinical Infectious Diseases・2019)AmpC 耐性はβラクタム薬曝露で誘導される染色体性の誘導型、ampC 調節遺伝子の変異による脱抑制型、プラスミド性 ampC の3類型に分かれること、ampC 誘導のリスクが最も高い菌(Enterobacter cloacae で最もよく記述されている)に対しては第3世代セファロスポリンを避けるのが賢明とする点で専門家の見解がおおむね一致していることを確認した閲覧 2026-08-26
  4. 4.Infectious Diseases Society of America 2026 Guidance on the Treatment of Antimicrobial-Resistant Gram-Negative Infections(Clinical Infectious Diseases / Infectious Diseases Society of America・2026)DOI 先の academic.oup.com は bot 判定で 403 を返すため、IDSA の指針掲載ページ(`https://www.idsociety.org/practice-guideline/amr-guidance/`、CURRENT 表示、2026年7月30日公開、内容は2026年3月1日時点)にブラウザの User-Agent を付けた素の curl で全文を取得し、SECTION 2: AmpC-producing Enterobacterales の逐語を確認した。Question 2.1 の見出しが「moderate risk for clinically significant inducible ampC」であり、suggested approach が *Enterobacter cloacae* complex・*Klebsiella aerogenes*・*Citrobacter freundii* を中等度リスクの代表とし、2026年版で新たに *Hafnia alvei* を「in vitro data suggest Hafnia alvei exhibits similar inducible ampC potential and may be considered in the same risk category」として同じ枠に加えたこと(ただし *H. alvei* には約20%に相当する臨床データが無いと Question 2.4 で明記)、これら3菌種ではセフトリアキソンなどの曝露後の耐性出現が約20%の感染で起こりうること、誘導の有無にかかわらず基礎発現のAmpCがアンピシリン・アモキシシリン・クラブラン酸・アンピシリン・スルバクタム・第1世代セファロスポリン・セファマイシン系への自然耐性をもたらすこと、2026年版が「For non-severe infections with adequate source control caused by these species, if one of these agents has been initiated and the patient demonstrates appropriate clinical improvement, completing the treatment course may be reasonable.」を追加したこと、Question 2.3 でセフェピムMICが8 µg/mL以下(感性または用量依存的感性)なら推奨される選択肢とすることを確認した。低リスク側については、*Morganella morganii*・*Providencia*属・*Serratia marcescens* について「clinically significant AmpC production occurs in fewer than 5% of infections due to these species」とし「selecting antibiotic therapy according to AST results, given the lack of data suggesting harm with this approach」を提案すること、アズトレオナム・セフォタキシム・セフタジジム・セフトリアキソン・ピペラシリン・タゾバクタムが低リスク菌には妥当な選択肢に残ると Question 2.2 が述べること、菌量が多く感染源の制御が限られる感染(心内膜炎・中枢神経感染症)では「consideration of cefepime as an alternative to ceftriaxone is reasonable, even when ceftriaxone susceptibility is demonstrated」とすることを確認した。また Question 2.1 の rationale が SPACE・SPICE・ESCPM といった語呂を菌種間の差を覆い隠すものとして退け、*C. freundii* は染色体性 *ampC* を持つが *C. koseri* は持たないこと、*P. vulgaris* は一般に染色体性 *ampC* を持たないこと、*P. rettgeri*・*P. morganii* が現在 *Providencia rettgeri*・*Morganella morganii* であることを例示していることを確認した。書誌は Clinical Infectious Diseases(Tamma PD, Bonomo RA, Heil EL, Justo JA, Satlin MJ, Mathers AJ)。閲覧 2026-09-28
  5. 5.Hypervirulent Klebsiella pneumoniae(Clinical Microbiology Reviews・2019)高病原性 Klebsiella pneumoniae(hvKp)は古典型(cKp)と異なり健常な市中住民に感染し、多発病巣・転移性拡散を起こしやすく、中枢神経系感染と眼内炎を起こす能力が高いこと、莢膜産生の亢進とアエロバクチン産生が確立した病原因子で、その遺伝子は大型の病原性プラスミド上にあること、現時点の臨床検査室では cKp と hvKp を判別できないことを確認した閲覧 2026-08-26
  6. 6.Semi-Quantitative Assay to Measure Urease Activity by Urinary Catheter-Associated Uropathogens(Frontiers in Cellular and Infection Microbiology・2022)PMC全文(PMC8980526)で、クリステンセン尿素寒天法が尿素・グルコース・ペプトン・塩類とpH指示薬フェノールレッドを含む斜面または平板に菌を塗布する方法であり、ウレアーゼ産生菌では尿素分解でpHが上がり指示薬の色が変わること、陽性対照のProteus属株では6時間までに平板全体がピンクに変わったこと、Proteus属・Morganella morganii・H. pyloriのような高ウレアーゼ産生菌の同定に向く方法であることを確認した閲覧 2026-09-27