微生物学

微生物学 · 2/21

レジオネラ・ニューモフィラ

Legionella pneumophila

応用トピック
市中肺炎
微生物
Legionella pneumophila
疾患
レジオネラ症
検査値
尿中抗原検査

🧠 は「水系のアメーバ捕食者」の性質をそのままヒトのマクロファージに向けている菌として読む。 本来は河川・給湯設備・などの水中でアメーバに貪食されても殺されず、逆にアメーバ内で増殖するために進化した細菌である。その細胞内力がそのままヒトのにも通用してしまうため、を吸入しただけで肺炎を起こす。ヒト-ヒト感染が原則として起こらないのはこのため——病原体の「本来の標的」はアメーバであり、ヒトは偶発的な宿主にすぎない。

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 グラム陰性()球桿菌——染色されにくくを要する
生息地 湿潤な水環境(河川・小川・空調設備の水タンクなど)
発育条件 、が厳しい(fastidious)
生化学的性状 オキシダーゼ(+)、カタラーゼ(+)
細胞内寄生性 ——内で増殖し、強い炎症反応を誘発する

病原性因子

  • :汚染された空調設備・シャワー・浴槽・加湿器・観賞魚水槽・散水ホース・噴水などから——ヒト-ヒト感染は原則として起こらない1
  • 頻度は低いが、を含む飲み水を誤嚥して(飲水中に水が気道へ入って)発症することもある1
  • は旅行関連(ホテルなど)、院内感染、市中感染のいずれもありうる——水が主要なリザーバーで、・建物(病院を含む)の給水設備など人工の水環境が感染源になる。頻度でみるとの起因菌としては一般的、の起因菌としてはまれという位置づけである2
  • マクロファージなどの細胞内で大量に増殖したのち細胞を溶解して脱出する
  • 主要な病原性因子:プロテアーゼ(組織侵入)、()

臨床像:レジオネラ症

**による疾患の総称をと呼び、と重症型の2病型に分かれる。

病型 特徴
発熱・倦怠感・頭痛・悪寒——自然治癒。肺炎を伴わない
肺炎型。50歳以上、喫煙者(現在または過去)、・免疫不全などの基礎疾患をもつ人に多い3

の症状

  • 非定型肺炎(胸部X線:斑状・多葉性の浸潤影が典型)
  • 生産性のない咳(後にを伴うこともある)
  • +
  • 頭痛・神経症状/(約30%)
  • 下痢・嘔吐(ただし自体は消化管には存在しない——全身性の毒素・炎症反応による)
  • 高熱

⚠️ 消化器症状があっても消化管由来ではない。 は内で増殖し、そこから全身性の炎症反応を引き起こすため、下痢や嘔吐が出現しても菌が消化管に存在するわけではない——他の細菌性下痢症と混同しないこと。

診断

検査 内容
培養 ——気道検体から。鉄とシステインを要求、高濃度CO₂・3〜5日培養
による——。感度70〜80%、特異度99%超、結果判明まで1時間未満4
血清学的検査 検体は血清・尿・のいずれも可
抗原検出 (検体)、(血清検体)、IC
IF または(IgGが長期間高値を持続するため精度は高くない)
——尿中抗原が拾えない血清群・菌種を捉えるために併用する

⚠️ 尿中抗原が陰性でもは否定できない。 が検出するは*Legionella pneumophila血清群1に限られる5。この血清群は北米の既知の約80〜90%5、欧州・米国の症例の70〜80%6を占めるにすぎず、残りの血清群とL. longbeachaeなどの他菌種は原理的に検出されない(アジア・西太平洋の一部ではL. longbeachae*が主要起因菌)。培養とを併用する根拠はここにある6。さらに抗原は発症1日目から陽性化しうる一方、治癒後も数週間陽性が続くため、陽性がそのまま現行感染を意味するとも限らない4。

治療

まとめ

  • Legionella pneumophilaは湿潤な水環境(空調・給湯設備など)をとし、アメーバ内寄生から進化した細胞内寄生性をにも発揮する。
  • 感染経路は主に(頻度は低いが飲水の誤嚥もある)で、ヒト-ヒト感染は原則として起こらない。
  • は(自然治癒・肺炎なし)と(肺炎型、低Na血症・神経症状を伴う非定型肺炎)の2病型に分かれる。
  • 診断は培地培養に加え、迅速性に優れるが中心的役割を果たす——ただし尿中抗原はL. pneumophila血清群1しか検出せず、陰性で否定はできない。
  • 治療はまたはマクロライドが第一選択。

出典

  1. 1.How Legionella Spreads(Centers for Disease Control and Prevention・2025)2025年6月9日付のページで、細菌を含む小さな水滴の吸入で在郷軍人病・ポンティアック熱が起こること、頻度は低いが飲水中のレジオネラを誤嚥して(飲水中に水が誤って肺に入って)発症しうること、一般にヒトからヒトへはうつらない(In general, people don't spread Legionnaires' disease and Pontiac fever to other people)とされていることを確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Legionnaires' disease(The Lancet・2016)Legionella属は市中肺炎の一般的な起因菌であり院内肺炎の起因菌としてはまれである。水が主要な自然界のリザーバーで、冷却塔や病院を含む建物の給水設備など多様な自然・人工の水環境に存在する。非特異的な症状のため疑われないことが多く、日常的に利用できる診断検査は望ましい感度を備えていない。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Clinical Overview of Legionnaires' Disease(Centers for Disease Control and Prevention・2025)2025年6月9日付のページで、レジオネラ症の危険因子として50歳以上・慢性肺疾患・病気または薬剤による免疫不全・喫煙(現在または過去)・全身性悪性腫瘍・糖尿病や腎不全や肝不全などの基礎疾患が挙げられ、曝露として温水浴槽・最近の医療機関での受療・宿泊を伴う最近の旅行・呼吸療法機器の使用が挙げられていることを確認した閲覧 2026-09-27
  4. 4.Should urine antigen testing for Legionella pneumophila be ordered for all hospitalized patients with community-acquired pneumonia?(Cleveland Clinic Journal of Medicine・2023)レジオネラ尿中抗原検査(血清群1のみを対象とする)の感度が70〜80%、特異度が99%超であること、結果判明まで1時間未満と迅速であること、症状発現から1日という早期に陽性化しうる一方で陽性が数週間持続しうることを確認した。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Pneumococcal and Legionella Urinary Antigen Tests in Community-acquired Pneumonia: Prospective Evaluation of Indications for Testing(Clinical Infectious Diseases・2019)レジオネラ尿中抗原検査が検出する可溶性抗原がLegionella pneumophila血清群1に限られ、この血清群が北米における既知のレジオネラ症の約80〜90%を占めることを確認した。閲覧 2026-08-26
  6. 6.Performance assessment of five Legionella urinary antigen tests for Legionella pneumophila and Legionella longbeachae(Pathology (Royal College of Pathologists of Australasia)・2026)Legionella pneumophila血清群1は欧州と米国のレジオネラ症の70〜80%を占め、アジア・西太平洋の一部ではL. longbeachaeも主要な起因菌である。市販の尿中抗原検査の多くはL. pneumophila血清群1しか標的にしておらず、他の菌種・血清群の検出が制限される。5製品の比較でBinaxNOW免疫クロマト法は血清群1に対して最も高い感度と100%の特異度を示し、ImmuViewはL. longbeachaeに対して感度・特異度とも100%、血清群1に対して感度92.6%であった。閲覧 2026-08-26
  7. 7.Are Fluoroquinolones or Macrolides Better for Treating Legionella Pneumonia? A Systematic Review and Meta-analysis(Clinical Infectious Diseases・2021)レジオネラ肺炎3,525例を含む21報の系統的レビュー・メタアナリシスで、フルオロキノロン単剤の死亡率6.9%(104/1512)に対しマクロライド単剤は7.4%(133/1790)で、死亡のプールオッズ比は0.94と有意差がなかった。米国感染症学会はフルオロキノロンとマクロライドのいずれも第一選択として推奨している。閲覧 2026-08-26