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Microbe Atlas · 細菌

Mycoplasma pneumoniae

肺炎マイコプラズマ

分類
細胞壁なし / No cell wallMycoplasma
性状
細胞壁なし No cell wall
科目
Medical Microbiology
トピック
2/37: Mycoplasma and Ureaplasma genus5/13: Bacteria causing lower respiratory tract infections (list) and their diagnosis5/34: Causative agents causing atypical pneumonia and their diagnosis
自然耐性薬
アンピシリンアモキシシリンセフトリアキソンセフォタキシムバンコマイシンメロペネム
原因となる疾患
マイコプラズマ肺炎(非定型肺炎)横断性脊髄炎寒冷凝集素症急性胸部症候群市中肺炎
作用する薬剤
アジスロマイシンエリスロマイシンクラリスロマイシンシタフロキサシンテトラサイクリンドキシサイクリントスフロキサシンモキシフロキサシンレファムリンレボフロキサシンロキシスロマイシン

🧠 全体像:M. pneumoniaeを理解する鍵は「そもそも細胞壁を持たない」という一点——ペプチドグリカンが存在しないためグラム染色は原理的に不可能で、βラクタム系・は標的が無いので効かない。同じ「染色されない」でも(壁が厚すぎて染まらない)とは理由が正反対である点を押さえておくと、この属の性質がすべて筋道立って理解できる。壁の代わりに膜へコレステロールを組み込んで強度を保つため、培養にもステロールを要求する。

微生物学的な特徴

項目 内容
大きさ 地球上最小の自己増殖可能な細菌
細胞壁 ペプチドグリカン壁を持たない=グラム染色不可
細胞膜 宿主由来のステロール(コレステロール)を組み込み、壁の代わりに膜の安定性・柔軟性を確保する
酸素要求性 (M. pneumoniae以外のMycoplasma・Ureaplasma属は)

💡 細胞壁がない=βラクタム系が構造的に無効。 ペニシリン・セファロスポリンは細胞壁(ペプチドグリカン)合成を阻害する薬剤だが、標的そのものが存在しないため理屈の上で最初から効くはずがない。培養にステロールを要求するのも、壁の代わりに膜自体の強度をステロールで補っているためである。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["M. pneumoniae 吸入感染"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='P1 adhesin protein'>P1蛋白</span>で呼吸器上皮に接着"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrogen peroxide'>過酸化水素</span>・細胞傷害性酵素産生<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucociliary clearance'>線毛運動</span>阻害"]
    C --> D["上皮壊死・非定型肺炎<br>(持続する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dry cough'>乾性咳嗽</span>)"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superantigen'>スーパー抗原</span>様作用<br>IL-1・IL-6・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>誘導"]
    E --> F["肺外症状:溶血・発疹・神経症状など"]
  • ——組織侵入性はなく、多くのを欠くため寄生的な生活様式をとる
  • を介して呼吸器上皮に接着し、・・細胞傷害性酵素でを障害、上皮を壊死させる
  • 様にIL-1・IL-6・の産生を誘導し、肺外症状の一因になる

⭐ はIgM型の自己抗体で、赤血球のに対して作られる。 低温(約4℃)で赤血球を凝集させる現象を利用した診断法だが感度・特異度が低く現在はほぼ用いられない。ただし臨床的には溶血性貧血を起こしうる点が重要で、若年患者の非定型肺炎に貧血・黄疸を伴えばする。

感染経路と疫学

  • 伝播経路:飛沫感染(吸入)
  • 好発年齢:学童期の小児と若年成人に多い1
  • 好発環境:学校・軍隊の訓練施設・学生寮など集団生活環境
  • 流行の周期:常在的な発生に加え、世界的に3〜7年間隔で流行を繰り返す

起こす疾患

病型 特徴
非定型(“歩く”)肺炎 胸部X線ののわりには軽い(“looks worse than it is”)。持続する、。(非定型肺炎)・の代表的原因菌
気管支炎・咽頭炎 肺炎に至らない軽症の上気道〜
肺外症状 による溶血性貧血、皮疹・、、心筋炎などの多彩な合併症

診断

検査 内容
感度に優れ現行の。でも陽性となりうるため臨床像と併せて解釈する
ステロールを含む培地で「」コロニーを形成するが発育が緩徐で実務では使われにくい
感度・特異度が低く現在はほぼ用いられない
血清学 でのIgM/IgG上昇を確認

治療

(βラクタム系・)は本質的に無効。

⚠️ は地域差が大きく、東アジアを含む西太平洋地域で突出して高い。 耐性は23S rRNAの領域の点変異(大半がA2063G)による高度耐性である。2021年までの研究を統合したでは、耐性の割合は西太平洋地域53.4%、南北アメリカ地域8.4%、欧州地域5.1%で、小児のみの研究(37.0%)で成人のみの研究より高かった2。日本でも2024年の流行期に、ある小児病院の陽性例の86.4%が耐性だった(単一施設の値であり、全国値ではない)3。マクロライドで治療反応が乏しい場合はテトラサイクリン系・への切り替えを検討する。

⚠️ 小児では代替薬に年齢のがある。 テトラサイクリン系は8歳未満、は小児で原則禁忌とされてきた。日本ではトスフロキサシンの小児用製剤がに適応を持つなど国内固有の位置づけがあるので、詳細はの治療の節を参照する。

まとめ

  • 細胞壁を持たない最小の自己増殖可能な細菌で、グラム染色不可・βラクタム系は構造的に無効。膜はコレステロールで安定化する。
  • による接着とが非定型肺炎(“”)を、様作用が肺外症状(溶血性貧血・皮疹・神経症状)を引き起こす。
  • 診断はが現行の。は感度・特異度が低く現在はほぼ用いられない。
  • 治療はマクロライド系が第一選択だが、東アジアを含む西太平洋地域を中心にが高率で(欧米は1割未満)、テトラサイクリン系・が代替となる。

出典

  1. 1.Mycoplasma pneumoniae: Current Knowledge on Macrolide Resistance and Treatment(Frontiers in Microbiology・2016)抄録とPMC全文(PMC4916212)で確認した。M. pneumoniaeは学童期の小児と若年成人を中心に市中の気道感染症を起こし、世界的に3〜7年間隔で流行を繰り返すこと、細胞壁を欠くためβラクタム系など細胞壁を標的とする薬に耐性で、マクロライド系・テトラサイクリン系・フルオロキノロン系には本来感受性であること、マクロライド系が第一選択でクラリスロマイシン経口7〜14日またはアジスロマイシン経口5日が各国の指針で推奨されること、マクロライド耐性は23S rRNAのペプチジルトランスフェラーゼ領域の点変異による高度耐性であること、耐性時の代替はドキシサイクリン・ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系またはレボフロキサシンを主とするフルオロキノロン系の7〜14日投与で、テトラサイクリン系は8歳未満、フルオロキノロン系は小児で禁忌とされていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Global Trends in the Proportion of Macrolide-Resistant Mycoplasma pneumoniae Infections: A Systematic Review and Meta-analysis(JAMA Network Open(Kim K, Jung S, Kim M, et al.)・2022)抄録で確認した。2021年9月までの観察研究153件(26か国27,408検体)のメタ解析で、マクロライド耐性M. pneumoniae感染の割合は増加傾向にあり、西太平洋地域53.4%(95%CI 47.4〜60.3%)、東南アジア地域9.8%、南北アメリカ地域8.4%、欧州地域5.1%と地域差が大きいこと、耐性変異はA2063Gが96.8%と大半を占めA2064Gが4.8%であること、小児のみの研究で37.0%と成人のみの研究(15.9%)より高かったことを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Detection of Macrolide-Resistant Mycoplasma Pneumoniae in a Pediatric Primary and Secondary Emergency Care Center in Japan Following the COVID-19 Pandemic(Japanese Journal of Infectious Diseases・2026)抄録で確認した。日本では新型コロナウイルス流行期に肺炎マイコプラズマ感染症がほとんど見られなくなった後、2024年に大きな流行が起き、大分県立こども病院で2024年4月1日〜9月30日に検査した679例のうち462例(68.0%)が陽性、そのうち399例(86.4%)がマクロライド耐性で、日本での報告のなかでも最も高い部類であり近隣アジア諸国と同等の水準であることを確認した。単一施設の値である。閲覧 2026-09-27