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Disease Atlas · 神経 · 疾患

横断性脊髄炎

Transverse myelitis

別名
TM急性横断性脊髄炎acute transverse myelitis
臓器系
神経免疫・膠原病
科目
NeurologyInternal Medicine
トピック
神経内科 G1-13:脊髄損傷の症候神経内科 G3-01:ウイルス感染による神経疾患内科学 L-67:全身性自己免疫疾患:全身性エリテマトーデスとシェーグレン病
鑑別疾患
Brown-Séquard症候群ポリオ圧迫性脊髄症急性散在性脳脊髄炎急性弛緩性脊髄炎前脊髄動脈症候群多発性硬化症
続発疾患
神経因性膀胱
治療薬
メチルプレドニゾロン
原因微生物
水痘・帯状疱疹ウイルスEnterovirus A, B, C, DMycoplasma pneumoniae
症状
しびれ対麻痺四肢麻痺膀胱膨満失禁背部痛
検査値
髄液検査抗体価
元疾患
住血吸虫症
原因となる疾患
MOG抗体関連疾患全身性エリテマトーデス

🧠 全体像:は「脊髄の全体が急性〜亜急性に炎症で断たれる」という症候群名であり、単一の疾患ではない——感染後のの炎症で終わる例もあれば、・(NMOSD)・(MOGAD)という再発性のの最初の一撃であることもある。診療の分かれ目は治療そのものより「これが単発の炎症で終わるか、再発する疾患の始まりか」を見極めることにあり、この判定を誤って再発性疾患にMSの薬を使うと増悪しうる。脊髄での病変の長さ(3椎体以上か未満か)が、この見極めの最初の手がかりになる。

定義と診断基準

は、脊髄の両側性の感覚・運動・自律神経機能障害が、明瞭なを伴って発症するである。診断の骨格は、①脊髄由来の両側性の障害、②でのと炎症の証明(この資料は効果と、髄液のまたはIgGインデックス上昇を挙げる)、③の除外、④症状が発症から4時間〜21日で最悪点に達する進行パターン、の4点である1。年間は100万人あたり1〜8例で、10〜19歳と30〜39歳に二峰性のピークを持つ1。

⚠️ 「4時間〜21日でnadir」という時間枠はそのものである。 数分で完成する経過はを、21日を超えてなお進行する経過はやを疑わせ、いずれものから外れる。

病態:単一疾患ではなく症候群

flowchart TD
    A["脊髄の急性〜亜急性炎症"] --> B["特発性<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monophasic'>単相性</span>、原因不明)"]
    A --> C["感染後・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parainfectious'>パラ感染性</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='varicella-zoster virus'>VZV</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterovirus'>エンテロウイルス</span>・Mycoplasma pneumoniaeなど)"]
    A --> D["自己免疫性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='demyelinating disease'>脱髄疾患</span>の一部分症"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multiple sclerosis'>多発性硬化症</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='short-segment lesion'>短分節病変</span>が典型)"]
    D --> F["NMOSD<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-AQP4 antibody'>抗AQP4抗体</span>、長大病変が典型)"]
    D --> G["MOGAD<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-MOG antibody'>抗MOG抗体</span>)"]
    A --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic autoimmune disease'>全身性自己免疫疾患</span>に伴う<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic lupus erythematosus, SLE'>全身性エリテマトーデス</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Sjögren syndrome'>Sjögren症候群</span>など)"]
    A --> I["傍腫瘍性"]
    A --> J["寄生虫の虫卵による肉芽腫性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myelitis'>脊髄炎</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schistosomiasis'>住血吸虫症</span>。S. mansoni・S. haematobium)"]

💡 という診断名は、原因を確定する前の「症候群としての受け皿」である。 臨床の実務は、この受け皿に入った患者を、で終わる特発性・感染後の群と、再発する自己免疫性(MS・NMOSD・MOGAD)の初回発作である群とに、できるだけ早く仕分けることに尽きる。

病変長による鑑別:MS対NMOSD対MOGAD

脊髄での病変長は、この仕分けの最初の手がかりになる。長大な脊髄病変(LETM)は、脊髄で3椎体以上に連続すると定義される2。

項目 MS NMOSD(陽性) MOGAD
脊髄病変の長さ 短分節(1〜2椎体)が典型 長大病変(LETM、3椎体以上)が典型 長大病変も短分節も取りうる
病変の位置 脊髄の辺縁・後索寄りに偏在することが多い 脊髄のを巻き込みやすい を含む病変が比較的多い
随伴する脳症候 脳室周囲・病変 (重症・両側性になりやすい)、(・悪心・嘔吐) (両側性が多い)
特異抗体 同定されていない

⚠️ 長大病変(LETM)を見たら、単純なとして治療を始めない。 LETMはNMOSD・MOGADを積極的に疑う所見であり、・の検査結果を待たずにMSの(特に、、)を開始すると、NMOSDでは増悪しうる(ノート参照)。

臨床像

  • 感覚障害:、が病変以下に及び、体幹を帯状に締め付ける感覚を伴うことが多い。
  • 運動障害:病変以下のまたは。急性期はで弛緩性のこともあるが、経過とともにへ移行しうる。
  • 膀胱直腸障害:失禁、尿閉、を伴うの機能異常。
  • :病変に一致したを伴うことがある。
  • :体表の感覚が明瞭に変化する()を同定できることが、脊髄病変を示す重要な所見である。

診断の進め方

flowchart TD
    A["急性〜亜急性の両側性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myelopathy'>脊髄症</span>候<br>(4時間〜21日でnadirに達する)"] --> B["脊髄<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>(造影)で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compressive lesion'>圧迫性病変</span>を除外し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Inflammatory Lesions'>炎症性病変</span>を確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CSF analysis'>髄液検査</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleocytosis'>細胞増多</span>・IgGインデックス・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligoclonal bands (OCB)'>オリゴクローナルバンド</span>"]
    C --> D{"病変の長さは"}
    D -->|"短分節(1〜2椎体)"| E["抗AQP4・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-MOG antibody'>抗MOG抗体</span>を測定しつつMSを念頭に精査"]
    D -->|"長大病変(3椎体以上、LETM)"| F["抗AQP4・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-MOG antibody'>抗MOG抗体</span>を優先的に測定<br>NMOSD・MOGADを念頭に置く"]
    B --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain MRI'>脳MRI</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='demyelinating lesion'>脱髄病変</span>の有無を確認"]
    A --> H["感染歴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic autoimmune disease'>全身性自己免疫疾患</span>の既往を聴取"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic lupus erythematosus, SLE'>全身性エリテマトーデス</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Sjögren syndrome'>Sjögren症候群</span>の血清学的検査"]

⭐ 脊髄とに加え、(の有無)、抗AQP4・、のスクリーニング(など)を組み合わせて、の特発性・感染後のと、再発性疾患の初回発作とを鑑別する。

全身性エリテマトーデスとの関連

はの一表現型としてを合併しうる。SLEの既往や皮疹・関節炎・腎病変などの全身症候を伴う患者では、・を含めた血清学的評価をの精査に組み込む。

感染後・パラ感染性の横断性脊髄炎

、、Mycoplasma pneumoniaeなどの感染に続いて生じるのがある。(ADEM)と異なり、意識障害(脳症)を伴わずに候に限局する点が特徴である。

神経住血吸虫症——「治療できる原因」を取りこぼさない

⭐ 曝露歴のある患者のでは、を鑑別に入れる。 上の感染後・の群とは機序が違い、これは虫卵そのものが脊髄に運ばれて肉芽腫と周囲の炎症を作る直接の寄生虫性である。中枢神経病変は感染のどの時期にも起こりうる。S. mansoniとS. haematobiumは通常を、S. japonicumは通常脳病変を来すという種による偏りがあり、流行地の住民だけでなく旅行者でも報告が増えている3。

⚠️ この病型は「特発性の」として扱われている間に時間を失う。 英国の熱帯病専門施設が2016〜2020年に確定した脊髄4例は、4例とも・下肢筋力低下・・というの症候で発症し、受診から確定的治療まで平均42.5日(範囲16〜74日)かかっていた。診断は4例とも髄液の血清学で確定し、3か月時点で完全に消失したのは1例のみで、3例に排尿・排便障害や下肢の症状が残った4。

脊髄の確定は、①下部または上部の神経病変が臨床とで示されること、②組織からの虫体分離またはで感染が示されること、③他のの原因が除外されること、の3点で行う4。

同じ報告は、神経の所見を次のように整理している(この部分は同論文の総説にあたる箇所で、既報を引いた記述である)4。

手がかり 神経で典型的なもの
病歴 流行地での曝露(遊泳・水上スポーツ)。症状出現までの間隔は数か月におよびうる
病変の高さ 下部・に偏る
脊髄(とくに下部脊髄・)の腫大、などの肥厚、・、造影T1での不均一な多結節性の増強(虫卵誘発性肉芽腫によると考えられる)
髄液 蛋白・細胞数の上昇(リンパ球優位)。髄液の血清学が診断の決め手になりうる

💡 造影パターンが鑑別の軸になる。 ・NMOSD・MOGADの脊髄病変は原則として髄内の脱髄巣で、の神経根が太くなることも多結節性の増強も通常は伴わない。主体の病変+神経根の肥厚という組み合わせを見たら、の枠を離れて曝露歴を取り直す。

⚠️ 治療は「+高用量ステロイド」であって、ステロイド単独ではない。 上の4例はいずれも経口を最低3日間と高用量ステロイドを併せて受けている4。公表例118例を集めた2026年の系統的レビューでも、ステロイドは118例全例(100%)、は116例(98%)に投与されており、最終観察時に機能的自立(modified Rankin score 2以下)に達したのは107例(90%)、残る約10%は中等度〜重度の障害を残した5。急性期に「特発性の」としてだけを行うと、炎症は一時的に抑えられても虫体は残る。

⚠️ ただし、そのものが神経症状を悪化させうる。 虫体の崩壊で放出された抗原に対する炎症反応(反応)が起こるため、中枢神経病変がある患者へのは副腎皮質ステロイドと組み合わせて計画する(詳細は・のノート)。なお神経の治療にはコンセンサスガイドラインもも存在せず、用量・期間・のしかたは報告ごとにばらついている4。

治療

急性期は高用量の(通常3〜5日間)を第一選択とし、反応不良の重症例ではとしてを検討する。感染性の原因が疑われる場合はステロイド投与前に病原体を評価し、必要な抗微生物薬を併用する。神経のようにとステロイドを併せて初めて治療になる病型があるので、「ステロイドが効かない」と判断する前に原因の再評価に戻る(前節)。

⚠️ 急性期治療そのものはMS・NMOSD・MOGADのいずれでも高用量ステロイドが共通の初期対応だが、その後の再発予防薬はまったく異なる。 NMOSDにMSのを用いると増悪しうる一方、抗体検査の結果には時間を要するため、初回発作の時点では急性期治療を優先しつつ、確定診断を待って維持療法を個別化するという順序を守る。

機能異常には評価に基づく、痙性にはとを組み合わせ、リハビリテーションを早期から並行する。

予後

経過と予後は原因によって大きく異なる。感染後・特発性のの例は数か月かけて部分的〜完全に回復することが多いが、の初回発作であった例は再発を繰り返しうる。で発症した患者の5〜10%は、後になってと診断される1。この事実が、初回発作の時点で「これで終わりか、始まりか」を継続的に再評価すべき理由である。

まとめ

  • は単一疾患ではなく、脊髄の両側性炎症という症候群の受け皿であり、特発性・感染後の群と、MS・NMOSD・MOGADという再発性の初回発作である群を仕分けることが診療の核心である。
  • 診断は脊髄由来の両側性障害、・髄液の炎症所見、の除外、4時間〜21日でnadirに達する進行パターンで確認する。
  • 脊髄での病変長(3椎体以上の長大病変=LETM)はNMOSD・MOGADを積極的に疑う手がかりで、単純にMSとして治療を始めない。
  • はとしてを合併しうる。
  • 曝露歴があればを鑑別に入れる。 S. mansoni・S. haematobium はを来し、英国の専門施設の4例は全例がの症候で発症して確定的治療まで平均42.5日かかっていた34。主体の病変・根の肥厚・多結節性の造影増強が手がかりになる。
  • 急性期は高用量(抵抗例は)が共通の初期対応だが、再発予防薬は確定診断(抗AQP4・、病変長、既存疾患の有無)に基づいて個別化する。
  • 神経だけは治療の形が違い、()と高用量ステロイドの併用が要る——公表例118例では118例(100%)がステロイド、116例(98%)がを受けている5。単独で終えない。

出典

  1. 1.Transverse Myelitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2022)横断性脊髄炎の診断で重視される要件(脊髄由来の両側性感覚・運動・自律神経障害、MRIでのT2高信号、圧迫性病変の除外、発症から4時間〜21日でnadirに達する進行パターン)、年間発生率が100万人あたり1〜8例で10〜19歳と30〜39歳に二峰性のピークを持つこと、長大な脊髄病変(longitudinally extensive lesion)を認める例ではNMOSDなど全身性疾患の精査を追加すべきこと、単相性に見えた患者の5〜10%が後に多発性硬化症と診断されることを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Longitudinally Extensive Transverse Myelitis: A Retrospective Study Differentiating Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder From Other Etiologies(Cureus・2021)長大な脊髄病変(LETM)が脊髄MRIで3椎体以上に連続する炎症性病変と定義されることを確認した。閲覧 2026-08-11
  3. 3.Neuroschistosomiasis: clinical symptoms and pathogenesis(The Lancet Neurology(Ferrari TC, Moreira PR)・2011)抄録で、中枢神経病変は住血吸虫感染のどの時期にも起こりうること、脳・脊髄のいずれも侵されうること、S. mansoni と S. haematobium は通常「脊髄症(myelopathy)」を、S. japonicum は通常「脳病変(encephalic disease)」を来すこと、流行地の住民だけでなく旅行者でも報告が増えていることを確認した。全文は購読制のため未取得。閲覧 2026-09-14
  4. 4.Delayed diagnosis of spinal cord schistosomiasis in a non-endemic country: A tertiary referral centre experience(PLOS Neglected Tropical Diseases(de Wilton A, Aggarwal D, Jäger HR, Manji H, Chiodini PL)・2021)全文(Europe PMC の PMC7904161、CC BY)で、英国の熱帯病専門施設に2016年1月〜2020年1月に紹介された脊髄住血吸虫症の確定例が4例で、4例とも「背部痛・下肢筋力低下・異常感覚・排尿障害という横断性脊髄炎の症候」で発症していたこと、受診から確定的治療までの平均が42.5日(範囲16〜74日)だったこと、4例とも髄液の住血吸虫血清学で診断が確定したこと、4例とも経口プラジカンテルを最低3日間と高用量ステロイドを受けたこと、3か月時点で1例が完全消失・3例に後遺障害が残ったことを確認した。あわせて総説部分の「脊髄住血吸虫症の確定基準は、①下部胸髄または上部腰髄の神経病変が臨床とMRIで示されること、②組織からの虫体分離または血清学的手法で住血吸虫感染が示されること、③他の脊髄炎の原因が除外されること、の3点である」「神経住血吸虫症の治療にはコンセンサスガイドラインも無作為化比較試験も存在しない」「MRI所見は脊髄(とくに下部脊髄・円錐部)の腫大、脊髄神経根(とくに馬尾)の肥厚、浮腫を反映するT2高信号・T1低信号、造影T1での不均一な多結節性の増強(虫卵誘発性肉芽腫によると考えられる)」を確認した。閲覧 2026-09-14
  5. 5.Schistosoma infection as a cause of myeloradiculopathy: case report from Mozambique and systematic review(Frontiers in Medicine(Buque H, Arroz N, Lorenzo E, et al.)・2026)全文(Europe PMC の PMC12956659、CC BY)の Results で、系統的レビューが集めた住血吸虫性脊髄症の公表例118例について、ステロイドを受けたのが118例(100%)、プラジカンテルを受けたのが116例(98%)、オキサムニキンが2例(2%)であること、最終観察時に107例(90%)が modified Rankin score 2以下の機能的自立に至り、約10%が中等度〜重度の障害(同3〜5)を残したこと、年齢中央値が25歳・男性が93例(79%)であること、病変が胸腰髄・円錐部に多いことを確認した。⚠️ 同論文の抄録は「additional 58 cases」と書いており Results の118例と食い違うため、症例数は Results の側を採った(31%=37例・64%=75例・90%=107例はいずれも分母118で一致する)。閲覧 2026-09-14