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Disease Atlas · 神経 · 疾患

急性弛緩性脊髄炎

Acute flaccid myelitis

別名
AFM
臓器系
神経感染症小児
科目
NeurologyMedical Microbiology
トピック
神経内科 G3-01:ウイルス感染による神経疾患微生物学 3/30:ピコルナウイルス:ライノ・コクサッキー・エコー・エンテロウイルス
鑑別疾患
ギラン・バレー症候群ボツリヌス症ポリオ横断性脊髄炎
原因微生物
Enterovirus A, B, C, D
症状
弛緩性麻痺筋力低下腱反射消失頸部痛顔面神経麻痺嚥下障害
検査値
髄液検査針筋電図神経伝導検査

🧠 全体像:は「ポリオの後に残ったポリオ様の病気」である。⭐ が壊れるので、は非対称でを伴い、感覚は保たれる——ここまではポリオと同じ姿になる。分けるのは3点で、⭐ ①で灰白質に限局する脊髄病変が診断の要件そのものであること、②が消化器ではなく呼吸器であること、③麻痺が下肢ではなく上肢に優位なことである1。原因は確定していないが、⚠️ D68とA71が最も強く疑われている2。2014年以降、米国では偶数年に流行が繰り返されてきた1。

症例定義——版を確かめて使う

⚠️ AFMは「所見の集合」ではなく、上ので決まる診断である。 米国の全国が2018年の症例に適用したの定義は次のとおり1。

要素 内容
臨床基準 急性発症の弛緩性
画像基準 MRIで灰白質にほぼ限局し、1椎体分以上にわたる脊髄病変

⭐ 「臨床+」の2つで確定する。 病原体の検出は要件に入っていない——⚠️ 髄液からウイルスが出るのは5%未満なので、要件にすると大半が診断できなくなる12。

⚠️ の定義は改訂される。版を明示せずに「の基準」と書かない。 上表は2020年のVital Signs報告が2018年例に適用した版である1。⭐ 現行は NNDSS 2022年(CSTE position statement 21-ID-02)で、①臨床基準に「全国に帰せられる明らかながないこと」が加わり、②画像基準に除外条件(が診断した悪性腫瘍・血管疾患・解剖学的異常による灰白質病変を除く)が付き、③灰白質の関与はあるが「優位」と判定できない病変を probable() とする区分が置かれている。

疫学——偶数年の山

米国で2014年8月〜2020年6月に報告されたは633例で、年別に2014年120例・2015年22例・2016年153例・2017年38例・2018年238例・2019年46例・2020年(6月まで)16例と、⭐ 偶数年に山が立つ隔年パターンを示した1。

2018年の238例では、年齢中央値5.3歳(範囲0.5〜81.8歳)、58%が男性、86%が8〜11月に発症(37%は9月)した1。⚠️ 成人例もある(上限81.8歳)が、圧倒的に幼児〜学童の病気である。

💡 隔年パターンの説明として、抗体を持たない新しい小児のコホートが一定の大きさに達するまで流行が起きない、という仮説がある2。

臨床像

flowchart TD
    A["有熱性の呼吸器感染<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prodromal symptoms'>前駆症状</span>。97%に先行)"] --> B["中央値6日"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neck pain'>頸部痛</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='back pain'>背部痛</span><br>(46%。筋力低下の1〜2日前)"]
    C --> D["急性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flaccid weakness'>弛緩性筋力低下</span><br>上肢優位・非対称"]
    D --> E["腱反射の低下・消失"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cranial neuropathy'>脳神経障害</span>(21%)<br>顔面神経が最多"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory muscle paralysis'>呼吸筋麻痺</span>"]
    G --> H["23%が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endotracheal intubation'>気管挿管</span>・人工呼吸"]
時期 所見(2018年の238例)
何らかの97%、呼吸器症状80%・発熱77%(⚠️ 消化器症状も30〜64%)、/46%、頭痛37%。筋力低下までの中央値6日
受診時 52%、/47%、発熱35%、痛34%
⭐ 上肢の筋力低下64% > 下肢36%、21%、⭐ はわずか13%、5%
経過 98%が入院、54%が、23%が・人工呼吸

1

⭐ が壊れる病気なので、運動だけが落ちて感覚が残る。 の低下・消失は最大80%にみられ、があればが最多、次いで・で、が侵されれば嚥下障害(13%1)を伴う2。

⚠️ 数時間〜数日で急速に進む。 と有熱性呼吸器疾患が先行する小児の急性を、8〜11月に見たら疑う1。

病原体——EV-D68とEV-A71

確定した原因は無い。 それでもが最も強く疑われるのは、⭐ 流行の季節と隔年周期がの流行と一致し、Bradford Hill基準の適用でもEV-D68とのが支持されるからである2。

⚠️ 決定的な証拠はまだ乏しい。 ヒトの脊髄組織からEV-D68が検出されたのは、2008年に診断された5歳児の剖検で前角からと蛋白が検出された1例だけである2。マウスでは経鼻曝露でも脊髄とにウイルスが到達し、とを来す2。

⭐ 検体の選び方が診断の成否を決める。 2018年の238例では検査を受けた219例(92%)のうち107例(49%)で/が検出されたが、陽性率は呼吸器検体48%に対し、便20%・髄液5%・血清3%だった1。⚠️ ポリオの流儀で便と髄液だけを出すと、ほとんど拾えない。を必ず取る()。

💡 EV-A71例は臨床像そのものが違う。 2018年のEV-A71例12例は、年齢中央値1.6歳(EV-D68例は5.9歳)、男児92%、としての発疹58%、受診時の67%・50%、MRIで92%・75%と、脊髄よりも脳幹・小脳に寄った像を示した1。より年少で、より脳症らしい。

・・West Nileウイルス・HHV-6・も関連が報告されている2。

検査

検査 所見
脊髄 ⭐ 診断の要件。 で造影されない灰白質病変が多椎体にわたり、前角で最も強い。2018年のでは94%・86%、も44%12
髄液 が87%(細胞数中央値94/mm3)、リンパ球優位で蛋白上昇。⚠️ ウイルス検出は5%未満12
ウイルス検査 ⭐ が本命(陽性率48%)。便・髄液・血清も併せて提出する1
の振幅低下、⭐ は保たれる2
前角障害に一致するの。⚠️ 所見が出るのは経過の後半なので早期の陰性で否定しない2

鑑別——ポリオとの線引きが中心

ポリオ
病原体 ⚠️ 未確定。EV-D68・EV-A71が最有力
主な感染経路 呼吸器(EV-D68は)
呼吸器症状が優位(80%)・発熱77%。⚠️ 消化器症状も30〜64%にみられ、有無だけでは分けられない 様症状と消化器症状
麻痺の分布 ⭐ 上肢優位(上肢64%・下肢36%) 下肢に多い
診断の要件 ⭐ 臨床+の灰白質病変 ウイルス分離・、の
検体 が最も陽性 便・
予防 ⚠️ ワクチンが無い 不活化・

その他の鑑別は、(対称性・上行性で感覚障害と髄液のを伴う)、(と膀胱直腸障害があり、病変が白質を含む)、(下行性で・が先行)である。⭐ AFMは「運動だけ・非対称・灰白質」で、この3つのどれとも所見の組み合わせが違う。

⚠️ を呈した小児は、ポリオ事業のとして当局へ届け出る。

治療

⚠️ エビデンスに基づく標準治療は存在しない。 コンセンサス文書も無い2。

  • ・ステロイド・・が用いられてきたが、⚠️ いずれも有益性が示されておらず、は無効と示された2。
  • ⚠️ EV-A71関連のAFMではステロイドを避ける。 マウスモデルでステロイドによりウイルス量が増え、EV-A71感染例でステロイド投与例の転帰が不良であったことから、とがこの推奨を出している2。
  • ⭐ 現時点で最も有効なのは支持療法と・である2。へのが生命に直結する(23%が挿管)1。
  • は限られたデータながら機能改善の報告がある。⚠️ 発症から18〜24か月以内に行う必要があるので、回復が頭打ちになった時点で早めに検討する2。

予後は不良である。 何らかのを回復するのは5〜39%にとどまり、⚠️ 年齢・所見・・画像のいずれも因子として同定されていない2。

まとめ

  • ⭐ AFMはの障害による非対称性ので、運動だけが落ち感覚が残る。診断は急性弛緩性+で灰白質にほぼ限局し1椎体分以上にわたる脊髄病変という臨床+画像の2要件で決まる。⚠️ のは改訂されるので版を明示する。
  • ⚠️ ポリオとの線引きが要点。 ①が呼吸器(80%)、②麻痺が上肢優位(64%対36%)、③の灰白質病変が診断要件、④検体はが本命、⑤ワクチンが無い。
  • 米国では2014年以降偶数年に流行し、2018年は238例。年齢中央値5.3歳、86%が8〜11月に発症。54%が、23%が挿管を要した。
  • 原因は未確定だがEV-D68が最有力で、Bradford Hill基準でも支持される。⚠️ ヒト脊髄からの検出は1例のみという限界がある。
  • ⭐ 髄液からウイルスが出るのは5%未満。 陽性率は呼吸器検体48%・便20%・髄液5%・血清3%で、便と髄液だけでは拾えない。
  • 💡 EV-A71例は別の顔をする——より年少(中央値1.6歳)、発疹・・意識障害が多く、脳幹(92%)・小脳(75%)病変が目立つ。
  • ⚠️ 治療は支持療法とリハビリテーションが中心で、免疫グロブリン・ステロイド・・はいずれも有益性が示されていない。EV-A71関連ではステロイドを避ける。 は発症18〜24か月以内。を回復するのは5〜39%。

出典

  1. 1.Vital Signs: Clinical Characteristics of Patients with Confirmed Acute Flaccid Myelitis, United States, 2018(Morbidity and Mortality Weekly Report (Centers for Disease Control and Prevention)・2020)Europe PMCで全文を確認した。米国の全国サーベイランスにおける確定例の定義が「急性弛緩性四肢筋力低下という臨床基準を満たし、かつMRIで灰白質にほぼ限局し1椎体分以上にわたる脊髄病変を認めるもの」であること、2014年8月〜2020年6月30日に報告された確定例が633例で年別に2014年120例・2015年22例・2016年153例・2017年38例・2018年238例・2019年46例・2020年(6月30日まで)16例と隔年で流行したこと、2018年の確定例238例の年齢中央値が5.3歳(範囲0.5〜81.8歳)で58%が男性、42州から報告されたこと、205例(86%)が8〜11月に発症し87例(37%)が9月であったこと、前駆症状が230例(97%)にあり呼吸器症状80%・発熱77%・頸部痛または背部痛46%・頭痛37%で、筋力低下発症までの期間の中央値が6日であったこと、受診時の症候が歩行障害52%・頸部痛または背部痛47%・発熱35%・患肢痛34%であったこと、初回神経学的診察で上肢筋力低下64%・下肢筋力低下36%・何らかの感覚異常13%・何らかの脳神経障害21%・意識状態異常5%であったこと、髄液細胞増多が210例中183例(87%)にあり細胞数中央値が94/mm3であったこと、MRIで頸髄病変が233例中219例(94%)・胸髄病変が205例中176例(86%)・脳幹病変が227例中100例(44%)に認められたこと、検査を受けた219例(92%)のうち107例(49%)でエンテロウイルス/ライノウイルスが検出され、呼吸器検体の陽性率48%に対し便20%・髄液5%・血清3%であったこと、型別ではEV-D68が34例と最多でEV-A71が12例、EV-D68の33/34例とEV-A71の10/12例が呼吸器検体からの検出であったこと、EV-A71例は年齢中央値1.6歳・男性92%・西部地域92%・前駆症状としての発疹58%・受診時の運動失調67%・意識状態異常50%・脳幹病変92%・小脳病変75%と他群と異なる像を示したこと、外来で筋力低下が始まった211例のうち76%が1日以内に受診し64%が最初に救急外来を受診したこと、全体の98%が入院・54%が集中治療室入室・23%が気管挿管と人工呼吸を要したこと、著者らが8〜11月に頸部痛・背部痛と有熱性呼吸器疾患の先行を伴う急性弛緩性四肢筋力低下を見たらAFMを疑うよう結論したことを確認した。長期転帰のデータは本報告では扱われていない閲覧 2026-09-02
  2. 2.Acute flaccid myelitis a review of the literature(Frontiers in Neurology・2022)Europe PMCで全文を確認した。AFMが2014年春〜夏のカリフォルニア・ユタ・コロラドでの集積により注目された小児の神経疾患で偶数年に流行する隔年パターンをとること、発症年齢の平均が5.8歳で多くは2〜11.5歳・男児優位であること、80%超が診断時にウイルス性呼吸器症状を呈すること、消化器症状が30〜64%であること、身体所見が数日かけて進行する上肢優位・近位優位の非対称性四肢筋力低下であること、脳神経障害が最大26%にみられ最多が顔面神経・次いで外転神経・動眼神経であること、深部腱反射の低下または消失が最大80%にみられること、感覚障害は10%未満(研究により0〜45%)であること、エンテロウイルスがウイルス検査を受けた患者の20〜96%で陽性となり最も関与が疑われること、Bradford Hill基準の適用でEV-D68とAFMの因果関係が支持されていること、マウスにEV-D68を経鼻または注射で曝露すると脊髄運動単位と神経筋接合部にウイルスが検出され急性筋炎と四肢麻痺を来すこと、ヒトで脊髄組織からEV-D68が検出された例は2008年に診断された5歳児の剖検で前角運動単位からEV-D68のRNAと蛋白が検出された1例のみであること、非流行年に最も多く検出されるウイルスがEV-A71であること、アデノウイルス・EBウイルス・West Nileウイルス・HHV-6・マイコプラズマもAFMと関連が報告されていること、髄液が細胞増多(平均44/μL、リンパ球優位)と蛋白上昇を示すがウイルスが検出されるのは5%未満であること、画像所見が約90%でT2強調画像上の造影されない多椎体にわたる灰白質病変(前角に最も強い)であり頸髄が最大87%・胸髄が約80%であること、神経伝導検査で複合筋活動電位の振幅低下と感覚神経活動電位の保持、筋電図で前角障害に一致する運動単位電位の動員低下を示すこと、治療にエビデンスに基づく標準的ガイドラインや専門家コンセンサス文書が存在しないこと、IVIG・ステロイド・血漿交換・フルオキセチンが用いられるが有益性は示されておらずフルオキセチンは無効と示されたこと、マウスモデルでステロイド投与によりウイルス量が増加したこと、EV-A71感染を伴うAFM患者でステロイド投与例の転帰が不良であったことからWHOとCDCがEV-A71関連AFMではステロイドを避けるよう推奨していること、神経移行術は発症から18〜24か月以内に行う必要があること、理学療法・作業療法が現時点で最も有効な選択肢であること、5〜39%の患者が何らかの運動機能を回復するにとどまり予後予測因子は同定されていないことを確認した。なお本総説には非流行年に最多のウイルスを『EV-D71』と表記した箇所があるが、同一論文の他の箇所および引用元の記載はEV-A71であり、本ノートではEV-A71と記した閲覧 2026-09-02