微生物学

微生物学 · 3/30

ピコルナウイルス:ライノ・コクサッキー・エコー・エンテロウイルス

Picornaviruses: Rhino-, Coxsackie-, echo- and enteroviruses

応用トピック
ウイルス感染による神経疾患
微生物
Enterovirus A, B, C, DRhinovirus A, B, C
疾患
Eczema coxsackiumヘルパンギーナ急性出血性結膜炎急性弛緩性脊髄炎手足口病普通感冒無菌性髄膜炎
症状
くしゃみ結膜下出血

🧠 同じの中で「だけが仲間外れ」という1点を軸に読む。 ・エコー・(狭義の)は共通して酸に強く糞口感染し、からウイルス血症を経て全身の標的臓器(心臓・髄膜など)を襲う。一方は唯一酸に弱く(胃を通れない)、呼吸器経由で感染し、多くの株が鼻腔の33〜35℃という低い温度で体温(37℃)よりも旺盛に増える――だから胃腸炎ではなく上気道の症状が前面に出る。ただし「37℃では増えない」わけではなく、下気道でも複製しうる(の最多の誘因である)1。科の基本性状(ssRNA・エンベロープなし・・翻訳)は3-29()で確立済みなので、ここでは差分だけを押さえればよい。

科の基本性状(共通点のおさらい)

・・はいずれもに属し(も分類上は)、——ssRNA・エンベロープなし(naked)・——という科全体の性状は3-29を参照。

コクサッキーウイルスA・B

項目 内容
伝播経路 糞口感染:汚染された食物・水
増殖の流れ 腸粘膜()・で増殖(2〜3週)→→心筋などのへ→そこでの二次的な複製→

💡 なぜは「腸管病原体」なのに腸炎を起こさないのか。 で伝播・複製はするが、腸管そのものに病気を起こすことは稀——標的は心臓・髄膜・皮膚などで到達する遠隔臓器である。夏季に流行しやすい点も共通する。

A型が起こす疾患

疾患 特徴
主にA16血清型。小児に好発。手・足・口に出現する紅色小水疱疹と軽度発熱、掻痒を伴うことがある
口腔後方(・咽頭峡)の有痛性水疱、7〜10日持続。強いを伴う
主にA24血清型。強い伝染性、と結膜炎。潜伏期24時間、1〜2週間で軽快

B型が起こす疾患

疾患 特徴
(pleurodynia、別名Bornholm病・「悪魔の」) 突然の発熱と片側性が多い、約4日持続
心筋炎・(性心筋症) 新生児で最も重篤だが全年齢で起こりうる。突然の発熱・チアノーゼ・・心不全→に至る

⚠️ はA16単独の疾患ではない。 A71(EV-A71)も主要な原因ウイルスであり、特にアジア太平洋地域で・(rhombencephalitis)・などの重篤な中枢神経系合併症を伴う流行を繰り返してきた。中枢神経合併症例の致死率はかつて約80%にも達したが、の進歩により近年は10%未満まで低下している——生存例でもやなどのを残しうる2。

A型・B型共通

  • 無菌性(ウイルス性)髄膜炎:急性発熱、頭痛、(など)

診断・治療・予防

  • 診断:咽頭・便・(cerebrospinal fluid, 脳脊髄液)からのウイルス分離
  • 治療:支持療法のみ
  • 予防:手洗いによるウイルスの機械的除去

ライノウイルス——科の中の異端児

項目 内容
血清型 100種類以上——ワクチン開発が困難な理由
酸耐性 酸に弱い(acid-labile)——消化管内では増殖できない(他のと対照的)
伝播経路 飛沫感染、(感染性病原体を媒介する物体)、直接接触(手など)
受容体 ICAM-1(intercellular adhesion molecule 1, )に結合して鼻腔上皮に侵入
増殖に有利な温度 多くの株が33〜35℃(鼻腔は外気に触れ体温より低い)で体温37℃より旺盛に増える——上気道に症状が偏りやすい理由の一つ。37℃で増殖できないという意味ではない1

💡 なぜ低温でよく増えるのか——理由はウイルス側ではなく宿主側にある。 の・・ポリメラーゼ活性を調べた過去の研究は、を説明するウイルス内在の理由を見つけていない。マウス初代をマウス1Bで33℃と37℃で感染させて比べると、37℃側でI型・との発現が有意に高い。この温度依存的な誘導はMAVS(RIG-I様受容体の)に依存し、MAVSまたはを欠損させると特に37℃でが増え、が部分的に解消する。つまり体温では自然免疫のが強く、鼻腔の低温ではそれが鈍る、という宿主側の説明である1。⚠️ ただしこれはマウスの細胞を使った実験系であり、同論文自身が「ヒト細胞で温度がをどう制御するかは未解明」と明記している。

⚠️ 「上気道に限局する」は現在の理解ではない。 かつてはの病変は鼻腔に限られると考えられていたが、の向上により下気道の症状の主要な原因であることが分かってきた——の最多の誘因であり、の患者や幼児の下気道症状の原因にもなる。実験感染者や喘息患者のでウイルスが証明されており、肺の太い気道の温度が感染を許す範囲に達しうること、株によっての強さが異なることが説明として挙げられている1。

臨床像:()——原因の第1位

  • 夏〜秋にピーク(コロナウイルスとは逆の季節性)
  • 症状ピークは3〜4日、咳・は7〜10日持続しうる
  • くしゃみ→→鼻閉・・咳嗽の順で進行
  • 頭痛・倦怠感はあるが発熱はないのが特徴

診断・治療・予防

  • 診断:臨床診断
  • 治療:自然軽快
  • 予防:手洗い(本ウイルスは乾燥やに抵抗性があるため、機械的な洗浄が有効)

エコーウイルス

「ECHO」=Enteric Cytopathic Human Orphan(腸管細胞変性ヒトオーファン)の頭字語。

項目 内容
伝播経路 糞口感染→あらゆる組織に感染しうる
広範な——体内のほぼどの細胞にも感染しうる強い伝播力

病態生理

  • 大部分のは嚥下され消化管に到達
  • 一部は・リンパ節に到達
  • その後ウイルス血症で中枢神経・肝臓・脾臓・骨髄・心臓・最終的に肺へと播種

臨床像

  • 主に小児・乳児(特に男児)に多い
  • 感染後4〜6日で症状出現
  • の原因第1位
  • 致死的合併症として肝不全・心筋炎がありうる

治療:特異的治療なし。適切なが予防に有効。

💡 D68(EV-D68)は呼吸器のなで、(AFM)との関連が疫学的に示唆されている。 2014年以降、米国を含む複数国でEV-D68の流行時期と小児のAFM症例増加が時間的・地理的に一致しており、Bradford Hill基準によるの評価でも支持的な証拠とされているが、髄液・中枢神経組織からの直接分離という決定的証拠は依然として限られる3。

4病原体の比較

病原体 酸耐性 代表疾患
A 酸に強い 糞口感染 、、
B 酸に強い 糞口感染 、心筋炎・
酸に強い 糞口感染 (#1原因)、肝不全・心筋炎
酸に弱い 呼吸器(・接触) (#1原因)

まとめ

  • A/B・は酸に強く糞口感染し、での増殖→→標的臓器での二次的複製→という共通の病態をたどる。
  • Aは(A16)・・(A24)、Bは(Bornholm病)と心筋炎・(に進行しうる)を起こす。両者ともの原因になる。
  • は科内で唯一酸に弱く、ICAM-1受容体を介して鼻腔上皮に侵入する。多くの株が鼻腔の33〜35℃で体温37℃より旺盛に増えるため症状は上気道に偏りやすく、の原因第1位となる。ただし上気道に限局するわけではなく、下気道でも複製しての最多の誘因となる1。
  • は広範なを持ち、小児のの原因第1位——肝不全・心筋炎という致死的合併症に注意。
  • いずれも特異的治療はなく、手洗い(・エコー)と手洗い+接触/対策(ライノ)が予防の柱となる。

A・B・C(microbe note)・A・B・C・D(microbe note)も参照。

出典

  1. 1.Temperature-dependent innate defense against the common cold virus limits viral replication at warm temperature in mouse airway cells(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America・2015)PMC全文(PMC4311828)で確認した。抄録冒頭は「Most isolates of human rhinovirus, the common cold virus, replicate more robustly at the cool temperatures found in the nasal cavity (33–35 °C) than at core body temperature (37 °C).」で、低温で旺盛に増えるのは「多くの分離株」であり、37℃で増殖できないとは述べていない。温度域は33〜35℃である。緒言は「Previously, RV was thought to cause disease primarily in the nasal cavity」と過去の理解として書いたうえで、検出技術の向上により肺の症状の主要な原因(喘息増悪の最多の誘因、慢性呼吸器疾患患者や幼児の呼吸器症状の原因)と認識されるようになったと述べ、考察では「Mounting evidence supports the view that RV can replicate in the airways of the lung in some cases, including demonstration of RV in lung biopsies of experimentally infected subjects and in patients with asthma」および肺の太い気道の温度が許容範囲に達しうること・株ごとに温度依存性が異なることを挙げている。緒言は「Previous studies of the replication machinery of RV have not identified a virus-intrinsic reason for temperature-dependent growth, including studies of cell entry, uncoating, and polymerase activity」とし、機序は宿主側にあるとしてマウス初代気道上皮細胞とマウス馴化ライノウイルス1Bの33℃/37℃比較を行い、37℃側でI型・III型インターフェロンとインターフェロン誘導遺伝子の発現が有意に高いこと、この誘導がMAVS依存であること、MAVSまたはI型インターフェロン受容体の欠損が特に37℃で複製を増やし温度依存性を部分的に解消することを示した。実験系はマウス細胞であり、考察は「how temperature regulates innate immune responses to RV in human cells is unknown」と明記している。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Enterovirus A71 neurologic complications and long-term sequelae(Journal of Biomedical Science・2019)エンテロウイルスA71は手足口病に無菌性髄膜炎・脳幹脳炎・ポリオ様症候群などの重篤な中枢神経合併症を伴うアジア太平洋地域の大規模流行を繰り返しており、中枢神経合併症例の致死率は1998年流行時の約80%から近年は10%未満まで低下したが、生存例でも神経発達遅延・四肢筋力低下などの後遺症を残しうる閲覧 2026-08-26
  3. 3.Enterovirus D68 and acute flaccid myelitis—evaluating the evidence for causality(The Lancet Infectious Diseases・2018)2014年以降、米国その他複数国でエンテロウイルスD68(EV-D68)の流行時期と小児の急性弛緩性脊髄炎(AFM)症例増加が時間的・地理的に一致しており、Bradford Hill基準による評価でも因果関係を支持する証拠とされるが、髄液・中枢神経組織からの直接分離という決定的証拠は依然として限られる閲覧 2026-08-26