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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

無菌性髄膜炎

Aseptic meningitis

別名
ウイルス性髄膜炎非細菌性髄膜炎Viral meningitis薬剤性髄膜炎化学性髄膜炎
臓器系
感染症神経
科目
Medical MicrobiologyNeurologyPathology
トピック
微生物学 5/22:ウイルス性・真菌性の髄膜炎・脳炎の病原体(一覧)微生物学 3/30:ピコルナウイルス:ライノ・コクサッキー・エコー・エンテロウイルス神経内科 G1-22:髄膜炎と脳炎病理学 C/109:中枢神経系感染症(髄膜炎・脳炎)
鑑別疾患
細菌性髄膜炎
関連疾患
ウイルス性脳炎
原因薬剤
(デクス)イブプロフェンスルファメトキサゾール+トリメトプリム免疫グロブリン静注療法ロピバカイン(レボ)ブピバカインメトトレキサートクロルヘキシジン
原因微生物
Enterovirus A, B, C, DMumps virusHerpes simplex virus 2
症状
頭痛発熱項部硬直羞明悪心嘔吐
検査値
髄液検査
元疾患
レプトスピラ症手足口病流行性耳下腺炎

🧠 全体像:は「培養で細菌が生えない髄膜炎」という除外的な名前で呼ばれるが、実態のほとんどはによるありふれた自然軽快性のウイルス感染である。診断の骨格はとの対比——髄液の細胞数・糖・蛋白というたった3つの値の組み合わせで、緊急にを要する病態か、支持療法だけで数日以内に治る病態かを鑑別する。もう一つのは薬剤であり、機序が2通りある点が重要——・ST合剤・()は全身性の過敏反応として、薬・剤・薬(メトトレキサートなど)は髄膜への直接的な化学刺激として、それぞれ「治療可能な」を起こしうる。後者は狭義にはと呼ばれる。

病態

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterovirus'>エンテロウイルス</span>(糞口感染)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mumps virus'>ムンプスウイルス</span>(飛沫感染)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='herpes simplex virus type 2'>単純ヘルペスウイルス2型</span>(性器からの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurotropism'>神経向性</span>)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gut-associated lymphoid tissue'>腸管リンパ組織</span>・上気道・生殖器での増殖"]
    B --> C["ウイルス血症・神経系への播種"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subarachnoid space'>くも膜下腔</span>への到達"]
    E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonsteroidal anti-inflammatory drugs'>NSAIDs</span>・ST合剤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous immunoglobulin'>IVIG</span>など"] --> F["髄膜への直接的化学刺激、<br>またはIII型・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type IV hypersensitivity reaction'>IV型過敏反応</span>"]
    F --> D
    D --> G["リンパ球優位の炎症反応"]
    G --> H["発熱・頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nuchal rigidity (neck stiffness)'>項部硬直</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photophobia'>羞明</span>"]
    H --> I{"原因は感染か薬剤か"}
    I -->|"ウイルス性"| J["多くは支持療法のみで<br>数日〜1週間以内に自然軽快"]
    I -->|"薬剤性"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='culprit (suspected) drug'>被疑薬</span>を中止すると<br>通常2〜3日で軽快"]

💡 が「化膿性の」であるのに対し、の多くはリンパ球を主体とした軽度の炎症にとどまる。この炎症の質の違いが、そのまま髄液所見の違い(か、リンパ球優位か)として現れる。

⭐ 原因の頻度で考えると、まず「誰に・どのくらいの速さで」を見る。 免疫正常な小児・若年成人に急性発症するの大多数はによるものであり、夏〜秋に流行しやすい。一方、亜急性〜慢性の経過で免疫不全患者に起こる髄膜炎(、など)は真菌性・抗酸菌性の可能性を高くする——同じ「髄液細胞数がそこまで多くない」という所見でも、宿主背景次第でまったく違う原因を疑う。

臨床像

  • 急性〜亜急性の頭痛・発熱・・、を伴うことが多いが、意識変容は目立たない——これがやとの重要な鑑別点になる。意識障害・けいれん・があれば脳炎への波及()を疑う。
  • :小児・若年成人に多く、夏〜秋に流行しやすい。しばしば発疹・・下痢など他のウイルス感染症状を伴う。
  • :に先行・並行して、あるいは単独で発症しうる。難聴の原因にもなりうる。
  • ():初感染時のに伴って起こりやすく、再発を繰り返す()の主要な原因として知られる。数日で自然軽快する発熱・頭痛・のエピソードを、数か月〜数年の間隔で繰り返すのが特徴で、性器病変を伴わないことも多い。反復例では、毎回の入院精査を最小限にとどめ、既知の原因と症状パターンの一致を確認する運用が現実的である。
  • 薬剤性(過敏反応型):(、ST合剤など)の投与開始から数日以内に発症し、症状はより軽いことが多い1。既往に同薬剤への曝露歴があれば再曝露で急速にしうるため、は生涯にわたって回避する。全身性の免疫学的過敏反応が機序であり、次項のとは別に扱う2。
  • その他、・は主に免疫不全者で、(など)は流行地・流行期の曝露歴があれば鑑別に挙げる。

化学性髄膜炎——投与という行為そのものに伴う直接的な化学刺激

⚠️ 同じ「薬剤性」でも機序が別である。上記の過敏反応型は全身性の免疫反応だが、はに到達した物質そのものが髄膜を直接刺激して起こる無菌性の炎症で、発熱の文脈では「投与に伴う合併症」(・血腫などと並ぶカテゴリ)として扱われる2。

  • 原因:の(、(レボ)など)2、剤(歴史的には油性で頻度が高く、への移行後は減少したが皆無ではない)、薬(メトトレキサートなど)3、の誤(の脳・髄膜曝露など)が代表例。
  • 発症時期と頻度:では投与後2週間以内(症例では4日後)に発症し、小児では投与回数・用量が増えるほど頻度が上がりとして0.8〜4.5%に生じる3。後は麻酔当日〜翌日に発熱・頭痛で発症しうる2。
  • 髄液所見と鑑別の難しさ:過敏反応型・ウイルス性より細菌性に近い所見を呈しうる(の、蛋白上昇、糖低下)ため、髄液所見だけではと区別できない23。確定は培養・ウイルス陰性の確認と、被疑処置・との時間的関連、抗菌薬非投与下または経験的抗菌薬中止後の自然改善というによる。
  • 治療:確立されたガイドラインはなく支持療法が中心3。細菌性を否定しきれない間は経験的抗菌薬(±アシクロビル)を開始し、培養・陰性かつ臨床的に改善(48時間以内が目安)すれば中止する2。原因薬・処置の中止で数日〜2週間以内になく回復することが多い。

診断:髄液所見の比較

項目 細菌性 無菌性(ウイルス性・薬剤性)
上昇 正常〜軽度上昇(<180 mmH2O)4
細胞数 著増(数百〜数万/µL)、 0〜1000/µLでリンパ球優位(発症初期はのこともある)4
蛋白 著増 正常〜軽度上昇(<200 mg/dL)4
糖(/血漿比) 著減(<0.4が目安) 正常 4
グラム染色・培養 陽性のことが多い 陰性
  • 確定にはウイルス核酸の(、 など)が中心となる。
  • 薬剤性を疑う手がかりは、①の投与歴と発症時期の一致、②細菌培養・ウイルスがすべて陰性、③中止後の急速な軽快——の3点である。薬剤性の診断は最終的にであり、感染症を否定しきれない段階で断定しない。

⚠️ 髄液所見だけで細菌性を除外しきれるとは限らない。 でも発症ごく初期にはを呈することがあり、が強く疑われる臨床像(急性発症・意識変容・)があれば、髄液所見の「らしさ」だけで経験的抗菌薬の開始を遅らせない。

治療

  • 大多数のウイルス性は対症療法のみで自然軽快する——鎮痛(薬剤性を疑う場合はを避ける)、、輸液。
  • による(意識障害・けいれんなど症状を伴う場合)が疑われれば、アシクロビルの経験的投与を検討する。単純な(脳炎徴候を伴わない)にルーチンの抗ウイルス薬は不要。
  • 薬剤性の治療はの中止に尽きる。 ST合剤では中止後おおむね2〜3日で症状が軽快する1。改善しない、あるいは意識変容・を伴う場合は、や脳炎を再検討する。
  • 診断が確定するまでは、を否定しきれない患者に対して経験的抗菌薬の開始をためらわない——は最終的に振り返って確定する診断であり、初診時に自信をもって除外できることは少ない。

まとめ

  • は「培養陰性の髄膜炎」という除外名で、実態の多くはによる自然軽快性のウイルス感染。、も代表的原因。
  • ・ST合剤・などの薬剤性(過敏反応型)も鑑別に入れる。中止後2〜3日での軽快が診断の手がかりになる。
  • 薬・剤・薬(メトトレキサートなど)は、過敏反応とは別に(髄膜への直接的な化学刺激)を起こしうる。細菌性に近い髄液所見を呈しうるため、培養・陰性とでの自然改善によるが要る。
  • との鑑別の核心は髄液所見——無菌性は正常〜軽度上昇、リンパ球優位の軽度(0〜1000/µL)、蛋白正常〜軽度上昇、糖正常という点で、・著明な・糖著減を示す細菌性と対比できる。
  • 意識変容・が目立たない点もやとの鑑別点になるが、これらを認めれば脳炎への波及を疑う。
  • 治療は大多数が対症療法のみで、薬剤性はの中止が治療そのものになる。ただし細菌性を否定しきれない状況では経験的抗菌薬の開始を遅らせない。

出典

  1. 1.Trimethoprim-Sulfamethoxazole-Induced Aseptic Meningitis: A New Approach(Cureus・2021)ST合剤(トリメトプリム・スルファメトキサゾール)は薬剤性無菌性髄膜炎の原因として最も多く報告される抗菌薬であり、FDA承認(1973年)以降40例超の報告がある。機序は髄膜への直接的な化学的刺激、またはIII型・IV型過敏反応と考えられ、症状は投与開始後数日で出現し、多くは中止後2〜3日で軽快する。閲覧 2026-08-10
  2. 2.Drug-Induced Aseptic Meningitis Following Spinal Anesthesia(European Journal of Case Reports in Internal Medicine・2019)薬剤性無菌性髄膜炎(DIAM)には2つの機序が提唱されており、脊髄くも膜下麻酔(局所麻酔薬)のように髄腔内に投与された物質が髄膜を直接化学的に刺激する型と、NSAIDs・免疫グロブリン静注療法(IVIG)・抗菌薬のような全身性の免疫学的過敏反応による型は機序が別である。ブピバカイン・ロピバカインによる脊髄くも膜下麻酔後DIAMの2症例では、発熱(38〜38.6℃)・頭痛・項部硬直に加え髄液細胞数579〜1116/mm³(多核球優位)、蛋白154.6〜236 mg/dL、糖32〜47 mg/dLと細菌性髄膜炎と類似した所見を呈し、臨床所見・髄液所見だけでは鑑別できないため経験的抗菌薬を開始しつつ細菌培養・ウイルスPCR陰性と48時間以内の臨床的改善で除外診断に至った。抗菌薬は72時間〜5日で中止でき、両症例とも神経学的後遺症・再発なく回復した。閲覧 2026-09-16
  3. 3.Intrathecal Methotrexate-Induced Aseptic Meningitis in a Patient with Acute Lymphoblastic Leukemia(International Journal of Applied and Basic Medical Research・2022)メトトレキサート髄腔内投与に伴う急性脳症は小児集団で0.8〜4.5%に生じ、多くは投与後2週間以内(症例では投与4日後)に10/10の頭痛・項部痛・微熱・全身倦怠・意識混濁として発症する。髄液所見は顆粒球24%・リンパ球60%・マクロファージ3%で細菌性髄膜炎に矛盾する所見であり、培養陰性・複数のウイルス検査陰性・抗菌薬無効・時間経過での自然改善によって細菌性と鑑別される。確立された治療ガイドラインはなく支持療法が中心で、本症例は12日目に精神状態が基線へ回復した。閲覧 2026-09-16
  4. 4.Aseptic Meningitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)非ポリオ・エンテロウイルス(エコーウイルス・コクサッキーウイルス)が無菌性髄膜炎の原因として最多で、特に小児では少なくとも50%を占める。原因薬剤としてNSAIDs、ST合剤を含む抗菌薬、モノクローナル抗体、免疫グロブリン静注療法(IVIG)が知られる。典型的な髄液所見は開放圧正常〜軽度上昇(<180 mmH2O)、リンパ球優位の細胞増多(0〜1000/µL)、蛋白正常〜軽度上昇(<200 mg/dL)、糖正常であり、好中球優位で培養陽性となる細菌性髄膜炎と対比できる。閲覧 2026-08-10