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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

レプトスピラ症

Leptospirosis

臓器系
感染症全身
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 2/31:レプトスピラ属微生物学 5/11:人獣共通感染症(一覧)とその予防
鑑別疾患
デング熱ほかアルボウイルス感染症ブルセラ症マラリア腸チフス発疹チフス
合併症
急性腎障害無菌性髄膜炎
治療薬
ドキシサイクリンペニシリンGセフトリアキソン
原因微生物
Leptospira interrogans
症状
発熱筋肉痛結膜充血黄疸

🧠 全体像は「曝露歴が唯一の入口」の疾患である。洪水・水害後の作業や避難、稲作、下水作業、汚染水でのレクリエーションといった曝露歴なしにこの病気を疑うことはまずない。菌の性状・の病態生理・の機序はLeptospira interrogansのノートに譲り、本稿は見逃されやすいと重症化の予測・治療の使い分けに重心を置く。⚠️ は特徴的だが見落とされやすく、⚠️ 型は致死率が特に高い

二相性の経過——見た目は「ただの風邪」

第1相(菌血症期)は3〜9日間続く非特異的な急性熱性疾患で、発熱・筋肉痛・頭痛にとどまることが多い。第2相(免疫期)ではIgM抗体が出現し尿中に菌が排出される。教科書的には両相の間に一過性のがあるとされるが、実際には明確に分かれず重なることも多い1大半はここで自然軽快する——この「軽症が大半、まれに」という非対称性がこの菌の核心であることはLeptospira interrogansのノートで扱った通り。

⚠️ は特徴的だが見落とされやすい。 発症3〜4日目に現れる、を伴わない両側性ので、通常の炎と誤認されると聴取されずに終わる。曝露歴のある発熱患者を診た際は、意識的にを確認しないと見逃す1

Weil病と肺出血型——重症化の受け皿

・黄疸・がそろった古典像をWeil症候群と呼ぶ。腎(による)・肝(肝炎・黄疸)に加え、・ぶどう膜炎・皮疹を来しうる。世界規模の推計では、は年間約103万例が発生し5万8,900人が死亡すると見積もられ、症例致死率は平均6.85%と算出されている2

⚠️ は近年重要な死因として認識されている。 血流に乗った菌が肺毛細血管を傷害して起こり、のなかでも生命を脅かす程度が特に高い1

治療とJarisch-Herxheimer反応

重症度 レジメン
軽症(外来) ドキシサイクリン100mg 1日2回、7日間1
重症(入院) 静注(150万単位を6時間毎)またはセフトリアキソン1g 1日2回、いずれも7日間1

⚠️ 抗菌薬開始後に(JHR)が起こりうる。 投与開始後6時間以内に生じる悪寒・戦慄・体温上昇・呼吸数増加を特徴とし、確定患者の21%で報告された(ニューカレドニア12%、フツナ44%と施設により異なった)3。⚠️ この21%はいずれもアモキシシリン投与を受けたコホートでの頻度であり、本稿が挙げるドキシサイクリン・・セフトリアキソンとは異なるレジメンでの報告である点に注意する。危険因子はL. interrogans Australis血清群感染と、症状出現から抗菌薬開始までが3日未満であることの2つだった3のような重症例でJHRが加わると全身状態がさらに悪化しうるため、抗菌薬投与後の急激な体温・呼吸状態の変化をJHRとして認識し、支持療法を強化する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fresh water'>淡水</span>・洪水曝露歴+発熱"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctival injection (hyperemia)'>結膜充血</span>の有無を意識的に確認"]
    B --> C{"黄疸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute kidney injury, AKI'>急性腎障害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic diathesis'>出血傾向</span>を伴うか"}
    C -->|"伴わない(軽症)"| D["外来でドキシサイクリン7日間"]
    C -->|"伴う(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Weil&#39;s disease'>Weil病</span>疑い)"| E["入院のうえ静注<span class='jp-term jp-term-diagram' title='benzylpenicillin'>ペニシリンG</span>またはセフトリアキソン"]
    D --> F["抗菌薬開始後6時間以内の<br>悪寒・発熱・呼吸数増加はJHRを疑う"]
    E --> F
    E --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary hemorrhage'>肺出血</span>の徴候はあるか"}
    G -->|"あり"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mechanical ventilation'>人工呼吸管理</span>を含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care'>集中治療</span>を急ぐ"]

見逃されやすい発熱としての鑑別

⚠️ 渡航・曝露歴を伴う発熱では、は他の「見逃されやすい発熱」と並べて鑑別する。 いずれも早期には非特異的で、曝露歴の聴取だけが診断の糸口になる1

疾患 曝露・媒介 手がかりとなる所見
動物尿で汚染された(洪水・水田・下水) の経過、(腎・肝・出血)
との直接接触、製品 ・脊椎炎)
マラリア による媒介、流行地渡航 48〜72時間ごとに反復する発作性の発熱、での原虫確認
による媒介、流行地渡航 血小板減少、(腹痛・持続嘔吐・
汚染された飲食物の経口摂取 状に上昇する持続熱、(約25%)
(難民キャンプ・刑務所など集団生活環境) 体幹から広がる発疹(手掌・足底は侵されない)

いずれもで曝露歴・渡航歴・動物接触歴・飲食歴を具体的に確認しなければ鑑別に浮上しない。詳しい各疾患の臨床像・治療は個別のノートを参照。

まとめ

  • ・動物尿曝露歴が診断の入口。の経過をとり、大半は非特異的な発熱で自然軽快する。
  • ⚠️ は発症3〜4日目に現れるだが、通常の炎と誤認され見落とされやすい。
  • 重症型は・黄疸・)で、型は近年重要な死因として認識される致死率の高い病型。
  • 治療は軽症でドキシサイクリン、重症では静注またはセフトリアキソン。抗菌薬開始後6時間以内の(約21%)に注意する。
  • 渡航・曝露関連の見逃されやすい発熱として、・マラリア・と並べて鑑別する。

出典

  1. 1.Leptospirosis: clinical aspects(Clinical Medicine(Royal College of Physicians)(Rajapakse S)・2022)レプトスピラ症が二相性の経過をとりうること——第1相(菌血症期・レプトスピラ血症期)は3〜9日間の非特異的な急性熱性疾患で、第2相(免疫期)ではIgM抗体が出現し尿中に菌が排出されること、両相の間に一過性の解熱がありうるが実際には重なることも多いこと(Clinical manifestations節)、結膜充血が発症3〜4日目に現れる特徴的所見であること、結膜充血・黄疸・急性腎障害がそろった古典像がWeil症候群と呼ばれること、肺出血が近年重要な死因として認識されていること、臨床像がデング熱・出血熱・リケッチア感染症・マラリア・細菌性敗血症など熱帯地域の他の熱性疾患と類似し鑑別が難しいこと(Clinical manifestations節)、軽症例はドキシサイクリン100mgを1日2回7日間、入院を要する例は静注ペニシリンG(150万単位を6時間毎)またはセフトリアキソン1g1日2回を7日間用いること(Management節)を確認した。なお全体の症例致死率6.85%はRajapakse自身の報告ではなくCosta et al. 2015の推計値を引用したものである(Clinical manifestations節)。閲覧 2026-08-12
  2. 2.Global Morbidity and Mortality of Leptospirosis: A Systematic Review(PLoS Neglected Tropical Diseases(Costa F, Hagan JE, Calcagno J, et al.)・2015)世界で年間103万例のレプトスピラ症が発生し、うち5万8,900人が死亡すると推計されること、症例致死率の平均が6.85%(95%信頼区間5.66-8.03)であったことをResults節で確認した。閲覧 2026-08-12
  3. 3.Jarisch–Herxheimer Reaction Among Patients with Leptospirosis: Incidence and Risk Factors(The American Journal of Tropical Medicine and Hygiene・2017)アモキシシリン投与を受けた確定レプトスピラ症患者262例を対象にJarisch-Herxheimer反応(JHR)を検討したこと(Methods節)、JHRが投与開始後6時間以内に生じる悪寒・戦慄・体温上昇(±血圧の変化)・呼吸数増加として定義されること(Methods節)、全体で21%(54/262例)にJHRが生じ、施設別ではニューカレドニア12%(23/191例)・フツナ44%(31/71例)だったこと(Results節)、*Leptospira interrogans* Australis血清群による感染と、症状発現から抗菌薬開始までの期間が3日未満であることの2つが独立した危険因子だったこと(Results節)を確認した。閲覧 2026-08-12