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Symptoms · Published

比較的徐脈

Relative bradycardia

別名
相対的徐脈Faget徴候relative bradycardia
臓器系
循環器感染症
科目
CardiologyInternal MedicinePhysiology
トピック
循環器内科 A-29:徐脈性不整脈内科学 L-46:感染性胃腸炎内科学 I-07:市中肺炎生理学 8.10:温度受容器。体温調節。皮膚循環の調節。
関連疾患
腸チフス

🧠 全体像は「脈が遅い」という所見ではなく、「この体温ならこれだけ上がるはずの脈が、上がっていない」という相対値のずれである。脈拍数そのものは正常範囲に収まっていることも多く、徐脈とは別の軸で評価する所見だと理解しておく必要がある。をはじめとする一部の感染症で古くから知られとも呼ばれるが、判定を狂わせるが多く、機序も自律神経・・病原体のが絡み合う複合的なものとして議論が続いている。

定義と用語の整理

  • 古典的にはとして知られ、体温38.3℃(101°F)を超える発熱では体温1℃上昇ごとに脈拍が8〜10/分増加するのが生理的な期待値とされる。この期待値からの乖離を・pulse-temperature deficit・と呼ぶ1
  • 意味のある判定には体温38.9℃(102°F)を超える発熱が必要とされる。それ以下では期待値との差が小さく、判定が不安定になる1
  • 単一のには統一されていない。 研究ごとに、では「高熱時にも脈拍<100/分」、では「体温39.4℃以上で脈拍≤100/分」、では「体温38.9℃以上で脈拍<110/分」など、疾患ごとに異なる固定や式が使われてきた。近年の系統的レビューでも、この定義の不統一がを妨げる最大の要因として指摘されている2
  • 判定できない除外条件を先に確認する。 β遮断薬・)・の内服、によるとしてのがあると、脈拍がそもそも発熱に応答できないためとして解釈できない1
  • 💡 徐脈が扱う「徐脈」は心拍数<60/分という絶対値の異常だが、は絶対値が正常範囲(例えば90/分)でも成立しうる。問うているのは「この体温なら頻脈が出るはずなのに出ていない」というギャップであり、両者は対象そのものが異なる。混同すると原因検索の的が外れる。

病態生理

の機序は確立していないが、次の経路が提唱されている(互いに排他的ではない)。

経路 想定される機序
(TNF-α・IL-1・IL-6など)がを高め、心拍数を抑制する方向に働く
病原体の 細胞内寄生菌や一部のウイルスがそのものへ作用し、の応答性を鈍らせる
電解質・ などの電解質異常が徐脈へ寄与し、評価をさらに複雑にする

発熱そのものは、(IL-1・IL-6・TNF-αなど)が視床下部のを引き上げることで生じる。通常この発熱にはの亢進が伴い頻脈が生じるが、ではこの頻脈応答が病原体側・宿主側双方の要因で減弱すると考えられている。ただしこの関連は理論の域を出ておらず、症例集積間で頻度が0%〜100%までばらつくことも機序が未確立であることを裏付ける12

が報告されてきた原因は、感染性とで性質が大きく異なる。

病原体群 代表疾患 特記事項
細菌 (最も一貫して報告される)、 は古典的な原因として教えられてきたが、系統的レビューでは関連を否定する報告もあり評価が割れる1
ウイルス ・クリミア=コンゴ出血熱など一部の いずれも強い炎症反応を伴うで報告される

の原因は、性質の異なる2つの筋に分けて考える。

⚠️ 見逃してはいけないもの

⚠️ の経過中に脈拍が低下してきたら、という枠組みで捉えない。 代償性の頻脈を維持できなくなり心停止が切迫している徴候の可能性があり、徐脈が扱うな徐脈として緊急対応する。

⚠️ を除外せずに「あり」と判定しない。 β遮断薬・Ca拮抗薬の内服、があれば、脈拍が発熱に反応できないだけであり、感染症を示唆する所見として扱わない。

⚠️ が無いことを感染症の除外根拠にしない。 感度は低く、多くの症例集積で半数以下にしか認められない。所見の陰性だけでを否定しない。

⚠️ を認めたら、ではなくを積極的に疑う。 ではまれで、の除外を優先する手がかりになる。見逃すとβ-ラクタム主体ので改善しない例を長引かせる。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["体温上昇に見合う頻脈が伴わない"] --> B{"β遮断薬・Ca拮抗薬内服、<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='paced rhythm'>ペースメーカー調律</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conduction disturbance'>伝導障害</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relative bradycardia'>比較的徐脈</span>として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indeterminate'>判定不能</span><br>薬剤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conduction disturbance'>伝導障害</span>の影響として扱う"]
    B -->|"なし"| D{"発熱そのものは真正か"}
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='factitious fever'>詐熱</span>を疑う所見あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='factitious fever'>詐熱</span>として評価<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='relative bradycardia'>比較的徐脈</span>の枠組みでは扱わない"]
    D -->|"真正"| F["渡航歴・動物曝露歴・<br>飲食物・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insect bite'>虫刺され</span>を確認"]
    F --> G{"呼吸器症状が主体か"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Legionellosis'>レジオネラ症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='psittacosis'>オウム病</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Q fever'>Q熱</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tularemia'>野兎病</span>を優先して検査"]
    G -->|"いいえ"| I{"消化器症状・便秘が主体か"}
    I -->|"はい"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Typhoid fever'>腸チフス</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paratyphoid'>パラチフス</span>を疑い<br>血液・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow culture'>骨髄培養</span>を提出"]
    I -->|"いいえ"| K["流行地渡航歴から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dengue fever'>デング熱</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='yellow fever'>黄熱</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Leptospirosis'>レプトスピラ症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Brucellosis'>ブルセラ症</span>を検討"]

では中南米・南アジア・アフリカへの渡航歴、・野生動物・との接触、生水・製品の摂取、マダニ・蚊による吸血の有無を確認する。呼吸器症状が主体ならの起因菌としてを優先し、消化器症状・持続する高熱という組み合わせならを疑い血液培養・を提出する。流行地からの渡航者では、を鑑別に加える。

対応の考え方

そのものは治療対象にならない。価値の本体は原疾患の診断を絞り込む手がかりであることに尽きる。

  • (薬剤・)を除外したうえで陽性であれば、原因検索の優先順位づけに利用する。
  • 陰性であっても除外根拠にはしない。感度が低いため、臨床的疑いが強ければ検査を進める。
  • そのものへなどで介入する必要はない。徐脈の対応の考え方が扱うな徐脈とは、対応の軸が根本的に異なる。

まとめ

  • は、発熱の程度に見合うはずの頻脈が伴わない所見で、・pulse-temperature deficitとも呼ばれる。
  • (38.3℃超で1℃ごとに8〜10/分の脈拍増加)が古典的な期待値だが、疾患ごとに異なる固定が使われ、統一された定義はない。
  • β遮断薬・Ca拮抗薬・の内服、があると判定できない。
  • 感染性の原因はで最も一貫して報告され、でも報告される。は評価が割れる。
  • には、薬剤性・という「発熱そのものが偽り」の筋と、という「真の発熱源による」筋がある。
  • 機序は・病原体のが提唱されるが確立していない。
  • 感度は低いため陰性所見だけで感染症を除外せず、での脈拍低下とも混同しない。
  • 所見自体は治療対象にならず、原疾患の鑑別を絞り込む手がかりとして使う。

出典

  1. 1.The Clinical Significance of Relative Bradycardia(Wisconsin Medical Journal (WMJ)・2018)体温38.3℃(101°F)を超える発熱では1℃上昇ごとに脈拍が8〜10/分増加するのが期待値(Liebermeister則)で、意味のある判定には38.9℃(102°F)超が必要なこと、判定は洞調律が前提でβ遮断薬・非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬・抗不整脈薬の内服やペースメーカー調律があれば除外すべきこと、腸チフス・レジオネラ症・オウム病・Q熱・野兎病・レプトスピラ症・デング熱・黄熱などで報告される一方でブルセラ症は否定的な報告があることを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Beyond slow pulse: Systematic review of relative bradycardia in clinical practice(World Journal of Advanced Research and Reviews (WJARR)・2026)比較的徐脈の定義は研究間で統一されておらず固定カットオフや年齢補正式など基準が試験ごとに異なること、機序として自律神経系・炎症性サイトカイン・病原体の心臓伝導系への直接作用が提唱されているが確立していないこと、β遮断薬・電解質異常・脱水・ショック・心筋障害が判定を修飾しうることを確認した閲覧 2026-08-03