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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

腸チフス

Typhoid fever

別名
Enteric feverSalmonella typhi infection
臓器系
感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 2/10:チフス菌とパラチフス菌A・B・C
鑑別疾患
レプトスピラ症赤痢
合併症
腹膜炎・消化管穿孔
関連疾患
コレラ細菌性急性胃腸炎
治療薬
アジスロマイシンセフトリアキソンシプロフロキサシンメロペネムクロラムフェニコール
原因微生物
Salmonella typhiSalmonella paratyphi A, B, C
症状
意識障害下痢倦怠感出血頭痛発熱腹痛便秘皮疹肝腫大脾腫比較的徐脈
検査値
グルーバー・ウィダール試験

🧠 全体像は「腸の病気」ではなく「腸から始まる」である。Salmonella typhi(または)はを介してわざと血流に侵入し、マクロファージの中に隠れて肝・脾・骨髄などへ拡散する。臨床経過は無症状の(潜伏期、〜2週)→発熱する(発症期、2週以降)という2段階の時間軸で理解するのが最も整理しやすい。診断は血液・便・、治療はの急速な拡大により経験的選択が刻々と変わる——フルオロキノロンはもはや経験的第一選択ではない。

病態と感染経路

S. typhiS. paratyphi A/B/Cは感染で伝播する腸内細菌科のグラム陰性桿菌で、と共通する(T3SS)を武器にへ侵入し、マクロファージ内で生存する。莢膜のを覆い隠して補体・抗体からの認識を妨げ、非サルモネラとの重要な鑑別点となる。ヒトをとし、無症候性のも重要な感染源になる。

flowchart TD
  A["経口摂取(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal-oral'>糞口</span>感染、汚染水・食品)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='M cell'>M細胞</span>を介して腸管マクロファージに貪食"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesenteric lymph node'>腸間膜リンパ節</span>→血流<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary bacteraemia'>一次菌血症</span>・無症状、感染後〜2週)"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic Kupffer cells'>肝クッパー細胞</span>・胆嚢・骨髄・脾で増殖"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary bacteraemia'>二次菌血症</span>として発症<br>(発熱・全身症状、2週以降)"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Peyer&#39;s patch'>パイエル板</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repopulate'>再定着</span>→潰瘍・穿孔"]
  F --> G["腸出血・腸穿孔(重症合併症)"]

臨床像

病期・所見 特徴
発熱 状に上昇する持続的な高熱(を伴うことがある)
消化器症状 便秘(成人に多い)または下痢(小児に多い)、腹痛、脾腫
胸腹部に出現する淡紅色の斑丘疹だが、患者の約25%のみにみられる
全身症状 感、頭痛、、意識障害(重症例)
骨髄炎 鎌状赤血球症患者ではS. typhiが骨髄炎の最多原因菌(通常は黄色ブドウ球菌が主因)
合併症 腸穿孔・腸出血(発症2〜3週で好発)、肝炎、髄膜炎、肺炎、関節炎
類似した「」を呈するが、一般により軽症

⚠️ 腸穿孔は無治療の主要な死因である。 が進む発症2〜3週目に好発し、として緊急手術を要することがある。

診断

検査 所見
血液培養 発症早期の感度が最も高く、診断の中心
抗菌薬投与後でも感度が高く、血液培養陰性例で有用
便培養 病期を通じて陽性になりうる
尿培養 感染2週目以降でないと陽性にならない
血清学的検査 )は補助的で、単独では確定診断にならない
flowchart TD
  A["持続する発熱+渡航歴・流行地曝露"] --> B["血液培養(できれば発熱早期に複数セット)"]
  B --> C["陽性:S. typhi/paratyphiを同定"]
  B --> D["陰性だが臨床的疑いが強い"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow culture'>骨髄培養</span>や便・尿培養を追加"]
  C --> F["感受性結果を確認しつつ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empiric therapy'>経験的治療</span>を開始"]
  E --> F

治療

の地理的分布がを左右するため、渡航歴の確認が不可欠である。

状況 推奨
パキスタン・イラクへの渡航歴、または渡航歴なし 非重症例にアジスロマイシン、重症例にを開始する1
その他の流行地からの帰国者 セフトリアキソンまたはアジスロマイシンとして妥当
感受性確認例 など)も選択肢になる

⚠️ 2016年以降パキスタンを中心に、アンピシリン・セフトリアキソン・に耐性だがアジスロマイシン・には感受性を保つXDR株が広がっている1。フルオロキノロンは南アジア由来株を中心に非感受性が拡大しており、感受性が確認された場合を除き経験的第一選択にはしない。

⚠️ 米国では2018年以降、これまで高感受性を保っていたアジスロマイシン・セフトリアキソンへの耐性も出現し始めている。が得られ次第、感受性結果に基づいて治療を見直す。

予防にはワクチンがある。WHOは・低年齢での使用可能性・より長い防御期間という利点からを全年齢で優先し、または菌の負担が高い国での導入を優先するよう推奨している。TCVは生後6か月から単回筋注で接種でき、(Ty21a、6歳以上に3服)や(2歳以上に単回接種)は流行地への渡航者などで代替として使われる2

まとめ

  • →マクロファージ経由で血流に侵入するで、無症状の(〜2週)と発熱する(2週以降)の2段階で進行する。
  • は約25%のみ、鎌状赤血球症患者での骨髄炎第1位が特徴的な臨床像で、腸穿孔・腸出血が主要な致死的合併症である。
  • 診断は血液・が中心で、尿培養は2週目以降でないと陽性化しない。
  • 治療は渡航歴に応じてアジスロマイシンまたはセフトリアキソンを経験的に用い、フルオロキノロンは感受性確認後に限る。パキスタン・イラク由来のXDR株にはアジスロマイシン・を用いる。

出典

  1. 1.Summary of the WHO Position Paper on Typhoid vaccines: WHO position paper – March 2018(World Health Organization (WHO)・2018)3種のワクチン(結合型ワクチンTCV、非結合Viポリサッカライドワクチン、生弱毒経口ワクチンTy21a)のうちTCVが免疫学的特性・低年齢での使用可能性・より長い防御期間から全年齢で優先されること、疾病負担または薬剤耐性菌の負担が高い国で導入を優先すべきこと、TCVは生後6か月から45歳までに単回筋注で接種することを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Extensively Drug-Resistant Salmonella Typhi Infections Among U.S. Residents Without International Travel — Health Alert Network Advisory(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2021)XDR チフス菌はアンピシリン・セフトリアキソン・クロラムフェニコール・シプロフロキサシン・ST合剤に耐性だがカルバペネム・アジスロマイシンに感受性を保つこと、渡航歴のない患者およびパキスタン・イラクへの渡航歴がある患者には経験的にカルバペネムまたはアジスロマイシン(重症例はカルバペネムを優先)を用いるべきこと、それ以外の流行地からの帰国者は感受性菌である可能性が高くセフトリアキソンを初期選択としてよいことを確認した閲覧 2026-08-03