微生物学

微生物学 · 2/31

レプトスピラ属

Leptospira genus

微生物
Leptospira interrogans
疾患
レプトスピラ症

🧠 Leptospiraは「水を介して感染する」唯一のスピロヘータとして読む。 Treponema属が性行為、Borrelia属が・マダニで伝播するのに対し、Leptospiraは動物の尿で汚染された水(水田・池)から皮膚の傷や粘膜を介して感染する人獣共通感染症である。ほとんどは自然軽快するの軽症感染だが、まれにという肝腎同時障害+の重症型に進む——この「軽症が大半、まれに」という非対称性がこの菌の核心。

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 スピロヘータの中で最も細い菌体。両端が鉤状に曲がった「」形態
検出法 グラム陰性だが細すぎて可視化できないため、で菌体を厚く見せて観察する
生息地 人獣共通感染症——24血清型があり、・イヌなど動物の腎尿細管に定着する

⚠️ 「24血清型」は血清型の総数ではない。 レプトスピラはの異なるが250以上知られている1。診断・疫学では個々の血清型を抗原の近さでまとめたの単位で扱うのが実務で、ここで「24」と数えているのはこの血清群の側のまとまりであって血清型そのものの数ではない。試験で「24」を問われうるので数字は残すが、何を数えた24なのかは押さえておく。

病原性因子

  • :動物はとなり、菌は腎尿細管に定着する
  • 伝播経路:動物の尿によって汚染された水(水田・池など)を介して感染リスクが上昇
  • :皮膚の外傷、粘膜、
  • 血行性に播種し、複数臓器に影響を及ぼす

臨床像:レプトスピラ症

大半は無症候性または軽症で自然軽快するが、の経過をとることがある(潜伏期1〜2週間)。

病期 期間 臨床像
第1相(急性期・) 3〜9日2 急激な発熱、筋肉痛、頭痛、悪心など。——発症3〜4日目に現れるで、発赤するがはない2
第2相 — 再度の急激な発熱。髄膜炎・中枢神経系症状がこの相の特徴

第1相で自然軽快することもあれば、第2相に進行することもある。

⚠️ ——重症型。 が保有するLeptospira icterohaemorrhagiaeが原因となることが多い。血流に乗った菌が諸臓器で増殖し、多臓器障害を起こす。

⚠️ icterohaemorrhagiae は菌種名ではなく血清型の名。 正確には*Leptospira interrogans* 血清型 Icterohaemorrhagiae(血清群 Icterohaemorrhagiae)であり、古い書き方の「L. icterohaemorrhagiae」は独立した菌種を指すものではない1。旧表記は文献に頻出するので読めるようにしておくが、菌種と血清型の階層が別物であることは意識する。なお・黄疸・がそろった古典像を Weil 症候群と呼び、は近年あらためて重要な死因として認識されている2。世界では年間約103万例が発生し5万8,900人が死亡、は平均6.85%(95%信頼区間5.66〜8.03)と推計される3。

障害臓器 病態
腎 による腎不全
肝 肝炎・黄疸(皮膚・の)
中枢神経系 (漿液性・)
眼 ぶどう膜炎
皮膚 発疹
肺 ——最も生命を脅かす症状
flowchart TD
  A["Leptospira感染<br>(動物尿で汚染された水・土壌)"] --> B["潜伏期1-2週間"]
  B --> C["第1相:急性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteremic phase'>菌血症期</span><br>発熱・筋肉痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctival injection (hyperemia)'>結膜充血</span>(3-9日)"]
  C --> D["自然軽快"]
  C --> E["第2相:髄膜炎・CNS症状"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Weil disease'>Weil病</span>(重症型)<br>腎不全+肝炎/黄疸+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary hemorrhage'>肺出血</span>"]

診断

方法 検体・時期 詳細
培養 血液・髄液(発症後10日以内)、尿(2〜3週:ヒトでは菌濃度が低いため) :好気性、28〜30℃で約2週間培養(が長い)
血清学 感染後2週以降の血清 +併用。24血清型に対応した抗体を検出
発症早期(前)の血液 がまだ検出可能な水準に達していない急性期に診断を確定できる。ただし資源の限られた地域では利用できない4

💡 検査は「時期で使い分ける」もので、どれか1つでは足りない。 分離培養は数か月かかることがありには寄与しない。による直接観察はに乏しく推奨されない。血清学(・)が実務の主軸だが、急性期にはまだ抗体が無いという原理的な限界がある——だからこそ発症早期は、後期は血清学、という組み合わせになる4。は血清型ごとの生菌抗原パネルを維持する必要があり、実施できるのは専門施設に限られる。

治療・予防

  • 治療:ペニシリン、doxycycline——軽症例はドキシサイクリン100mgを1日2回7日間、入院を要する例は静注(150万単位を6時間毎)またはセフトリアキソン1gを1日2回、いずれも7日間2

⚠️ 抗菌薬開始後にが起こりうる。 スピロヘータが一斉に崩壊して起こる反応で、投与開始後6時間以内の悪寒・戦慄・体温上昇(血圧の変化を伴うこともある)・呼吸数増加として現れる。確定262例の検討では21%(54例)に生じ、Leptospira interrogans Australis 血清群による感染と、発症から抗菌薬開始までが3日未満であることが独立した危険因子だった5。「治療を始めたのに悪化した」ときにと取り違えないための知識である。

  • 予防:
    • 高曝露が予想される場合はドキシサイクリンによる
    • 高リスク者へのワクチン接種
    • 汚染水を避け、動物の尿との接触を避ける(頻回の手洗い)

まとめ

  • Leptospiraはスピロヘータの中で最も細く、両端が鉤状の菌体を持つ。動物(・イヌなど)の腎尿細管に定着し、尿で汚染された水を介して皮膚・粘膜から感染する人獣共通感染症である。
  • 病像は:第1相(発熱・筋肉痛・)→自然軽快 or 第2相(髄膜炎・CNS症状)に進行しうる。
  • 重症型は:腎不全()+肝炎/黄疸+(最も致死的)を同時に起こす。
  • 診断は培養(、発育が遅い)と血清学(+)を組み合わせる。
  • 治療はペニシリン・ドキシサイクリン。ドキシサイクリンは曝露後のにも使える。

出典

  1. 1.Global distribution of Leptospira serovar isolations and detections from animal host species: A systematic review and online database(Tropical Medicine & International Health・2024)Leptospira が抗原性の異なる250を超える血清型(serovar)に分類されること、1927〜2022年の409報を系統的に検討して154血清型・144の動物宿主種のデータが得られたこと、最も多くの動物種から検出された血清型が Grippotyphosa(39種)、Icterohaemorrhagiae(29種)、Pomona(28種)、Australis(25種)、Ballum(25種)であったこと——すなわち icterohaemorrhagiae は独立した菌種名ではなく血清型の名であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Leptospirosis: clinical aspects(Clinical Medicine(Royal College of Physicians)(Rajapakse S)・2022)レプトスピラ症が二相性の経過をとりうること——第1相(菌血症期)は3〜9日間の非特異的な急性熱性疾患で、第2相(免疫期)ではIgM抗体が出現し尿中に菌が排出されること、両相の間に一過性の解熱がありうるが実際には重なることも多いこと、結膜充血が発症3〜4日目に現れる特徴的所見であること、結膜充血・黄疸・急性腎障害がそろった古典像がWeil症候群と呼ばれること、肺出血が近年重要な死因として認識されていること、軽症例はドキシサイクリン100mgを1日2回7日間、入院を要する例は静注ペニシリンG(150万単位を6時間毎)またはセフトリアキソン1gを1日2回7日間用いることを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Global Morbidity and Mortality of Leptospirosis: A Systematic Review(PLoS Neglected Tropical Diseases(Costa F, Hagan JE, Calcagno J, et al.)・2015)世界で年間103万例のレプトスピラ症が発生し、うち5万8,900人が死亡すると推計されること、症例致死率の平均が6.85%(95%信頼区間5.66〜8.03)であったことを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Laboratory diagnosis of leptospirosis: a challenge(Journal of Microbiology, Immunology and Infection・2013)暗視野顕微鏡によるレプトスピラの直接観察が信頼性に乏しく推奨されないこと、菌の分離培養は数か月かかることがあり早期診断には寄与しないこと、診断は通常 ELISA と顕微鏡下凝集試験(MAT)による血清学で行われるが、急性期には抗体がまだ産生されていないという限界があること、近年のリアルタイムPCRは抗体価が検出可能になる前の発症早期に診断を確定できるが資源の限られた地域では利用できないことを確認した。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Jarisch–Herxheimer Reaction Among Patients with Leptospirosis: Incidence and Risk Factors(The American Journal of Tropical Medicine and Hygiene・2017)確定レプトスピラ症患者262例(アモキシシリン投与)で Jarisch-Herxheimer 反応が全体の21%(54/262例)に生じたこと、同反応が抗菌薬開始後6時間以内の悪寒・戦慄・体温上昇(±血圧変化)・呼吸数増加として定義されること、Leptospira interrogans Australis 血清群による感染と発症から抗菌薬開始までが3日未満であることが独立した危険因子だったことを確認した。閲覧 2026-08-26