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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

クリプトコッカス症

Cryptococcosis

別名
クリプトコッカス髄膜炎クリプトコッカス脳髄膜炎
臓器系
感染症神経
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 4/9:クリプトコッカス・ネオフォルマンス、ニューモシスチス・イロベチイ(カリニ)
鑑別疾患
細菌性髄膜炎髄膜癌腫症
関連疾患
ニューモシスチス肺炎免疫再構築炎症症候群
治療薬
アンフォテリシンBフルシトシンフルコナゾール
原因微生物
Cryptococcus neoformansCryptococcus gattii
症状
呼吸困難項部硬直頭痛発熱
検査値
クリプトコッカス抗原検査
画像所見
シャボン玉様病変
原因となる疾患
HIV感染症・AIDS
禁忌薬
メチルプレドニゾロン

🧠 全体像Cryptococcus neoformansは、Pneumocystis jiroveciiと並ぶ「健常者ならまず発症しない病原体」であり、その発症自体が細胞性免疫の高度な障害——とりわけAIDS——を映す鏡になる。莢膜を持つ酵母という一風変わった形態が病原性の中心で、莢膜のせいでIndia ink染色で菌体周囲が状に抜けて見えるという診断上の特徴と、莢膜のせいで中枢神経系に親和性が高いという臨床上の特徴が、同じ莢膜という1つの構造から生まれる。

病原体

  • 全身性真菌症の病原体。莢膜を持つ酵母で、をする。
  • 二形性ではなく常に酵母形をとる点がHistoplasmaBlastomyces等の二形性真菌と異なる。
  • 莢膜は反復性の多糖莢膜抗原からなり、複数の血清型が存在し地理的分布が異なる。
  • 病原因子:莢膜(貪食からの回避、中枢神経系への親和性)、メラニン(酸化的ストレスからの防御)。
  • ⚠️ Cryptococcus neoformansCryptococcus gattiiは宿主が異なる。 C. neoformansは細胞性免疫の高度な障害(特にAIDS)を前提とする病原体だが、C. gattii免疫正常者にも発症し、環境リザーバーもハトの糞便ではなくユーカリなどの樹木である。C. gattiiは中枢神経系・肺に)を形成しやすく・切除を要することが多く、治療期間も長期化する傾向がある。「=免疫不全者の病気」という単純化はC. gattiiには当てはまらない。

感染経路と病態生理

  • ハト・キジバトの糞便に汚染された土壌に存在し、を含むの吸入により感染する。
  • 発症の主要な危険因子は細胞性免疫の障害、特にAIDS/HIV感染患者(CD4数<100/µLで髄膜炎リスクが顕著に上昇)。臓器移植後の免疫抑制、長期高用量ステロイドもリスク因子となる。
flowchart TD
  A["ハト糞便<span class='jp-term jp-term-diagram' title='geophilic'>汚染土壌</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aerosol'>エアロゾル</span>吸入"] --> B["肺への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary infection'>一次感染</span>"]
  B --> C{"宿主の細胞性免疫"}
  C -->|"正常"| D["無症状のまま自然治癒・潜伏"]
  C -->|"高度に障害<br>(AIDS・移植後等)"| E["急性肺感染<br>咳・呼吸困難"]
  E --> F["血行性に中枢神経系へ播種"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cryptococcal meningitis'>クリプトコッカス髄膜炎</span><br>(真菌性髄膜炎の最多原因)"]

臨床像:クリプトコッカス症

  • 急性肺感染:咳、呼吸困難などの肺感染症状。免疫正常者では無症状にとどまることが多い。
  • :肺から中枢神経系への播種によって起こる、真菌性髄膜炎の原因として最多の病型。
    • 亜急性の頭痛、発熱、認知変化が主体で、と異なりを欠くことが多い
    • 画像上、灰白質にや真菌を充満した嚢胞が見られることがある。
    • しばしば頭蓋内圧の著明な上昇を伴い、これ自体が視力障害・予後不良の原因となる。

⚠️ を欠くことが多く、亜急性の経過をたどるためより診断が遅れやすい。 免疫不全患者の亜急性頭痛・認知変化では、の急性像を基準に除外しないこと。

診断

検査 内容・所見
India ink(墨汁)染色 で採取した髄液を染色。莢膜のために菌体周囲に染まらない厚いが見える
検査等) 莢膜抗原を検出。血清・髄液いずれも高感度
髄液所見 の測定が必須(頭蓋内圧管理の判断に直結)
肺組織染色 または
生化学 ウレアーゼ陽性
培養 無添加を用いる(C. neoformans自体の発育も抑制するため)

治療

治療は導入・・維持の3相からなる。

    • 古典的レジメン: + 2週間投与
    • WHO 2022年版ガイドライン(HIV関連例)の第一選択:AMBITION-cm試験の結果を受け、単回高用量(10 mg/kg)+14日間(100 mg/kg/日を4分割)+(1200 mg/日)を、毒性が少なく現場実装しやすい標準治療として推奨している1が入手できない場合は、7日間、続けて7日間という代替レジメンを用いる。
  • 800 mg/日を8週間投与する1
  • 維持療法:200 mg/日を、CD4数200/µL超かつARTによるウイルス抑制が得られるまで継続する(WHO 2022年版の基準)1。⚠️ 米国のNIH/CDC/HIVMAガイドラインは異なる閾値を用いる。 抗真菌薬治療開始から少なくとも1年間の投与継続に加え、CD4数≥100/µLかつHIV RNAが検出感度未満または抑制された状態が3か月以上持続していることを維持療法中止のとしており、WHO基準(CD4数>200/µLのみ)より最低投与期間の要件が明示的で、CD4の閾値も低い2。どちらの基準で判断するかは施設のプロトコルに従う。
  • 頭蓋内圧管理:症候性の頭蓋内圧亢進には反復による髄液排除が治療の柱となる。1回の穿刺で髄液圧を20 cmH₂O未満またはの半分以下まで下げることを目標とし、改善しなければ一時的または恒久的なを検討する1
  • ART開始のタイミング:による急激な増悪を避けるため、抗真菌薬治療を開始した時点から4〜6週間はARTの開始を遅らせる(を含む導入レジメンなら4週間、による導入なら髄液の真菌クリアランスが遅いため4〜6週間)1起点はの「終了」ではなく「開始」である——導入は1〜2週で終わるので、ここを取り違えると実質1〜2週間よけいにARTを遅らせることになる。

⚠️ 補助的な副腎皮質ステロイドの投与はルーチンには推奨されない。 中のステロイド併用は転帰を改善せず有害事象を増やすことがで示されており、頭蓋内圧の管理としても第一に用いるべきではない——第一選択はあくまで反復である1

CrAgスクリーニング: CD4数100/µL未満のHIV感染者はART開始・再開前にスクリーニングを行い、陽性者には800〜1200 mg/日を2週間したうえで・維持療法へ移行する(CD4数200/µL未満でもスクリーニングを考慮してよい)3

も、CD4陽性Tリンパ球が高度に低下した患者に特異的に出現する感染であり、いずれも「AIDS指標疾患」——CD4数と結び付けて覚える。

まとめ

  • Cryptococcus neoformansは莢膜を持つ酵母(常に酵母形)で、ハト糞便からの吸入により感染する全身性真菌症の病原体。
  • 発症の主要な危険因子は細胞性免疫の高度な障害(AIDS/HIV感染が代表)で、肺から中枢神経系へ播種すると真菌性髄膜炎の最多原因であるを起こす。
  • 診断はIndia ink染色・検査が中心で、の測定が頭蓋内圧管理の判断に不可欠。CD4数100/µL未満のHIV感染者ではART開始前の血清CrAgスクリーニングが推奨される。
  • 治療は導入(古典的には2週間、WHO 2022年推奨では製剤単回高用量+14日間+)→800 mg/日8週間)→維持(200 mg/日をCD4数200/µL超・ウイルス抑制まで)の3相からなる。頭蓋内圧管理は反復が柱で、ステロイドはルーチンには推奨されない。
  • HIV関連例ではIRISを避けるため、ART開始を抗真菌薬治療の開始時点から4〜6週間遅らせる(終了時点からではない)。
  • Cryptococcus gattiiC. neoformansと異なり免疫正常者にも発症し、環境リザーバーもユーカリ等の樹木である点に注意する。
  • HIV感染症・AIDSの進行度を映す代表的な感染であり、CD4数と病期の管理が発症予防・治療タイミングの鍵となる。

出典

  1. 1.Recommendations on induction, consolidation and maintenance antifungal treatment regimens — Guidelines for Diagnosing, Preventing and Managing Cryptococcal Disease Among Adults, Adolescents and Children Living with HIV(World Health Organization・2022)導入療法はリポソーマルアンフォテリシンB単回高用量10mg/kg+フルシトシン14日間(100mg/kg/日を4分割)+フルコナゾール1200mg/日を第一選択とし(リポソーム製剤が入手できない場合はアンフォテリシンBデオキシコール酸塩+フルシトシン7日間、続けてフルコナゾール7日間)、地固め療法はフルコナゾール800mg/日を8週間、維持療法はフルコナゾール200mg/日をCD4数200/µL超かつARTによるウイルス抑制まで継続する。導入期の補助的ステロイド投与はルーチンには推奨されない。ART開始は「抗真菌薬治療の開始時点から(from the initiation of antifungal treatment)」4〜6週間遅らせる——アンフォテリシンB主体の導入レジメンなら4週間、フルコナゾール+フルシトシン主体なら4〜6週間で、いずれも起点は導入療法の終了時点ではない。反復腰椎穿刺では髄液圧を20cmH2O未満または初圧の半分以下まで下げる。閲覧 2026-08-04
  2. 2.Cryptococcal disease (2022) — WHO guidelines on the management of advanced HIV disease(World Health Organization・2022)CD4数100/µL未満のHIV感染者はART開始・再開前に血清クリプトコッカス抗原(CrAg)スクリーニングを行い、陽性者にはフルコナゾール800〜1200mg/日を2週間先制投与したうえで地固め・維持療法へ移行することを推奨する。CD4数200/µL未満でもスクリーニングを考慮してよい。閲覧 2026-08-04
  3. 3.Cryptococcosis — Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in Adults and Adolescents with HIV(NIH / CDC / HIVMA(Panel on Opportunistic Infections in Adults and Adolescents with HIV, clinicalinfo.hiv.gov)・2024)維持療法の中止基準(BII)は、抗真菌薬治療開始から少なくとも1年間の投与継続に加え、CD4数≥100/µLかつHIV RNAが検出感度未満または抑制された状態が3か月以上持続していることであり、WHO 2022年版のCD4数>200/µLという単一基準とは閾値・要件が異なることを確認した。閲覧 2026-08-07