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Microbe Atlas · 真菌

Cryptococcus gattii

分類
酵母 / YeastsCryptococcus
科目
Medical Microbiology
トピック
4/9: Cryptococcus neoformans, Pneumocystis jirovecii (carinii)
自然耐性薬
カスポファンギンミカファンギンアニデュラファンギン
原因となる疾患
クリプトコーマクリプトコッカス症

🧠 全体像:Cryptococcus gattiiはCryptococcus neoformansと形態・診断・治療の骨格を共有する近縁種だが、決定的に違うのは宿主である。C. neoformansが細胞性免疫の高度な障害(特に)を前提とするのに対し、C. gattiiは免疫正常者にも発症する——環境リザーバーもハトの糞便ではなくユーカリなどの樹木で、に熱帯・亜熱帯に多いとされてきたが、1999年以降のバンクーバー島を起点とする太平洋岸北(カナダ・米国オレゴン/ワシントン州)ので温帯地域にも生息域が広がっていることが明らかになった。

培養形態と免疫状態による病型の違い

形態・染色性・培養上の性質はCryptococcus neoformansと共通する——莢膜を持つ酵母で常にをとり(二形性ではない)、ウレアーゼ陽性、鳥の培地でメラニンを産生する。古典的な血清型分類ではC. neoformansが血清型A・D、C. gattiiが血清型B・Cに相当し、遺伝学的な差異から別種として扱われる。株の区別には分子型が用いられ、太平洋岸北のではVGIIaが優勢でVGIIb・VGIも見られた1。

⚠️ 分子型の違いは予後の違いとして観察されている。 ブリティッシュコロンビア州の届け出例では、の分子型がVGIIa 107例(86.3%)・VGIIb 9例・VGI 8例で、臨床像にはによる有意差がなかった。のうち死亡した15例の分子型はVGIIa 10例(66.7%)・VGIIb 4例(26.7%)・VGI 1例(6.7%)で、絶対数ではVGIIaが最多だが、他の2型を合わせたものと比べるとVGIIbによる感染が死亡と関連していた(p=0.002)。州内で優勢だったVGIIa株は他の株より重い病像や死亡をもたらすようには見えなかった1。

💡 「死亡例に多い型」と「死亡しやすい型」は別の問いである。 VGIIaはの8割超を占めるので、死亡例でも最多になるのは当然である。頻度で割ったときに残る差がVGIIbにあった——ただし症例数が少なく、死亡が年齢とのどちらに独立して関連するかは著者らも判定できないとしている1。「株だから毒性が強い」と短絡しない。

⭐ 同じ属でも宿主が違えば疫学が変わる好例。 C. neoformansは流行と結びついた「免疫不全の指標菌」として広まったが、C. gattiiは免疫正常のホストにも肺・中枢神経系の感染を起こしうる——「=免疫不全者の病気」という単純化がこの菌には当てはまらない。

病原性の仕組みと感染経路

  • 環境リザーバーはユーカリなどの樹木の樹皮・周辺の土壌——ハトの糞便に汚染された土壌を主な環境とするCryptococcus neoformansと対照的。
  • 感染経路は同様にの吸入で、ヒト-ヒト感染はない。
  • 免疫正常者にも肺・中枢神経系の感染を起こす点が最大の疫学的特徴。免疫不全者でも発症しうるが、C. neoformansほど発症がに偏らない。オーストラリア北部準州の22年コホート45例では、検査を受けた38例がいずれも陰性だった2
  • には熱帯・亜熱帯(オーストラリア、パプアニューギニアなど)のとされてきたが、1999年以降、カナダのバンクーバー島を起点に太平洋岸北(オレゴン州・ワシントン州)でが確認され、温帯地域にも生息域が拡大していることが分かっている。ブリティッシュコロンビア州は世界で最も多くのC. gattii感染者を報告している地域で、1999〜2007年の届け出は218例、平均年間は100万人あたり5.8だった1

起こす疾患

臨床像はCryptococcus neoformansによると同様、から中枢神経系への播種(髄膜炎・)まで幅がある。

⚠️ C. gattiiは中枢神経系や肺に()を形成しやすく、による神経症状や気道閉塞をきたして・切除が必要になることがC. neoformansより多い。 免疫正常者での発症であるためスクリーニングに頼れず、診断が遅れやすい点にも注意する。

⭐ 「肺の塊」として現れるのが基本形である。 ブリティッシュコロンビア州の届け出例では受診者の76.6%が呼吸器症状を、75.4%がを呈した1。オーストラリアのコホートでは肺と中枢神経系の多発病変が45例中20例(44%)にみられ、12か月以内の死亡は9例(20%)だった2。免疫正常者に生じた肺の腫瘤影を悪性腫瘍と決めつけないことが、この菌の最も実践的な教訓になる。

診断

診断手順はCryptococcus neoformansと同じ——による()の測定、、莢膜抗原検査(。C. gattii特異的な株では偽陰性の報告もあり注意)、無添加のでの培養。免疫正常者で原因不明のや中枢神経系症状をみた場合、陰性であることを理由にを除外してはならない。

⚠️ ・水頭症については画像による診断と経過観察をC. neoformansより手厚く行う必要がある。 米国感染症学会の2010年版指針はこれを明示し、そのうえで自体はC. neoformansと同じだとしている3。「別の菌だから別の診療をする」のではなく、同じ枠組みのなかで画像のフォローを密にするという読み方が正しい。

治療と予防

⚠️ 薬剤のレジメンはC. neoformansと同じである。 米国感染症学会の2010年版指針は、中枢神経系および播種性のC. gattii感染について導入・・をC. neoformansと同じとし(A-II)、も同じ扱いとしている3。つまり骨格は+の、続くの・維持療法で、菌種によって薬を変えるわけではない。違いが出るのは病変の形()への対処と、そこから生じる治療期間・外科介入である。

病変 指針が挙げる治療
単発・小型の 400 mg/日(B-III)3
非常に大きい・多発する +を4〜6週間、続いてを6〜18か月(手術の有無による)(B-III)3
脳 系(0.7〜1 mg/kg/日、3〜4 mg/kg/日、または5 mg/kg/日)+100 mg/kg/日を4分割経口、最低6週間(B-III)。・維持は400〜800 mg/日を6〜18か月(B-III)。と周囲浮腫には副腎皮質ステロイドを併用(B-III)3
  • 手術を検討する条件:肺では①重要臓器の圧迫、②4週間の治療でが縮小しない、③全身状態不良のいずれか(B-III)。中枢神経系では径3 cm以上で到達可能なを伴う病変にまたはによる減量・摘出(B-II)3
  • 治療は長期に及ぶ。 オーストラリア北部準州の22年コホートでは抗真菌薬の投与期間の中央値が425日(166〜715日)だった2。
  • 同コホートでは25例のうち10例が肺部分切除またはを受け(手術例の最大径中央値6 cm、非手術例2.8 cm)、手術例10例中9例(90%)が治癒したのに対し非手術例は10/15例(67%)だった2。⚠️ ただし手術例の7例に気胸・出血・などの合併症が生じ1例が術後に死亡しており、非手術群にはが高い虚弱な患者が寄せられていたため両群は直接比較できない——著者自身がこの研究の証拠の水準は低いと明記している2
  • 頭蓋内圧管理の重要性はC. neoformansと変わらない。

⚠️ は無効。 合成を阻害する(・・)はCryptococcus属には種を問わず効かない——Cryptococcus neoformansと共通する重要な対比点。💡 ただし「標的のが少ないから」ではない。近縁のC. neoformansから取り出したはでに非常によく阻害される(見かけのKi 0.17 µM)のに、生きた菌体のは16 µg/mLと高く、耐性は標的酵素以外の機序によるとされている4。

まとめ

  • 形態・染色・培養上の性質はCryptococcus neoformansと共通(莢膜を持つ酵母、常に、ウレアーゼ陽性、メラニン産生)。血清型B・Cに相当する近縁種。
  • 最大の違いは宿主——C. neoformansと異なり免疫正常者にも発症する。オーストラリアのコホートでは検査を受けた38例が全員陰性だった2。
  • 環境リザーバーはユーカリなどの樹木。に熱帯・亜熱帯の病原体だが、1999年以降の太平洋岸北で温帯地域にも生息域が拡大。ブリティッシュコロンビア州の1999〜2007年の届け出は218例、年間100万人あたり5.8で、受診者の75.4%がを呈した1。
  • 中枢神経系・肺に()を形成しやすく、外科的介入を要することがC. neoformansより多い。
  • 薬剤のレジメンはC. neoformansと同じ(導入:+→:)で、指針が違いとして挙げるのは画像でのフォローを手厚くすること、への外科的介入、治療期間の長さである3。が無効な点も共通する。

出典

  1. 1.Epidemiology of Cryptococcus gattii, British Columbia, Canada, 1999-2007(Emerging Infectious Diseases(Galanis E, MacDougall L, Kidd S, Morshed M)・2010)抄録(Europe PMC の resultType=core)に加え、PMC の版(PMC2958008、Wayback Machine の保存版を curl で取得、2026-09-27)で本文も確認した。カナダのブリティッシュコロンビア州が世界で最も多くの *Cryptococcus gattii* 感染者を報告している地域であること、1999〜2007年に218例が届け出られ平均年間発生率が100万人あたり5.8であったこと、受診者の76.6%が呼吸器症状を、75.4%が肺クリプトコーマを呈したこと、HIV/AIDS を持たない入院例は HIV/AIDS を持つ例より高齢で肺クリプトコッカス症での入院が多かったこと、死亡した19例(8.7%)は高齢・中枢神経系病変・VGIIb 株による感染に偏っていたこと、州内で優勢な VGIIa 株は他の株より重い病像や死亡をもたらすようには見えなかったことを確認した。本文では分子型の内訳が確定例のうち VGIIa 107例(86.3%)・VGIIb 9例・VGI 8例で臨床像は遺伝型で有意差がなかったこと、死亡例の分子型は VGIIa 10例(66.7%)・VGIIb 4例(26.7%)・VGI 1例(6.7%)で、絶対数では VGIIa が最多だが他の2型を合わせたものと比べると VGIIb による感染が死亡と関連していた(p=0.002)こと、症例数が少ないため死亡が年齢と遺伝型のどちらに独立して関連するかは判定できないと著者らが述べていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Epidemiology, management and outcomes of Cryptococcus gattii infections: A 22-year cohort(PLOS Neglected Tropical Diseases(O'Hern J, et al.)・2023)抄録と、Consensus の全文抜粋(考察および肺病変の管理を述べた節)で確認した。オーストラリア北部準州の紹介病院で1996〜2018年に扱った *C. gattii* 感染45例のうち44例が先住民で、HIV 検査を受けた38例はいずれも陰性だったこと、肺と中枢神経系の多発病変が20/45例(44%)にみられたこと、9例(20%)が診断から12か月以内に死亡し5例が *C. gattii* に直接帰属されたこと、抗真菌薬治療期間の中央値が425日(四分位範囲166〜715日)と長期に及んだこと、肺クリプトコーマ25例のうち10例が肺部分切除または肺葉切除を受け、手術例の最大径中央値が6 cm(範囲2.2〜10 cm)・非手術例が2.8 cm(1.2〜9 cm)であったこと、手術例10例中9例(90%)が治癒し非手術例は10/15例(67%)だったこと、手術例の7例に気胸・出血・膿胸などの合併症が生じ1例が術後に死亡したこと、著者らが径2〜3 cmを超える肺クリプトコーマには手術を検討するよう提案しつつ本研究の証拠の水準は低いと明記していること、著者らが IDSA の推奨(重要臓器の圧迫または4週間の治療で縮小しないこと)には初期の腫瘤径への言及が無いと指摘していること、フルコナゾールMICが高い株にボリコナゾールを用いる例が後年に増えたが毒性で使用が制限されたことを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Clinical Practice Guidelines for the Management of Cryptococcal Disease: 2010 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America・2010)発行元と DOI 先がいずれも bot 判定で読めなかったため、Consensus の全文抜粋で推奨本文の逐語を取得して確認した。推奨82が「For CNS and disseminated disease due to C. gattii, induction, consolidation, and suppressive treatment are the same as for C. neoformans (A-II).」と述べ、**中枢神経系・播種性のC. gattii感染の導入・地固め・抑制療法をC. neoformansと同じ**とすること、推奨83が「More diagnostic focus by radiology and follow-up examinations are needed for cryptococcomas/hydrocephalus due to C. gattii than that due to C. neoformans, but the management principles are the same (B-II).」と述べ、**クリプトコーマ・水頭症については画像診断と経過観察をC. neoformansより手厚く行う必要があるが管理原則は同じ**とすること、推奨84が肺クリプトコッカス症をC. neoformansと同じ扱いとし単発小型のクリプトコーマにフルコナゾール400 mg/日、非常に大きいものや多発するものにアンフォテリシンBデオキシコール酸塩+フルシトシン4〜6週間に続くフルコナゾール6〜18か月(手術の有無による)を挙げること(B-III)、推奨85が重要臓器の圧迫・治療4週間でクリプトコーマが縮小しない・全身状態不良のいずれかで手術を検討するとすること(B-III)、脳クリプトコーマの推奨51が導入療法をアンフォテリシンBデオキシコール酸塩0.7〜1 mg/kg/日・リポソームアンフォテリシンB 3〜4 mg/kg/日・アンフォテリシンB脂質複合体5 mg/kg/日のいずれかにフルシトシン100 mg/kg/日(4分割経口)を併用して最低6週間(B-III)、推奨52が地固め・維持療法をフルコナゾール400〜800 mg/日で6〜18か月(B-III)、推奨53が補助療法として腫瘤効果と周囲浮腫への副腎皮質ステロイド(B-III)と、径3 cm以上で到達可能な腫瘤効果を伴う病変への開頭または定位手術による減量・摘出(B-II)を挙げ、IRISで説明できない病変の増大は組織診断へ回すとすることを確認した。抜粋は検索式に関係する部分に限られるため、文書全体を読んだわけではない。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Cryptococcus neoformans resistance to echinocandins: (1,3)beta-glucan synthase activity is sensitive to echinocandins(Antimicrobial Agents and Chemotherapy・2005)抄録(Crossref)で、Cryptococcus neoformansの(1,3)β-グルカン合成酵素活性は試験管内でカスポファンギンに非常に感受性が高い(見かけのKi値0.17±0.02 µM)一方、菌体のカスポファンギンMICは16 µg/mLと高く、C. neoformansのエキノキャンディン耐性は(1,3)β-グルカン合成酵素の耐性とは無関係の機序によると結論していることを確認した(著者はMaligie MA, Selitrennikoff CP。C. gattiiそのものは調べていない)閲覧 2026-09-27