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Microbe Atlas · 真菌

Cryptococcus neoformans

分類
酵母 / YeastsCryptococcus
科目
Medical Microbiology
トピック
4/9: Cryptococcus neoformans, Pneumocystis jirovecii (carinii)5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention5/22: Pathogens of viral and fungal meningitis and encephalitis (list)
自然耐性薬
カスポファンギンミカファンギンアニデュラファンギン
原因となる疾患
HIV感染症・AIDSクリプトコッカス症免疫再構築炎症症候群
作用する薬剤
アンフォテリシンBフルコナゾールフルシトシン

🧠 全体像Cryptococcus neoformansは「莢膜」と「宿主の免疫状態」の2語で読む菌である。ハトの糞便に汚染された土壌から吸入され、細胞性免疫が高度に障害された宿主(特にAIDS、CD4陽性Tリンパ球数100/µL未満)でのみ本格的に牙をむく病原体で、が貪食からの回避と血液脳関門突破の両方を担う。真菌性髄膜炎の原因として世界で最も頻度が高く、治療の成否は抗真菌薬の選択と同じくらい頭蓋内圧の管理に左右される——薬だけでは救えない菌である。

培養形態と免疫状態による病型の違い

  • 莢膜を持つ酵母——Candida albicansのような二形性ではなく、環境中でも組織内でも常に酵母形をとる。不均等な出芽(narrow-based budding)を示す。
  • 莢膜はとする多糖体で、繰り返し構造を持つ。この莢膜の有無・厚さが病原性そのものを左右する最大の因子になる。
  • ウレアーゼ陽性
  • を持ち、カテコールアミン類縁化合物からメラニンを合成できる——鳥の(ナイジャー)寒天培地上で褐色〜黒色のコロニーを呈することが、他の酵母との簡便な鑑別点になる。
  • 血清型によりC. neoformans(血清型A・D、世界中に分布)と近縁種のCryptococcus gattii(血清型B・C)に分けられる——両者の違いはCryptococcus gattiiのノートを参照。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["ハト・キジバトの糞便に汚染された土壌"] --> B["脱水した酵母細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basidiospore'>担子胞子</span>の吸入"]
    B --> C["一次肺感染<br>(免疫正常者では無症候〜軽微な肺炎で終わることが多い)"]
    C --> D{"細胞性免疫は保たれているか"}
    D -->|"保たれている<br>(免疫正常者)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulation'>肉芽</span>腫内に封じ込め<br>無症候のまま<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resolution'>終息</span>"]
    D -->|"高度に障害<br>(AIDS・CD4<100、移植後、高用量ステロイド)"| F["莢膜が貪食・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complement activation'>補体活性化</span>を回避"]
    F --> G["血行性に中枢神経系へ播種"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cryptococcal meningitis'>クリプトコッカス髄膜炎</span>(脳炎)<br>灰白質の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='soap-bubble lesion'>シャボン玉様病変</span>"]

💡 なぜこの菌だけがここまで中枢神経系に選択的に向かうのか。 に加え、が作るメラニンが酸化的な殺菌機構から菌体を守る。さらに中枢神経系は(抗体・補体)の働きが乏しい「」であるため、細胞性免疫が高度に障害された宿主では他の臓器以上に安全な増殖の場になる——結果として肺から中枢神経系への播種が起こりやすく、真菌性髄膜炎の原因として世界で最も頻度が高い菌になる。

⚠️ 頭蓋内圧の上昇そのものが致死的因子になる。 が髄液腔に大量に蓄積するとでのCSF吸収を障害し、抗真菌薬が病原体を制圧していても頭蓋内圧だけが上昇し続けることがある——これが治療において「薬の選択」と並んで「頭蓋内圧管理」が独立した柱になる理由である。

感染経路と疫学

  • ハト・キジバトの糞便に汚染された土壌が主要な環境リザーバー。菌自体は鳥に病気を起こさない(鳥の体温が高すぎて増殖できない)ため、鳥は単なる運び屋にとどまる。
  • 感染経路はの吸入——ヒト-ヒト感染はない。
  • 発症の主要な危険因子は細胞性免疫の障害、特にAIDS/HIV感染患者(CD4陽性Tリンパ球数100/µL未満)。その他、臓器移植後、リンパ腫、高用量ステロイドの長期使用も危険因子になる。

起こす疾患

病型 特徴
免疫正常者では無症候〜軽微な結節性病変にとどまることが多い。免疫不全者では咳・呼吸困難を伴う重篤な肺炎になりうる
肺から中枢神経系への播種で発症。真菌性髄膜炎の原因として最多。亜急性の頭痛・発熱・意識変容。画像上、大脳基底核の灰白質に「」を認めることがある
播種性 皮膚(に似た丘疹)、骨、前立腺(の温床になりうる)への播種

診断

  • による髄液採取が第一歩——開頭圧()の測定自体がを左右するため、単なる検体採取に終わらせない。
  • India ink(墨汁)染色:髄液を染色すると、莢膜のために菌体周囲に染まらない厚いが観察される。ただし感度はHIV患者でも50〜80%程度にとどまる。
  • 検査(CrAg)抗原を血清・髄液から検出する。India ink染色より高感度・高特異度で、現在の診断の中心。WHOはCD4<100のHIV患者への血清CrAgスクリーニングを推奨している(発症前に検出しにつなげる)。
  • 肺組織:または
  • ウレアーゼ陽性、鳥の培地でのメラニン産生(褐色コロニー)も同定の補助になる。
  • 培養:無添加を用いる——通常の真菌に含まれるCryptococcus自体の発育も抑制してしまうため。

治療と予防

病期 治療
古典的レジメン: + 2週間。WHO 2022年版ガイドライン(HIV関連例)は、AMBITION-cm試験の結果を受け単回高用量(10 mg/kg)+14日間+を毒性が少なく現場実装しやすい標準治療として推奨
8週間
維持療法(HIV患者) 低用量をART併用下でCD4>100/µLが3か月以上持続するまで継続

⚠️ は無効。 β-1,3-合成を阻害する)は、構成比が低くキチンが多いCryptococcusの細胞壁には作用しない——Candida属やAspergillus fumigatusには有効でもCryptococcusには無効という、抗真菌薬の作用機序を理解するうえで重要な対比になる。

⚠️ 頭蓋内圧管理が抗真菌薬治療と並ぶ独立した治療の柱。 開頭圧が高い場合は連日ので頭蓋内圧を20 cmH₂O未満またはの半分以下まで下げ、改善しなければ一時的または恒久的なを検討する——これを怠ると抗真菌薬がしていても頭蓋内圧亢進で死亡することがある。

⚠️ HIV患者ではART開始のタイミングに注意する。 抗真菌薬治療を開始してすぐにARTを始めると、により病態が急激に悪化することがあるため、通常は抗真菌薬開始から4〜6週間ARTの開始を遅らせる。

  • 予防:資源の限られた高負担地域では、CD4<100のHIV患者に対する血清CrAgスクリーニングと陽性者への先制投与が推奨されている。

まとめ

  • 莢膜を持つ酵母で、常に酵母形をとる(二形性ではない)。ウレアーゼ陽性、鳥の培地でメラニン産生(褐色コロニー)。
  • ハト・キジバトの糞便に汚染された土壌からの吸入で感染し、細胞性免疫の高度な障害(特にAIDS、CD4<100)が発症の主要な危険因子。
  • 真菌性髄膜炎の原因として世界最多。診断はが中心で、India ink染色より高感度。
  • (古典的2週間、またはWHO推奨の単回高用量製剤+14日+)、続いて8週間の、維持療法へ。
  • は無効(細胞壁の構成比が低い)——Aspergillus fumigatusには効くのと対照的。
  • 頭蓋内圧管理(連日・シャント術)が抗真菌薬治療と並ぶ独立した治療の柱で、これを怠ると予後を悪化させる。
  • HIV患者ではART開始を抗真菌薬から4〜6週間遅らせ、IRISを避ける。