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Microbe Atlas · 真菌

Aspergillus fumigatus

分類
アスペルギルス / AspergillusAspergillus
科目
Medical Microbiology
トピック
4/10: Zygo- (phyco-) mycoses. Aspergillus species and Penicillium genus
自然耐性薬
フルコナゾール
原因となる疾患
アスペルギルス症眼窩尖端症候群急性骨髄性白血病原発性免疫不全症候群(重症複合免疫不全症・ディジョージ症候群・X連鎖無ガンマグロブリン血症・慢性肉芽腫症・選択的IgA欠損症)高IgE症候群脳膿瘍
作用する薬剤
アンフォテリシンBイサブコナゾニウムイトラコナゾールカスポファンギンポサコナゾールボリコナゾール

🧠 全体像:Aspergillus fumigatusは空気中にありふれたのカビであり、菌そのものの毒性ではなく宿主の免疫状態が病型を丸ごと決めるという点が最大の特徴である。喘息のアレルギー体質があれば気道内に定着するだけでIgE介在の過敏反応()、肺に既存の空洞があればそこに居座るだけの()、そして好中球減少・移植後などの高度免疫不全があれば血管そのものに侵入して全身へ播種する——同じ菌が3つのまったく違う病気の顔を持つ。のは現在であり、同じでもはこの菌に無効という対比が抗真菌薬全体を理解する起点になる。

微生物学的な特徴

  • 糸状菌(カビ)で、幅3〜5 μmの細い隔壁のある菌糸が規則的に二分岐する(古典的には約45度の鋭角でV字型)のが特徴1。空気に触れる部分ではの先にを形成する。
  • 。
  • 好気性で37℃でも十分に増殖できるを持つため、環境から吸入されてもヒト体内で生存・増殖できる。
  • 培養では青緑色〜緑色のコロニーを形成する(A. flavusの、A. nigerの黒色と対比される。同属3菌種の比較はAspergillus flavus・Aspergillus nigerを参照)。

⭐ 菌糸の太さ・隔壁・分岐の規則性で、どちらのかの見当をつける。 (Mucor、Rhizopus oryzaeなど)は幅6〜16 μmと太く、隔壁が無いか乏しいで不規則に分岐するのに対し、Aspergillusは幅3〜5 μmと細く、規則的な隔壁と二分岐を持つ。古典的な「直角対45度」の分岐角は組織内では圧や標本作製の影響で見分けにくく、菌糸の太さと不規則な分岐のほうが当てになる。それでも形態だけでの鑑別精度を示したデータは無く、組織形態ので最も多いのはをAspergillusと取り違えることなので、培養または分子学的手法で確認する1。この区別は薬剤選択に直結する——には効かない。

項目 (Mucor・Rhizopus) Aspergillus属
菌糸の幅 6〜16 μm・ 3〜5 μm
隔壁 無いか乏しい 規則的にあり
分岐 不規則(古典的には直角に近いとされる) 規則的な二分岐(古典的には約45度の鋭角)
代表的な重症病型

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Aspergillus fumigatus 分生子の吸入"] --> B{"宿主の状態"}
    B -->|"喘息・嚢胞性線維症の<br>アレルギー素因"| C["気管支腔内への定着<br>組織侵入なし"]
    C --> D["IgE介在I型過敏反応<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='allergic bronchopulmonary aspergillosis (ABPA)'>アレルギー性気管支肺アスペルギルス症</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='allergic bronchopulmonary aspergillosis'>ABPA</span>)"]
    B -->|"結核後空洞など<br>既存の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary cavity'>肺空洞</span>"| E["空洞内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='saprophytic'>腐生的</span>に増殖"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aspergilloma'>アスペルギローマ</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aspergilloma/mycetoma'>菌球</span>)"]
    B -->|"好中球減少・移植後<br>高度<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell-mediated immunodeficiency'>細胞性免疫不全</span>"| G["血管壁への浸潤"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='invasive aspergillosis'>侵襲性アスペルギルス症</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary infarction'>肺梗塞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic dissemination'>全身播種</span>"]

⚠️ こそがを最重症たらしめる。 菌糸が肺血管壁を突き破って侵入すると、局所では(で結節周囲の=)を、好中球が回復してくるには壊死巣が分離しての()を残す。血流に乗って播種すれば脳の、副鼻腔の壊死、心内膜炎、腎不全にまで至る——同じ菌でも組織に侵入するかどうかが致死率を決める。

💡 なぜ好中球減少症でこの菌だけが牙をむくのか。 Aspergillusはであるため、好中球が産生する(オキシダーゼ経由)による殺菌を部分的に免れる性質を持つ——の化学療法後など好中球そのものが減少した状態では、この耐性がなくても菌を排除する「担い手」自体が不在になり、侵襲性感染へ一直線に進む。

感染経路と疫学

  • 空気中・土壌・腐敗有機物、エアコンのダクトや建設現場の中に遍在する分生子の吸入で感染が成立する。ヒト-ヒト感染はない。
  • 高リスク群:好中球減少症(などの化学療法後)、・臓器移植後、長期高用量ステロイド使用、などの
  • は・嚢胞性線維症患者に、は結核やKlebsiella感染の後などに残った既存のを持つ患者に起こる。
  • 病院内では改装工事・空調系の飛散がの原因になることがあり、移植病棟ではHEPAによる空気清浄が標準的なとなる。

起こす疾患

同じ菌が「組織侵入の有無」と「の強さ」によって性格の異なる病型を作る(詳細はを参照)。

病型 組織侵入 典型的な宿主 特記事項
() なし ・嚢胞性線維症 IgE高値、喘鳴・発熱、
() なし(空洞内で増殖) 結核・Klebsiella感染後などの既存の 無症状のことが多いが喀血をきたしうる
あり(血管侵襲) 好中球減少・移植後などの高度免疫不全 最重症・致死的。・

診断

  • 標本・:細く規則的に二分岐する隔壁菌糸。形態だけでは確定できないので培養・分子学的手法で確かめる
  • 血清・:で高い診断価値を持つ
  • (1→3)-:の検出だがCandidaなどでも陽性になるため菌種特異的ではない
  • 胸部X線・:(早期)、()、既存空洞内の可動性腫瘤影()
  • 培養・:確定診断だが結果を待つ間に治療開始を遅らせない
  • ⚠️ 喀痰・気道からの培養陽性は「定着」でありうる。 免疫正常者の気道にはAspergillusが定着していることがあり、画像所見・宿主のリスク因子(好中球減少の有無)と統合して初めて侵襲性感染と判断できる——逆に好中球減少患者での陽性は臨床的重みが大きい。

治療と予防

病型 治療
一次治療は(強い推奨・高品質のエビデンス)。強く疑った段階で、診断の検査と並行して開始する。代替はのと(いずれも強い推奨・中等度のエビデンス)で、はもはや第一選択ではない2
急性期(新規診断・増悪)は経口(低〜中等量を4か月で終了)または(4か月)のどちらか単剤で始め、両者の併用を第一選択にしない(に2週間未満の短期ステロイドを添えるのは可)。併用は再発性の増悪(1〜2年に2回以上)に用いる。ステロイドが禁忌ならで始める。無症状なら全身治療をしない3
単発で無症状、6〜24か月で空洞が拡大しなければ経過観察を続ける。有症状、とくに有意な喀血があれば禁忌が無い限り切除する2

⚠️ 耐性A. fumigatusが世界的に広がっている。 治療中に耐性が生じることもあるが、主な経路は環境である——農作物保護などに使われる殺菌剤に環境中の菌がさらされ、cyp51A遺伝子の変異(TR34/L98Hなど)を持つ耐性株が選ばれる。そのため耐性感染患者の3分の2はの治療歴が無く、耐性のの死亡率は50〜100%と報告されている。耐性が示されたら、か、への追加へ切り替える4。

⚠️ はAspergillusに無効。 の中でもはAspergillusのCYP51へのが弱く、臨床的に意味のある濃度で阻害できない——を疑う場面でをに選ぶのは誤りであり、抗真菌薬全体で最も問われる対比の一つ。

⭐ (等)はAspergillusには有効だがCryptococcusには無効という、逆方向の対比も押さえておく。 Aspergillusにはに働き・併用療法として使われる一方、には効かない。💡 ただし「Cryptococcusには標的のが少ないから」という説明は誤りである。C. neoformansから取り出したはでに非常によく阻害される(見かけのKi 0.17 µM)のに、生きた菌体のは16 µg/mLと高く、耐性は標的酵素以外の機序によるとされている5。

  • 高リスクの遷延性好中球減少では(、も可)による予防投与が推奨され、を伴う高リスクの後も予防の対象になる2。
  • 病棟レベルの予防はHEPAによる空気清浄と改装工事中の曝露対策が中心。ワクチンはない。

まとめ

  • 環境に遍在するのカビで、細く(3〜5 μm)規則的な隔壁と二分岐を持つ菌糸とが同定の手がかり。太く隔壁の乏しいとの鑑別がので、分岐角だけに頼らず培養・分子学的手法で確かめる。
  • 宿主の免疫状態だけで病型が変わる:アレルギー素因→()、既存空洞→()、高度免疫不全(好中球減少・移植後)→(血管侵襲)。
  • は所見(→)と血清で診断し、一次治療は(・は代替)。環境由来のが広がっている。
  • の急性期はかの単剤で治療し、併用は再発性の増悪に用いる。
  • は無効——の中でこの菌にだけが弱いという明確な弱点。
  • はAspergillusには効くがCryptococcusには無効という、細胞壁構成の違いに基づく逆方向の対比が試験・臨床の両方で頻出。
  • 菌は好中球のオキシダーゼ依存性の殺菌を免れやすく、好中球減少症で選択的に牙をむく。

出典

  1. 1.Global guideline for the diagnosis and management of mucormycosis: an initiative of the European Confederation of Medical Mycology in cooperation with the Mycoses Study Group Education and Research Consortium(European Confederation of Medical Mycology (ECMM) / Mycoses Study Group Education and Research Consortium (MSG-ERC)・2019)PMCの著者稿全文(PMC8559573)で、組織内のムーコル目菌糸は幅6〜16 μm(最大25 μm)で隔壁がないか乏しくリボン状で不規則に分岐し、Aspergillus属の菌糸は幅3〜5 μmで規則的な隔壁と二分岐を持つこと、古典的な「90度対45度」の分岐角は組織の圧と標本作製の影響で組織内では判別しにくく、菌糸の幅と不規則な分岐のほうが隔壁や分岐角より信頼できること、形態での鑑別精度のデータは無く組織形態による誤診で最も多いのがムーコル目をAspergillus属と取り違えることであるため、培養または分子学的・組織内同定法での確認が強く推奨されることを確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Aspergillosis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America・2016)2026-09-27にIDSAの一覧で状態が Current であることを確かめ、発行元ページの本文で次を確認した。侵襲性肺アスペルギルス症の一次治療はボリコナゾール(強い推奨・高品質)で、強く疑う段階で診断評価と並行して治療を始めること、代替はリポソームアムホテリシンB(強い推奨・中等度)、イサブコナゾール(強い推奨・中等度)、その他の脂質製剤アムホテリシンB(弱い推奨・低品質)であること。高リスクの遷延性好中球減少時の予防にはポサコナゾール(強い推奨・高品質)、ボリコナゾール、ミカファンギンを挙げ、移植片対宿主病を伴う高リスクの同種造血幹細胞移植レシピエントにもポサコナゾール予防を推奨すること。無症状で6〜24か月空洞の拡大が無い単発アスペルギローマは経過観察を続け、有症状、とくに有意な喀血を伴う単発アスペルギローマは禁忌が無ければ切除すること。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Revised ISHAM-ABPA Working Group Clinical Practice Guidelines for Diagnosing, Classifying and Treating Allergic Bronchopulmonary Aspergillosis/Mycoses(International Society for Human and Animal Mycology・2024)全文(PMC10991853)で、急性期(新規診断または増悪)のアレルギー性気管支肺アスペルギルス症には低〜中等量の経口プレドニゾロン(0.5 mg/kg/日を2〜4週、4か月で漸減終了)または4か月の経口イトラコナゾールを初期治療として推奨し、急性期の第一選択として併用を推奨しないこと(ただしイトラコナゾールとともに2週間未満の短期ステロイドを初期に用いてよい)、再発性の増悪(1〜2年に2回以上)には併用を用いるべきこと、全身性ステロイドが禁忌ならイトラコナゾールを初期治療とすること、無症状の患者を全身治療しないことを確認した(2026-09-27に横断監査でPMC全文の推奨文を取り直して照合)。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Clinical implications of globally emerging azole resistance in Aspergillus fumigatus(Philosophical Transactions of the Royal Society B・2016)全文(PMC5095539)で、アゾール耐性はアゾール治療中に新たに生じることもあるが主な負担は環境(農作物保護などに使われるアゾール系殺菌剤)からの獲得であること、cyp51A遺伝子のTR34/L98H変異が各地の臨床・環境分離株から報告されていること、耐性感染患者の3分の2はアゾール治療歴が無く耐性侵襲性アスペルギルス症の死亡率は50〜100%と報告されること、耐性が示されたらリポソームアムホテリシンBか、ボリコナゾールへのエキノキャンディン追加に治療を調整することを確認した。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Cryptococcus neoformans resistance to echinocandins: (1,3)beta-glucan synthase activity is sensitive to echinocandins(Antimicrobial Agents and Chemotherapy・2005)抄録(Crossref)で、Cryptococcus neoformansの(1,3)β-グルカン合成酵素活性は試験管内でカスポファンギンに非常に感受性が高い(見かけのKi値0.17±0.02 µM)一方、菌体のカスポファンギンMICは16 µg/mLと高く、C. neoformansのエキノキャンディン耐性は(1,3)β-グルカン合成酵素の耐性とは無関係の機序によると結論していることを確認した(著者はMaligie MA, Selitrennikoff CP)閲覧 2026-09-27